このページでは、再生計画案の認可決定確定までの手続について、説明をしています。

再生計画案は、①提出→②付議決定→③(債権者集会での)決議→④可決→⑤裁判所による認可決定→⑥確定という流れを経て、認可決定の可決に至ります。認可決定が確定することにより再生計画案は効力が発生します。

1 再生計画案の提出から付議決定まで

ア 再生計画案の提出

再生債務者又は管財人は再生計画案を提出しなければなりません(民事再生法163条1項)。また、再生債権者も再生計画案を提出することができるとされています(民事再生法163条2項)。

イ 付議決定

者裁判所は、監督委員の調査報告書を受けて、付議決定を行います(民事再生法169条)。なお、再生債権者からも再生計画案が提出された場合は、いずれかの計画案のみが付議決定され他方は廃除決定されるケースが多いと思われますが、再生債務者提出の計画案と再生債権者提出の計画案の双方が付議決定された事例もあるようです。
付議決定にあたり、裁判所は再生計画案の決議方法について、集会型か、書面型か、併用型かについて決定をします。併用型が多いものと思わます。

ウ 計画案の変更等

付議決定されるまでの間であれば、裁判所の許可を得て再生計画案を修正することが可能とされています(民事再生法167条

付議決定後であっても、議決権行使方法として債権者集会が定められている場合(併用型を含む)、「再生債権者に不利な影響を与えないときに限り」、「裁判所の許可を得て」、計画案を変更することができるとされています(民事再生法172条の4)。この場合の計画案の変更は債権者集会で行われることとなっていますが、実務的には、事前に裁判所及び監督委員に変更の了解を得たうえで、債権者にも発送されます。

2 決議(可決要件)

⑴ 可決要件

再生計画案は、予め定められた決議方法で決議されます。可決要件は以下のとおりです。なお、議決権者は、代理人に議決権を行使させることができます(民事再生法172条1項)。

可決のためには、以下の2つの要件をいずれも満たす必要があります。

頭数投票者の過半数(よって、棄権者は、分母に算入されません)
議決権額議決権額の過半数(棄権者も分母に算入されます。つまり、棄権者の議決権額は実質的に反対したのと同じ効果があることになります)

なお、議決権額が確定していない場合(=債権査定の申立がされているものの決定がなされていないような場合)は、裁判所の合理的な裁量により議決権額は決定されます(民事再生法170条2項3号、171条1項2号)。なお、再生債権者は裁判所の決定に不服申立ができないとされています。

⑵ 可決された場合の効果

再生計画案が可決した場合は、不認可事由がない限り、裁判所は再生計画認可決定をします(民事再生法174条。そして、再生計画は、認可決定が確定するまでには効力を生じません(民事再生法176条)ので、再生計画案の可決で発生する効果はありません。
なお、監督命令で監督委員の同意が必要なのは認可決定までとされていることが多く、そのような記載がある場合、認可決定後は、監督委員の同意を得ることは不要となります。

可決されたにもかかわらず不認可とされた事例は多くありませんが、以下のような裁判例があります。

最決H20.3.13
Y社の民事再生手続開始申立前に債権譲渡を行い賛成債権者を過半数にしたことにより計画案が可決された事案につき、不認可をした事例。

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本判決は「本件再生計画案は、議決権者の過半数の同意が見込まれない状況にあったにもかかわらず、Yの取締役である甲から同じくYの取締役である乙へ回収可能性のない債権の一部が譲渡され、Yの関係者4名がYに対する債権者となり議決権者の過半数を占めることによって可決されたものであって、本件再生計画の決議は、法172条の3第1項1号の少額債権者保護の趣旨を潜脱し、再生債務者であるYらの信義則に反する行為によって成立するに至ったものといわざるを得ない。」とし不認可としました。

最決H29.12.19
再生政務者Yは、再生手続開始の申立てに当たり、実際には存在しない可能性のある実弟Aの債権を債権者一覧に載せたところ、当該債権は一般異議申述期間内に異議が述べられず債権は確定し、当該債権が、総議決権の2分の1を超えていたこともあり、再生計画案が可決しました。
本判決は債権に異議が述べられなかった点については「異議が述べられなかったとしても、・・・再生計画案の可決が信義則に反する行為に基づいてされた場合に当たるか否かの判断に当たっては、当該再生債権の存否を含め、当該再生債権の届出等に係る諸般の事情を考慮することができると解するのが相当である。」としました。そのうえで「Yが、実際には存在しない本件貸付債権を意図的に債権者一覧表に記載するなどして本件再生計画案を可決に至らしめた疑いがあるというべきであって、Yが再生債務者として債権者に対し公平かつ誠実に再生手続を追行する義務を負う立場にあることに照らすと(法38条2項参照)、本件再生計画案の可決が信義則に反する行為に基づいてされた疑いが存するといえる。」とし、Aの債権の存否を含めた調査をするため差し戻しました。

東京高決H15.7.25
詐害行為取消訴訟の受継をしなかったことが、再生債権者一般の利益に反するとされた事例です。

最判H29.12.19 小規模個人再生の事案ですが、において,民事再生法202条2項4号の「決議が不正の方法によって成立するに至ったとき」の不認可事由の存否の判断として、同法225条のみなし債権届出の結果無異議債権として手続内で確定した債権の存否(=架空の債権が認められたか否か)を、再生計画の認可の段階で再度考慮することができるとしました。

