このページでは、資金繰破綻が確実で、債務の一部の支払を止めて、債務カットを前提とする再建方法を検討する場合の考え方についてまとめています。
この段階に入ると、選択肢は限られます。また、意思決定のスピードが重要になってきます。意思決定をする際の、ポイントをまとめたものになります。
まず、再建が可能かどうかを検討し、再建が可能であると判断される場合には私的整理で進めるか、法的手続を行うかを検討します。
1 はじめに
「事業再生」は、平時のものと、緊急時のものに大きく分かれます。
平時については、法律問題というよりも、基本的には、経営問題ですので、ここで記載することはあまりありません。一方で、資金繰破綻が確実で、債務の一部の支払を止めざるを得ない緊急時については、法的手続と私的整理に大きく分かれます。なお、それでも再建が困難な場合には、破産を選択するということになります。以下、各手続の概要と、手続選択をどう考えるかについて検討します。
なお、「法的手続」とは、民事再生手続及び会社更生手続を指します。
私的整理とは、事業再生ADRなどの、法的手続によらない、債務の整理等を指します。
⑵ 再建が可能かどうかの検討のポイント
⑴ はじめに
まず、私的整理か法的整理かはともかくとして、再建が可能かどうかの判断基準について検討します。再建が難しいということであれば、破産を選択するということになります。
必ずしも決まった基準があるわけではありませんが、管理人としては、以下の諸事情を検討し、事業再建が可能か否かを検討するのが妥当と考えています。もっとも、以下の要素も絶対ではなく、総合的な判断になります。
一部ないし全部の事業を事業譲渡又は会社分割をしてスポンサーに承継し、会社としては特別清算ないし破産をするという選択肢もありえます(一般的に「第二会社方式」と呼ばれています)。その場合でも、以下の判断基準で再建可能と判断した場合に、とりえるものと考えています。第二会社方式については、以下のリンク先をご参照下さい。
⑵ 営業損益が黒字か
営業損益が黒字か否かは最も重要なポイントです。
営業赤字の場合、私的整理はもちろん、法的手続でも再建は困難です。
雇用調整(リストラ)や不採算部門の閉鎖等により、黒字化する可能性があれば、検討の余地はありますが、リストラや不採算部門の閉鎖にも費用がかかりますので、それらの費用が捻出できるか否かがポイントになります。
⑶ 租税公課の延滞の有無
租税公課に延滞があると、法的手続であっても再建は困難なことが一般的です。租税公課を減免することは、法的手続においても困難なためです。ただし、第二会社方式により、事業だけは生かすせる可能性はあります。
⑷ 給与の延滞の有無
給与(労働債権)の延滞があると、法的手続であっても再建は困難なことが一般的です。
労働債権を減免することは、法的手続においても困難なためです。
⑸ 経営者の情熱
再建をしようとする経営者の情熱がなければ、再建することは困難です。ただし、適切なスポンサーないし、経営に適切な人材が確保できれば、再建の可能性はあります。
⑹ 担保設定状況
事業継続に必須の資産(例えば、メーカーであれば工場)に担保が設定されている場合、当該担保を実行されてしまうと再建は困難となります。担保が何に設定されていて、担保権者が再建に協力的か否かによって、再建可能性は変わります。
⑺ スポンサーの有無
有力なスポンサー候補者がいる場合は、上記の検討で再建が困難とされる場合であっても、一部ないし全部の事業が継続できる可能性があります。特に第二会社方式による場合は、事業は残すことができます。
⑶ 手続の選択(私的整理・法的手続の比較)
事業再建が可能であると判断した場合、次に、法的手続か、私的整理によるべきかを検討することとなります。事案によっては、まず私的整理で進めて、解決が困難な場合には法的手続に移行するということもありえます。なお、以下は私的整理においては債権カットを伴うことを前提にしています。
⑴ 私的整理・法的手続の比較
債権カットを伴う私的整理においても、法的手続でおいても、株主責任、経営者の責任を問われることは同じです。また、経営者が会社債務を連帯保証している場合、連帯保証責任を問われる点も同じです。
一方で、債権カットを伴う私的整理と法的手続で最も異なるのは、手続に取り込む債権者の範囲(事業価値の毀損)で、私的整理は金融機関のみと交渉をしますが、法的手続は取引債権者を含む全債権者を手続に取り込むことになります。そのため、私的整理は事業価値が棄損することは少ないですが、法的手続では事業価値が一定程度棄損してしまうことが一般的です。
また、私的整理の場合は、対象となる債権者全員(一般的には全金融機関)の同意が必要になりますが、法的手続の場合は、債権額の過半数及び債権者の過半数の同意があれば、手続を進めることができます。
私的整理と法的手続の詳しい比較は、以下のリンク先にまとめましたので、ご参照下さい。
⑷ 私的整理を選択する場合に確認すべき点
一般的には、私的整理が可能かどうかを見極め、私的整理が可能と判断される場合には、私的整理で進めます(私的整理が頓挫した場合、法的手続に移行することもあります)。
私的整理による再建が可能か否かを検討する上でのポイントは、概要以下のとおりと考えられます。
⑴ メイン銀行の意向
私的整理は全金融機関(対象債権者)の同意が必要です。そのためには、メインバンクの協力が不可欠で、手続開始時点からメイン銀行が私的整理に協力していなければ、私的整理は困難と言わざるを得ません。
⑵ 金融機関の構成
街金などが金融機関に含まれている場合、街金は減免に応じる可能性は低く、私的整理は困難と言わざるをえません。また、金融機関全行の同意が必要であることから、訴訟等を行っている金融機関がある場合、私的整理は困難と言えます。
⑶ 取引意先との関係
法的手続を行った場合、取引先、特に債権者となる仕入先が法的手続開始後も取引を継続してくれるかを慎重に検討する必要性があります(代替性や、取引先の属性などで判断します)。法的手続開始の場合取引先の協力が得られず事業が著しく毀損してしまう可能性が高いと判断される場合には、私的整理を模索すべきと言えます。
⑷ 当面の資金繰り
対象債権者に対する元本返済を止めるとしても、商取引債権について、約定通りの支払が継続できなければ、私的整理は困難です。なお、法的手続期間中に資金ショートする可能性もあると、法的手続による再建すらも困難と言えます。
⑸ 強制執行等の有無
強制執行を受けている場合、あるいは強制執行を受ける可能性が極めて高い場合、私的整理では債務者側に対抗手段がなく、私的整理による再建は困難なことが多いと言えます。
⑹ 大株主の意向
事業譲渡を行う場合や、スポンサーによる第三者割当増資を行う場合、いずれも株主総会の特別決議が必要となるため、特別決議を可決できる場合でないと、私的整理は、困難なことが多いです。
⑺ 費用
私的整理においても、例えば以下のような費用がかかります。これらの費用を捻出できることが必要です。
・代理人弁護士費用
・各種DD対応費用
・事業計画作成費用(コンサルティング費用)
・モニタリング費用(金融機関対応費用)
⑻ その他
以下のような案件は、一般的に私的整理で進めることが困難なことが多いと言えます。
・偶発債務の発生が強く懸念される案件
・反社会的勢力が関与している案件
・権利関係が複雑な案件
・役員の責任追及や否認権の行使が必要な案件