このページでは、民事再生手続における、敷金返還請求権の保護について(92条2項、3項)、ご説明をしています。
条文は、法律名が付されていないものは民事再生法です。
なお、民事再生手続における各種契約(売買、賃貸借、請負)の規律については、以下のリンク先をご参照下さい。
1 民事再生法92条2項、3項の定め
賃借人の敷金返還請求権は停止条件付再生債権となると解されます(東京地判H14.12.5)が、92条2項及び3項により賃料6ヶ月分までの敷金返還請求権は保護されます。
東京地判H14.12.5(更生) 敷金返還請求権が共益債権でないとした裁判例
民事再生法92条2項、3項は以下のように定めます。
民事再生法92条2項
再生債権者が再生手続開始当時再生債務者に対して負担する債務が賃料債務である場合には、再生債権者は、再生手続開始後にその弁済期が到来すべき賃料債務(前項の債権届出期間の満了後にその弁済期が到来すべきものを含む。次項において同じ。)については、再生手続開始の時における賃料の六月分に相当する額を限度として、前項の債権届出期間内に限り、再生計画の定めるところによらないで、相殺をすることができる。
民事再生法92条3項
前項に規定する場合において、再生債権者が、再生手続開始後にその弁済期が到来すべき賃料債務について、再生手続開始後その弁済期に弁済をしたときは、再生債権者が有する敷金の返還請求権は、再生手続開始の時における賃料の六月分に相当する額(同項の規定により相殺をする場合には、相殺により免れる賃料債務の額を控除した額)の範囲内におけるその弁済額を限度として、共益債権とする。
2 民事再生法92条2項、3項の適用範囲
敷金とは「賃料債務その他の賃貸借に基づいて生ずる賃借人の賃貸人に対する金銭の給付を目的とする債務を担保する目的で、賃借人が賃貸人に交付する金銭」(民法622条)です。
建設協力金など、賃貸人である再生債務者に対する貸付と判断される部分は敷金に該当しません。
なお、抵当権者が賃料に物上代位してきた場合や、賃料が再生手続前に債権譲渡されていた場合には、賃料は再生債務者に支払われませんが、このような場合でも賃借人が抵当権者や債権譲受人に賃料を払うことで、92条2項、3項の保護を受けられるかについては議論があります。
3 再生計画案における権利変更との関係について
92条3項の6か月分賃料の共益債権化の内容及び賃借人の退去の際の債務(未払賃料債務や原状回復費用債務)と、再生計画に基づく敷金の権利変更の関係は、条文上明らかでありません。
以下のようないくつかの説があります。裁判所や監督委員と相談のうえ、疑義が生じないようにどの説で処理をするか、計画案で定めべきと解されます。
設例の前提 | ・敷金/1000万円 月額賃料/100万円 ・再生計画の内容は再生債権90%免除。 ・開始決定後6ヶ月間賃借人は賃料を払ったとします。 ・計画案認可決定確定後に退去。明渡時に2ヶ月分賃料(200万円)滞納、原状回復費用120万円未払いがあったとします。 |
権利変更先行説 | 敷金1000万円-100万円×6か月分=400万円が再生債権 賃借人は400万円×10%=40万円の弁済を受けられますが、再生債務者に対して滞納賃料200万円+原状回復費用120万円=320万円の債務があるため、結局320万円-40万円=280万円を支払う必要があります。 |
当然充当先行説 | 敷金1000万円-100万円×6か月分-滞納賃料200万円-原状回復120万円=80万円が再生債権 賃借人は80万円×10%=8万円の弁済を受けられます |
充当制限説 | 敷金1000万円-100万円×6か月分-原状回復120万円=280万円が再生債権 賃借人は280万円×10%=28万円の弁済を受けられますが、再生債務者に対して滞納賃料200万円の債務があるため、結局200万円-28万円=172万円を支払う必要があります |