このページでは、民事再生手続における担保権(別除権)の扱い(各論)につき、ご説明をしています。
民事再生法(及び破産法)においては、担保権を別除権と呼びます。以下でも別除権という言い方をすることもあります。厳密には、別除権とは、再生債務者に帰属する特定の財産の上に存する担保権と定義されています(53条1項)。
担保の種類ごとに、民事再生手続における担保権の取扱を説明しています。法定担保権、約定担保権の順番で、担保権ごとに検討をします。
このページでは、法律名が明記されていなければ、条文は民事再生法です。
1 民事再生手続における民事留置権の取扱
民事留置権は、別除権とは認められません(53条1項)。
したがって、民事留置権者は、被担保債権全額について再生債権者としてのみ権利行使が可能です。
ただし、ただし、民事再生法には、破産法66条3項(「(民事留置権は)破産財団に対してはその効力を失う」)と同様の規定がないため、裁判例は民事留置権に基づく留置の継続を認めている(東京地判17.6.10)。一方で、別除権ではないため、再生債務者からの担保権消滅許可の申立もできないので(148条1項)、再生債務者としては対応に困ることになる。
東京地判17.6.10(民再) 民事再生手続きが開始されても、民事留置権に基づく留置の効力は失われないとした裁判例
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Xは、ゴルフ場を経営する甲社から発注を受けて建物を建てました。その後、建物及び土地の占有はXに残したまま、甲に使用させる旨の合意がなされた状態で、甲につき民事再生手続開始決定がなされた後に、建物は甲からYに譲渡されました(ゴルフ場周辺緑地の所有者も訴訟当事者ですが省略しています)。そこで、Xは、Yに対し、建物の請負代金債権を被担保債権として建物に民事留置権が成立していることの確認を求める訴えを提起しました(商事留置権も主張していますが省略しています)。
本判決は、「民事再生法は、民事再生手続開始決定によって、民事留置権に基づく競売手続が中止し、あるいはその申立てができない旨規定する(同法39条)ものの、民事留置権に基づいて目的物を留置する権能については、何ら規定していないし、また、民事再生法には、民事留置権が破産財団に対してはその効力を失うとする破産法66条3項に相当する規定も置いていない。これらのことからすると、民事再生手続の開始あるいは再生計画によっても、民事留置権に基づく目的物の留置的効力は、当然には失われないものと解される。」として、建物に対する民事留置権に基づく留置的効力が継続することを認めました。なお、民事留置権によって担保された債権については、「Xの本件建物に対する民事留置権は、民事再生法177条2項所定の再生計画が効力を及ぼさない権利に該当せず、他に甲の再生計画の影響を妨げるべき根拠もないから、本件建物に対する民事留置権によって担保された債権については、その行使にあたっても、甲の再生計画によって減縮されるものと解される。」としています。
そこで、その対象物が必要な場合には、再生債務者は、裁判所の許可により和解をして取り戻すしかないように考えられます。なお、東京地判H17.6.10は、被担保債権は再生計画案により減縮されるとしてますので、計画案認可後に縮減された被担保債権を弁済すれば民事留置権を主張することはできなくはなります。再生計画認可決定確定まで待つことが可能であれば、待って弁済後に取り戻すことを検討すべきと考えられます。
2 民事再生手続における商事留置権の取扱
⑴ 民事再生手続における商事留置権の取扱
商事留置権は、別除権として扱われます(53条1項)。
再生手続開始後であっても、競売の申立は可能です(民事執行法190条(動産)、181条(不動産))。
ただし、通常時と異なり、競売の結果、目的物の換価代金を受け取っても、優先弁済権なく、相殺禁止にあたるとも考えられるため(93条1項1号)、結局再生債務者に戻す必要がある場合が多いと解されます。もっとも、銀行取引約定書等で、弁済に充当にできる場合があります(最一小判H23.12.15)。
最判H23.12.15(再生) 取立委任手形の取立金に対する商事留置権及び、弁済充当を認めた判例
