このページでは、パートタイマー・契約社員(=期間のある雇用契約に基づく雇用)の雇止めについて説明をしています。
契約期間がある労働契約については、契約期間の満了により終了しますが、何度も更新されることが一般的です。この、更新を止めることを「雇止め」と言います。契約は終了するわけですから、雇止めはなんら違法性はないのが原則なのですが、それでは労働者側が不安定になることから、一定の制限があるのが実態です。
なお、労働契約法18条は、有期労働契約の無期化を定めています。この条文に基づき無期化された後は、雇止めでなく解雇の適否の議論となります。
1 雇止めの原則と例外
⑴ 原則
期間満了により終了させることが可能。
なお、雇用契約を3回以上更新している場合、または継続して1年を超えて雇用している場合で、予め契約更新しない旨明示されていない場合には、契約期間満了の30日前までに予告しなければならないとされています(平成15年10月22日厚生労働省告示357号「有期労働契約の締結、更新及び雇止めに関する基準」2条)。
また、更新しない理由につき、開示請求があった場合には、遅滞なく証明書を交付しなければなりません(平成15年10月22日厚生労働省告示「有期労働契約の締結、更新及び雇止めに関する基準」3条)。
⑵ 例外(労働契約法19条)
契約期間が満了する日までの間に労働者が当該有期労働契約の更新の申込みをした場合又は当該契約期間の満了後遅滞なく有期労働契約の締結の申込みをした場合、以下の①②に該当すると、使用者が当該申込みを拒絶することが客観的に合理的な理由があり社会通念上相当であると認められない限り、使用者は従前の有期労働契約の内容である労働条件と同一の労働条件で当該申込みを承諾したものとみなされます。
①有期労働契約が過去に反復して更新されたことがあるものであって、その契約期間の満了時に当該有期労働契約を更新しないことにより当該有期労働契約を終了させることが、期間の定めのない労働契約を締結している労働者に解雇の意思表示をすることにより当該期間の定めのない労働契約を終了させることと社会通念上同視できると認められる場合
②労働者において当該有期労働契約の契約期間の満了時に当該有期労働契約が更新されるものと期待することについて合理的な理由があるものであると認められる場合
2 雇止めが問題になった裁判例
⑴ 労働契約法19条について
1の⑵の労働契約法19条は平成24年改正で盛り込まれました。これは過去の以下のような判例の内容を条文化した面があります(1項は最判S49.7.22を、2項は最判S61.12.4を明文化したと言われています)。但し、判例は労働者の「申込み」には触れていないので、労働者の「申込み」を要件とした点は、判例と異なる点です。
労契法19条1号又は2号の要件は抽象的です。結局、雇用の臨時性・常用性、更新の回数、雇用の通算期間、契約期間管理の状況、雇用継続の期待をもたせる使用者の言動の有無などを総合考慮して、個々の事案ごとに判断されることなりると思われます(厚生労働省労働基準局長平成24年8月10日付「労働契約法の施行について」30頁~31頁)。
最判S49.7.22 期間の定めのない労働契約と実質的に同視できる場合は、「従来の取扱いを変更して右条項を発動してもやむをえないと認められる特段の事情の存しないかぎり、期間満了を理由として傭止めをすることは、信義則上からも許されない」という考え方を示した判例(結論は、雇止め無効)
最判S61.12.4 雇用継続に対して従業員が期待しており、かかる期待を保護する必要がある場合は、解雇件濫用法理を類推適用するという考え方を示した判例(結論は雇止めを有効)
⑵ 参考裁判例
上記のとおり、総合考慮となりますが、総合考慮にあたり参考となる裁判例としては、以下のようなものがあります。
大阪地判H3.10.22 雇止めを無効とした裁判例
最判H2.6.5 試用期間付雇用契約で、本採用しなかったことにつき、合理的な理由が必要であり、かつ合理的な理由があるか疑問であるとした判例
大阪地決H22.1.20 面談が無いことによって、従業員に自動更新への期待があったとした裁判例
東京地判H22.3.26 更新の限度が契約に明記されていたことをもって、解雇法理が適用されないとされた事例
大阪高判H25.6.21 期間の定めのない雇用契約に基づいて30年以上にわたり勤務していたものを、使用者及び労働者双方の事情により、1年ごとの有期雇用契約として再度雇用契約を締結した後1年後の雇止めが無効とされた事例
札幌高裁H26.2.20 契約期間1年の労働契約に基づき契約職員として大学に雇用され、3回の契約更新の後の雇止めが、有効とされた事例
