このページではスポンサー募集(選定)の概要について、説明をしています。

スポンサー選定は、事業再生でどのスキームを使う場合であっても、それほどかわりません。概要としては、以下のとおりです。なお、手続開始前にスポンサー候補者がいる場合のプレパッケージ型民事再生については、以下のリンク先をご参照下さい。

1 事業再生におけるスポンサー募集(選定)の概要

⑴ 基本的な考え方

スポンサーを選定する方法は、大きく入札による方法相対の交渉で決める方法の二つがあります。

事業再生の局面では、一般的には、入札のほうが手続に透明性があり、妥当であることが多いとされています。しかしながら、入札は、①時間がかかること(その間に事業が毀損してしまう可能性があります)、②入札手続そのものに費用が発生することや、③競合先が入札に参加した場合に事業内容を競合先に開示してしまうというデメリットもあり、事案によっては相対の交渉で進めることもあります。

⑵ スポンサーの支援方法

スポンサーの支援方法としては平時であれば出資が一般的ですが、事業再生局面においては、①出資に加えて②事業譲渡、③会社分割(新設分割+株式譲渡、吸収分割)といったスキームも使われます。

それぞのスキームの、メリット・デメリットは、管理人の管理する別サイトにある、以下のリンク先をご参照ください。

またスポンサーによる出資にあたっては種類株式を利用することが多いです。種類株式については、管理人の管理する別サイトにある、以下のリンク先をご参照ください。

また、第三者割当増資を含む増資/募集株式の発行等の種類及び手続については、以下のリンク先をご参照下さい。

⑶ 既存株主の対応

多くの場合、スポンサーを入れる前提として、既存株主の整理をする(=100%減資)ことを求められるのが一般的です。スポンサーのみならず、債権者が債権の減免などに応じる場合も、債権者から株主責任を求められることが一般的です。単独株主の場合は、当該株主が納得していれば問題となることはありませんが、少数株主がいる場合などでは、株主を説得するのに苦労することもあります。

私的整理において、少数株主を整理する方法は、管理人が管理する別サイトになりますが、以下のリンク先を御参照下さい。

会社の自主再建に伴う無償減資について、減資対象となった株主が取締役の責任を問うた裁判例があります。自主再建を優先すべきとして、取締役に責任は無いとしましたが、一審では責任を認めていますので、注意が必要です(東京高判R3.11.18)。

東京高判R3.11.18 

裁判例を確認する
甲社が乙から融資を受けて経営再建をするに当たって、発行していた全株式について100%無償減資を行ったところ、本件無償減資が行われるまで株主であったXらが、甲社の代表取締役であるYらに対し、乙との融資交渉の際に、既存株主が株式を保有し続けられるような方法を採るように交渉しなかったなどとして、損害賠償を求めたのが本件です。1審は、Xらの請求を一部認めましたが、本判決は以下のように説示して、請求を棄却しました。
「甲社は、平成16年当時、多額の債務超過の状況にあり、かつ、その程度は、金融機関の了解を得られる自主再建案を早期に策定しない限り、早期に倒産する現実的危険性の高いものであったというべきである。・・・本件無償減資は、本件自主再建案の中核を構成するものであって、いかに遅くとも本件再建合意書及び本件株主間合意書が締結された時点までに本件自主再建案の必要条件とされていたというべきである。・・・甲社の代表取締役にあったY1において、倒産の現実的危険性のあった甲社を自主再建することを優先すべきであって、これに反してまで株主の利益を最大化するよう配慮し、行動すべき義務はなく、また、Xらとの間に実質的な利益相反関係は生じていなかったから、これを前提とする情報開示や行動をとるべき義務はなかったというべきであり、Xら主張のY1の任務懈怠行為及び不法行為・・・はいずれも認められないというべきである。」

2 スポンサー募集(選定)手続

⑴ 一般的なM&Aにおける、スポンサー選定手続

具体的なスポンサー選定手続は、一般的なM&Aと大きく異なるところはありません。一般的なM&Aにおける、スポンサー(買主)選定手続は以下のリンク先をご参照ください。

