このページでは、民民事再生手続における代表的な契約(売買、賃貸借、請負)の扱いについて、ご説明をしています。
条文は、法律名が付されていないものは民事再生法です。
なお、(双務)契約全般の規律については、以下のリンク先をご参照下さい。
1 民事再生手続における売買契約の扱いについて
再生債務者が買主であった場合と、売主であった場合に分けて説明致します。
⑴ 買主の民事再生(再生債務者が買主の場合)
再生債務者が買主の場合は以下のように整理できます。
場合分け | 権利関係 |
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双方未履行の場合 | 49条が適用されます(再生債務者は履行又は解除が選択できます) |
買主(再生債務者)のみが全部履行の場合 | 再生債務者は売主に引渡しを請求する。 |
売主(相手方)のみが全部履行の場合 | 49条は適用されず、売主は再生債権者として権利行使しうるのみです。 なお、売主が動産売買先取特権を行使してきたり、あるいは売買契約に所有権留保特約があると主張してきた場合は、事実関係を契約書等で確認したうえで、対応を検討する必要があります。 |
⑵ 売主の民事再生(再生債務者が売主の場合)
再生債務者が売主の場合は以下のように整理できます。
場合分け | 権利関係 |
---|---|
双方未履行の場合 | 49条が適用されます(再生債務者は履行又は解除が選択できます) |
売主(再生債務者)のみが全部履行の場合 | 再生債務者は買主に代金請求する。 |
買主(相手方)のみが全部履行の場合 | 買主は再生債権者となります。 もっとも、買主の全部履行により所有権が移転しているとみなされる場合には、取戻権行使の可否が問題となります。 |
2 賃貸借契約の扱いについて① 賃借人の民事再生(再生債務者が賃借人の場合)
⑴ 賃借人の民事再生(再生債務者が賃借人の場合)の権利関係
再生債務者が賃借人の場合も、49条が適用されます。なお、原則通り、賃貸人からの倒産開始原因を理由とする約定解除については、無効と解されます(最判20.12.16)。ただし、共益債権について不払がある場合、賃貸人からの債務不履行解除は可能と考えられます。
再生債務者が履行を選択した場合、賃貸人の請求権は共益債権となります(49条4項)。ただし、開始前の未払賃料は再生債権と解されます。再生債権として未払賃料がある場合、再生債務者が共益債権としての賃料を支払っていても賃貸人が債務不履行解除できるかははっきりしません。
事業譲渡に伴い賃借人が変更になる場合、賃貸人の承諾が必要となります(敷金に質権が設定されている場合は、質権者との間で別除権協定を締結することも検討が必要です)。
再生債務者が解除を選択した場合、契約は終了しますが、残債務についての処理は少々複雑です。
⑵ 再生債務者が解除した場合の賃貸人の債権の扱いについて
再生債務者が解除した場合の賃貸人の債権の扱いについては、概ね以下のように整理できます。
債権の種類 | 検討 |
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賃料 | 再生手続開始前の賃料は再生債権、開始後の債権は共益債権(119条2号)。 賃料が月払いである場合、開始決定日を含む月の賃料債権が共益債権となるという考え方もあるようです。 なお、賃貸借契約に賃料相当損害金を賃料の倍額等とする条項があっても、共益債権として認められる額はあくまでも賃料相当額であると解されます(東京高判H21.6.25)。 東京高判H21.6.25(再生→破産) 再生債務者や破産管財人に対する不動産賃貸借契約終了後の不当利得返還請求権は、賃料相当額の範囲で財団債権となるとした裁判例 |
違約金条項 | 賃貸借契約に違約金条項(賃借人から中途解約をした場合に賃借人は違約金を支払う旨の条項)が入っている場合があります。49条解除の場合に、この違約金条項が有効か否か、有効だとして共益債権か再生債権かで争いがあります。 破産に関する裁判例の結論は分かれており、また契約条項の定め方による部分もあるため、事案に応じて、和解をするのが妥当な処理だと考えられます。敷金との相殺を認めたうえで、残額があれば再生債権として権利行使ができるものとして扱うのがポピュラーな処理だと思われます。 違約金条項に関する裁判例は以下のリンク先をご参照下さい(管理人が運営する破産に関する説明をしているサイトです。 違約金条項に関する裁判例を確認する |
原状回復費用 | 賃貸借契約が再生手続開始前に終了している場合は再生債権で争いありませんが、再生手続開始後に終了した場合には、共益債権説と再生債権説が対立しています。敷金との相殺を認めたうえで、残額があれば再生債権として権利行使ができるものとして扱うのがポピュラーな処理だと思われます。 |
3 賃貸借契約の扱いについて② 賃貸人の民事再生(再生債務者が賃貸人の場合)
⑴ 賃貸人の民事再生(再生債務者が賃貸人の場合)の権利関係
再生債務者が賃貸人の場合は、以下のように整理できます。
場合分け | 権利関係 |
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賃借人が対抗要件を備えている場合 借地借家法で、建物賃貸借であれば建物の引渡し、建物所有目的の土地の賃貸借は建物登記があれば対抗要件を備えることになります。 | 49条の適用なく、再生債務者は解除できません(51条、破産法56条1項)。 再生債務者は賃借人に賃料を請求していくことになりますが、92条2項による相殺の主張がなされることも多いです。 |