東京高判H27.6.24 春と秋のみ約3か月ずつ約17年間にわたり農作業に従事していた労働者につき、労働契約法19条2号の適用がないとされた事例
東京地判H27.7.31 カフェ等を運営する会社とアルバイトの期間3か月程度の有期労働契約を約3年7か月、一度間をおき4年11か月更新した後の雇止めが有効とされた事例
横浜地判H27.10.15 15年7か月にわたり雇用契約を約17回更新した後に雇止めを受けた労働者につき労働契約法19条1号に該当するとされたうえで、雇止めが無効とされた事例
広島高判H28.4.13 期間1年の雇用契約を約30年にわたり更新した後の雇止めについて「労働契約法19条2号の俎上に載せた上で、当該雇止めが権利濫用とならないかを検討すべきである。」とし、「整理解雇に準じて、〈1〉人員削減の必要性、〈2〉解雇(雇止め)回避努力、〈3〉人選の合理性、〈4〉手続の妥当性の見地から、雇止めの適法性を検討すべきである。」としたうえで、雇止めを有効した事例
岐阜地判H29.12.25 経営方針の転換に伴う雇止めが労働契約法19条2項により無効とされた事例(控訴後和解)
福岡地判R2.3.17 約30年間にわたり、1年ごとの有期雇用契約を29回更新してきた労働者の雇止めについて、不更新条項が記載された雇用契約書への署名押印があったものの、労働契約法19条2項該当性を肯定し、雇止めが無効とされた事例
東京高判R4.11.1 労働契約の契約期間は通算5年10か月、更新回数は7回された後に行われた雇止めについて、毎回必ず契約書が作成され、契約日の前に管理職から契約書を交付し読み上げて契約の意思を確認するといった手続を取っていることなどから雇止めを有効とした事例
また、労働省が公表した「有期労働契約の反復更新に関する調査研究会報告」(平成12年9月11日)が裁判例を分析していて参考になります。以下のリンク先をご参照ください。
3 不更新特約の効力について
雇用契約において更新回数の上限等が明記されていない場合、更新にあたって次回の更新時には更新しない旨の特約を入れたり、期間中に期間満了時に更新をしない旨の特約を入れることがあります。これを一般に、不更新特約と呼びます。労働者は、不更新条項に合意しなければ有期雇用契約が締結できない立場に置かれる一方、契約を締結した場合には次回以降の更新がされない立場に置かれるため有効性が争われることがあります。不更新特約に関する裁判例として、以下のようなものがありますが(いずれもYがXに対して雇い止めをした事例です)、いずれも有効とし結論としては使用者側の主張を認めています。上記で雇止めを有効とした事例でも、この点が争われているものがあります。
大阪地判H17.1.13 「〈1〉Yは・・・Xらに対し,説明会を実施して,・・・以後の継続雇用はしないので,残りの有給休暇を全部使ってほしい,・・・不更新条項を入れると説明した上で,平成14年度の契約更新の希望を確認したこと,〈2〉Yは,平成13年12月,Xらに対し,平成14年度の雇用契約に関する本件各契約書を交付したが,同契約書には,不更新条項の記載がある・・・ところ,Xらは,これに署名押印した上,確認印も押印していること,〈3〉同契約書については,Xらは1通を自ら保管していたが,Yに対して,異議を述べることはなかったこと」などから、「YとXらとの間においては,平成14年12月末日をもって本件各雇用契約を終了させる旨の合意が成立していたというべき」としました。
東京高判H24.9.20 Xが雇止めの無効を争ってYに対し提訴したところ、第1審が請求を棄却したためXが控訴しました。本判決は、Yが説明会で丁寧に説明したことをもって「Xは、本件雇用契約は、従前と異なって更新されないことを真に理解して契約を締結したことが認められる。」などとして控訴を棄却しました。
横浜地判H25.4.25 「本件労働契約書の『今回をもって最終契約とする』との記載は、いわゆる雇止めの予告をしたものであると解するのが相当であり」と不更新条項の効力は認めなかったものの、「手続的に著しく相当性を欠いているとはいえないことが認められ、これらの事情を総合するならば、本件雇止めが客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当として是認することができないものであるということはできない」として、雇止めは有効としました。
東京地判R2.10.1 不更新条項の効力は否定しつつ、結果として雇止めは有効とした事例(東京高判R4.11.1で控訴棄却)