⑵ 事業再生のスポンサー選定に特徴的な点

事業再生のスポンサー選定について、一般的なM&Aと比較して特徴的なのは、以下の点です。

①従業員の承継が限定的になることがあります。
事業再生局面では、リストラ等が必要になることがよくあります。特に事業譲渡の場合、従業員は一度解雇したうえで、全員ではなく一部の従業員だけを新会社が採用(場合によっては、試用期間として採用)されます。 解雇の時期、解雇予告手当の処理、退職金の支払、さらには、継続雇用されない者のフォローなどを行う必要があります。

担保権者との間で事前に一定の合意が必要になることがあります。
例えば事業に必須の不動産に担保が付いている場合、担保権者(通常は金融債権者)と一定の合意を締結できることが、スポンサー支援の前提となることがあります。事業再生局面においては、スポンサー募集前に担保権者別と一定の合意がないと、スポンサーと支援条件の交渉ができないこともあるため、注意が必要です。

スポンサー候補者の信用力調査が、通常のM&Aに比べて非常に重要です。
入札者の決定は、入札価格のみならず、支援内容の履行可能性(資金拠出の信頼性)なども考慮して判断されます。武富士の会社更生において、計画案提出後にスポンサーから支援がなされずに、スポンサーが変更されたことが報道されています(平成23年12月28日付日経新聞)。
資金繰の関係などから事業再生手続は時間に余裕がないことが多く、スポンサー候補者の債務不履行(譲渡代金の支払遅延など)が与える影響は通常のM&Aと比較して甚大となります。履行可能性の見極めは必ずしも容易ではありませんが、特に資金調達の実現可能性については慎重な調査が必要です。

時間が限られます(そのための入札要綱の工夫など)
事業再生局面でのスポンサー選定は、限られた時間の中で行われることが一般的です。資金繰りとの関係や、法的手続との関係などから、数か月でスポンサーを選定する必要があることが多いです。そのため、選定手続を、ある程度効率的に行う必要があります。
入札条件を最初からやや細かめに提示して、それらは、協議の対象からはずすというのも、事業再生局面のスポンサー募集手続では特徴的な点だと思われます。例えば、全従業員の雇用の維持、事業を数年間は転売しないこと、一部利害関係者の権利を維持すること(例えばゴルフ場の再生案件で、プレー権を保護すること)などといった条件が入札要綱に入れられることはよくあります。入札条件にすることで、その点の協議に割く時間を節約できることになります。

スポンサー決定の公正性が求められます
債権者や、法的手続の場合には裁判所に対して、スポンサー決定のプロセスは説明し、納得(了解)を得る必要があります。その意味で、通常のM&Aに比べて、スポンサー決定の公正性が求められます。

⑶ 二重の基準の考え方について

事業再生局面におけるスポンサー選定については、裁判官、弁護士、金融機関関係者などのメンバーから「事業再生におけるスポンサー選定研究会」が研究成果として、事業再生におけるスポンサー選定の評価基準として「二重の基準」を発表しています(NBL1044号 66頁)。
事業規模などを基準に検討し、複数のスポンサー候補を競争させて選定する「厳格な基準」と、入札等を行わなくても合理性が認められればスポンサー選定は相当であるとする「合理性の基準」に分けて選定の妥当性を判断するというものです。

二重の基準の詳細を確認する(NBL1044号 66頁より抜粋)

【第一段階】
下記の4要素を総合的を総合的に考慮した結果により、複数のスポンサー候補者を競争させる選定手続がふさわしい規模おおび状況にあるケースか否かを判断する。その結果、複数のスポンサー候補者の競争による選定がふさわしい規模および状況にあるケースの場合は、各考慮要素を厳格に検討する基準である「厳格な基準(B)が相当であり、そうではないケースの場合には、合理性が認められればよいとする「合理性の基準(A)」が相当である。この場合、多くの事例においては、「合理性の基準(A)」が相当するケースとなるため、実際には、この第一段階の判断が重要となる。
①企業の規模
②企業の事業内容
③特定個人への依存度
④時間的余裕

