このページでは整理解雇について説明をしています。
会社が立ちいかなくなった場合、人件費削減の最後の手段は、整理解雇です。
整理解雇とは、一般的に解雇をある程度まとめて行うことを指します。
当然ですが、会社再建という必要性があるからといって、容易に整理解雇が認められるわけではありません。手続の適切性や対象者の選定の合理性などには、細心の注意が必要です。また、経営者(陣)が一定の責任(辞任、減給など)を果たすことにより、従業員の間に納得感を醸し出したり、雇用調整の対象者には割増退職金を払うなどの方策も必要です。
1 整理解雇が許されるための要件
⑴ 整理解雇が許容される4要件
学説及び下級審判例(東京高判S54.10.29など)で確立されてきた、整理解雇が認められるための4要件は以下のとおりです。明示的に4要件を認めた最高裁判例はありませんが、下級審判例の多くは、整理解雇の有効性を検討する際には、以下の4要件を満たすか否かで判断すべきとしています。
4要件 | 補 足 |
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経営上の必要性 | 会社が危機的状況、破綻状態にある場合は、問題となることはあまり多くありません。裁判例も、経営上の必要性については、使用者側の裁量を広く認める傾向にあります。 |
解雇回避努力義務 | 整理解雇を行う前に、経費の削減、残業の削減、遊休資産の処分、新規採用の中止、役員報酬のカット、配置転換・出向、一時帰休、希望退職の募集、賃下げなどを検討、実施することが必要です。 特に、整理解雇前に、希望退職の募集を行うことは、必須と考えられます。 |
人選の合理性 | 客観的な基準を設けて、対象者を選別する必要があります。 特に、労働組合員であることを解雇理由にすることは労組法7条に、女性であることを理由とする解雇は男女機会均等法6条に反します一方で、また、非組合員を優先的に解雇対象者を選定することは合理性を否定される可能性があります(東京地判H13.12.19)。 東京地判H13.12.19 人員の選定に合理性がないとされた事例裁判例を確認する 外国航空会社Yが、経営悪化により行った解雇の有効性が問題となった事案につき、「Yは、まず非組合員を対象に、一部の者を除外して、順次退職勧奨・整理解雇を行ったともいえるのであり、他方、組合員に対しては、勤務成績不良を理由に解雇対象となった6名を除き、本件解雇の翌年もベースアップを実施し、また平成6年度春闘で53歳昇給停止の解除を約束するなど優遇する対応を取っているのであって、この処遇格差は、非組合員が日本支社の幹部職員であることのみをもっては合理的と評価することはできず、以上のような本件の事実関係の下では、Yの退職勧奨・整理解雇の対象の人選は全体として著しく不合理であるといわざるを得ない。」などとして、解雇権の濫用であるとした。 福岡地判H4.11.25 年齢による選定が合理的なものであるとされた裁判例裁判例を確認する 52歳以上の者を対象とされて行われた整理解雇の事案で、「年齢による整理解雇基準の設定は客観的基準であり主観的要素が入り込まないこと、高齢者から解雇していく場合は、その再就職が困難である等の問題点も多いことは確かに否定できないが、退職金等によりその経済的打撃を調整できること、炭鉱経営者が高齢者の体力面や機械化への適応性に不安をもつのも一概に理由がないとはいえないことが認められる。」として、解雇基準は合理的であり、その他の整理解雇の要件も満たすとしました。 |
手続の妥当性 | 従業員説明会や、労働組合がある場合には労働組合に対する説明を行うことが必要です。 大阪地決S62.10.21 解雇回避努力義務、従業員に対する説明義務に欠け、解雇が無効であるとした裁判例裁判例を確認する Yを整理解雇されたXが、従業員であることの地位保全の仮処分を申し立てた事案で、本判決は解雇回避努力義務について「Yは・・・一時帰休制、希望退職募集等の方策は一切採用しないまま整理解雇の手段のみを選択してきたこと、・・・しかもXに対しては任意退職の勧誘さえもなされなかったことは前認定のとおりであり、Yにおいては出向先はなく、会社の規模の点からして配置転換には限界があることを考慮しても、Yが解雇回避努力をなさなかったことは明白であるといわなければならない。」とし、また、説明義務について「使用者は、整理解雇の対象者に対し、整理解雇の必要性、規模、時期等につき納得の得られるよう説明を行い誠意をもって協議すべき信義則上の義務があると解すべきところ、Yは、Xに対し、業績不振と人員削減の必要性について概括的な説明を行ったのみでその場で解雇通告を行ったこと前認定のとおりであり、これによるとYの本件解雇手続は右義務に反するものとして、妥当性を欠くものであるといわなければならない。」としました 最判S58.10.27 従業員に対する説明が欠けるため解雇は無効であるとした判例裁判例を確認する 保育園を運営しているYが、保母Xについて解雇日6日前に解雇通知をして整理解雇した事案で、「事前に、Xを含むYの職員に対し、人員整理がやむをえない事情などを説明して協力を求める努力を一切せず、かつ、希望退職者募集の措置を採ることもなく、解雇日の六日前になって突如通告した本件解雇は、労使間の信義則に反し、解雇権の濫用として無効である、とした原審の判断は、是認することができないものではなく」としました。 |
