このページでは、民事再生手続における契約の扱いについて(契約全般について)、ご説明をしています。
双務契約全般のルールについての規律をご説明したうえで、留意点をいくつか説明をしています。取戻権についても触れています。
条文は、法律名が付されていないものは民事再生法です。
1 双務契約全般について
⑴ 民事再生法における双務契約全般の規律(まとめ)
再生債務者が従前締結していた契約の効力をそのまま認めると、事業再生が困難となるケースがあります。
そこで、49条は、双方未履行の双務契約について再生債務者に特別の解除権を認めています。
一方で、継続的供給契約について、相手方の解除権一定の場合に制限されています(50条)。
実はこれらは、破産法にも同様の定めがあります。
民事再生特有の双務契約の規律は、条文ではなく判例により認められています。事業継続することに支障が出る相手方の解除権が制限されています。
⑵ 双務契約の基本
双務契約であっても、再生債権者の履行が終了していれば、再生債務者の残債務は再生債権となるのみです(動産売買先取特権等が適用になる可能性はあります)。
一方再生債務者の履行が完了していれば、再生債務者は相手方に残債務を請求するのみであり、問題となることはありません。問題は、双方未履行の双務契約で、その規律は以下のとおりです。
再生債務者の選択 | 相手方の請求権 | 留意点 |
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履行 | 開始決定前に対応する部分も含めて共益債権です(49条4項)。 | 黙示の履行選択が認められることがあるので注意が必要です(東京地判H18.6.26)。 |
解除 | ・損害賠償請求権は再生債権です(49条5項 破産法54条1項)。 ・現存反対給付は共益債権です(49条5項 破産法54条2項)。 | 解除は裁判所の許可(41条)又は監督委員の同意事項とされることがあります。 権利の濫用にあたる場合、解除権が制限されると解されます(最三小判H12.2.29)。 |
裁判例などについては、以下のリンク先の2をご参照下さい。管理人が運営する破産法に関して説明をしている外部サイトです。なお破産法と民事再生法は、双務契約についてほぼ同じ規律を定めており、破産法49条は、民事再生法54条に対応しています。また、破産法の「財団債権」は、民事再生法の「共益債権」にあたります。
⑶ 継続的供給契約の規律(50条)
継続的供給契約に関する規律は概要以下のとおりです(50条)。
場合分け | 相手方の請求権 | |
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再生債務者が履行を選択 | 申立後(一定期間毎に算定するものについては、申立日を含む期間分から)の債権は共益債権(50条2項)。 | 共益債権の範囲については争いがあります |
再生債務者が解除を選択 | 損害賠償請求権は再生債権(49条5項 破産法54条1項)。 開始後の債権は共益債権(119条2項)。 | 解除は裁判所の許可(41条)又は監督委員の同意事項とされることがあります。 開始前の債権が共益債権か同課は争いがあります。 |
継続的供給契約の対象、論点などについては以下のリンク先の3をご参照ください。なお破産法と民事再生法は、継続的供給契約についてほぼ同じ規律を定めており、破産法55条は、民事再生法50条に対応しています。また、破産法の「財団債権」は、民事再生法の「共益債権」にあたります。
2 双方未履行双務契約の相手方の解除権
⑴ 倒産解除条項の効力は認められません
取引先との契約の中に、倒産解除条項(民事再生を申立てたことを解除事由とする条項)が含まれていて、倒産解除条項に基づく解除を主張してくることがあります。しかし、倒産解除条項は民事再生手続においては無効とされています(最判S57.3.30、最判20.12.16)。これは民事再生(及び会社更生)に特有の解釈で破産では、このような主張は認められません。
最判S57.3.30(更生) 会社更生手において、保全処分による不履行により契約解除はできないとし、また、倒産解除条項の効力を否定した判例
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Xは、昭和48年8月8日、甲社(更生会社)に対しX所有の機械を、(1)代金は598万5335円とし昭和48年9月から昭和51年2月まで30回にわたり毎月割賦弁済する、(2)所有権は代金完済までXに留保する、(3)Xは所有権移転までの間右機械を甲社に無償で貸与する、(4)甲社につき、その振り出した手形の不渡り又は会社更生の申立の原因となるべき事実が発生したときは、Xは催告を経ることなく売買契約を解除することができる、との約定のもとに売却し、機械を甲社に引き渡しました。甲社は、前記代金のうち約380円の支払をしたところで自ら更生手続開始の申立をし、弁済禁止の保全処分を受け、その後、更生手続開始の決定を得ました。保全処分の結果、Xに対し当該機械代金支払のため交付をしていた約束手形の支払を、甲社は拒絶したことに対し、Xは、倒産解除条項に基づき前記売買契約を解除する旨の意思表示をしたうえで、甲社の管財人Yに対し取戻権の行使として機械の引渡を求めたのが本件です。控訴審がXの請求を棄却したため、Xが上告したが、本判決は以下のように判示して上告を棄却しました。
