このページでは、再建手続における、私的整理と法的手続の比較についてまとめています
少々難解な用語も出てくるため、【上級者向け】とさせて頂きました。

1 はじめに

事業再建が可能であると判断した場合、次に、法的手続か、私的整理によるべきかを検討することとなります

以下は、私的整理においては債権カットを伴うことを前提にしています。

2 私的整理、法的手続の共通点

債権カットを伴う私的整理においても、法的手続でおいても、株主責任経営者の責任を問われることは同じです。また、経営者が会社債務を連帯保証している場合、連帯保証責任を問われる点も同じです。

詳しくは以下のとりです。

⑴ 株主責任

債権カットを伴う私的整理においても、法的手続でおいても、株主は出資額全額について責任を取るのが原則です。

⑵ 経営者責任

債権カットを伴う私的整理においても、法的手続でおいても、経営者責任(辞任等)を追及されることが多いです。

なお、法的手続において、管理型(管財人により手続が遂行されること)が採用されない場合、従来の経営者が経営を継続します。したがって、管理型の法的手続でない限り、経営者の地位が維持されるという点は共通となります。一方で、経営者の責任を問われることが多いことから、最終的には辞任を余儀なくされるケースも多くあります。

⑶ 経営者の連帯保証責任

経営者が会社の債務につき連帯保証をしている場合、会社の処理にあわせて、経営者の債務整理(民事再生ないし破産、近時は法的手続を回避した経営者保証ガイドラインの利用もあります)を行うことが一般的です。経営者保証ガイドラインについては以下のリンク先をご参照ください。

なお、民事再生は保証債務の附従性が否定されています(民事再生法177条2項)が、再建型私的整理では原則通り附従性が生きていますので、形式的にはその点が異なります。

⑷ その他

債権カットを伴う私的整理においても、法的手続でおいても、会社分割を行う場合は、いずれも会社法の手続を踏む必要があります。

3 私的整理、法的手続の相違点

 債権カットを伴う私的整理と法的手続で最も異なるのは、手続に取り込む債権者の範囲(事業価値の毀損)で、私的整理は金融機関のみと交渉をしますが、法的手続は取引債権者を含む全債権者を手続に取り込むことになります。そのため、私的整理は事業価値が棄損することは少ないですが、法的手続では事業価値が一定程度棄損してしまうことが一般的です。

⑴ 手続に取り込む債権者の範囲(事業価値の毀損)

法的手続取引債権者を含むすべての債権者を対象とします。したがって、事業価値が毀損する可能性が高くなります。
私的整理原則として、金融機関債権者のみを対象とします。したがって事業価値が毀損する可能性は低くなります。

⑵ メインバンクの意向

法的手続原則として、手続開始について、事前に同意を得る必要はありません
私的整理原則として、事前に手続を開始することについて同意を得る必要があります

⑶ 成立の要件

法的手続多数決(債権額及び債権者数の過半数)
私的整理対象債権者全員の賛成が必要。

⑷ 手続期間

法的手続5ヵ月~1年程度
私的整理3ヵ月~1年程度

⑸ 公表

法的手続官報公告されます。
債権者集会を開催するなど、公表を前提にスケジュールが組まれます。
私的整理上場会社等で無い限り、公表は不要です。
ただし、情報漏洩した場合には、プレスリリースが必要になるケースもあります。

⑹ 資金繰りのポイント

法的手続開始前(実際には申立前)の債権は再生計画案(更生計画案)に沿って弁済されます。
一方開始後債権は、現金払いになることが多く、資金繰りは忙しくなります。また事業毀損により売上(入金)が減少することが一般的です。
私的整理取引債務は約定通り弁済する必要があります。
金融機関債務は、債権者間協定がまとまるまでは利息のみ支払い、協定がまとまった後は協定に沿って弁済するのが一般的です。  

⑺ 強制執行等

法的手続強制執行等は中止します。
私的整理強制執行を止めることはできません。 

⑻ 担保権の行使

法的手続会社更生は担保権も拘束されますが、民事再生の場合は手続に拘束されなません。
ただし、中止命令担保権消滅請求など、債務者が一定の方法で対抗する手段が用意されています。
私的整理手続に拘束されません。 債務者側から対抗する有力な手段は基本的にありません。

⑼ 簿外債務

法的手続債権届出が無ければ原則として失権することから、簿外債務の心配をする必要は低いです。
私的整理第二会社方式を利用する場合を除き、簿外債務を排除することは困難です。

⑽ 事業譲渡

法的手続  裁判所の代替許可により、株主総会を省略した計画外事業譲渡が可能となっています。
なお、代替許可による場合、反対株主に株式買取請求権は認められません。
私的整理株主総会の特別決議が必要です(会社法467条、309条2項11号
反対株主に、株式買取請求権が認められます(会社法469条)。ただし、株主総会において、事業譲渡決議と同時に解散決議を行った場合には、反対株主に買取請求権は与えられません(同条1項)。

⑾ 経営者の地位

法的手続  管理型(管財人により手続が遂行されること)が採用された場合、管財人に管理処分権が移転しますので、従来の経営者は当然に権限を失います。
私的整理従来の経営者が当然に権限を失うことはありません。

⑿ その他

項目       法的手続        私的整理
会社分割会社法の手続が必要です。会社法の手続が必要です。
減増資裁判所の許可を得て、計画案で減増資することが可能です。会社法に定める手続を経る必要があります。
社債権者の取り扱い再生債権者(更生債権者)として処遇されます。社債権者全員が金融機関の場合には対象債権者とすることもありますが、そうでない場合には、対象とすることは困難なことが多いようです。
許認可民事再生申立(会社更生申立)により許認可が取り消される場合があります。原則として影響ありません。
なお、事業譲渡や会社分割を利用する場合は、許認可を事業の譲受会社で取得しなければならないことがあります。
債権者の税務債務免除の損金算入が容易です。債務免除の損金算入が容易でない場合もあります。
債務者の税務(債務免除益課税の対処)資産評価損の計上が可能。準則型再建型私的整理であれば、資産評価損の計上が可能ですがが、それ以外の場合は、資産評価損の計上は困難です。