上記以外の場合 | 49条が適用されるので、再生債務者は解除可能です。 |
⑵敷金返還請求権の保護について(92条2項、3項)
賃借人の敷金返還請求権は停止条件付再生債権となると解されます(東京地判H14.12.5)が、92条2項及び3項により賃料6ヶ月分までの敷金返還請求権は保護されます。
民事再生法92条2項及び3項の内容については、以下のリンク先をご参照下さい。
⑶ 賃貸不動産を再生債務者が譲渡する場合の権利関係
再生債務者が賃貸不動産を譲渡する際に、賃借人は買主に対して敷金返還請求権全額を請求できるか否か、つまり、敷金返還請求権債務全額が買主に承継されるかが問題となりなます(なお、賃貸不動産の譲渡に伴って、未払賃料充当後の敷金返還債務も当然に承継されると解されています。最判S44.7.17、民法605条の2)。以下のように整理できます。
譲渡時期による分類 | 検討 |
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再生計画認可決定確定前の譲渡 | 全額承継するという考えが有力です。 |
再生計画認可決定確定後の譲渡 | 権利変更の効力は生じているものの、敷金返還請求権が顕在化していません(=明渡し未了)。買主は権利変更の効力を賃借人に主張できると解されますが、買主が、賃借人から全額請求されトラブルになる可能性を懸念する場合もあります(参考裁判例:仙台高判H25.2.13)。 仙台高判H25.2.13(特別清算) 賃貸人の賃料債権と賃借人の建設協力金返還請求権の相殺合意がなされていた場合、賃貸人の特別清算手続開始決定後、賃借人は賃貸人の地位を承継した第三者に相殺の主張ができるとした裁判例 対応としては、①購入者選定(入札の場合)の際に、敷金返還債務の債務引受を含んでの譲渡価格(=トラブルとなる可能性を含んでの譲渡価格)の提示を受ける方法や、②賃貸不動産が譲渡された場合の敷金返還請求権の取扱いについて再生計画案で明確にしておくといった方法が考えられます。 |
4 民事再生手続における請負契約の扱いについて
⑴ 注文者が民事再生となった場合(再生債務者が注文者の場合)
再生債務者が注文者の場合の権利関係は以下のように整理されます。
場合分け | 権利関係 |
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双方未履行の場合 | 49条が適用されます。再生債務者は解除をするか、履行を選択します。 再生債務者は履行を選択する場合でも、一度解除するなどして、既履行分の仕事は再生債権であることを前提とするが一般的です。 また、請負人の商事留置権が問題となることが多いです。 |
注文者(再生債務者)が全部履行の場合 | 再生債務者は請負人に仕事の完成を請求。 |
請負人(相手方)が全部履行の場合 | 請負人は再生債権者(引渡未了であれば、留置権を行使できる可能性がある)。 |
なお、請負契約における権利関係は破産の場合とほぼ同じですので、破産における請負契約の扱いについて説明した以下のリンク先の「1 注文者が破産した場合」もご参照下さい(商事留置権のリンク先もあります)。民事再生法49条は破産法53条に対応します。また、民事再生法の「共益債権」は、破産法における「財団債権」に対応します。
⑵ 請負人が民事再生となった場合(再生債務者が請負人の場合)
再生債務者が請負人の場合は、以下のように整理されます。
場合分け | 権利関係 |
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双方未履行の場合(=未完成、代金未払) | 49条が適用されます。再生債務者は、履行又は解除を選択します。 請負人の民事再生で請負契約が解除された場合は、前受金と出来高の関係や違約金条項の適用をめぐって争われることがあります。 請負人の民事再生で請負契約が解除された場合の権利関係は破産の場合とほぼ同じですので、破産における請負契約の扱いについて説明した以下のリンク先の「2 請負人が破産した場合」もご参照下さい。民事再生法49条は破産法53条に対応します。また、民事再生法の「共益債権」は、破産法における「財団債権」に対応します。 請負人の破産の場合の請負契約の扱いについて確認する |
請負人(再生債務者)が全部履行している場合(完成済) | 再生債務者は注文者に代金請求。 |
注文者(相手方)が全部履行の場合(代金支払済) | 注文者はの債権は、再生債権者となります。 したがって、アフターサービス請求権(修補義務や営業上のアフターサービス)も含めて再生債権となると解されます(大阪地判H13.6.29)。 大阪地判H13.6.29(更生) 会社更生手続きにおいて、瑕疵修補に代わる損害賠償請求権が、更生債権にあたるとした裁判例 もっとも、債権届出時に、アフターサービス請求権額の有無及び額が不明であることも多くあります。届出がない場合、再生債権は失権しますので(178条)、失権との取り扱いが原則と考えられますが、営業上の配慮から再生計画に未確定の再生債権に関する定め(159条)として後から瑕疵が発見された場合の対応を記載するとの対応も考えられます。また、営業上の観点から、大口取引先に対するアフターサービスは一定の和解をして行うということも考えられます。 |