このページでは、民事再生手続における開始決定時に係属していた訴訟訴訟の扱いについて、整理をしています。
開始決定時に係属していた訴訟の多くは再生債権に関する訴訟ですが、再生債権に関する訴訟は、債権認否手続に取り込まれます。以下整理します。
条文は法律名が明記されていないものは民事再生法です。
1 民事再生手続開始決定時に係属していた訴訟の扱い(まとめ)
民事再生手続開始決定時に係属していた訴訟としては、再生債務者が主体で行っている訴訟と、再生債権者が主体で行っている債権者代位訴訟や詐害行為取消訴訟などが
⑴ 再生債務者が主体として係属していた訴訟について
再生債務者が主体として係属していた訴訟は、以下のように整理できます。
種類(分類) | 中断の有無 | 中断後の処理 | 備考 |
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再生債権にかかる訴訟 | 中断します(40条1項) | 再生債権の債権確定手続の中で受継等の処理がされます。 | 再生債権にかかる訴訟か否かが不明な場合は、係属裁判所の判断となるようです。
係属裁判所は、民事再生手続開始決定を当然には知りえないので、係属裁判所に対して訴訟が中断した旨の上申書を提出する必要があります。 |
再生債権に関係ない訴訟 | 中断しない。 | | 株主代表訴訟、取戻権に基づく訴訟、共益債権・一般優先債権に関する訴訟などが該当します。
株主代表訴訟は、再生債務者が、役員責任追及のための査定申立等を行った場合、査定申立が優先し、却下される可能性もあります。 |
⑵ 債権者が主体として係属していた訴訟について
債権者が主体として係属していた訴訟は、以下のように整理できます。
種類 | 中断の有無 | 中断後の処理 |
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債権者代位訴訟 | 中断(40条の2第1項) | 係属裁判所は、民事再生手続開始決定を当然には知りえないので、係属裁判所に対して訴訟が中断した旨の上申書を提出する必要があります。
再生債務者・相手方とも受継可能です(40条の2第2項)。 |
詐害行為取消訴訟 | 中断(40条の2第1項) | 係属裁判所は、民事再生手続開始決定を当然には知りえないので、係属裁判所に対して訴訟が中断した旨の上申書を提出する必要があります。
監督委員、相手方が受継可能です(140条1項)。 |
2 再生債権に係る訴訟の開始決定の流れ
再生債権に係る訴訟の開始決定後の流れは概要以下のように整理できます。
⑴ 当該債権者が債権届出をした場合
債権者が債権届出をしたのに対し、再生債務者も再生債権者も、債権届出に異議を出さない場合は、紛争が終結してしまい、訴訟は終了すると解されます。
債権者が債権届出をしたのに対し、再生債務者又は他の再生債権者が異議を出した場合は、受継申立の有無で以下のように整理できます。
受継申立(107条) | |
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無し | 再生債務者の異議に対して債権者が受継の申立てをしないことにより、事実上紛争が終結してしまい、訴訟は当然に終了すると解されます。(名古屋地決H14.12.24、大阪高判H16.11.30)
名古屋地決H14.12.24(再生) 再生手続きにおいて中断された訴訟につき、訴訟受継申立てが却下された事例裁判例の詳細を見る XがYに対して販売委託手数料等の支払を求める訴訟が係属している状態で、Yにつき民事再生手続開始決定がなされました。Xは、当該訴訟において請求している債権につき債権届出を行ったのに対し、Yは全額を否認しましたが、その旨を特にXに通知することはありませんでした。その後、法107条2項、105条2項に定める不変期間を経過した後に、Xは、全額否認したことの通知がなかったことなどを理由に受継が認められるべきであるとして、訴訟の受継を申立てました。 本決定は「・・・Xの届け出た本件再生債権については、再生債務者であるYからその全額につき異議が出されて確定しなかったのであるから、Xは、その内容の確定を求めるためには、本件開始決定で定められた一般調査期間の末日である平成13年4月27日から1か月の不変期間内において、基本事件につき受継の申立てをしなければならなかったところ(法107条2項、105条2項)、Xが当裁判所に本件受継申立てをしたのは、上記不変期間を約6か月余り経過した後の同年12月5日であったのである。 