「思うに、動産の売買において代金完済まで目的物の所有権を売主に留保することを約したうえこれを買主に引き渡した場合においても、買主の代金債務の不履行があれば、売主は通常これを理由として売買契約を解除し目的物の返還を請求することを妨げられないが、本件のように、更生手続開始の申立のあつた株式会社に対し会社更生法39条の規定によりいわゆる旧債務弁済禁止の保全処分が命じられたときは、これにより会社はその債務を弁済してはならないとの拘束を受けるのであるから、その後に会社の負担する契約上の債務につき弁済期が到来しても、債権者は、会社の履行遅滞を理由として契約を解除することはできないものと解するのが相当である。また、買主たる株式会社に更生手続開始の申立の原因となるべき事実が生じたことを売買契約解除の事由とする旨の特約は、債権者、株主その他の利害関係人の利害を調整しつつ窮境にある株式会社の事業の維持更生を図ろうとする会社更生手続の趣旨、目的(会社更生法一条参照)を害するものであるから、その効力を肯認しえないものといわなければならない。そうすると、Xのした本件売買契約解除はその効力を有しないものであり、本訴請求は理由がないことに帰するから、これを失当とした原審の判断は、結論において正当である。論旨は、採用することができない。」
最判H20.12.16(再生) 民事再生手続きにおいて、リース契約にかかる倒産解除条項の効力を否定した判例
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リース会社Xは、事務機器につきフルペイアウト方式によるファイナンスリース契約をYと締結していたが、Yが民事再生手続開始決定をうけたため、倒産解除条項に基づきリース契約を解除し、Yに対し、リース物件の引渡しとリース料相当額の支払を求めて提訴しました。第1審は、倒産解除条項を有効としましたが、控訴審は、倒産解除条項を無効としたため、Xが上告したところ、本判決は以下のように説示して上告を棄却しました。
「・・・民事再生手続は、経済的に窮境にある債務者について、その財産を一体として維持し、全債権者の多数の同意を得るなどして定められた再生計画に基づき、債務者と全債権者との間の民事上の権利関係を調整し、債務者の事業又は経済生活の再生を図るものであり(民事再生法1条参照)、担保の目的物も民事再生手続の対象となる責任財産に含まれる。
ファイナンス・リース契約におけるリース物件は、リース料が支払われない場合には、リース業者においてリース契約を解除してリース物件の返還を求め、その交換価値によって未払リース料や規定損害金の弁済を受けるという担保としての意義を有するものであるが、同契約において、民事再生手続開始の申立てがあったことを解除事由とする特約による解除を認めることは、このような担保としての意義を有するにとどまるリース物件を、一債権者と債務者との間の事前の合意により、民事再生手続開始前に債務者の責任財産から逸出させ、民事再生手続の中で債務者の事業等におけるリース物件の必要性に応じた対応をする機会を失わせることを認めることにほかならないから、民事再生手続の趣旨、目的に反することは明らかというべきである。
以上によれば、民事再生手続開始の申立てがあったことを本件リース契約の解除事由とする特約を無効とし、これに基づく本件解除は効力を生じないとした原審の判断は是認することができる。」
⑵ 同様に契約解除の効力が否定される場合
再生債務者が事業譲渡をする場合、再生債務者が締結している主要な契約に譲渡禁止特約があると、事業譲渡ができず、再生が困難となることがあります。
そこで、譲渡禁止特約により事業譲渡が制約さるとすれば、民事再生法の趣旨に著しく反するとして、契約の相手方は事業譲渡禁止特約違反を理由に契約を解除できないとした裁判例があります(東京地判H15.12.5)。この裁判例は、地裁判決でもあり、必ずしも一般化できるものでありませんが、一つの参考になります。
東京地判H15.12.5 再生債務者が締結していた契約に譲渡禁止特約があった場合において、民事再生手続中の営業譲渡が、契約中の譲渡禁止特約に反しないとされた事例
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XとYは、Xを委託者、Yを受託者とする商品製造委託契約を締結していました。当該契約には、XがYに予め保証金を預託することや、譲渡禁止特約が規定されていました。Yに民事再生手続開始決定がなされ、XはYに対して民事再生法49条2項に基づく催告を行ったが、Yは回答をしませんでした。その後、Yは甲社に事業譲渡をしたため、Xが、事業譲渡が当該商品製造委託契約の譲渡禁止特約に反するとして、解除の意思表示をしたうえで、解除に基づく保証金が共益債権にあたるとして返還等を求めて提訴したのが本件です。本判決は以下のとおり説示し、一部却下、一部棄却しました。
保証金等が共益債権か