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再生債権者Xが、再生債務者Yが実際には存在しない本件貸付債権を意図的に債権者一覧表に記載するなどの信義則に反する行為により本件再生計画案を可決させた疑いが存するとして、再生計画認可決定に対して即時抗告をしたのが本件です。本判決は以下のように説示して、Xの請求を認めました。
小規模個人再生において、再生債権の届出がされ(法225条により届出がされたものとみなされる場合を含む。)、一般異議申述期間又は特別異議申述期間を経過するまでに異議が述べられなかったとしても、住宅資金特別条項を定めた再生計画案の可決が信義則に反する行為に基づいてされた場合に当たるか否かの判断に当たっては、当該再生債権の存否を含め、当該再生債権の届出等に係る諸般の事情を考慮することができると解するのが相当である。
 六 これを本件についてみると、Yは、本件再生手続に係る再生手続開始の申立てに当たり、債権者一覧表に本件貸付債権を記載して提出し、本件貸付債権は再生債権の届出をしたとみなされたものである。しかしながら、本件貸付債権は、Yが本件再生手続に係る再生手続開始の申立てより16年以上前にその実弟であるAから2000万円の貸付けを受けたことにより発生したというものであり、本件仮登記が経由されたのは、別件訴訟の提起後で上記貸付けの時から14年以上を経過した平成25年12月であって、Yは、原審において本件貸付債権の裏付けとなる資料の提出を求められながら、借用証や金銭の交付を裏付ける客観的な資料を提出していないなど、本件貸付債権が実際には存在しないことをうかがわせる事情がある。そして、本件貸付債権については一般異議申述期間内に異議が述べられなかったため、Aは議決権の総額の二分の一を超える議決権を行使することができることとなり、本件再生計画案が可決されるに至っている。
 以上の事情によれば、本件においては、Yが、実際には存在しない本件貸付債権を意図的に債権者一覧表に記載するなどして本件再生計画案を可決に至らしめた疑いがあるというべきであって、Yが再生債務者として債権者に対し公平かつ誠実に再生手続を追行する義務を負う立場にあることに照らすと(法38条2項参照)、本件再生計画案の可決が信義則に反する行為に基づいてされた疑いが存するといえる。しかるに、本件再生計画案の可決が信義則に反する行為に基づいてされた場合に当たるか否かについて、本件貸付債権の存否を含めた調査は尽くされていない。」

また、不認可とはされませんでしたが、以下のような裁判例もあります。

最決R3.12.22 再生計画案に賛成することを条件とする和解が問題となった事案

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再生債務者甲の管財人Aが、債権者Bの債権者届出に対して否認したことから、AとBの間でトラブルとなり、AとBの間で、Bが再生計画案に賛成票と投じること、Aが査定申立て及び請求異議訴訟を取り下げる旨の和解が成立した。再生計画案が認可決定したのに対し、債権者Xが和解契約の締結はBに対して不正な利益を供与するものであり、再生計画案の可決は信義則に反する行為に基づいてされたものであるから、法174条2項3号に該当する事由があるとして、即時抗告をしたのが本件です。う。本決定は以下のように説示して、Xの請求を認めませんでした。
本件和解契約の締結は、Bに一方的に有利なものではなく、甲にとっても合理性があるものであったということができる。そして、以上のような本件和解契約の内容、冠心会の置かれていた客観的状況に加え、本件和解契約の締結の経緯等にも照らせば、本件和解契約が専らBの議決権行使に影響を及ぼす意図で締結されたとまではいえない。これらの事情に照らせば、本件和解契約の締結が、Bに対して不正な利益を供与するものであるとも信義則に反する行為に当たるとも断じ難いというべきであって、本件の事実関係の下において、本件再生計画の決議が不正の方法によって成立するに至ったとまではいえない。」

ウ 否決された場合

裁判所は職権で再生手続を廃止し(民事再生法191条)、廃止が確定した場合、裁判所は職権で破産手続開始決定をすることができます(民事再生法250条1項)。通常はこのルートに沿って破産手続に移行します。この場合、再生手続の廃止決定が確定するまでに1ヶ月ほどかかるため(民事再生法195条1項、2項)、裁判所により保全管理人が選任され、保全管理人が再生債務者の財産管理をすることが一般的です(民事再生法251条1項1号)。

頭数要件と議決権要件のいずれかの要件を満たしているか、債権者集会に出席した議決権者の頭数の過半数及び議決権額の過半数の同意があるときは、再生債務者(再生計画案の提出者)の申立により、集会期日の続行が可能となっています(民事再生法172条の5第1項)。否決された場合、集会期日の続行が申立てられ、再生計画案を変更したうえで続行期日において再度決議に付される場合もあります。なお、続行期日の申立は、口頭で行うことが可能となっています(民事再生規則91条、90条の3)。

3 再生計画認可決定の確定

⑴ 再生計画の確定とは

再生計画認可決定の確定とは、再生計画の効力が生じることを指します(民事再生法176条

再生計画案が可決し、裁判所の認可決定があったとしても、それだけでは再生計画の効力は生じません。通常は、認可決定の約2週間後に官報に掲載(公告)され、それから即時抗告期間2週間を経過すると再生計画は確定します(民事再生法9条)。即時抗告がされると(民事再生法175条)、抗告手続が終了するまでは確定せず、計画案の効力も生じません。
なお、認可決定確定は、職権で登記されます(民事再生法11条5項1号)。

⑵ 認可決定確定の効力

再生計画の認可決定確定により発生する効果としては以下のようなものがあります。

再生計画の定めのある再生債権計画案定めの通り減免、権利変更の効果が生じます(民事再生法179条1項)。
再生計画に定めのない再生債権原則として失権します(民事再生法178条)。
開始決定により中止していた強制執行等原則として失効します(民事再生法184条)。