このページでは、民事再生手続における取戻権の扱いについて、ご説明をしています。
取戻権とは、再生債務者に属さない財産を取戻す権利をいいます。同様に再生債務者の財産と言えるかどうかが問題となる事例として信託契約についても触れています。
条文は、法律名が付されていないものは民事再生法です。
1 取戻権とは
取戻権とは、再生債務者に属さない財産を取戻す権利をいいます。
当該財産の所有者にとってみれば、当然の権利といえます。よって、取戻権者は、再生手続に拘束されることなく、返還請求が可能とされています(52条)。なお、再生債務者が取戻権を認める場合、裁判所の許可(41条1項8号参照)又は監督委員の同意が必要となる場合があります。
2 取戻権の有無が明確でない場合はどうすればいいか
取戻権として認められるか否かは、契約書や、取戻権を主張している者の主張内容などから、精査をすることになります。注意すべき類型としては、以下のようなものがあります。なお信託契約については3で説明しています。
⑴ 再生債務者が問屋の場合
再生債務者が問屋の場合、委託者に所有権が認められる場合があります(参考判例:最判S43.7.11)
最判S43.7.11(破産) 問屋の破産において、委託者は、取戻権を行使することができるとした判例
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「問屋が委託の実行として売買をした場合に、右売買によりその相手方に対して権利を取得するものは、問屋であつて委託者ではない。しかし、その権利は委託者の計算において取得されたもので、これにつき実質的利益を有する者は委託者であり、かつ、問屋は、その性質上、自己の名においてではあるが、他人のために物品の販売または買入をなすを業とするものであることにかんがみれば、問屋の債権者は問屋が委託の実行としてした売買により取得した権利についてまでも自己の債権の一般的担保として期待すべきではないといわなければならない。されば、問屋が前記権利を取得した後これを委託者に移転しない間に破産した場合においては、委託者は右権利につき取戻権を行使しうるものと解するのが相当である。」
⑵ 再生債務者が委託販売を受託している場合
再生債務者が第三者に売却した時点で売買が成立する約定がされていることがあり、この場合、第三者との売買契約が成立していないと仕入先に所有権があり、取戻権として認めるべきことがあります。
⑶ 対象物が運送中の場合
対象物が運送中で買主が受け取る前に買主に再生手続開始決定があった場合、売主は取戻権を行使できます(52条2項、破産法63条1項)。物品買入れの委託を請けた問屋が委託者に発送した後に、報酬及び費用を払っていない委託者に再生手続開始決定があった場合も同様です(52条2項、破産法63条3項)。
⑷ その他
やや特殊な事例として以下のような裁判例があります。
デリバティブ取引の担保に関する裁判例(担保を受け入れていた証券会社の民事再生事案)
デリバティブ取引における担保の趣旨で銀行が証券会社に国債を提供していたところ、担保を受け入れていた証券会社が民事再生手続開始決定を受けたためデリバティブ取引が終了し、銀行が証券会社に担保余剰部分につき取戻権等を主張して支払いを求めて提訴したケースで、当該担保差し入れ契約が、質権設定形式でなく、消費貸借形式であったため、担保の取り戻しでなく単なる再生債権とした裁判例があります(東京高判H22.10.27)。
東京高判H22.10.27(再生) 消費貸借契約形式によるCSA契約について、権利者は所有権に基づき取り戻しはできないとした裁判例
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X(銀行)は、Y(証券会社、再生債務者)との間で通貨オプション取引を中心としたデリバティブ取引を行い、それに付随する契約としてクレジット・サポート・アネックス契約(CSA契約。以下「本件CSA契約」という。)を締結し、同契約に基づいて国債を差し入れていました。
