このページでは、民事再生における、役員に対する損害賠償請求権の査定制度についてまとめています。
なお条文は、法律名が明示されていないものは民事再生法になります。
1 民事再生手続における役員責任追及の概要
⑴ 役員責任追及の手続の概要
役員責任追及についての時系列で検討の順序を整理すると、以下のとおりです。なお、役員とは、再生債務者の理事、取締役、執行役、監事、監査役、清算人又はこれらに準ずるものをいいます(142条1項)。制度趣旨から手続開始前に退任した役員も含まれると解されます。
時系列 | 内 容 |
---|---|
該当事由の調査 | 過去の経緯を確認するなどして、責任追及すべき事由がないかを確認します。事案によっては、調査委員会を設置して、役員等の損害賠償責任の有無を調査することもあるようです。 なお、役員の責任が問題となるのは、会社法に基づく場合と異ならないと解されます。⑵ご参照下さい。 |
役員財産保全(142条)の検討 | 役員の財産に対する保全の要否を検討し、必要な場合には、142条に基づく保全処分を行います。 |
任意交渉 | 当該役員と任意交渉を行い、和解等で処理が可能かを検討する。 |
責任査定申立(143条) | 申立て⇒審尋期日(144条2項)⇒決定という順番で進みます。 判断に不服がある役員は異議の訴えが可能です(145条1項)。 |
会社法423条等に基づく訴訟 | 裁判所の許可又は監督委員の同意が必要な場合があります。 査定申立をせず、最初から、会社423条等に基づく責任追及の訴えを提起することも可能です。証人尋問の必要性が高い場合や、相手方が争っていて査定で認容決定が出ても異議の訴えとなる可能性が高い場合などには、査定申立をせず最初から訴訟を提起することを検討することになります。 |
(補足)債権届出との関係
役員に責任があると考えられる場合、役員が提出してきた債権届出に対して異議を出す(いわゆる「戦略的異議」)という方法を取ることも考えられます。この点は、監督委員や裁判所とも相談の上方針を決定するとになると考えられます。
⑵ 役員の会社に対する責任が発生する場面
役員の会社に対する責任が発生する場面は、通常の場面(=会社法に基づく責任)と同様と考えられます。主に問題となるのは取締役と監査役の責任です。会社法上の取締役と監査役の責任については、それぞれ以下のリンク先にまとめましたので、ご参照下さい(管理人が運営する他のサイトです)。
2 責任査定の具体的な流れ
責任査定は、申立て⇒審尋期日(144条2項)⇒決定という順番で進みます。以下、簡単に補充します。
⑴ 査定申立(143条)
責任査定の申立権者は、再生債務者・管財人(143条1項)及び再生債権者(143条2項)です。
⑵ 決定
認容決定と棄却決定があります。
認容決定に対し、当該役員は異議の訴えが可能です(145条)。認容決定に対する異議の訴えにつき、認容決定を取消した事例として、東京地判H16.9.28などがあります。
金額に不満がある場合は再生債務者も異議の訴えが可能です。
異議の訴えがないと確定します(147条)。
東京地判H16.9.28(再生) 再生裁判所の旧取締役に対する査定決定が取り消された事例
棄却決定に対しては、通常訴訟が可能です。
3 株主代表訴訟との関係について
⑴ 再生手続開始決定時に株主代表訴訟が係属していた場合
民事再生手続開始決定時に既に株主代表訴訟が係属しているにもかかわらず、再生債務者が改めて役員責任追及のための査定申立てを行った場合、請求がかぶります。この場合の取扱は必ずしも明確でありませんが、査定申立てが優先し、先行している株主代表訴訟は重複起訴の禁止に抵触するという見解が多いようです。
⑵ 再生手続開始決定後の株主総代表訴訟の可否
管財人が選任される会社更生手続開始後は、株主代表訴訟を提起することはできないとされています(大阪高判H元.10.26、東京高判S43.6.19)。民事再生において管財人が選任された場合も、同様に提起はできないと解されます。
一方、民事再生において管財人が選任されていない場合は、再生債務者等が査定申立等を行っていない限り、株主代表訴訟の提起は可能と考えられます。もっとも、民事再生手続では100%減資をされるのが一般的で、100%減資された場合には、原告は当事者適格を失うと考えられます(東京地判H16.5.13、会社法851条)。
東京地判H16.5.13(再生) 従前の株主代表訴訟は中断等しないことを前提に、民事再生手続中に100%減資された場合には、株主代表訴訟の原告適格を失うとした裁判例