⑵ 4要件以外の判断基準による判断した裁判例
近時、4要件を整理解雇の有効性を判断する4つのポイント(要素)と理解し、4要件を厳密に満たさない場合であってもそれら要素に関する諸事情の総合判断により整理解雇は有効とする裁判例が増加しています。市場競争の激化や企業再編等の新たな動向をふまえて整理解雇法理を適宜修正しつつ、使用者の恣意的な解雇をチェックする姿勢の裁判例が多いようです。以下のような裁判例があります。
大阪地判H12.12.1 4要素を検討し、解雇を無効とした裁判例
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Yが、パートタイマーであるXを解雇したところ、解雇が無効であるとして、Xが従業員地位確認等を求めて提訴したのが本件です。
本判決は「解雇に整理解雇という特殊な要件を必要とする解雇の類型があるわけではなく、整理解雇に当たるか否かという議論は無意味であるが、Yの主張する解雇の事由は、余剰人員となったことを理由とするものであって、余剰人員となったというだけで解雇が可能なわけではなく、これが解雇権の行使として、社会通念に沿う合理的なものであるかどうかの判断を要し、その判断のためには、人員整理の必要性、人選の合理性、解雇回避努力の履践、説明義務の履践などは考慮要素として重要なものというべきである。」としたうえで、「Yは、Xに対し、配置転換の提示をしていないし、退職勧奨も行っていないのであって、Xが営業不振の中にあって、いわゆるリストラを実施中であることを考慮しても、解雇回避の努力を尽くしたとはいい難いものである。・・・解雇権の濫用として無効なものである。」などとしてXの請求を概ね認めました。
東京地決H12.1.21 事業再構築に伴う解雇につき、整理解雇の4要件によらず判断し、解雇を有効とした事例
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外資系Y銀行がXを解雇した事案において、本判決は「Xは、本件解雇が解雇権の濫用に当たるかどうかについては、いわゆる整理解雇の四要件を充足するかどうかを検討して判断すべきである旨主張するが、いわゆる整理解雇の四要件は、整理解雇の範疇に属すると考えられる解雇について解雇権の濫用に当たるかどうかを判断する際の考慮要素を類型化したものであって、各々の要件が存在しなければ法律効果が発生しないという意味での法律要件ではなく、解雇権濫用の判断は、本来事案ごとの個別具体的な事情を総合考慮して行うほかないものであるから、X主張の方法論は採用しない。」としたうえで、「Xとの雇用契約を解消することには合理的な理由があり、Yは、Xの当面の生活維持及び再就職の便宜のために相応の配慮を行い、かつ雇用契約を解消せざるを得ない理由についてもXに繰り返し説明をするなど、誠意をもった対応をしていること、その他、先に認定した諸事情を併せ総合考慮すれば、未だ本件解雇をもって解雇権の濫用であるとはいえ」ないとしました。
東京高判H18.12.26 4要件でなく、整理解雇の判断するうえでの4要素であると明示したうえで、解雇を有効とした裁判例
裁判例を確認する
外資系Y証券会社が、業績悪化によりXを解雇した事案において、本判決は「Xが整理解雇の4要件・・・は、整理解雇の効力(権利濫用の有無)を総合的に判断する上での重要な要素を類型化したものとして意味を持つにすぎないものであって、整理解雇を有効と認めるについての厳格な意味での『要件』ではないと解すべきである。・・・4つの要素についての上記の検討結果を総合的に判断すると、本件解雇は、・・・社会通念上相当なものとして是認することができ、客観的に合理的な理由を欠き社会通念上相当であるとは認められない場合に該当しないものであって、したがって、Yが解雇権を濫用したものとは認められず、本件解雇は整理解雇として有効である・・・」とした。
東京高判H26.6.5 会社更生の事案で、4要素を検討のうえ、運航乗務員の整理解雇が有効だとした裁判例
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航空事業を行っている更生会社Yが、運航乗務員(パイロット)Xらを整理解雇したのに対し、XらがY(正確には、管財人甲が当初のYであったが、更生手続終結によりYが承継。)に対し当該整理解雇は無効であると主張して訴えを提起したのが本件です。