本件CSA契約には、概要、以下の内容が含まれていましたた
・契約形式について(第2条)CSA契約における契約形式には後記(ア)の消費貸借形式と(イ)の質権形式が存在するところ、質権形式ではなく消費貸借形式を採用し、義務者(注:Xを指す)は、権利者(注:Yを指す)に対し、被担保債務(デリバティブ取引によって発生した債務。以下同じ。)を担保するために貸付担保物を貸し付ける。権利者は、本件ISDAマスター契約の期限前終了日に、義務者に対して、先取特権、質権、抵当権及び留置権その他の担保権の負担のない保有貸付担保物を返還するものとする。ただし、当該保有貸付担保物が証券の場合、権利者はその選択により、同価値の現金を返還することができる。
・担保物の保管及び利用について(第6条)
権利者は、本件CSA契約の条項に従い、保有貸付担保物の返還を請求されるまで、保有貸付担保物の所有権及びそれに付随する一切の権利を有する。
・義務者の権利及び救済手段(第8条(b))
権利者に期限の利益喪失事由が発生してデリバティブ取引に期限前終了日が発生するなどした場合、権利者は、義務者に対して直ちに一切の保有貸付担保物及び利息金額を引き渡す義務を負う。ただし、保有貸付担保物が有価証券である場合、義務者は、権利者に対し、当該保有貸付担保物と同価値の現金の返還を請求することを選択することもできる。この場合、義務者は、権利者から保有貸付担保物又は利息金額が引き渡されない場合、義務者は、義務者が権利者に対して支払うべき被担保債務を、保有貸付担保物と相殺することができ、また、上記相殺に関して必要な場合には、当該保有貸付担保物をその他の通貨に転換することができる。
Yの米国親会社につきチャプター11(日本の民事再生法に該当する手続き)が適用申請され、XY間の上記取引が期限前終了し、その後、Yについても民事再生手続開始決定がされました。
そこで、Xが差し入れていた国債について民事再生法上の取戻権が認められることを前提として、XがYに対して、償還された国債の償還金等について取戻権を有するか、又は償還金等相当額の返還請求権が共益債権に該当すると主張して、償還金等相当額及び遅延損害金の支払を求めて提訴したのが本件です。
第1審はXの請求の棄却したためXが控訴したが、本判決は、以下のとおり契約文言を解釈したうえで、取戻権を認めなかった第1審を是認した(控訴審が第1審を引用しているため、以下の判旨は第1審)。 「取戻権は、対象となる目的物が再生債務者の財産に属さないことを主張する権利であり、第三者が再生手続開始前から再生債務者に対して当該財産を自己に引き渡すことを求める権利を有しており、かつ、その権利を再生債務者に対して対抗することができる場合に、これが肯定される。
・・・本件CSA契約上、権利者である再生債務者Yは、Xから保有貸付担保物の返還を請求されるまで、保有貸付担保物の所有権を有するとされ(第6条(a))、また、期限前終了日が発生した場合において、権利者である再生債務者Yが義務者であるXに対し、一切の保有担保を引き渡す義務を負うとされているところ(第8条(b)(ⅲ))、・・・、本件CSA契約上、再生債務者Yが返還義務を負うのは、本件国債のみに限られず、本件国債と同一の発行体、種類、発行回期、満期、利率及び元本金額の国債を含むということができる。
・・・確かに、本件CSA契約は本件国債といった有価証券等を差し入れることによってデリバティブ取引から生じる取引相手方の信用リスクを軽減するというデリバティブ取引の有担保化を目的とするものであって、本件CSA契約に基づく本件国債の差入れが経済的に担保としての意味を有するものであると考えられているというべきであり、この点については当事者間に争いのないところでもある。