ところで、民事訴訟法97条1項は、不変期間の不遵守について『当事者がその責めに帰することができない事由』(追完事由)がある場合には、同項の定めるところに従って、不変期間内にすべき訴訟行為の追完をすることができる旨規定している。そこで上記追完事由の有無について検討するに、Xは、本件受継申立てにつき・・・不変期間を遵守できなかった事情として、本件再生債権が調査で否認されたことについてXに対する通知がなかったことを挙げる。しかし、法は、民事再生手続による再生債務者の事業又は経済生活の再生を図る観点から、再生債権の調査及び確定手続を迅速なものとするため、会社更生法や破産法とは異なって、債権調査期日制度や異議ある届出債権の債権者に対する裁判所書記官からの通知制度を設けることなく(会社更生法146条、破産法243条参照。ただし、民事再生規則44条)、ただ再生債務者からの認否書の提出の制度を設けた上、再生債務者からの異議の有無は、再生債務者の主たる営業所又は事務所に同認否書写しを備え付ける方法により開示する制度を採用しているのである(法101条、民事再生規則43条)から、本件再生債権についてYから異議があったことのXに対する通知は法の予定しないところである。 したがって、X主張の通知がなかったとの事実は、民事訴訟法97条1項の『当事者がその責めに帰することができない事由』(追完事由)に該当するものではない・・・Xの本件受継申立ては、法定の申立期間経過後にされた不適法な申立てであるというほかない。」としてXの申立を却下をしました。
大阪高判H16.11.30 受継申立期間内に訴訟の受継の申立てをしなかった再生債権は未確定の状態で固定され、再生計画の認可決定の確定により失権するものと解されるとした裁判例裁判例の詳細を見る XのYに対する貸付金請求訴訟等が継続中(控訴審)に、Yにつき民事再生手続開始決定がなされたため、当該訴訟は中断しました(40条1項)。Xは係争中の債権全額につき債権届出に対し、Yが全額認めないと記載したが、Xから受継の申立てがなされることなく、再生計画は認可決定しました。その後、Xが、訴訟の受継申立てをしたのに対し、本判決は以下のように判示した。 「再生手続開始決定があったときは、再生債務者の財産関係の訴訟手続のうち再生債権に関するものは中断する(民再法四〇条一項)。これは、その債権については再生手続内に有する包括的でより簡易迅速な債権確定手続に委ねるのが妥当だからである。したがって、係争中の再生債権について、再生手続内で確定の途が閉ざされた場合には、訴訟手続を中断する必要がなくなるから、当該訴訟は中断事由が解消して受継可能の状態となり、訴訟の当事者となっている再生債務者については、上記中断制度の趣旨に照らし、受継の申立てを要せず当然に受継が生ずるものと解される。 そして、再生債権の届出がされなかった再生債権については、再生計画案の付議決定がされた後は、いかなる事由があろうとも再生債権の届出をすることはできなくなり(民再法九五条四項)、再生手続における再生債権の確定手続をとることはできなくなることを考慮すると、訴訟手続が係属しているが所定の期間内に受継の申立てがなかった場合についても、再生債権の届出がなかった場合と同様に、訴訟手続は原則として再生計画案の付議の時に再生債務者が受継することになると解するのが相当である。 したがって、本件訴訟については、前記認定の本件再生手続における再生計画案の付議の時にYにつき受継が生じ、本件訴訟自体は未だ係属しているというべきである。 ・・・しかしながら、上記は再生手続開始当時に係属していた再生債権についての訴訟の帰趨ないし進行に関することであって、その係争債権(再生債権)の実体的効力の問題は別に考察しなければならない。 再生手続における再生債権の調査において再生債務者等に否認され、あるいは他の再生債権者から異議が述べられた再生債権について、再生手続開始当時既に訴訟が係属している場合には、当該訴訟は再生手続の開始により中断し、当該再生債権者は、再生債権の調査期間の末日から一か月の不変期間内に当該訴訟につき受継の申立てをしなければならない(民再法107条、105条2項)ことは前記のとおりである。これは、再生手続の簡易迅速性の要請から、債権の確定について既に行われている訴訟を利用して早期に解決を図ろうとするものであり、上記受継申立期間内に受継の申立てをしなかった再生債権は、仮に再生計画内に記載されていたとしても、再生債権の届出がなかった場合と同様、債権は未確定の状態で固定され、再生計画の認可決定の確定により失権するものと解される(民再法178条、179条)。」 |
