このページでは、民事再生に特有のスポンサー関連手続についてまとめています。なお、法人の民事再生手続を前提として記載しています。

事業譲渡関係が主なものですが、その他に減増資も会社法の手続を一部省略して行うことが可能です。

条文は、法律名が記載されていないものはすべて民事再生法です。

1 民事再生におけるスポンサー支援に関する特例(まとめ)

民事再生手続におけるスポンサー支援に関する特例は、以下のように整理できます。

スポンサーの支援方法  契約種類裁判所の許可   民事再生法の特例
計画外事業譲渡/子会社等の譲渡事業譲渡契約許可要株主総会決議は、裁判所の代替許可により省略可43条1項)。
計画内事業譲渡/子会社等の譲渡事業譲渡契約許可要株主総会決議は、裁判所の代替許可により省略可43条1項)。
新設会社分割+株式譲渡株式譲渡契約(許可要)(※)なし(原則通り、株主総会決議、債権者保護手続などが必要)。
吸収会社分割会社分割契約(許可要)(※)なし(原則通り、株主総会決議、債権者保護手続などが必要)。
減増資出資契約許可要株主総会決議は裁判所の許可(166条2項)及び計画案で定めることで省略可能183条、183条の2等)。

(※)会社分割及び株式譲渡については、民事再生法上裁判所の許可は求められていませんが、会社分割及び株式譲渡(重要な財産の譲渡)について、裁判所の許可事項(41条)ないしは監督委員の同意事項(54条2項)と指定することが多いため括弧で入れています。

2 民事再生手続における、事業譲渡の手順等

⑴ はじめに

事業譲渡する方法は、
①再生計画案に基づき事業譲渡をする方法と、
計画案によらず42条の許可を得て計画外で譲渡をする方法
があります。
なお、43条の株主総会決議に代わる裁判所の承認は株式会社に限られ、例えば医療法人などには適用されません。株式会社以外の民事再生で事業譲渡する場合には、原則通り各決定機関の決議が必要となるので、留意が必要。

⑵ 計画外事業譲渡

計画外事業譲渡は以下の手順となります。

   時系列      要件・手続等
事業譲渡契約の締結・再生債務者の取締役会決議(会社法362条4項1号)。
・裁判所によっては、契約締結は監督委員の同意が必要とされています。
・事業譲渡の実行は裁判所の許可を停止条件とする。
42条許可の申立許可の要件1項
「事業の再生のために必要であると認める」こと

必要な手続
・債権者の意見聴取(2項
・労働組合等の意見聴取(3項
必要に応じて43条株主総会代替許可の申立許可の要件 (1項)
・再生債務者が株式会社であること
・債務超過であること
・事業継続のために必要であること。

必要な手続(2項)
株主送達→官報公告で(10条3項)代用することが多いです
債権者説明会の開催42条の許可を得て事業譲渡をする際、裁判所は債権者の意見聴取をする必要があります。裁判所の意見聴取期日では、意見を聞く場であって、説明を行う場ではないため、一般的に事業譲渡についての詳細な説明は行われません。
そこで多くの場合、再生債務者は、意見聴取期日前に、監督委員同席のもと自主的な説明会を行い、債権者の納得を得るため、事業譲渡に関する説明会を開催します。
債権者の意見聴取42条2項裁判所主催の意見聴取期日。事案によっては、郵送にて債権者に意見を聴取することもあります
裁判所の許可42条許可、43条代替許可。なお、43条許可による場合、反対株主の買取請求は行使できません(43条8項)。
42条許可に対する即時抗告はできないとされています。43条許可に対しては即時抗告が可能ですが、執行停止の効力はありません(43条6項)。