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Xは、Y銀行に対して銀行取引約定書(XがYに対する債務を履行しなかった場合、Yは、担保及びその占有しているXの動産、手形その他の有価証券について、必ずしも法定の手続によらず一般に適当と認められる方法、時期、価格等により取立て又は処分の上、その取得金から諸費用を差し引いた残額を法定の順序にかかわらずXの債務の弁済に充当することができる旨の約定があった)を差し入れ、借入を行っていたところ、約束手形を取立委任のためにYに裏書譲渡をしていた状態で、Xは民事再生手続開始決定を受けました。Yは、Xの民事再生手続開始決定後に当該手形を取り立て、Xに対する債権の弁済に充当したため、Xは、不当利得返還請求権に基づき手形取立金の返還を求めて提起をしました。第1審、控訴審がXの請求を認容したためYが上告したところ、原判決を破棄し以下のように判示し、Xの請求を棄却しました。
「留置権は、他人の物の占有者が被担保債権の弁済を受けるまで目的物を留置することを本質的な効力とするものであり(民法295条1項)、留置権による競売(民事執行法195条)は、被担保債権の弁済を受けないままに目的物の留置をいつまでも継続しなければならない負担から留置権者を解放するために認められた手続であって、上記の留置権の本質的な効力を否定する趣旨に出たものでないことは明らかであるから、留置権者は、留置権による競売が行われた場合には、その換価金を留置することができるものと解される。この理は、商事留置権の目的物が取立委任に係る約束手形であり、当該約束手形が取立てにより取立金に変じた場合であっても、取立金が銀行の計算上明らかになっているものである以上、異なるところはないというべきである。
したがって、取立委任を受けた約束手形につき商事留置権を有する者は、当該約束手形の取立てに係る取立金を留置することができるものと解するのが相当である。
そうすると、会社から取立委任を受けた約束手形につき商事留置権を有する銀行は、同会社の再生手続開始後に、これを取り立てた場合であっても、民事再生法53条2項の定める別除権の行使として、その取立金を留置することができることになるから、これについては、その額が被担保債権の額を上回るものでない限り、通常、再生計画の弁済原資や再生債務者の事業原資に充てることを予定し得ないところであるといわなければならない。このことに加え、民事再生法88条が、別除権者は当該別除権に係る担保権の被担保債権については、その別除権の行使によって弁済を受けることができない債権の部分についてのみ再生債権者としてその権利を行うことができる旨を規定し、同法94条2項が、別除権者は別除権の行使によって弁済を受けることができないと見込まれる債権の額を届け出なければならない旨を規定していることも考慮すると、上記取立金を法定の手続によらず債務の弁済に充当できる旨定める銀行取引約定は、別除権の行使に付随する合意として、民事再生法上も有効であると解するのが相当である。このように解しても、別除権の目的である財産の受戻しの制限、担保権の消滅及び弁済禁止の原則に関する民事再生法の各規定の趣旨や、経済的に窮境にある債務者とその債権者との間の民事上の権利関係を適切に調整し、もって当該債務者の事業又は経済生活の再生を図ろうとする民事再生法の目的(同法1条)に反するものではないというべきである。
したがって、会社から取立委任を受けた約束手形につき商事留置権を有する銀行は、同会社の再生手続開始後の取立てに係る取立金を、法定の手続によらず同会社の債務の弁済に充当し得る旨を定める銀行取引約定に基づき、同会社の債務の弁済に充当することができる。」
⑵ 民事再生手続における、商事留置権に関する主な論点
民事再生手続において、商事留置権に関する主な論点は
①銀行を債権者とする取立委任をした手形及び手形取立金に対する商事留置権の成否
②建築請負代金債権を被担保債権とした不動産に対する留置権の成否
③信用金庫等の商人性(信用金庫等に商事留置権が成立するか)
があげられます。
これらについては、破産法でも同様の議論があり、管理人が運営する別サイトの以下のリンク先で、裁判例を引用しつつ説明していますので、ご参照下さい。なお、商事留置権は、破産法においても、民事再生法とほぼ同様の規律となっています。
デベロッパーの民事再生について、上記②に関する論点を前提に補足します。
デベロッパーの民事再生については、建物が建築中の場合の処理が問題となります。
工事請負業者の土地に対する商事留置権は成立しないか、抵当権者に対抗できないとする考え方が有力であるため、かかる考え方を前提として交渉を進めるべきと考えられます。一方で、建築中の建物がある状態で抵当権を実行しても、競売による価格は低くなってしまうため、土地の抵当権者としても、積極的に競売を進めるインセンティブは働きにくいところです。さらに、再生債務者としては、事業を継続するために、工事を完成して販売することにより、一定の利益を確保したいところです。