しかし、消費貸借形式によるCSA契約は、義務者が国債等の有価証券を権利者に貸し渡すことで当該有価証券の所有権が権利者に移転し、権利者がこれを他に担保等として利用・処分することを可能とする一方・・・、デリバティブ取引が終了した場合に、権利者において、当該有価証券又はこれと同種同等同量の有価証券の返還債務を金銭債務に転化させた上で上記取引により発生したエクスポージャー(一方当事者が相手方当事者に支払うべき金額)と相殺することにより、相殺の担保的機能を利用してエクスポージャーを優先的に回収することを可能とするものである(本件CSA契約第8条(a)(ⅲ)。)。本件CSA契約においても消費貸借形式が採用され、それに基づき本件国債が貸し渡されたことにより本件国債の所有権は再生債務者Yに移転し、前記(1)のとおり、再生債務者Yは、本件国債又はこれと同種の国債の返還義務を負うにすぎないのであるから、上記のとおり、本件CSA契約が相殺の担保的機能によりデリバティブ取引の有担保化を図るものであるとしても、それはあくまでも経済的意味でのものにすぎず、譲渡担保と同視できる法的な意味での担保権の設定であるとまではいい難い。・・・また、本件国債の所有権がXに復帰すべきものとされていたとすれば、Xが本件余剰部分の取戻権を行使できることにはなるけれども、その場合には、本件CSA契約において消費貸借形式を採ることによって、権利者である再生債務者Yがこれを更に自己の所有物として自由に利用・処分することを可能とすることと矛盾する。
・・・以上からすれば、消費貸借形式の本件CSA契約は譲渡担保に類似するものであるとは認められず、譲渡担保の場合に被担保債務を弁済すればそれにより復帰した所有権に基づいて譲渡担保設定者に取戻権が認められるのと同様に、本件CSA契約に基づく本件国債についても再生債務者Yが最終残額債権を本件国債により優先的に回収した段階で、Xは本件余剰部分につき所有権を有するというXの主張は採用することができない。
・・・そして、Xが再生債務者Yに対して有していた本件国債又はこれと同一の発行体、種類、発行回期、満期、利率及び元本金額の証券の返還請求権は、デリバティブ取引の期限前終了によって生じた再生債務者Yに対する債務との相殺に伴い、金銭債権に転化したといわざるを得ず、本件償還金、本件清算金及び本件利金相当額の返還請求権が発生した旨のXの主張も、結局は、上記相殺に伴って生ずる債権を把握しようとするものであって、上記返還請求権の実質は上記転化後の金銭債権の評価に包摂されるものであるから、上記返還請求権及びこれらに関する遅延損害金の請求権は再生手続開始前の原因に基づいて生じた財産上の請求権として再生債権であるにすぎず、取戻権又は共益債権に当たるものと解する余地はないというべきである。」
保険代理店が顧客から受領した保険料を入れていた預金の帰属に関する判例(保険代理店の破産事案)
保険代理店が保険料として顧客から預かった資金を信用金庫(保険代理店の債権者でもあります)に預けた状態で保険代理人が破産した事案で、当該信用金庫(保険代理店の債権者)と保険会社が当該預金の帰属を争った事案では、預金は保険代理店に帰属する(=信用金庫は自己の破産した保険代理店に対する債権と相殺可能)としました(最判H15.2.21)。
最二小判H15.2.21 保険代理店の債権者(信用金庫)と保険会社が預金の帰属を争った事案で、預金は保険代理店に帰属するとした判例
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損害保険会社Xと甲社は損害保険代理店委託契約を締結していたが、その中で甲社は、保険料として収受した金銭をY信用組合の「X代理店甲」名義の普通預金口座本件預金口座に入金して管理する旨の約定がありました。甲社が2度目の不渡り手形と出すことが確実になった時点で、当該預金口座には、甲社がXのために収受した保険料及びこれに対する預金利息の合計342万2903円が預け入れられていたため、甲社はXの支社長に当該預金口座の通帳及び届出印を交付しました。そこで、Xは、Yに対し、本件預金債権はXに帰属するとして、本件預金全額の払戻しを請求して提訴したところ、第1審、控訴審ともXの請求を認容したためYが上告したところ、本判決は以下のとおり述べ、Xの請求を棄却する旨の破棄自判をしました。