有り | 訴訟は受継により、継続します。 |
⑵ 当該債権者が債権届出をしなかった場合
再生計画案の付議決定により再生債務者が受継しますが、計画案の認可決定により失権すると解されます(178条、179条)。
もっとも、債権者が債権届出をしなかった場合、訴訟は当然に終了するという見解もあります。しかし、届出をしない債権が失権しない場合もありますので(181条参照)、上記のように考えるのが妥当だと考えられます。
いずれにしても、当該債権者の権利主張が許されなくなるという点では争いはありません。訴訟の終わらせ方の問題ですので、係属裁判所と相談をするということになると思われます。
3 債権者代位訴訟、詐害行為取消訴訟について
⑴ 再生手続開始決定時に係属していた債権者代位訴訟、詐害行為取消訴訟
民事再生手続開始時に再生債権者が当事者となっていた、債権者代位訴訟及び詐害行為取消訴訟は、中断の対象となり(40条の2第1項)、再生債務者(詐害行為取消訴訟は監督委員)は、当該訴訟を受継することができ、相手方も受継の申立てをすることできるとされています(40条の2第2項、140条1項)。
⑵ 再生手続開始後に債権者代位訴訟、詐害行為取消訴訟を提起するこの可否 否定説が有力です。
再生手続開始後、再生債権者が、改めて債権者代位訴訟、詐害行為取消訴訟を提起することはできるかについては、できないと考えられます(東京高判H15.12.4、東京地判H19.3.26、東京地判H24.2.27)。
東京高判H15.12.4(再生) 管理型の民事再生において、再生債権者は債権者代位訴訟の当事者適格を欠くとした裁判例
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再生債務者甲社(管財人が選任されている)の再生債権者Xらが、再生債権を被保全債権として、他の再生債権者Yが甲社の不動産に設定している抵当権の被保全債権の不存在を理由に債権者代位に基づき甲社を代位して抵当権設定登記抹消登記手続請求訴訟を提起した(なお、YからXに対する訴訟も存するが、省略)ところ、第1審がXの請求を棄却したことからXが控訴しましたた。
本判決は、「甲社は、本件訴訟提起前から再生開始決定及び管理命令を受け、その財産の管理処分権は管財人に専属していたのであるから、Xらは、甲社を代位してその財産に関する本件訴訟を提起することはできないものである。したがって、本件訴訟は当事者適格のない者が提起したもので、不適法であることが明らかである。」として、訴えを却下しました。
東京地判H19.3.26
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再生債権者が、詐害行為取消訴訟を提起した事案につき、「再生手続開始決定があった後、再生手続が進行中の状態の下においては、再生債権者は再生債権に基づき詐害行為取消権を行使することは、実体法上許されないものと解すべきである。」としました。
東京地判H24.2.27(再生) 別除権協定に基づく債権を被保全債権とする債権者代位訴訟につき、当事者適格を欠くとした裁判例
裁判例の詳細を見る
Xが、民事再生手続開始決定を受けた甲社との間で締結した別除権協定に基づく甲社に対する債権を保全するため、甲社が事業再生支援基本契約に基づきYらに対して有する会社分割によってゴルフ場の土地建物を承継させた対価請求権を代位行使する旨主張し、Yらに対し分割対価金等を請求して提訴しました。