そこで、請負業者、土地抵当権者等と調整のうえ、請負業者、土地抵当権者、再生債務者の3者で別除権協定を締結して工事を完成させたうえで、再生債務者が販売し、売却代金を、別除権協定の内容に従って請負業者、土地抵当権者、再生債務者に配分することが結論として妥当なことが多いと考えられます。
3 民事再生手続における動産売買先取特権の取扱
動産売買先取特権につき、民事再生法上は特段の定めはありませんので、原則通り、民事再生手続によらないで、権利行使をすることが可能です(53条1項)。
動産売買先取特権の論点や参照すべき裁判例は、破産手続とかわりません。留意点や留意すべき裁判例は管理人が運営する破産手続における動産売買先取特権の扱いについて説明した以下のリンク先をご参照下さい。
再生債務者の対応としては、債権者が動産売買先取特権を主張してきて、差押えがなされる可能性が高い場合には、別除権協定などを検討し、その可能性が低い場合には、早期売却・回収を検討することになろうかと考えられます。ただし、民事再生は破産と異なり取引継続の要請が高いことが多いため、取引関係を悪化させない範囲での和解的解決が要請される場面も多いと思われます。
既に転売済みの場合であっても、売掛金に対する物上代位をされる可能性があるので、物上代位の可能性も含めて対応を検討する必要があります。
なお、動産売買先取特権については、特段の事情のない限り、別除権の届出をしないことにより別除権としての権利行使が制限されるとは解されません(東京高決H14.3.15)。
東京高決H14.3.15(再生) 動産売買先取特権について、民事再生法94条2項の届出(別除権不足額等の届出)がないとしても権利行使が認められるとした事案
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再生債務者Xの民事再生手続において、債権者Yは再生債権を届け出たが、その際に、別除権の届出をしませんでした。その後、Yは、動産売買先取特権に基づく物上代位により、XのAに対する転売代金債権に対する債権差押命令を取得しました。これに対してXは、執行抗告を申立て、Yが債権届出の際に、別除権の届出をしなかったことにより、Yが別除権を放棄したとして争ったところ、本決定は以下のように判示しました(ただし、結論としては、弁済により被保全権利が消滅しているとしてXの主張を認めています)。
「民事再生法によれば、民事再生手続において別除権者は、別除権の行使によって弁済を受けることができない部分についてのみ再生債権者として手続に参加し(88条)、再生債権の届出においては、別除権の目的及び別除権の行使によって弁済を受けることができないと見込まれる債権の額を届け出なければならない(九四条二項)とされている。したがって、相手方のした前記の債権届出が別除権(先取特権)者の届出としては、これらの規定に沿うものでないことは否定できない。
しかし、先取特権については種々の発生原因が存する(民法306条ないし328条)が、これを本件で問題となっている動産売買に基づく先取特権(同法322条)についてみるならば、同先取特権者にとって再生債務者の財産中に先取特権行使の対象となる財産が存するか否かを覚知することが必ずしも容易でない場合があることは容易に推認される。したがって、民事再生手続の開始が決定された後、再生債権届出期間内(本件では一月弱)にこの点を過不足なく調査し、上記の規定に沿って的確な届出を期待することは実際問題としては相当困難である。そして、別除権(先取特権)としての届出がされなければ当該権利の行使ができなくなると解するとすれば、失権をおそれて一定の可能性があればその旨の届出をすることになろうが、結果として先取特権の行使が功を奏しない場合には時機を失して一般再生債権としての弁済も受けられない可能性が大きい。そうすると、上記のような解釈は債権届出に際して先取特権行使の可能性がある者に二者択一の厳しい選択を迫るもので、民事再生手続における債権者側に不合理な負担を過重に課するものといわなければならない。」