「前記事実関係によれば、金融機関であるYとの間で普通預金契約を締結して本件預金口座を開設したのは、甲社である。また、本件預金口座の名義である『X代理店甲』が預金者として甲社ではなくXを表示しているものとは認められないし、Xが甲社にYとの間での普通預金契約締結の代理権を授与していた事情は、記録上全くうかがわれない。
そして、本件預金口座の通帳及び届出印は、甲社が保管しており、本件預金口座への入金及び本件預金口座からの払戻し事務を行っていたのは、甲社のみであるから、本件預金口座の管理者は、名実ともに甲社であるというべきである。
さらに、受任者が委任契約によって委任者から代理権を授与されている場合、受任者が受け取った物の所有権は当然に委任者に移転するが、金銭については、占有と所有とが結合しているため、金銭の所有権は常に金銭の受領者(占有者)である受任者に帰属し、受任者は同額の金銭を委任者に支払うべき義務を負うことになるにすぎない。そうすると、Xの代理人である甲社が保険契約者から収受した保険料の所有権はいったん甲社に帰属し、甲社は、同額の金銭をXに送金する義務を負担することになるのであって、Xは、甲社がYから払戻しを受けた金銭の送金を受けることによって、初めて保険料に相当する金銭の所有権を取得するに至るというべきである。したがって、本件預金の原資は、甲社が所有していた金銭にほかならない。
したがって、本件事実関係の下においては、本件預金債権は、Xにではなく、甲社に帰属するというべきである。」
3 財産の帰属について信託契約が認定される場合があります
財産の帰属が問題となるケースとして、信託契約が認定される場合があります。
破産のケースで、預金について破産財団に属さないとされた事例として以下のようなものがあり、民事再生の場合も同様に、当該金員が、再生債務者の財産から分離・独立しているとして扱われる可能性が高いので、注意が必要です。
事案の概要 | 裁判例の結論 |
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請負工事業者の破産における、保証を得たうえで受領した前払金 | 発注者を委託者兼受益者と、破産者(工事請負業者)を受託者とした信託契約が成立しているとして、破産財団に属さない財産と認定されました(最判H14.1.17、参考裁判例 名古屋高金沢支判H21.7.22)。
最判14.1.17(破産) 信託契約が成立しているとして、破産財団に属さないとされた事例裁判例の詳細を見る ある県から工事を請け負った建設会社甲社が、保証事業法(公共工事の前払金保証事業に関する法律)に基づき登録を受けた保証事業会社(Y1)に前払金の保証を受けて、同県からY2信用金庫の甲社名義の口座に前払を受けた(前払金は分別管理されていた)後、甲社の営業停止により、Y1は県に対して保証に基づき前払金を支払いました。その後、甲社に破産手続開始決定がなされ、Xが破産管財人に選任され、XはY2に対して甲社名義の口座にある前払金相当額の払い戻しを求めたところ、Y2がY1の承諾なく払戻しができないとして拒否したため、Xが、Y2に預金債権の払戻し等を、Y1に対して担保権が存在しないことの確認等を求めて訴えを提起しました。 第1審とも、控訴審とも、Xの請求を棄却したため、Xが上告したところ、本判決は、県を委託者兼受益者、破産者を受託者とした信託契約が成立したとして、同前払金は破産財団を構成しないとしてXの上告を棄却しました。