「・・・仮にX主張の請求権が発生するとしても、これらの請求権は原状回復請求権であって、再生手続前に支払われたものについて、解除の遡及効によって発生するものであるから、共益債権となる余地はない。
Xは、本件契約は双務契約であるところ、再生債務者Yが催告に確答しなかったため民事再生法49条2項により解除権を放棄したものとみなされ、その結果、同法49条4項によって、保証金返還請求権が共益債権となった主張する。 しかし、同法49条4項の趣旨は、再生手続開始当時に双方未履行の双務契約が存在し、再生債務者が履行を請求する場合、対価関係にある再生債権が再生債権としての保護しか受けられないことになるのでは公平を欠くとの観点から、これを共益債権とすることにしたものである。よって、同項は対価関係にある再生債務者と再生債権者の双方の債務が未履行の場合に適用される。・・・、Xには商品購入代金債務や減価償却費相当額支払債務について未履行分があることが認められるが、これらの債務は再生債務者Yの保証金返還債務と対価関係にあるものではない。したがって、Xの保証金返還青求権が同法49条4項により共益債権になることはあり得ない。」
解除の可否について
「・・・民事再生手続の中で行われる営業譲渡は、再生債務者がその事業を継続することが困難な状況の中で、事業を再生債務者から切り離して事業の収益力を回復し再生を図るものである。これにより、事業継続による従業員や取引先(債権者)の保護及び債権者への弁済の原資の確保が図られることにもなる。そして、営業譲渡には、債権者や労働組合等の意見を聴取した上で裁判所の許可を受けることが要件とされる等、適正な営業譲渡が行われるための手続的配慮がされている。現に本件営業譲渡が再生債務者Yの菓子事業を継続するため適正な手続を経て行われたことは前記のとおりである。このように民事再生手続の中で行われる営業譲渡は事業の再生を図る目的で、かつ裁判所の許可など公正な手続の下で行われるものであるから、その目的は正当であり、営業譲渡契約の内容も適正であるといえる。
これに対して、本件譲渡禁止特約のような再生債務者とその取引先との間での契約により、営業譲渡自体が、相手方からの解除という制裁のもと、事実上制約されるということになるとすれば、事業そのものを再生債務者から切り離すことにより事業の再生を図るという目的が実現されず、多数の利害関係者の利益を損なうおそれがある。このような事態は、多数の利害関係人の利益を調整しながら適正な手続によって事業の再生を図ろうとする民事再生法の趣旨に著しく反するといわざるを得ない。
Xにとっての本件譲渡禁止特約の趣旨は、再生債務者Yが無断でその契約上の地位を譲渡することによって、Xに不測の損害を与えることを防ぐことにあると解される。・・・しかし、民事再生手続の中で行われる営業譲渡は、事業の再生のために必要な場合に、かつその譲渡が適正であることが確認されたうえで行われるものであるから、むしろ、営業譲渡によって契約相手方に関するリスクは減少し、事業継続にかかるXの期待ないし利益もより保護されると考えられるから、本件営業譲渡は、本件譲渡禁止特約の趣旨に反しないということができる。
以上の諸点に鑑みると、再生債務者Yの行った本件営業譲渡について、Xが、本件譲渡禁止特約違反を理由に、本件契約を解除することは許されないというべきである。」
⑶ 債務不履行解除は?
再生債務者に共益債権について債務不履行がある場合、相手方は債務不履行解除が可能と解されます。この場合、相手方が解除した場合の損害賠償請求権や手付金等は再生債権となりますが(49条5項は適用なし)、原状回復請求権は共益債権となると解されます(東京地判H17.8.29)。
東京地判H17.8.29(再生) 売買契約の再生手続開始後の解除による原状回復請求権は共益債権になるとした裁判例
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「民事再生法は、共益債権となる請求権につき、『再生債務者財産に関し再生債務者等が再生手続開始後にした資金の借入れその他の行為によって生じた請求権』はこれを共益債権とする旨規定している(同法119条5号)。このように民事再生手続開始後にした行為によって生じた請求権が共益債権とされているのは、民事再生手続がいわゆる再生型の手続であり、再生債務者等が再生手続開始後も業務を続けることが予定されているため、再生手続開始後の業務遂行により、再生債務者等の相手方に生ずる請求権については、再生債権者全体の利益に資するものとしてこれを全体で負担する必要があるとの考慮に基づくものである。そして、上記の趣旨からすると、同号所定の『行為』を作為に限る理由はないから、再生債務者等の不作為によって相手方に発生した請求権についても、上記のような考慮を払うべきものについてはこれを共益債権として処遇すべきである。」として、売買契約における再生開始決定後の解除に基づく原状回復請求権を共益債権としました。
なお、再生債権の不履行による解除については、上記最判S57.3.30が、弁済禁止の保全処分を命じられたときには、債務者に帰責事由がないとして解除できないとしていることから、再生手続開始後も再生債権の弁済が無いことを理由に解除することはできないものと考えられますが、はっきりしない面もあります。