「これらのことからすれば、民事再生手続において、動産売買に基づく先取特権者が民事再生法94条2項に規定する届出をせず、一般再生債権としての届出をしたとしても、それが同先取特権行使の対象となる財産があることを知りながら、あえて一般再生債権としての届出をし先取特権を放棄したものと認めるべき特段の事情でもない限りは、その一事をもって別除権としての権利行使が制限されるとまで解することは相当でない。このように解することは、その後の再生計画等に一定の変更を余儀なくさせ、債務者の再生に支障を生じさせるおそれのあることは否定できないが、上記民事再生法94条2項の届出にそれがない場合に失権効を生じさせるような大きな意味を持たせることが同条の趣旨であるとは解し難い。・・・本件では相手方に上記特段の事情があると認めるべき資料もない・・・」
4 民事再生手続における所有権留保売買の取扱
所有権留保は所有権でなく別除権として取り扱われると考えられます(東京地判H18.3.28、札幌高決S61.3.26、最判H22.6.4)。
再生債務者の基本的な対応は、契約書の内容及び、対抗要件の具備の状況などから、別除権者が再生債務者に対して別除権を主張できるか、否認の対象とならないかを確認したうえで、別除権として認められる場合、再生債務者の事業に必要なものであれば、別除権協定を締結することを目指します。
別除権協定の条件が折り合わない場合には、担保権実行中止命令(31条)で時間を稼いだり(非典型担保に中止命令が適用されることについての参考裁判例:大阪高決H21.6.3、福岡高那覇支決H21.9.7)、担保権消滅許可の申立(148条以下)を検討します。なお、所有権留保は、清算金が発生しない場合(そのような事案がほとんど)、実行の意思表示のみで完了してしまうため、中止命令の活用が難しい面があります。中止命令や、担保権消滅許可の申立については、以下のリンク先をご参照下さい。
所有権留保売買の論点や参照すべき裁判例は、破産手続とかわりません。留意点や留意すべき裁判例は管理人が運営する破産法(倒産法)における所有権留保売買の扱いについて説明した以下のリンク先をご参照下さい。
5 民事再生手続における譲渡担保権の取扱
⑴ 譲渡担保全般について
民事再生手続において、譲渡担保権は所有権でなく別除権として扱われます(最判S41.4.28、最判H11.5.17も別除権者であることを前提とします)。
再生債務者の基本的な対応は、契約書の内容及び、対抗要件の具備の状況などから、別除権者が再生債務者に対して別除権を主張できるか、否認の対象とならないかを確認したうえで、別除権として認められる場合、再生債務者の事業に必要なものであれば、別除権協定を締結することを目指します。
別除権協定の条件が折り合わない場合には、担保権実行中止命令(31条)で時間を稼いだり(非典型担保に中止命令が適用されることについての参考裁判例:大阪高決H21.6.3、福岡高那覇支決H21.9.7)、担保権消滅許可の申立(148条以下)を検討します。なお、譲渡担保は、清算金が発生しない場合(そのような事案がほとんど)、実行の意思表示のみで完了してしまうため、中止命令の活用が難しい面があります。中止命令や、担保権消滅許可の申立については、以下のリンク先をご参照下さい。
譲渡担保の論点や参照すべき裁判例は、破産手続とかわりません。留意点や留意すべき裁判例は管理人が運営する破産法(倒産法)における譲渡担保の扱いについて説明した以下のリンク先をご参照下さい。
⑵ 集合動産譲渡担保の場合
集合動産譲渡担保とは、「その種類、所在場所及び量的範囲を指定するなどなんらかの方法で目的物の範囲が特定」することにより、一個の集合物を譲渡担保の目的とすることをいいます(最判S54.2.15)。
担保実行に至るまで、担保権設定者は、通常の営業の範囲内で担保対象物である動産の処分をすることが可能であり、一方で、担保設定後に集合物の対象になった動産にも、譲渡担保の効力が及ぶと解されています(参考判例:最一小判H18.7.20)。
担保権を実行するためには、担保の対象物を確定する必要があり、これを固定化と言います(固定化すると、担保権設定者は固定化した動産については処分権限を失うと解されます)。集合動産譲渡担保設定契約に固定化の時期が明示されていれば当該時期で、明示されていない場合は担保実行通知等が債務者に到達した時点と解するのが一般的です。(なお、固定化のためには、期限の利益を失っていることが前提になりますが、一般的に民事再生手続申立又は開始決定により期限の利益を失う約定がなされています)。
集合動産譲渡担保の詳細については、管理人が管理する別サイトである以下のリンク先の「1 集合動産譲渡担保」をご参照下さい。
再生債務者の対応としては、担保対象物を利用できないと再生が困難なことが多いことから、担保権者との間で早急に別除権協定を締結することを目指します。
