このページでは、民事再生手続における担保権(別除権)の扱いにつき、ご説明をしています

民事再生法(及び破産法)においては、担保権を別除権と呼びます。以下でも別除権という言い方をすることもあります。厳密には、別除権とは、再生債務者に帰属する特定の財産の上に存する担保権と定義されています(53条1項)。
別除権は、再生手続に制約を受けずに権利行使をすることができます(53条2項)。これが基本です。

このページでは、法律名が明記されていなければ、条文は民事再生法です。

1 再生手続における別除権(担保権)の基本

⑴ 別除権(者)とは?

別除権とは、再生債務者に帰属する特定の財産の上に存する担保権をいいます(53条1項)。

したがって、再生債務者が自己の債務を被担保債権として自己の財産を担保提供する場合はもちろん、再生債務者が第三者の債務を被担保債権として担保を提供する場合(=再生債務者が物上保証)も、別除権者として扱われます。
再生債務者が、担保権が付いた状態で担保対象物を売却等した場合であっても、担保権が存続している限り、別除権者として扱われます(53条3項)。

一方で、第三者が再生債権を被担保債権として担保を提供(第三者が物上保証)しても、別除権者にはなりません。なお、民事再生手続開始前に会社分割で被担保債権と担保対象物が別の会社に帰属した場合も、被担保債権は別除権付債権とは扱われないと解されます(東京地判H18.1.30)。

東京地判H18.1.30(再生) 会社分割で被担保債権と担保対象物が別の会社に帰属した場合、被担保債権は別除権付債権とは扱われないとされた事例

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甲社はYに対する債務を担保するために、甲名義のYに存する定期預金に質権を設定していましたが、甲の会社分割により、Yに対する債務は分割会社Xに、定期預金は新設会社乙に帰属することとなりました。
その後、Xが民事再生手続開始決定を受けたため、Yは、債権全額につき再生債権として届け出たところ、Xが全額異議を述べたため、Yが再生債権査定申立てをし、再生裁判所がYの主張を認める査定決定をしたことに対し、Xが異議の訴えを提起した。
本判決は、「民事再生法53条1項によれは、別除権者となる担保権の対象財産は『再生手続開始の時』の再生債務者の財産に限定されるから、再生債権者が再生手続開始前の時点で再生債務者の財産について担保権を有していたとしても、その後当該財産が再生債務者から他の者へ移転したことにより、再生手続開始時点において再生債務者の財産について担保権を有していない状況となった場合には、当該再生債権者の有する担保権は、当該再生債務者の再生手続においては別除権として扱われることはないと解される。」としたうえで、再生手続開始時にXの資産でない以上、Yは別除権者ではないとして、査定決定を認可をしました。

⑵ 別除権者として認められる担保の範囲 

明文で別除権として認めらているものとして、特別の先取特権、質権、抵当権、商法若しくは会社法の規定よる留置権(53条1項)があります。さらに、非典型担保(譲渡担保や所有権留保など)も、別除権としての権利が認められるとするのが通説的見解で、実務上の扱いです。

一応で、民法上の留置権は別除権となりません。ただし、破産法66条3項((民法上の留置権は)、破産財団に対してはその効力を失う。)と同様の規定は民事再生法にはないため、民事再生手続においては、留置的効力が残ると解されています。

2 別除権者の権利行使方法及び計画案に対する議決権の扱いについて

⑴ 権利行使方法

別除権は、再生手続に制約を受けずに権利行使をすることができます(53条2項)。

担保権を再生債務者に対抗するには、原則として自己名義で対抗要件を備えていることが必要と解されています(45条東京地判H22.9.8、最二小判H22.6.4など)。

