このページでは会社債務を連帯保証している代表者個人の対応について、整理をしています。
主債務者である会社について、債権カットを伴う私的整理を行った場合や、法的整理手続を行った場合に、会社債務を連帯保証している代表者個人について、対応が必要になります。
1 代表者個人の対応の選択肢
⑴ 主な対応方法
代表者個人の対応の選択肢としては以下のものがあります。以下の他に特定調停などもありますが省略しています。
①個人破産 自由財産を除いてすべて、管財人が換価処分をして債権者に配当する手続です。破産者は免責を得ることで、過去の債務については責任を免れることができます。
②経営者保証に関するガイドラインに基づく処理 私的整理の方法で、裁判所は関与しません。破産等をすることなく、また一定の財産を残せる場合もあります。ただし、対象となる全債権者の同意が必要になります。
③個人再生 将来の収入が見込まれる場合、破産を回避して個人再生を選択すること可能です。また、住宅ローンを組んで自宅を購入している場合、他の債務はカットしつつ住宅ローンだけを残して自宅を処分することを回避する方法もあります。もっとも、代表者個人の連帯保証の処理としては、あまり採用されていない方法だと思われます。
⑵ 主債務者(会社)が私的整理を行った場合の留意点
保証債務の付従性により、主債務について債務が免除された場合には保証債務についても主債務の限度額まで免除されます(東京地判H8.6.21、札幌高判S57.9.22)。
東京地判H8.6.21
札幌高判S57.9.22
従って、主債務者が私的整理をする場合、保証債務の付従性をあえて否定しなければ、主債務と同様に扱われます。ただし、そのようにして合意に至っても、後から債権者から錯誤無効が主張され、それが認められた事例もありますので(東京高判H7.10.18)、対応には注意が必要です。
東京高判H7.10.18 債権者が、倒産会社の資産からの回収を断念し、保証債権に影響しないと誤解して行った債権放棄の意思表示について、要素の錯誤があり、かつ債権者に重過失も無いとして無効としました。
また、会社の私的整理を進めるにあたり、会社債務の連帯保証人であった代表者個人の資産を売却して会社債務(連帯保証債務)を弁済した事案で、当該代表者に税金の滞納があったことから、会社が第二次納税義務を負うかどうかが争いになった事案があります(東京高判R3.12.9)。当該事案では第二次納税義務は否定されましたが、私的整理だから第二次納税義務が発生しないとしたのではなく、破産した場合の破産配当率が0%であるから第二次納税義務は発生しないとされていますので、注意が必要です。
東京高判R3.12.9
2 個人破産について
裁判所に破産手続を申立て、破産手続開始決定を得ることで手続は開始します。
⑴ 主な個人破産のメリット・デメリット
個人破産の主なメリットは、
①債権者の個別の了解が不要であることにあります。
②また、免責を得ることで、原則として過去の債務の責任は免れる点も挙げられます。従って、債権者数が多いが場合は、破産手続を利用するメリットが大きいと言えます。
③さらに、破産手続開始後に取得する財産は自由財産として破産者の再出発に利用できることが明確ですので、再出発をする意味では非常にスッキリする手続と言えます。
④事案にもよりますが、手続に手間がかからず、また手続が比較的早いというメリットもあります。もっとも管財業務に時間がかかるケースもありますので、事案によります。
一方で、主なデメリットは、
①法律上定められた財産以外の財産はすべて換価され配当に充当されること、
②公表されること(官報に掲載されます)、
③ブラックリストに載るため当面の間新規の借り入れが難しくなる
といった点が挙げられます。
⑵ 手続
手続は概要、破産手続の申立→破産手続開始決定→管財人による換価業務等→終結(免責)で進みます。
よって申立を行えば、管財業務に協力をする必要はありますが、それ以外は特段対応すべき事項はありません。