具体的には、担保権者の通知がなされる前に(通知がされた後は撤回を促したうえで)、担保権者との間で、開始決定時の担保権評価額を確定させ、その金額で流入する対象物(対象債権)に対しても担保権の効力は及ぶが、再生債務者が対象動産の処分権限を失わない内容の別除権協定を締結するなどの方法が妥当と考えられます。
上記⑴記載のとおり、別除権協定の条件が折り合わない場合には、担保権実行中止命令(31条)で時間を稼いだり(非典型担保に中止命令が適用されることについての参考裁判例:大阪高決H21.6.3、福岡高那覇支決H21.9.7)、担保権消滅許可の申立(148条以下)を検討する必要があります。
⑶ 集合債権譲渡担保の場合
集合債権譲渡担保とは、将来発生する、種類、発生原因等によって特定された債権を一括して譲渡担保の対象とするものをいいます(最判H11.1.29など)。譲渡担保権設定者(債務者)は、担保権が実行されるまでの間であれば、担保対象債権を回収して、回収金を使用することが可能です。
集合債権譲渡担保の詳細については、管理人が管理する別サイトである以下のリンク先の「2 集合債権譲渡担保」をご参照下さい。
再生債務者の対応としては、担保権を実行されてしまうと、資金繰破綻してしまうことが一般的ですので、担保権者との間で早急に別除権協定を締結することを目指します。
具体的には、担保権者との間で、担保権者の将来債権に対して譲渡担保の効力が及ぶことを認める一方で、将来債権譲渡担保の回収・使用権限を得る内容の別除権協定を締結して対応することが穏当であると考えられます。
上記⑴記載のとおり、別除権協定の条件が折り合わない場合には、担保権実行中止命令(31条)で時間を稼いだり(非典型担保に中止命令が適用されることについての参考裁判例:大阪高決H21.6.3、福岡高那覇支決H21.9.7)、担保権消滅許可の申立(148条以下)を検討する必要があります。
なお、担保権設定契約の内容や締結時期によっては否認の対象になりえます。従前は、債権譲渡登記がなく、第三者対抗要件(第三者債務者に対する通知又は承諾)を具備するのが困難であったため、実務上、債務者の支払停止等を停止条件とする集合債権譲渡担保や、予約型の集合債権譲渡担保が行われていましたが、最判H16.7.16が、かかるタイプの譲渡担保が否認の対象となるとしたことから、現在では、ほとんど行われていません。
最判H16.7.16(破産) 債務者の支払停止等を停止条件とする集合債権譲渡担保が否認の対象となるとされた判例
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甲社は債権者Yとの間で、支払停止等を停止条件とする集合債権譲渡担保契約を締結していたところ、甲社は平成12年3月31日に支払停止となり、同年4月3日に第三者債務者に対して確定日付ある証書による債権譲渡通知がなされました。その後、甲社に同年6月16日に破産手続開始決定がなされ、管財人に選任されたXは、旧破産法72条1号または2号(現破産法162条)に基づき、Yに対して否認権を行使しましたた。第1審、控訴審ともXの請求を認容したことからYが上告しましたが、本判決は、「その契約内容を実質的にみれば、上記契約に係る債権譲渡は、債務者に支払停止等の危機時期が到来した後に行われた債権譲渡と同視すべきものであり、上記規定に基づく否認権行使の対象となると解するのが相当である」としました。
東京地判H22.11.12(破産) 債権譲渡予約に基づく集合債権譲渡担保が否認の対象となるとした裁判例
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債務者甲社は、銀行Yとの間で、Yに対する債務(借入金等)の担保として、甲社の取引先に対する現在及び将来の一切の債権をYに譲渡することを予約する旨の譲渡予約契約に基づく集合債権譲渡を行いました。なお、予約の効力は、甲社が期限の利益を喪失した時点か、その前にYが必要と認めた時点で発生するものとされました。その後、甲社は各金融機関(銀行Yを含む)に返済遅延の申し入れを行い、私的再生計画案を持参するなどしたため、Yが予約完結権を行使して、債権譲渡登記手続きを行った後、甲社は、破産手続開始決定を受けました。破産管財人に選任されたXが当該債権譲渡の対象になった債権の第三債務者に対して支払を求めたところ、当該第三債務者の一部は弁済供託をしたことから、Xは当該債権譲渡に対し否認権を行使し、Yに対して、当該債権譲渡の対象債権及び供託金の返還請求権がXに帰属すること及び、債権譲渡登記の否認登記を求めて提訴しました。