【第二段階】
A 合理性の基準
 合理性が認められるかを総合考慮して判断する。すなわち、当該スポンサー候補者の選定経緯・属性・提案内容等を検討対象として、「支援額」のほか、事業維持・拡大の目的、シナジー効果の有無、従業員の雇用確保、取引先との取引の継続、地域社会への貢献性、経営方針の相当性などの各要素を総合的に考慮し、合理性が認めらるのであれば、当該スポンサー候補者をスポンサーに選定することに相当性を認めることができる。
 通常、窮境状態にある債務者が、法的倒産手続において、スポンサー支援を求めスポンサーを選定する場合には、一定の合理性が認められる場合た多いと考えられる。したがって、実際には、明らかに不合理な事情(たとえば、経営者に対する個人的な見返りを選定理由としていたり、反社会的勢力の影響下にある企業であったり、社会的に不適切な事業の実施を意図していたり、約束している支援金が拠出されるか不確実な事情がある場合など)が存在するか否かをチェックするという作業を行うことになると考えられる。
 ほとんどのケースはこの基準によって判断されることになる。

B:厳格な基準
 複数のスポンサー候補者を想定した状況において、厳格に判断する。具体的には、「支援額」の判断において入札手続等、複数のスポンサー候補者の提案内容を比較考慮した上で決定するプロセスを尊重した上で、「支援額」以外の考慮要素を含め、厳格に合理性を判断する。この基準による場合は、相当規模の債務者企業でありかつ一定の事情が整った場合であるため、それほど多くのケースがあるとは想定されていない。

⑴ 入札手続等「支援額」等の条件を複数の候補者において比較する手続を実施した場合
ア)「支援額」が入札手続で最高価格の場合(前記「『支援額』の妥当性の判断」により相当性が確認できる場合)
「支援額」以外の要素で問題があるかないかのチェック
イ)「支援額」が入札手続で最高価格でない場合
「支援額」に合理性が認められる必要があるほか、「支援額」以外の要素を含め総合的に考慮した場合、「支援額」が最高価格の候補者の提案と比べ、確かな根拠のある優位性を認めることができるか否かをチェックする。

⑵入札手続等の複数の候補者における比較する手続を実施しないで決定した場合(前記「『支援額』以外の考慮要素の判断」により判断する場合)
 仮に入札を行ったとしても結果が変わらないという特別な事情がない限り、「支援額」に合理性が認められる必要があるほか、「支援額」以外の要素でも、確かな根拠のある評価ポイントを認めることができるか否かを厳格な基準をもってチェックする。

3 スポンサー契約の留意点

スポンサー契約(特に事業譲渡契約、会社分割+株式譲渡契約)で、留意すべき点は以下2点です。これらの条件は、入札手続で行う場合には、入札要綱で明確にしておくべきです。

⑴ 代金の一括支払

原則として譲渡対価の支払は、譲渡時一括払いとするべきとすべきです。
これは、万が一スポンサー候補者が債務不履行をした場合の影響が甚大なためです。

⑵ 瑕疵担保/表明保証責任/違約金条項

事業再生局面で行われる事業譲渡では、事業譲渡後、譲渡会社は清算をしてしまうか、譲渡代金を使って残った事業で再生を目指すことになります。

このような状態で当該債務者がスポンサーに対して後から責任を負うことは困難ですし、仮に後から損害賠償責任等を負うことになると、清算計画や再生計画の履行に大きな影響を与えてしまいますので、瑕疵担保責任や、表明保証責任は負うことは、できるだけ避ける必要があります。ただし、故意に情報を隠ぺいしたような場合には責任を免れませんので、瑕疵担保責任や表明保証責任を契約上負わない場合であっても、DDにおいて、可能な限り情報提供を行うことが重要です。

また、仮に表明保証条項を入れる場合でも、その範囲はできるだけ限定することが肝要です。例えば、「譲受人が譲渡人から開示を受けた資料よりかかる事実を認識しうる場合は、表明保証が正確なものでなかったことについて譲渡人は責を負わない」といった文言を契約書にいれておくことを検討すべきです。

事業再生局面のものではありませんが、表明保証違反が問題となった裁判例は以下のリンク先にて整理しましたので、ご参照下さい(管理人が管理する外部のサイトです)。

さらに、スポンサーから違約金条項(表明保証違反があった場合や、契約違反があった場合の違約金)を求められる場合があります。これも、再生事案であることを説明して、入れないようにしてもらうべきと考えます。