本判決は「解雇権濫用法理の適用に当たっては、権利濫用との評価を根拠付ける又は障害する考慮要素として、人員削減の必要性の有無及び程度、解雇回避努力の有無及び程度、解雇対象者の選定の合理性の有無及び程度、解雇手続の相当性等の当該整理解雇が信義則上許されない事情の有無及び程度というかたちで類型化された4つの要素を総合考慮して、解雇権濫用の有無を判断するのが相当である。」としたうえで、4要素を検討のうえ整理解雇を有効としました。
東京高判H26.6.3 会社更生の事案で、4要素を検討のうえ、客室乗務員の整理解雇が有効だとした裁判例
裁判例を確認する
航空事業を行っている更生会社Yが、客室乗務員Xらを整理解雇したのに対し、XらがY(正確には、管財人甲が当初のYであったが、更生手続終結によりYが承継。)に対し当該整理解雇は無効であると主張して訴えを提起したのが本件です。
本判決は「会社更生手続下でされた整理解雇については、労働契約法16条(解雇権濫用法理)の派生法理と位置付けるべき整理解雇法理の適用があると解するのが相当である。もっとも、整理解雇法理適用の要件を検討するに当たっては、解雇の必要性の判断において使用者である更生会社の破綻の事実が、重要な要素として考慮されると解すべきである。」としたうえで、4要素を検討のうえ整理解雇を有効としました。
東京高判R1.12.18 営業部門を他者に譲渡したことにより業務が消滅したことによる整理解雇を4要件に照らして有効だとした裁判例
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Y社の営業部門の一部を甲社に承継する旨の業務提携契約が締結され、Y社の同事業に従事していたXは甲社に出向した。その後、Y社と甲社の出向契約の解除に伴い、Y社はXらを整理解雇したのに対し、Xが解雇無効などを主張してYに対して提訴したのが本件です。本判決は「人員削減が経営政策上の必要性に由来するにとどまることを踏まえてもなお、Yは、大規模な余剰人員が生じるという非常事態において、その人事制度上の制約下で、有意な解雇回避措置を複数講じた一方で、XにはYとの協議に応じた上でその提案を真摯に検討する姿勢が欠けていたといわざるを得ないのであって、Yがそれ以上の解雇回避措置を講じることは困難であった。そうすると、Yとしては、本件における具体的な事実経過に照らして相応の解雇回避措置を講じ、解雇回避努力を尽くしたということができる。そして、Xを被解雇者として選定することも合理的であり、本件解雇に先立つ手続が不相当であるともいえず、かえってYとしては十分な説明・協議を尽くしたといえる。したがって、本件は『事業の縮小その他会社の都合により止むを得ない事情にあるとき』(就業規則26条1項5号)に該当し、本件解雇は、客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当であると認めることができる。」
2 解雇回避努力義務について
⑴ 解雇回避努力義務とは
4要件のうち、比較的論点になりやすいのは解雇回避努力義務です。
具体的な解雇回避努力義務としては、経費の削減、残業の削減、遊休資産の処分、新規採用の中止、役員報酬のカット、配置転換・出向などの可能性の検討、一時帰休、希望退職の募集、賃下げなどがあります。希望退職の募集は必須です。
配転、出向について留意すべき点として、勤務地・職務限定採用の社員についても、一応、配転・出向の打診をすべきことが挙げられます。全く配転可能性が無ければ、不要(大阪地判H12.6.23)とも考えられますが、労働者が事前に配転に応じない態度を示していたことを理由に配転命令せずに解雇したことが無効とされた事例もありますので(浦和地判H3.1.25)注意が必要である。出向・一時休業については以下のリンク先をご参照下さい。
大阪地判H12.6.23 全く配転可能性が無ければ、配転・出向の打診をしなくても解雇回避努力義務に反しないとした裁判例
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外国銀行Yは、大阪支店閉鎖に伴いXらを解雇したところ、Yが、東京支店への転勤や、東京支店での希望退職の募集はしていないことが解雇回避努力義務に反するかが問題となったのが本件です。
本判決は「・・・これらの不都合を考慮すれば、Yが東京支店において希望退職の募集をしなかったことをもって、不当ということはできない。・・・東京支店に欠員がない以上、Xらを東京支店へ転勤させるには、東京支店の従業員を解雇するよりほかない。しかし、Xらを東京支店で勤務させるには、転勤に伴う費用負担が生じるばかりでなく、東京支店でその業務に習熟した従業員を辞めさせたうえで、業務内容によっては習熟していないXらを担当させることになるのであって合理性がない。・・・これらを総合考慮すれば、Yが解雇回避努力を欠いたということはできないし、転勤ができないのであれば、大阪支店の従業員が解雇の対象となることはやむを得ないところである。」とした。
浦和地判H3.1.25 従業員に配転に応じるか否かの意思確認を行わずに解雇したことが無効とされた事例