なお、換価すべき資産がなく、また、免責についても問題ないような場合には、開始決定と同時に手続が終了する(=管財人が選任されない)同時廃止というケースもあります。しかし、法人の手続と平行して行われる場合には、同時廃止になるケースはあまりありませんし、代表者の方に換価すべき資産がほとんどないということも考えにくいところです。
⑶ 自由財産について
破産をした場合でも一定の財産は残すことが可能です。具体的には以下のリンク先をご参照下さい。
【作成中】
⑷ 免責について
個人破産は、免責を得るために行うといっても過言ではありません。免責を得られない可能性のある事由を免責不許可事由と言います。また免責の効果の及ばない債権を非免責債権といいます。管理人の管理する別サイトになりますが、免責の内容や、非免責債権については以下のリンク先をご参照下さい。
3 経営者保証ガイドライン
⑴ はじめに
主債務者たる会社が私的整理ないし法的整理手続を行うことを前提した場合の経営者保証に関するガイドラインという制度があります。これは法的な手続ではなく、いわゆる私的整理の一種です。
経営者保証ガイドライン自体は中小企業庁ウェブサイトである以下のリンク先にあります。必要に応じてご参照ください。以下ガイドラインのことをGLとも表記します。
また、本文やQAは全銀協の以下のリンク先にもあります。
⑴ メリット・デメリット
主なメリットは、
①残存資産について破産手続における自由財産より多く認められる可能性があること、
⓶保証債務の整理について信用情報登録機関(いわゆるブラックリスト)に登録されないこと
が挙げられます。
主なデメリットは、
①対象債権者全員の同意が必要であり、保証債務が多数であったり、特殊な債権者がいる場合、過去の取引の経緯から債権者との関係が悪い場合などでは成立が難しい点が挙げられます。
②また、対象債権者全員の同意が必要ですので、手続に比較的手間がかかります。
なお、金融機関側のメリットとして、この方法を利用することにより、早期の事業再生を経営者の方に決断して頂けるという点が挙げられます。早期決断により、主債務者である会社からの回収を含めると回収額が大きくなること、事業自体が維持でき地域経済にプラスの影響を与えること、銀行としても取引先を維持できる可能性があることなどが挙げられます。
⑵ 適用対象
主債務者が中小企業であること |
保証人が個人であり、主債務者である中小企業の経営者であること。実質的な経営者も含まれます。 |
主債務者及び保証人の双方が弁済について誠実であり、財産状況等について適時適切に開示していること |
主債務者及び保証人が反社会的勢力ではなく、そのおそれもないこと |
主債務者に法的債務整理手続又は準則型再建型私的整理手続が行われていること |
対象債権者にとっても経済的な合理性が期待できること |
保証人に破産法上の免責不許可事由がないこと |
【注意点】
手続の対象となる債権者は主債務者(会社)の金融機関債権者で、保証人が連帯保証している者に限られます。つまり。会社債務に対する連帯保証でも、リース債権者や取引債権者がいる場合や、保証人のみの債権者(カードローンや住宅ローン債権者など)は、手続に含まれないのが原則です。これらの対象外債権者が多数存在したり、多額に存在する場合は、経営者保証ガイドラインでの処理が困難になることが多いので注意が必要です。
ただし、これらの対象外債権者の了解を得られれば手続に取り込むことが可能で、実際に、そのような処理をしたケースも報告されています。
また、対象外債権者とは個別に交渉として弁済合意を行うことで、対象債権者との間では経営者保証ガイドラインを使うことも考えられ、実際にそのような処理をしたケースも報告されています。
⑶ 手続の概要
以下の手続で処理がされます。なお、経営者保証ガイドラインには、主債務者(会社)が破産手続開始決定(廃業)を受けた場合でも利用することが可能となっています(この場合や、特定調停又は中小企業活性化協議会を利用するのが一般的です)。
ここでは、主債務者(会社)については再建型の私的整理や法的整理を利用した場合を前提に手続の概要を記載します。
