このページでは出向・転籍・一時休業の方法についてについて、説明をしています。

人件費の削減を検討するにあたり、一番穏当な方法は、出向・転籍・一時休業です。従業員の収入を可能な限り維持しつつ、人件費を削減することができます。解雇などのドラスティックな方法を検討する前に、まず、出向・転籍・一時休業が検討されます。

1 出向(転籍)

⑴ 出向命令の根拠・限界

【根拠】
就業規則に「経営上の必要に応じて出向を命令することがある」と明記してあれば、原則として、転籍を伴わない出向については、本人の同意は不要とされています最判H15.4.18。なお、転籍は本人の同意が必要です)。一方で、就業規則に上記のような記載がない場合、出向には本人の同意が必要となります。ただし、就業規則や労働協約に出向の定義や出向期間、出向中の社員の地位、賃金等について詳細な決まりがされていることが必要とされる場合もあれば、守る必要があります(最判H15.4.18)。 

【限界】
就業規則に「経営上の必要に応じて出向を命令することがある」という定めがある場合でも、出向が権利の濫用として許されない場合があります(大阪地決H60.8.29)ので注意が必要です。
 この点、労働契約法14も「使用者が労働者に出向を命ずることができる場合において、当該出向の命令が、その必要性、対象労働者の選定に係る事情その他の事情に照らして、その権利を濫用したものと認められる場合には、当該命令は、無効とする」と定めています。
 さらに、育児・介護休業法第26条は「事業主は、その雇用する労働者の配置の変更で就業の場所の変更を伴うものをしようとする場合において、その就業の場所の変更により就業しつつその子の養育又は家族の介護を行うことが困難となることとなる労働者がいるときは、当該労働者の子の養育又は家族の介護の状況に配慮しなければならない。」と定めており、転勤を伴う場合に要介護者がいたり、共稼ぎで乳児がいるような場合には配慮が必要です。 

最判H15.4.18 本人の個別の同意ない出向命令が有効であるとした判例 

裁判例を確認する
Y社がXに甲社への在籍出向を命じたところ、XがYに対し、甲社に対する労務提供義務がないことの確認などを求めて提訴したところ、本判決は、「Xらの入社時及び本件各出向命令発令時のY社の就業規則には、『会社は従業員に対し業務上の必要によって社外勤務をさせることがある。』という規定があること、・・・労働協約である社外勤務協定において、社外勤務の定義、出向期間、出向中の社員の地位、賃金、退職金、各種の出向手当、昇格・昇給等の査定その他処遇等に関して出向労働者の利益に配慮した詳細な規定が設けられている・・・以上のような事情の下においては、Y社は、Xらに対し、その個別的同意なしに、Y社の従業員としての地位を維持しながら出向先である甲社においてその指揮監督の下に労務を提供することを命ずる本件各出向命令を発令することができるというべきである。」としました。

大阪地決H60.8.29 出向命令権が権利の濫用にあたるとした事例 

裁判例を確認する
Y社がXに甲社に出向するように命じたのに対し、Xが甲社へ出向する義務のないこと等を仮に定める旨の仮処分申請をしたのが本件です。本決定は「YはXに対し就業規則に基づき出向命令権を有するということが相当である。」を前提として、「Xに対する甲社への本件出向命令については、その業務上の必要性、合理性を具備するとは言い難く、かえって、定年まで残り少ないXをYから放逐することを専らの目的として、Yの従属的な下請業者たる甲社への出向に藉口したことが窺われないでもない。したがって、Xに対する本件出向命令は合理性を欠如し、出向命令権の濫用に亘る無効なものといわざるをえない。」としました。

東京地判H25.11.12 出向命令が権利の濫用にあたるとされた事例

裁判例を確認する
Y社がXに甲社に出向するように命じたのに対し、Xが甲社へ出向する義務のないことの確認等を求めて提訴したのが本件です。
 本判決は「本件出向命令は、退職勧奨を断ったXらが翻意し、自主退職に踏み切ることを期待して行われたものであって、事業内製化はいわば結果にすぎないとみるのが相当である。・・・以上に鑑みれば、本件出向命令は、事業内製化による固定費の削減を目的とするものとはいい難く、人選の合理性(対象人数、人選基準、人選目的等)を認めることもできない。したがって、Xらの人選基準の一つとされた人事評価の是非を検討するまでもなく、本件出向命令は、人事権の濫用として無効というほかない」としました。

⑵ 転籍

転籍は、出向前の労働契約関係を終了させ、出向先との間で新たな労働契約関係を生ぜしめるものですので、会社側の一方的な意思表示でなすことはできず、労働者の同意がなければ有効とはならないと解されています(東京地決H4.1.31)。

東京地決H4.1.31 就業規則の包括的規定による転籍命令権を否定した裁判例

裁判例を確認する
法的に両会社間の転籍出向と一方の会社内部の配転とを同一のものとみることは相当でなく、転籍出向を配転と同じように使用者の包括的人事権に基づき一方的に行ない得る根拠とすることはできないというべきである。また、・・・労働者にとってはどちらの会社との間に労働契約を締結するかということは転籍出向時点でも非常に重要な問題であり、そういう問題の生じない配転とは同一に扱うことはできない。」

千葉地判S56.5.25 入社面接の際に、異議のない旨応答したことをもつて、関係会社転属命令につきあらかじめ包括的な同意を与えていたと認めた裁判例

裁判例を確認する
Y社がXに甲社(Y社が25%出資)への転属命令を発令したのに対し、Xが転属命令は無効であるとして、地位保全等の仮処分を申し立てた。本決定は「現に在籍する会社との雇用契約を終了させて新たに他の会社である甲社との間に雇用契約を締結することを意味する本件転属の場合には転属者であるXの同意を要すると解さざるを得ない。」としたうえで、「XはYに入社するに際して将来甲社に転属することにつき予め包括的な同意を会社に与えたものということができる。」としました。

2 一時休業

⑴ 実施手順

一時的に就業を止めて、人件費を削減する方法です。解雇ではないので、使用者との間の雇用関係は継続します。以下のような、一定の手順を踏む必要があります。

        時系列               留意点
対象部門及び対象者の検討及び決定 
休業の方法の検討及び決定一定の日数を連続して休業とするか、毎週一定の曜日を休業にするか、あるいは交代で休業にするかなどを決定する。
休業手当の額の決定平均賃金の60%以上で定めます(労基法26条)。
労基法26条
「使用者の責に帰すべき事由による休業の場合においては、使用者は、休業期間中当該労働者に、その平均賃金の100分の60以上の手当てを支払わなければならない。」と定める。

また、勤続年数、年齢、扶養家族の有無で合理的な差を設けることは可能と解されますが(勤続年数の長い者を70%、短い者を60%にするなど)、男女で差を設けることはできません(労基法第4条)。
給与控除の額を定める一日あたり、賃金の一日分を控除するなど。
労働組合への通知等労働協約で、一時休業の場合には組合に通知・協議するなどの措置をとるように定められていることがある場合は、当該措置を取る必要があります。
社員への通知休業手当は、賃金支払日に支払います(厚生労働省昭和63年3月14日基発第150号通達)。
一時休業規定を定める場合もあります 

⑵ 雇用調整助成金制度について

景気の変動、産業構造の変化その他の経済上の理由により、事業活動の縮小を余儀なくされた事業主が、その雇用する労働者を一時的に休業、教育訓練又は出向をさせた場合に、休業、教育訓練又は出向に係る手当若しくは賃金等の一部を助成する制度です。
詳しくは厚生労働省のホームページをご参照下さい。