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Y社が、甲工場閉鎖に伴いXらを解雇したことが争われた事案で、本判決は「Yは甲工場移転計画の実施に当たり、従業員に対し、右移転に賛成・協力し、指示に同意する限り解雇しない(逆に同意しなければ整理対象とする)との方針を明示せず、転勤に同意するとの意思表明の最終期限が昭和六一年九月であることも何ら説明することなく、Xらに対しては右最終期限の一年以上前に行った意思確認を最後に一切意思確認を行わず、かつ異動の業務命令も出していないのであって、Xらが本件解雇の時点では転勤に同意する意思表明をしていたことを考え合わせるならば、Yは、解雇権の発動を回避するための努力を怠ったものと評価せざるを得ない。」などとして解雇は無効としました。
⑵ 事業再編(特に、特定の事業部門の閉鎖)に関する裁判例
事業再編、特に、特定の事業部門の閉鎖の事案では、整理解雇の必要性は認めるものの、解雇回避努力義務(他部門への配置転換など)に欠けるとして解雇無効とする裁判例が比較的多くあります(福岡地判H19.2.28、名古屋高判18.1.17)。
福岡地判H19.2.28 経営上の必要性は認めたものの、解雇は無効とした事例
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特別養護老人ホームを経営していたYが、調理部門を外注することとし、希望退職を募ったうえで、調理部門のXらを解雇したにの対し、Xらが解雇は無効であるとして争ったのが本件です。
本判決は「およそ法人がその特定部門の廃止を決定することは、本来法人の経営判断に属する事項であって、これを自由に行い得るものというべきである。しかしながら、このことは法人が上記決定の実施に伴い、使用者として当該部門の従業員に対する解雇を自由に行い得ることを当然に意味するものではない。・・・本件解雇が、実質的には整理解雇と同様のものであることに照らして、・・・ 4要件の存否及びその程度を総合して判断すべきである。」などとして、解雇回避努力義務等に欠けるとして、解雇を無効としました。
名古屋高判18.1.17 民事再生手続中の雇用調整が整理解雇の要件を満たさないとされた事例
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紡績業と不動産業を営んでいたYが、再生手続開始を申し立てた後、紡績業部門を廃業するとして、同部門に従事していた従業員であるXらを解雇したのに対し、Xらが解雇が無効であると争ったのが本件です。
本判決は、「・・・紡績業部門のほぼ全員について直ちにこれを解雇する必要性があったとまでたやすく認めることはできない。・・・Yは、本件解雇をするに際し、紡績業部門全体の従業員全員を解雇する必要性について誠実に検討していないといえる。・・・Yは、前記のとおり、平成10年に人員整理をした以降、本件解雇に至るまで希望退職の募集はしていないし、不動産部門や関連会社への配置転換の可能性について検討すらしていないのであるから、Yは解雇回避努力義務を怠ったといわざるを得ない。」などとして、整理解雇の要件を満たさないとしました。
神戸地判H25.2.27 1工場を無期限休止し、当該工場に勤務する者を整理解雇した事案で、解雇回避努力義務を満たさないとされた裁判例
裁判例を確認する
Y社が甲工場の無期限休止に伴い、甲工場に止めるXらを解雇したことが争われた事案で、本判決は「Yは、一定の解雇回避努力をしたことが認められる。しかしながら、Yは、・・・などにつき、求人活動を行っていると認められるが、Yにとって、これらの勤務場所についてXらに提示することは必ずしも困難ではなかったと考えられるところ、・・・YがこれらについてXらに提示した形跡は認められない。・・・整理解雇が、当該労働者には帰責事由がないのに、使用者側の一方的都合により実施されるものであることにかんがみると、解雇回避努力は、可能な限り試みられるべきであるが、前号認定の事実及び事情からすると、Yがその回避努力を真摯に尽くしたとは言い難いというべきである。」としました。
大阪地判H11.3.31 和議の事案で、人員削減の必要性を認めつつ、他の要件を満たさないとした裁判例
裁判例を確認する
Yの和議申立前に解雇されたXが地位確認等を求めて提訴したところ、本判決は「人員削減の必要性が大きいことは明らかで、この点は、当事者間にも争いはない」としたが、「Yの本件解雇については、解雇回避努力、解雇手続における説明義務の履践等に信義に従った手続きがされていないし、既に和議申立段階で再雇用者、したがってまた、被解雇者の人選を終えているが、その人選については多分に恣意的になされた疑いがあり、かつ、現実の人選も疑問なしとしないもので、客観的で合理的な基準に基づいて被解雇者の人選を行ったとは到底認められず、第一解雇は権利の濫用に該当し、無効というべきである。」としました。
東京高判H30.10.10 主要事業廃止に伴う整理解雇が有効とされた裁判例