①原則として主債務者の手続申立と概ね同時に債権者に対して適用の申出を行います(会社債務との一体整理が原則です)。
主債務について準則型私的整理手続(中小企業活性化協議会スキーム、事業再生ADR、特定調停などを指します)を利用する場合は、保証債務の整理についても、原則として、準則型私的整理手続を利用することととされています(GL7(2))(私的整理における一体処理)。
例えば、主債務を事業再生ADRで処理し、保証債務もその手続内で処理した事例や、主債務と保証債務と同時に特定調停で処理した事例(主債務はその後特別清算で処理)などが報告されています。
主債務について法的手続(会社更生手続、民事再生手続)を利用する場合は、保証債務については、単独型で処理をすることになります。
なお、主債務者の手続が確定(終了)した後であっても、申出をすることは可能ですが、メリットが著しく減少します(GLQA Q7-20)ので注意が必要です。
②支援専門家を選任します。
保証人の代理人弁護士や顧問税理士であっても、支援専門家に含まれます(CLQA Q5-8)。
支援専門家は、保証人が行う表明保証の適正性の確認や、残存資産の範囲の決定支援などを行います(GLQA Q7-6)。
③主債務者、保証人、支援専門家の連名で一時停止等の要請を行います。
④保証債務の履行基準(残存資産の範囲)及び、弁済計画を策定したうえで、債権者に提示します。
保証人は、開示した情報の内容の正確性について表明保証し、支援専門家は当該表明保証の適正性について確認を行い債権者に報告します。保証人は自らの資力を証明するための資料を提出します(GL7(3)⑤)。
なお、主債務について、準則型私的整理手続を利用されている場合は、保証債務の整理についても、原則とし同じ手続で、債権者への弁済計画の提示がされます。
⑤債権者との合意及び契約締結
保証人が開示し、表明保証を行った資力の状況が事実と異なることが判明した場合、追加弁済を行うことなどについて対象債権者と契約を締結することが予定されています(GL7(3)⑤)。
⑥債権者との合意及び契約締結
⑷ 合意に至った場合の効果
残存資産につき、経済的合理性が認められる範囲で、破産法上の自由財産を超える資産を残すことが認めらる場合があります(GL7(3)③)→(5)。
保証人及び対象債権者ともに課税関係は生じません(GLQA Q7-32)。
⑸ 残存資産の範囲
一定の経済的合理性が認められる場合には、以下の残存資産を認めることが可能とされています(GL7(3)③)。特に、早期事業再生の決断により弁済原資を増加させた場合には残存資産を増加させることにつき債権者の同意を得やすくなります。
項目 | 概 要 |
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破産手続における自由財産 | GLQA Q7-14 |
一定期間の生計費 | 「一定期間」については雇用保険の給付期間を、「生計費」については標準的な世帯の必要な生計費として民事執行法で定める金額(33万円)を参考にして定められます(GLQA7-14)。 |
華美でない自宅等 | 回収見込額の増加額を上限として認められます。 例えば、主債務者が事業再生ADRを行って、主債務者の回収見込額が破産の場合に比べ3億2000万円程度増加した事案で、1200万円程度の自宅を残すことが認められた事例が報告されている(金法1993号6頁「事業再生ADRにおいて、経営者保証ガイドラインの利用により保証人である社長の自宅を残す債務整理案が成立した事案」須藤英章、富永浩明)。 なお、自宅に抵当権が設定されている場合当該抵当権の実行を止めることはできませんので、自宅を残すことは困難となります。 |
4 個人再生について
個人再生は、将来の収入が見込まれる場合で、破産を回避する意向がある場合に利用されます。また、住宅ローンを組んで自宅を購入している場合、他の債務はカットしつつ住宅ローンだけを残して自宅を処分することを回避する場合に利用されています。
裁判所のホームページに説明がありますので、リンク先をご案内致します。