本判決は「本件事案は、Xが、本件別除権合意に基づき、甲に対して取得したと主張する本件債権を被保全債権として債権者代位権を行使しているものであるが、本件債権の法的性質が再生債権であるとした場合には、再生手続開始決定後は、再生債権者が民事再生手続外で権利を行使することが原則として禁止される(法85条1項)ことに伴い、再生債権を被保全債権とする債権者代位権を行使することもできず、したがって、債権者代位訴訟についての当事者適格を有しないと解すべきである。このことは、法40条の2第1項が、民事再生手続開始当時、再生債権者の提起による債権者代位訴訟が既に係属しているときは、同訴訟は中断し、再生債務者等がこれを受継することができると定めていることからも裏付けられる。本件債権の法的性質がXが主張する共益債権であるとすれば、このような制約がなく債権者代位権の行使が可能であり、また、本件の場合、本件債権は一般優先債権(法122条)に当たらないことは明らかであることから、本件債権が共益債権でないとすれば、再生債権に該当することになる。
そこで、本件債権の法的性質が共益債権に当たるかどうかについて、次に検討する。」としたうえで、
「この点の検討をするに際しては、あくまでも本件別除権合意の内容を基礎とし、同合意に基づく当事者意思を踏まえた上で、本件債権が法において共益債権(法119条)とされる債権に該当するかどうかを判断すべきであり、同合意内容を離れて可能な法解釈のあり方を詮索し、論じた上で結論を導くことは相当ではないというべきである。
・・・本件別除権合意の内容は、概要、次のとおりの内容であったものである。
すなわち、〈1〉再生債務者である甲に対しての再生手続開始決定日に甲がXに対して負担している再生債務の種類ごとの額を確認するとともに、Xが甲の再生手続開始決定前に同社に対して有する同社所有のAゴルフ倶楽部等の財産に対する別除権の評価額と別除権により担保されない不足額を確認するものであること、〈2〉本件別除権対象の主要な財産であり、民事再生事業に欠かせない財産でもあるとみられるAゴルフ倶楽部の物件(その他の別除権対象物件については、換価処分して優先弁済に充てる。)については、一定期日までに甲がXに弁済するのと引き換えに、Xは担保権の解除及び抹消登記手続を行うものとし、上記担保権不足額については、再生計画の定めに従って再生債権弁済額を再生計画認可決定確定日の属する月の末日から10か月以内・・・に弁済すること、〈3〉Xは、本件別除権対象物件について、競売等の担保権実行手続を行わず、甲は、上記Aゴルフ倶楽部の物件について、担保権消滅請求を行わないが、X又は甲が本件別除権合意に違反した等の場合はこの限りでないこと、〈4〉本件別除権合意の法的効力は、甲の監督委員の同意及び再生計画認可決定が確定することを停止条件として発生するものとし、再生手続が廃止されたときには、その効力を失うものとすること、以上である。・・・これらを内容とする本件別除権合意を全体的に考察すれば、同合意により、本件別除権は消滅し、新たな権利が発生したとみるのは困難であり、同合意にもかかわらず、本件別除権は存続し、その行使方法については、担保権実行手続を停止させ、本件別除権対象の主要な財産であるAゴルフ倶楽部の物件についての確認済みの担保権評価額が弁済されたときに同担保権が消滅するが、本件別除権合意が履行されない場合は、担保権の実行が可能になるとすることにより、担保権者であるXの不利益を回避する措置が講じられている上に、再生手続が廃止されたときには本件別除権合意が失効すると定めることにより、あくまでも再生手続において効力を有する合意であることを明確にしていることが明らかである。
そうであるとすれば、本件別除権合意を、同合意に基づき新たな権利を発生させる更改又は和解契約であると解することは困難であるといわざるを得ない。そして、同合意の法的性質をあえて捉えるとすれば、再生手続によらないで行使できる別除権(法53条2項)について、その担保権評価額を再生手続外で弁済することにより同担保権を消滅させる合意であり、その意味では法41条1項9号所定の『別除権の目的である財産の受戻し』に関する合意であると解されるところである。このことは、本件別除権合意の法的効力の発生を甲の監督委員の同意にかからしめており、同号の手続要件の充足を必要としていることからもうかがうことができる。
・・・・以上によれば、本件債権は共益債権には該当せず、再生債権に過ぎないと解するのが相当である。したがって、本件債権者代位訴訟は、再生手続外では行使し得ない再生債権を被保全債権とする訴訟であるから、不適法な訴訟として却下を免れない。」として、訴えを却下しました。