最判H22.6.4(再生) 自己名義の登録がないことを理由に車両に対する所有権留保の主張が認められなかった事例

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Y(再生債務者)は、自動車販売会社A社からの自動車購入時に、信販会社Xから金融を受けるため、XYA間で概要、①信販会社Xが販売会社Aに残代金を支払い、Yは信販会社Xに残代金に手数料を加算した金額を分割で支払う、②自動車の所有権をYが立替金を全額支払うまで信販会社Xに留保する(登録名義をAとする場合を含む)、③Yが期限の利益を失ったら、Xに自動車を引き渡し、Xは自動車の評価額を弁済に充当できるという合意をしたうえで、自動車は所有名義を販売会社A、使用者Yとして登録され、XはAに残代金を支払いました。その後、Yにつき民事再生手続開始決定がなされたため、XはYに対し、別除権の行使として自動車の引渡しを求めて訴えを提起し、第1審はXの請求を棄却、第2審はXの請求を認容したため、Yが上告したところ、本判決は以下のように判示し、原判決を破棄しました。
本件三者契約は、販売会社Aにおいて留保していた所有権が代位により信販会社Xに移転することを確認したものではなく、信販会社Xが、本件立替金等債権を担保するために、販売会社Aから本件自動車の所有権の移転を受け、これを留保することを合意したものと解するのが相当であり、信販会社Xが別除権として行使し得るのは、本件立替金等債権を担保するために留保された上記所有権であると解すべきである。すなわち、信販会社Xは、本件三者契約により、再生債務者Yに対して本件残代金相当額にとどまらず手数料額をも含む本件立替金等債権を取得するところ、同契約においては、本件立替金等債務が完済されるまで本件自動車の所有権が信販会社Xに留保されることや、再生債務者Yが本件立替金等債務につき期限の利益を失い、本件自動車を信販会社Xに引き渡したときは、信販会社Xは、その評価額をもって、本件立替金等債務に充当することが合意されているのであって、信販会社Xが販売会社Aから移転を受けて留保する所有権が、本件立替金等債権を担保するためのものであることは明らかである。立替払の結果、販売会社Aが留保していた所有権が代位により信販会社Xに移転するというのみでは、本件残代金相当額の限度で債権が担保されるにすぎないことになり、本件三者契約における当事者の合理的意思に反するものといわざるを得ない。
 そして、再生手続が開始した場合において再生債務者の財産について特定の担保権を有する者の別除権の行使が認められるためには、個別の権利行使が禁止される一般債権者と再生手続によらないで別除権を行使することができる債権者との衡平を図るなどの趣旨から、原則として再生手続開始の時点で当該特定の担保権につき登記、登録等を具備している必要があるのであって(民事再生法45条参照)、本件自動車につき、再生手続開始の時点で信販会社Xを所有者とする登録がされていない限り、販売会社Aを所有者とする登録がされていても、信販会社Xが、本件立替金等債権を担保するために本件三者契約に基づき留保した所有権を別除権として行使することは許されない。

東京地判H22.9.8(再生) 所有権留保売買の買主が民事再生手続開始決定を受けた場合、売主に当該動産の引渡請求等が認めれられなかった裁判例

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XはYら(再生債務者)に対して、継続的に家庭用品等の動産を販売していたが、基本契約において、買主は代金支払の有無にかかわらず商品を転売できるとしながらも、売主に所有権を留保する旨の特約が付されていました。Yらにつき民事再生手続開始決定がなされたため、Xが基本契約の特約を根拠に、Yらに対し所有権に基づく商品の引渡しを求めて提訴したのが本件です。
本判決は、以下のように判示して請求を棄却しました。 「Xが本件商品について有する権利は、所有権ではなく、担保権の実質を有するものであるから、同権利は、Yらについて開始された再生手続との関係において、別除権(民事再生法53条)として扱われるべきであると解されるところ、再生手続が開始した場合において再生債務者の財産について特定の担保権を有する者が別除権を行使するためには、個別の権利行使が禁止される一般債権者と再生手続によらないで別除権を行使することができる債権者の衡平を図るなどの趣旨から、原則として再生手続開始の時点で当該特定の担保権につき登記、登録等の対抗要件を具備している必要があると解される(民事再生法45条参照)。したがって、Xが本件商品について有する権利(この権利を、以下『留保所有権』という。)についても、再生債務者であるYらに対してこれを主張するためには、対抗要件の具備を要すると解される。・・・本件商品は動産であるから、本件商品についてのXの留保所有権の対抗要件は、引渡しであると解される(民法178条)ところ、本件商品は、すべてYに引き渡されているから、Xが対抗要件を具備していたと認めることはできない。なお、本件商品については、Xは、占有改定の方法によって占有を取得し、対抗要件を具備する余地もあると考えられるが、本件基本契約においては、Yが、Xから納品を受けた本件商品を、代金支払の有無に関わらず・・・転売し引き渡すことが予定され、Xもこれを許容していたことや、Yらの下にある在庫商品について、Xから仕入れた本件商品が、他の仕入先から仕入れた商品と分別して保管されておらず、他の仕入先から仕入れた商品と判別することができない状況であったこと・・・)などからすれば、本件商品の売却に際し、占有改定がされたと認めることはできない。
 また、前記のとおり、Xは、Yらについて民事再生手続が開始される直前である平成21年11月26日、Yに対し、売却した商品の引渡しを要求したのであるが・・・、Yらはこれを拒絶しており、Yらの下にある在庫商品について、Xから仕入れた本件商品は、他の仕入先から仕入れた商品と判別できない状況にあったのであるから、Xが商品の引渡しを要求したことによって本件商品の占有を取得したということはできず、Xが本件商品について対抗要件を具備したと認めることはできない。・・・以上によれば、Xは、Yらに対し、本件商品の所有権に基づいてその引渡しを請求することはできず、また、本件商品についての留保所有権を、別除権としてYらに対して主張し、その実行として引渡しを請求することもできない。」

