このページでは、事業計画(経営改善計画)作成のための現状分析及び、作成の基本的な考え方についてについて、説明をしています。
事業再建を進めるためには、なるべく早い段階で、事業計画の作成にとりかかることが肝要です。社内の検討だけでなく、費用はかかりますが社外専門家(コンサルや会計士、税理士、弁護士など)に相談することを検討することも必要です。
普段から事業計画を作成している会社であっても、窮境状態に陥った場合には、債権者の納得のいく事業計画を作成するためには、一定の労力を使う必要があります。ましてや、普段事業計画を作成していない会社の場合には、容易ではありません。
1 事業計画作成のための現状分析(経営課題)の把握
事業計画(経営改善計画)の作成にあたっては、まず現状分析、つまり経営課題を把握をする必要があります。事業計画に役立つ財務分析は、大きく①収益性分析と②生産性分析に分かれます。このうち、生産性分析は、①-1数値の推移を分析する比較的容易なものと、①-2比率や損益分岐点を分析するやや高度なものに分かれます。以下、①-1,①-2、②の順番でご説明します。
⑴ 財務分析の基礎について①(勘定科目毎の数値の、推移の確認)
決算書により、ある程度会社の現状分析は可能です。
まず決算書(損益決算書、貸借対照表、キャッシュフロー計算書)の勘定科目ごとの数値の変化を、3期~5期並べて確認します。これだけで、どの数値が悪化しているのかなど、会社の問題点を把握することが可能なことが多いです。
なお、会計基準の変更(会計処理の変更を含む)があった場合や、粉飾がされている場合などは正確に把握できないことがあるので注意です。
さらに損益計算書については、売上高を100%として各利益や科目の比率の推移も検討すると、より現状把握がしやすくなることが多いです。
⑵ 財務分析の基礎について②(損益分岐点分析)
次に、決算書の数字を使って検討するものではりますが、やや高度な手法をご紹介します。
損益分岐点分析と呼ばれるものです。事業計画を立案する際には、損益分岐点分析が非常に役に立ちます。作成する上でのポイントは、固定費・変動費の区分にあります。
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固定費を吸収するための最低目標売上高を把握することができます。また、減価償却費を含めて考える必要はありますが、債権者への弁済原資を確保するための売上高を把握することもできます。
さらに、固定費を削減しなければならないか否かの判断をする材料ともなります。多くの企業で最も大きな固定は人件費であることから、リストラ等を敢行する必要があるのか、あるとすればどの程度行う必要があるのかなどを把握することが可能となります
さらに、総資本事業利益率といった指標もありますが、ここでは割愛致します。
⑶ 生産性分析
事業計画を作成するうえで役に立つ生産性分析には、以下のようなものがあります。
【資産の生産性の確認指標】
まず、資産が効率的に利用されているか、過剰な在庫はないかといった分析をするための指標として以下のものがあります(資産の生産性の確認)。
名称 | 計算式 | 分析にかかる留意点 |
---|---|---|
使用総資産回転率(回) | 売上高 /資産合計 | 回転率が低い場合、在庫が過大であったり、不良資産をかかえている可能性があります。 |
固定資産回転率(回) | 売上高 /固定資産合計 | 固定資産が効率的に利用されているかを分析するのに役立ちます。 |
棚卸資産回転日数(日) | 棚卸資産合計×365日/売上高 | 棚卸資産が過剰でないかを確認できる指標です。 |
資産は例えば、2期ないし3期末の平均値や、月次で資産残高がわかれば、月次平均を利用します。
資産は時価を使うか、簿価を使うかで内容が異なってきますが、事業再建の場面では時価を使うほうが、より正確に分析が可能になるので、可能な範囲で時価を使うべきと考えられます。
また、資産の範囲にも留意する必要があります(不稼働資産などは処分することを前提に、除外することなどの調整が必要な場合があります)。
【労働生産性の確認指標】
さらに労働生産性を確認する指標として、「付加価値額/従業員数」という指標があります(上記と同じように、付加価値に決まった計算式はありませんが、簡単なところでは「売上高-売上原価」が考えられます。)。
この式、「付加価値額/従業員数」=「売上高/従業員数」×「付加価値額/売上高」と展開できます。
これは、労働生産性=一人当たりの売上高×付加価値率ということを示しています。つまり労働生産性を上げるためには、一人当たりの売上高又は、付加価値率のいずれかを上げればいいということがわかります。