東京高決H16.6.17(再生) 計画外事業譲渡に対する即時抗告が認められた事例
裁判例の詳細を見る
生債務者Yが、民事再生手続開始決定後、Aに対する事業譲渡及び100%減資を内容とする再生計画案を提出し、再生裁判所に対し、事業譲渡につき株主総会の代替許可(43条)及び、100%減資の条項を含む再生計画案提出の許可(166条)の申立てを行った。
再生裁判所は、いずれの許可についても許可決定を行ったのに対し、Yの株主(事実上の創業者)であり元代表取締役であるXらが、即時抗告を行ったところ、以下のとおり判示し、原決定を取り消した。
債務超過について
「・・・上記1ないし3で認定した事実等を総合すると、再生債務者Yは、なるほど、帳簿上は債務超過の状態にあるものの、上記認定の再生手続に至る経緯、再生計画案の内容等を踏まえて検討すると、・・・(Xらが)再生債務者Yの経営に大株主として経営に口出しするのを排除する目的で特別損失を過剰に計上して債務超過の状態を作出し、直ちに再生手続を申し立てて、・・・安い値段で営業譲渡しようとするに至った疑いが極めて強い。・・・民事再生手続をとらなければならない緊急の債務超過の状態に至っていなかったとも考えられ、・・・。」
「事業の継続のために必要である場合」について 「民事再生法42条1項は、再生債務者の営業又は事業の全部又は重要な一部を譲渡するについて裁判所が許可をすることができるのは、当該再生債務者の事業の再生のために必要であると認める場合に限っている。その法意は、一部譲渡により残った事業の再建継続に必要な資金を得る必要がある場合、現在の経営陣に対する取引先等の信用が失われて全部譲渡し、第三者の下で営業を続ければ取引の継続が見込まれ、事業そのものの再建が可能である場合をいうものと解すべきである。そして、その許可の可否を決定するについては、譲渡が再生債権者、株主の利害と絡むことにかんがみ、譲受人の選定過程の公正さ、譲渡代金や譲渡条件の相当性なども斟酌してされるべきである。
 そして、同法43条1項の営業譲渡に関する代替許可については、裁判所は、再生債務者が債務超過で当該事業の継続のために必要である場合に限るとしている。その法意は、再生債務者が債務超過で会社財産について株主が潜在的持分権を失ったも同然で実質的に再生債権者の債権の引当てと化しており、株主の株主総会における特別決議を経なければ営業譲渡できないという共益権を保護する必要性が乏しいこと、ただ、営業の譲渡による事業の再生は、再生債務者自体の事業の消滅や著しい減少を招き、株主から再生による利益の享受の機会を決定的に奪ってしまうものである可能性が大きいから、原則として、営業譲渡をしないと、当該事業が遅かれ早かれ廃業に追い込まれるような事情がある場合や、当該営業の資産的価値が著しく減少する可能性がある場合に限り、株主総会の特別決議を経ずに裁判所の株主総会に代わる審査によって臨機応変に営業譲渡を可能ならしめるものとしたものであると解すべきである。
 ・・・一件記録によっても再生債務者Yが営業の全部をAに譲渡することなく、再生債務の一部免除及び弁済猶予等によって自ら事業を継続することが困難となったことを認めることができない。・・・したがって、本件の代替許可については、民事再生法43条1項ただし書にいう営業譲渡自体が「事業の継続のために必要である」とはいえないから、この点からも不適法といわざるを得ない。」
事業譲渡契約の履行

⑵ 計画内事業譲渡

計画内で事業譲渡をする場合も、株主総会決議について代替許可の取得は可能です(43条1項)。
なお、42条の許可については、計画内事業譲渡の場合、再生計画の認可決定により許可は不要との取り扱いとしている裁判所もあるようです。

⑶ 計画外事業譲渡後の処理について

計画外事業譲渡により、通常再生債務者は残務を処理して清算することになるのが一般的です。よって、事業譲渡により転籍する従業員が全従業員でない場合は、残った従業員につき解雇をすることが必要です。なお、年金制度の脱退により多額の一時金の支払が必要となる可能性があるので注意が必要です。

事業譲渡後、再生債務者を解散し清算する場合、清算型再生計画案となります。清算手続を行う場合、解散は通常の会社法の手続(株主総会決議)によるため、株主が多いと解散決議等に苦労することもあります。そこで、スポンサーへ事業譲渡後、裁判所の許可(166条1項)を得て発行済株式の無償取得をしたうえで、代表者又は申立代理人等を割当先とする募集株式を発行(1株)する方法により、株主を整理することが行われることもあります。

3 会社分割

会社分割は、事業譲渡と異なり42条、43条のような定めはないため、会社法の定めに従った株主保護手続、労働者保護手続などの手続を踏む必要があります。なお、会社分割について、裁判所の許可事項(41条)ないしは監督委員の同意事項(54条2項)と指定することがあり、指定された場合は裁判所の許可又は監督委員の同意が必要です。
また、事業譲渡における43条8項のような定めはないため、会社分割に反対の株主から株式買取請求を受ける可能性があります。

4 民事再生手続における、減増資の手順等

通常、再生債務者は債務超過なので、裁判所の事前の許可を取得したうえで(166条2項)、再生計画案に減資についての定めを置きます。
また、再生債務者が譲渡制限会社の場合には、やはり裁判所の許可により(166条の2第2項)、再生計画案に増資の定めを置きます。
この場合、増減資にいずれについても、会社法上の手続(株主総会決議)を経ることは不要となります(154条3、4項、183条、183条の2)。