なお、仮登記により「対抗要件を備えている」と言えるかについては議論があります。以下のように整理されます。

  種類   仮登記の内容対抗要件として認められるか
1号仮登記登記申請に必要な条件が具備しないための仮登記破産管財人に対抗できると解されています。
したがって、再生債務者にも対抗できると解されます。
2号仮登記権利の設定、移転、変更又は消滅の請求権の保全のための仮登記破産管財人に対抗できると解されています(ただし、反対説があります)。したがって、再生債務者にも対抗できると解されます(ただし、反対説もありえるところです)。

⑵ 別除権者の債権届出方法(別除権不足額の届出)

別除権者は、債権届出の際に、別除権の目的である財産及び別除権の行使によって弁済を受けることができないと見込まれる債権の額を届け出なければなりません(94条2項)。

動産売買先取特権のケースで、別除権者が債権届出において94条2項の届出をしなかった場合でも、別除権を放棄したと認められる特段の事情のない限り、別除権を放棄したとは認められないとした裁判例があります(東京高決H14.3.15)。

東京高決H14.3.15(再生) 動産売買先取特権について、民事再生法94条2項の届出(別除権不足額等の届出)がないとしても権利行使が認められるとした事案

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再生債務者Xの民事再生手続において、債権者Yは再生債権を届け出たが、その際に、別除権の届出をしませんでした。その後、Yは、動産売買先取特権に基づく物上代位により、XのAに対する転売代金債権に対する債権差押命令を取得しました。これに対してXは、執行抗告を申立て、Yが債権届出の際に、別除権の届出をしなかったことにより、Yが別除権を放棄したとして争ったところ、本決定は以下のように判示しました(ただし、結論としては、弁済により被保全権利が消滅しているとしてXの主張を認めています)。
「民事再生法によれば、民事再生手続において別除権者は、別除権の行使によって弁済を受けることができない部分についてのみ再生債権者として手続に参加し(88条)、再生債権の届出においては、別除権の目的及び別除権の行使によって弁済を受けることができないと見込まれる債権の額を届け出なければならない(九四条二項)とされている。したがって、相手方のした前記の債権届出が別除権(先取特権)者の届出としては、これらの規定に沿うものでないことは否定できない。
 しかし、先取特権については種々の発生原因が存する(民法306条ないし328条)が、これを本件で問題となっている動産売買に基づく先取特権(同法322条)についてみるならば、同先取特権者にとって再生債務者の財産中に先取特権行使の対象となる財産が存するか否かを覚知することが必ずしも容易でない場合があることは容易に推認される。したがって、民事再生手続の開始が決定された後、再生債権届出期間内(本件では一月弱)にこの点を過不足なく調査し、上記の規定に沿って的確な届出を期待することは実際問題としては相当困難である。そして、別除権(先取特権)としての届出がされなければ当該権利の行使ができなくなると解するとすれば、失権をおそれて一定の可能性があればその旨の届出をすることになろうが、結果として先取特権の行使が功を奏しない場合には時機を失して一般再生債権としての弁済も受けられない可能性が大きい。そうすると、上記のような解釈は債権届出に際して先取特権行使の可能性がある者に二者択一の厳しい選択を迫るもので、民事再生手続における債権者側に不合理な負担を過重に課するものといわなければならない。
 「これらのことからすれば、民事再生手続において、動産売買に基づく先取特権者が民事再生法94条2項に規定する届出をせず、一般再生債権としての届出をしたとしても、それが同先取特権行使の対象となる財産があることを知りながら、あえて一般再生債権としての届出をし先取特権を放棄したものと認めるべき特段の事情でもない限りは、その一事をもって別除権としての権利行使が制限されるとまで解することは相当でない。このように解することは、その後の再生計画等に一定の変更を余儀なくさせ、債務者の再生に支障を生じさせるおそれのあることは否定できないが、上記民事再生法94条2項の届出にそれがない場合に失権効を生じさせるような大きな意味を持たせることが同条の趣旨であるとは解し難い。・・・本件では相手方に上記特段の事情があると認めるべき資料もない・・・」