本判決は、「債務者の支払停止等を予約完結権の発生事由とする債権譲渡契約は、破産法162条1項1号の規定の趣旨に反し、その実効性を失わせるものであって、その契約内容を実質的にみれば、債務者に支払停止等の危機時期が到来した後に行われた債権譲渡と同視すべきものであり、同号に基づく否認権行使の対象となると解するのが相当である(旧破産法72条2号に関する最高裁判所平成16年7月16日第二小法廷判決・民集58巻5号1744頁参照)。」とし、Xの請求をいずれも認めました。
5 リース債権者について
⑴ リース契約の性質及び別除権者の権利について
リース契約は非典型契約であるため、その法的性質は解釈によります。賃貸説と金融説に分かれていますが、判例は金融説で固まっていますので(最判H7.4.14(更生)、最判H20.12.16(再生))、実務的には金融説による処理となります。
最判H7.4.14(更生) リース契約につき金融説に立ち処理すべきとした判例
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リース会社Xは、事務機器につきフルペイアウト方式によるファイナンスリース契約を甲社と締結していたところ、甲社は会社更生手続開始決定をうけ、Yが管財人に選任されました。XはYに対してリース料の支払を催告した上で、リース契約を解除し、リース物件の引渡しとリース料の支払を求めて提訴したところ、第1審、第2審ともリース契約解除、リース料の支払を認めなかったことから(なお、控訴審は、リース期間満了を理由としたリース物件の引渡しは認めた)、Xが上告しましたが、本判決は以下のように説示して上告を棄却しました。
「・・・いわゆるフルペイアウト方式によるファイナンス・リース契約において、リース物件の引渡しを受けたユーザーにつき会社更生手続の開始決定があったときは、未払のリース料債権はその全額が更生債権となり、リース業者はこれを更生手続によらないで請求することはできないものと解するのが相当である。その理由は、次のとおりである。
右の方式によるファイナンス・リース契約は、リース期間満了時にリース物件に残存価値はないものとみて、リース業者がリース物件の取得費その他の投下資本の全額を回収できるようにリース料が算定されているものであって、その実質はユーザーに対して金融上の便宜を付与するものであるから、右リース契約においては、リース料債務は契約の成立と同時にその全額について発生し、リース料の支払が毎月一定額によることと約定されていても、それはユーザーに対して期限の利益を与えるものにすぎず、各月のリース物件の使用と各月のリース料の支払とは対価関係に立つものではない。したがって、会社更生手続の開始決定の時点において、未払のリース料債権は、期限未到来のものも含めてその全額が会社更生法102条にいう会社更生手続開始前の原因に基づいて生じた財産上の請求権に当たるというべきである。そして、同法103条1項の規定は、双務契約の当事者間で相互にけん連関係に立つ双方の債務の履行がいずれも完了していない場合に関するものであって、いわゆるフルペイアウト方式によるファイナンス・リース契約において、リース物件の引渡しをしたリース業者は、ユーザーに対してリース料の支払債務とけん連関係に立つ未履行債務を負担していないというべきであるから、右規定は適用されず、結局、未払のリース料債権が同法208条7号に規定する共益債権であるということはできないし、他に右債権を共益債権とすべき事由もない。」
最判H20.12.16(再生) 民事再生手続きにおいて、リース契約にかかる倒産解除条項の効力を否定した判例
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リース会社Xは、事務機器につきフルペイアウト方式によるファイナンスリース契約をYと締結していたが、Yが民事再生手続開始決定をうけたため、倒産解除条項に基づきリース契約を解除し、Yに対し、リース物件の引渡しとリース料相当額の支払を求めて提訴しました。第1審は、倒産解除条項を有効としたが、控訴審は、倒産解除条項を無効としたため、Xが上告しましたが、以下のように判示して上告を棄却しました。
「・・・民事再生手続は、経済的に窮境にある債務者について、その財産を一体として維持し、全債権者の多数の同意を得るなどして定められた再生計画に基づき、債務者と全債権者との間の民事上の権利関係を調整し、債務者の事業又は経済生活の再生を図るものであり(民事再生法1条参照)、担保の目的物も民事再生手続の対象となる責任財産に含まれる。