⑷ 必要に応じて財務DDによる現状把握
さらに詳細に現状分析するためには、専門家に依頼をして財務デューデリジェンス(DD)を行うことで、詳細な分析が可能です。但し、一定の費用がかかります。
金融機関に債権カットを依頼する場合には、ほぼ必須の手順となりますが、そのような事案でなければ、必須とまではいえません。金融機関や専門家の意見なども参考に、要否を検討します。
また、幅広く事業を展開している場合には、SWOT分析(強み、弱み、機会、脅威を分析し、撤退すべき事業を洗い出す方法)も有効とされています。ここでは、詳細は記載しません。
2 事業計画(経営改善計画)の検討・作成
事業計画(経営改善計画)の定量面、定性面での検討すべき事項は、概要以下のとおりとなります。具体的な事業計画の内容については、以下のリンク先にあるサンプルが参考になります。
⑴ 定量面での検討
事業計画を作成するにあたっての、定量面での主なチェックポイントは以下のとおりです。
検討項目 | 主なチェックポイント |
---|---|
売上高 | 売上高が一定の根拠を有するか。実現可能性があるか。 |
販管費 | 従前の販管費と比較して、合理的な水準にあるか。 |
雇用調整費用等 | 雇用調整を行う場合には、合理的な雇用調整費用を見込んでいるか。 事業所等を閉鎖する場合、原状回復費用等がかかる可能性があり、そのような事業規模縮小にかかる費用が合理的に見込まれているか。 |
設備投資 | 事業形態にもよりますが、一定の頻度で設備投資を行う必要があることが一般であり、その場合、必要な設備投資費用が見込まれているかを確認する必要があります。 |
税金 | 仮に債権カットを要請する場合、債務免除益に対して課税が発生するので、合理的な債務免除益課税対策を検討する必要があります。 |
債権者者への弁済 | 債権者への弁済について、見込みを作成する必要があります。 金融機関に対して、リスケジュールや債権カットを要請する必要がある場合は、具体的にどのような要請が必要なのかを検討する必要があります。 |
⑵ 定性面での検討
事業計画を作成するにあたっての、定性面での主なチェックポイントは以下のとおりです。
検討項目 | 主なチェックポイント |
---|---|
事業の取捨選択 | ある程度多角的に事業を行っている場合、事業の取捨選択をする必要があります。 また、多角的と言えない場合であっても、取引先の選択などを検討する必要があります。 |
人員体制の検討 | 人員配置、幹部社員の配属などを見直す必要があります。 |
M&Aの検討 | 一部事業の切り離しなどを検討する場合はM&Aを検討することになります。 M&Aについては、管理人が管理する別サイトである以下のリンク先をご参照下さい。 M&Aの各手法、手続、留意点などを確認する |
⑶ 事業戦略を検討する上での留意点
事業戦略を検討・実行する上での管理人が重要だと考える点を以下、申し上げます。
① 仮説をたてること
事業戦略を検討するうえで、仮設をたてることが重要だと考えます。仮説は仮説であり、正しいかわかりませんが、仮説をたてて思考錯誤しながら解決策を検討するのが、議論と抽象化せず、前に進める方法だと考えます。
② 目標の数値化
事業計画を作成したら、それをブレイクダウンして、各現場の目標として設定をします。抽象的な目標でなく、具体的なものであることが必要だと考えます。各現場での積み上げにより、会社を再建できるということを、各従業員に肌で感じてもらうためにも、目標の数値化は必須です。ただし、ある程度、わかりやすいものにする必要があります。
③ 管理会計の導入
中小企業の場合、管理会計が導入されていない企業がほとんどです。管理会計を導入し、数値目標の管理、生産管理、原価管理などを行うようにすることで、事業上の数値管理はかなり向上します。日々の業務の状況を把握することで、事業計画の遂行状態を把握することができます。
④ 見える化の重要性
様々な分析は、なるべくわかりやすいグラフや図にすることで、見える化し、会社役員や従業員に理解を浸透させることが重要です。理解を浸透さえることで、議論を前に進めることが可能となります。
⑤ PLAN DO CHECK ACTIONの実行(繰返し)
経営改善方法を目標として定めた場合、常に進捗状況を確認するシステムを構築することが必要です。
また、マーケットが常に変動している以上、状況に応じて、経営戦略は見直しをすることが必要です。
⑥ 人事制度、営業方法の見直し
人事制度や営業方法の見直しが必要な場合もあります。過去のしがらみや方法論にとらわれない議論が必要だと考えます。