⑶ 別除権者の議決権確定までの流れについて

別除権者の議決権は、以下の流れで確定します。

 時系列    内  容条文
再生債権者の届出再生債権者は別除権予定不足額の届けをします。94条2項
再生債務者の認否再生債務者は予定不足額に対する認否を行い、認否の結果に基づいて予定不足額が再生債権表に記載されます。
なお、再生債務者が債権者が届けてきた予定不足額より多くの議決権額を認められるかについては争いがあります。
101条、99条2項
議決権の決定予定不足額は議決権額に対する異議の対象となり、異議がなければ確定し、異議があれば議決権額は裁判所が決定します。この決定は争うことはできません。この決定は、あくまでも債権者集会での議決権を確定するだけであり、別除権不足額が確定するわけではありません。

債権者集会の期日までに別除権協定が締結されたり、別除権が行使されることで、別除権不足額が確定した場合には、議決権は確定不足額に変更されます(裁判所によっては、異なる運用をしている可能性もあります)。
170条1項、2項3号、171項1項

⑷ 別除権者に対する再生債権の弁済

議決権額の決定は、あくまでも債権者集会での議決権を確定するだけですので、別除権不足額が確定するわけではありません。別除権不足額は、担保権の実行が完了するか、担保権が消滅した場合(放棄した場合を含む)か、別除権協定により不足額を合意した場合に確定します。なお、再生債務者が抵当権付で不動産を売却したような場合には、担保権の実行が完了したとは言えないので、不足額は確定しません(53条3項)。

別除権者は、不足額が確定した後確定不足額について再生計画の定めに従った権利の変更を受け、弁済を受けることができます182条。ただし根抵当権には例外があります:182条ただし書)。

3 再生債務者の別除権者に対する対応について

再生債務者の別除権者に対する対応は、概要以下のとおりとなります。

⑴ 担保権の内容や設定経過の確認

別除権者として認められるためには、有効に成立し、かつ、1で述べたように担保権者名義での対抗要件が備えられていることが必要です45条東京地判H22.9.8、最二小判H22.6.4など)。まず、再生債務者としては、その点を確認する必要があります。

次に、担保設定時期ないし、その対抗要件設定時期によっては、否認の対象となりうるので、否認権行使の可否及び要否を検討する必要があります。否認権については、以下のリンク先の「4 否認該当行為に関する説明② 偏頗弁済行為」をご参照下さい。

上記検討の結果、担保権(別除権)として認められる場合の対応としては、以下のように整理されます。

担保対象物の区分再生債務者の対応
担保設定対象物が事業の再建に必要な場合別除権協定、担保権実行手続の中止命令、担保消滅請求などを検討します。
担保設定対象物が事業の再建に必要でない場合再生債務者主導で任意売却をするか、担保実行を待つといった対応が考えられます。

⑵ 別除権者に対する対応 ①担保設定対象物が事業の再建に必要な場合

別除権者は、再生手続によらず別除権を行使できます(53条2項)。

事業再生に必要な物に担保権が設定されている場合、別除権を行使されると、再生が困難になりますので、ので、担保権者と交渉するなどして、担保権の行使を食い止める算段が必要です。
具体的には、交渉により、担保物件評価額を(分割)弁済することを条件に、担保を解除することを内容とする別除権協定を締結するのが基本的な対応となります。状況によっては、担保権実行手続の中止命令や、担保権消滅許可の申立てを行う場合もあります。

別除権協定とは、別除権者と交渉のうえ、別除権の行使を回避する条件を合意するものです。協定書締結には、裁判所の許可又は監督委員の同意が必要になっています。別除権協定の詳細については、以下のリンク先をご参照下さい。

担保権実行手続の中止命令とは、別除権者と交渉するための時間的猶予を得るために、担保権実行としての競売手続を一時的に止める制度です(31条)。担保権実行手続の中止命令の詳細については、以下のリンク先をご参照下さい。

担保権消滅許可の申立てとは、担保目的財産の価額相当の金銭を納付することにより、担保権を消滅させることのできる制度です(148条以下担保権消滅請求ともいいます)。担保権消滅許可の申立ての詳細については、以下のリンク先をご参照下さい。

別除権者に対する対応 ⓶担保設定対象物が事業の再建に不要な場合

再生債務者主導で任意売却をするか、担保実行を待つといった対応が考えられます。なお、任意売却する場合には、一定の金額を財団に組み入れることが一般的だと思われます。

なお、再生債務者が従前締結していた担保設定契約の違約金条項やコベナンツにつき、民事再生手続開始後も拘束されるかどうかには争いがあります。事業再生に不要なものであっても、明らかに担保価値保存義務に違反するような対応は避けるべきと考えれます。