名古屋高金沢支判H21.7.22(破産) 保証会社の保証により地方公共団体から支払を受けた前払金を、取引金融機関に預金していた請負業者につき破産手続開始がされた事案で、地方公共団体と破産者との間で信託契約が成立していることを前提に、破産財団に属した時期が破産手続開始後とされ、取引金融機関の相殺が認められないとされた事例裁判例の詳細を見る A市から工事を請け負った建設会社甲社(破産者)が、保証事業会社B社により前払金の保証を受けて、A市からY信用金庫の甲社名義の口座に前払を受けました(前払金は分別管理されていた)。 その後、甲社に破産手続開始決定がなされXが破産管財人に選任されました。かかる事態を受け、A市は甲社との間の請負契約を解除し、かつ出来高査定をしたところ、出来高が前払金を超えていること確認できたことから、工事目的物がA市に引き渡されるとともに、保証会社B社は払出制限を解除しました。そこで、信用金庫YがXに対して、払出制限を解除された預金につき相殺の意思表示をしたため、XがYに対して当該預金の支払を求めて提訴したのが本件です。 第1審は、Xの請求を認容したため、Yが控訴したが、本判決は以下のように判示して控訴を棄却しました。 前払金の法的性質等 「地方公共団体が発注する公共工事では、保証事業法に基づき保証事業会社による前払金保証がされた場合、請負者に対し、当該工事に要する経費を前払金として支払うことができるが(地方自治法232条の5第2項、同法施行令附則7条)、このような前払金の支払の制度は、請負者の工事資金の調達を確保することで、公共工事の完遂に支障を来さないようにするとともに、前払金の支払を受けた請負者が請負債務を履行しないために請負契約が解除された場合に、発注者である地方公共団体が確実に前払金の返還を受けられるようにする必要があることから設けられたものである。 そして、本件請負契約を規律するA市工事請負契約約款は、工事の材料費等に相当する額として必要な経費以外の支払に前払金を充当してはならないことを定め・・・、保証事業法は、保証事業会社が保証契約の締結を条件として発注者が請負者に前払金を支払った場合に、請負者が前払金を適正に当該公共工事に使用しているかどうかにつき厳正な監査を行うことを義務付けている(27条)。さらに、本件保証約款は、前払金を別口普通預金として預け入れるべきこと、前払金の払戻しの方法、本件保証事業会社による使途についての監査、使途が適正でないときの払戻し中止の措置等について規定している・・・。 これらの規定に照らすと、本件前払金がA市から破産者甲社の本件預金口座に振り込まれた時点で、A市と破産者甲社との間で、A市を委託者兼受益者、破産者甲社を受託者、本件前払金を信託財産とし、本件工事の必要経費の支払に充てることを目的とした信託契約(以下「本件信託契約」という。)が成立したものと解される(最高裁判所平成14年1月17日第一小法廷判決・民集56巻1号20頁参照)。 したがって、本件前払金が本件預金口座に振り込まれただけでは本件請負契約の請負代金の支払があったとはいえず、破産者甲社に払い出されることによって、当該金員は請負代金の支払として破産者甲社の固有財産に帰属することになる。また、信託財産に属する本件預金は、受託者が破産手続開始決定を受けた場合であっても、破産財団に属しない(信託法25条)。」 本件預金の破産財団への帰属時期 「・・・一般に、信託が終了すると清算が行われるが(同法一七五条以下)、信託は、当該信託が終了した場合においても清算が結了するまでは存続するものとみなされる(同法176条)。しかし、残余財産がその帰属すべき者に対して移転する時期については、信託が終了し、かつ、残余財産の帰属すべき者に対して帰属すべき残余財産が特定されれば、その時点で即時に、残余財産の帰属すべき者に対して権利移転が生じるものと解するのが相当である。本件における前記の経過からすれば、少なくとも本件相殺前までには、本件預金は破産財団に帰属しているものということができるところ、その帰属時期、すなわち、信託が終了し、かつ、残余財産が特定された時期が、破産手続開始決定の後である場合には、破産法71条1項1号により、破産債権との相殺が禁じられることになる。 ・・・上記の出来高確認よりも前の時点では、本件信託契約の目的を達成し又は目的を達成することができなくなったとして信託が終了した上、破産財団(管財人X)に帰属すべき残余財産が特定したものと解することはできず、未だ残余財産として破産財団には移転していないというべきである。・・・出来高確認より前の同年三月一四日の破産手続開始決定の時点では、未だ本件預金は破産財団に帰属していないものというべきであり、本件預金の払戻請求権の債務者であるY信用金庫は、破産手続開始後に、破産財団に対して本件預金に係る債務を負担したものであるから、破産債権である本件貸金債権との本件相殺は、破産法七一条一項一号の相殺禁止条項に該当し、これを行うことができない。」 |
マンション管理業者の破産における管理費等 | マンション管理業者が破産した場合、管理業者が各区分所有者からの管理費等は各マンションの区分所有者全員に総有的ないし合有的に帰属する(=破産財団を構成しない)としました(東京高判H11.8.31、]同一の破産事件にかかる東京高判H12.12.14も同旨)。
東京高判H11.8.31(破産) マンション管理業者が破産した場合、破産者が各区分所有者から預かっていた管理費等が破産財団を構成しないとした裁判例裁判例の詳細を見る 甲社(破産者)はマンションの管理業務を行っていたが、自らが管理する各マンションの区分所有者らから管理費及び修繕積立金を徴収して、Y銀行に甲社名義若しくは「甲社〇〇マンション口」等の名義で普通預金及び定期預金を行っていた。 甲社の破産管財人Xが、Yに対して当該預金の支払い請求を求めたのに対し、各マンションの管理組合Zら(管理組合が設立されていないマンションや、破産手続開始決定後に設立た管理組合もある)が参加し、当該預金の帰属が問題となった。本判決は、以下のように判示し、参加人Zの請求を認容した。 「預金者の認定については、自らの出捐によって、自己の預金とする意思で、銀行に対して、自ら又は使者・代理人を通じて預金契約をした者が、預入行為者が出捐者から交付を受けた金銭を横領し自己の預金とする意図で預金をしたなどの特段の事情がない限り、当該預金の預金者であると解するのが相当である。 本件各定期預金の原資である管理費等は、もとより甲社固有の資産ではなく、管理規約及び管理委託契約に基づいて区分所有者から徴収し、保管しているものであって、甲社が受領すべき管理報酬も含まれてはいるが、大部分は各マンションの保守管理、修繕等の費用に充てられるべき金銭である。区分所有法によれば、区分所有者は、全員で、建物並びにその敷地及び附属施設の管理を行うための団体(以下「管理組合」という。)を構成するものとされ(三条)、各共有者は、その持分に応じて、共用部分の負担に任ずるとされている(一九条)。すなわち、区分所有建物並びにその敷地及び附属施設の管理は、管理者が行うのであって、その管理の費用は区分所有者が負担すべきものである。したがって、区分所有者から徴収した管理の費用は、管理を行うべき管理組合に帰属するものである。管理組合法人が設立される以前の管理組合は、権利能力なき社団又は組合の性質を有するから、正確には総有的又は合有的に区分所有者全員に帰属することになる。したがって、本件各定期預金の出捐者は、それぞれのマンションの区分所有者全員であるというべきである。・・・区分所有者と甲社との関係(甲社は、管理委託契約に基づく受託者であると同時に、区分所有法第四節に定める管理者であり、区分所有者を代理する立場にある。)と、右に見たとおり区分所有者に預入の意思があると認められることを併せ考えると、甲社は区分所有者の使者として本件各定期預金をしたものと見るのが相当である。 ・・・以上のとおり、本件各定期預金の預金者は、各マンションの区分所有者の団体である管理組合であり、区分所有者全員に総有的ないし合有的に帰属すると認めることができる。 そして、管理組合法人と管理組合とは、法人格を取得する前後において、団体としての同一性が維持されるから(区分所有法四七条五項参照)、参加人らのうち管理組合法人が設立されている参加人は、本件各定期預金の預金者となる。 管理組合法人が設立されていない参加人は、権利能力なき社団であると認められるから、本件各定期預金について、その名において訴訟の追行ができる。」 |