ファイナンス・リース契約におけるリース物件は、リース料が支払われない場合には、リース業者においてリース契約を解除してリース物件の返還を求め、その交換価値によって未払リース料や規定損害金の弁済を受けるという担保としての意義を有するものであるが、同契約において、民事再生手続開始の申立てがあったことを解除事由とする特約による解除を認めることは、このような担保としての意義を有するにとどまるリース物件を、一債権者と債務者との間の事前の合意により、民事再生手続開始前に債務者の責任財産から逸出させ、民事再生手続の中で債務者の事業等におけるリース物件の必要性に応じた対応をする機会を失わせることを認めることにほかならないから、民事再生手続の趣旨、目的に反することは明らかというべきである。
以上によれば、民事再生手続開始の申立てがあったことを本件リース契約の解除事由とする特約を無効とし、これに基づく本件解除は効力を生じないとした原審の判断は是認することができる。」
よってリース債権者は別除権者となり、未払いのリース料債権は別除権付再生債権となります。
もっとも、リース契約を解除する旨の意思表示で別除権の行使は完了するものと解されますので、リース債権者は解除の意思表示をしたうえで、別除権の行使として、リース対象物の返還請求権を有するものと解されます(東京地判H15.12.22)。
東京地判H15.12.22(再生) リース会社は別除権を有し、担保権を実行することによって完全な所有権を回復し、所有権に基づきリース物件の返還をもとめることができるとした裁判例
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リース会社Xが、リース契約を締結していた再生債務者Yの再生手続開始決定がリース契約の解除事由にあたるとして、所有権に基づく返還を請求しました。
本判決は「・・・リース会社は、リース料債権を被担保債権とする担保権(別除権)を有するものとして処遇されると解する(いわゆる担保的構成)のが相当である ・・・もっとも、フルペイアウト方式によるファイナンス・リース契約を前記のように解する場合、リース会社が有する担保権の目的をどのようにとらえるかについては見解の対立がある。・・・リース会社はユーザーの有するリース物件の利用権に対して質権又は譲渡担保権を設定していると解する後者の考え方は、この場合の担保権の実行について担保目的物である利用権を消滅させる(同権利はリース会社に移転すると混同により消滅する)ことであると解するとの点においていささか技巧的にすぎることは否定できないものの、フルペイアウト方式によるファイナンス・リース契約の法的性格に照らしてより問題の少ない考え方であるということはできるものと解される。
・・・以上によれば、フルペイアウト方式によるファイナンス・リース契約について、リース物件の引渡しを受けたユーザーにつき民事再生手続の開始決定があった場合、未払のリース料債権は全額が再生債権となり、リース会社は、ユーザーの有するリース物件上の利用権について、右再生債権を被担保債権とする担保権を有するものと解するべきである。そして、リース物件の利用権(占有権原)喪失の手続が未だ行われていない段階では、リース会社がリース物件に対して有する所有権はその行使が制約されており、リース会社は担保権者(別除権者)として処遇されることとなる。
本件リース契約がフルペイアウト方式によるファイナンス・リース契約であることについては当事者間に争いがないから、Xは、本件物件についてYが有していた利用権について担保権を有していたものといえる。・・・右担保権の実行(別除権の行使)は担保目的物である利用権をユーザーからリース会社に移転させることによって行うものと考えることが相当である。右の利用権はリース会社に移転すると混同により消滅するから、これにより、リース会社には何ら制限のないリース物件の所有権が帰属することになる。担保目的物をリース物件の利用権ととらえる以上、この時点で担保権の実行は完了するとみるべきである。
したがって、その後のリース物件の返還請求自体は、担保権実行後のリース会社の完全な所有権に基づくものと考えるべきであるから、その根拠は取戻権(所有権に基づく取戻権)に求められることとなる。
・・・以上のとおり、フルペイアウト方式によるファイナンス・リース契約については、リース会社は、リース料債権を被担保債権とする担保権(別除権)を有するものの、その担保権の目的はリース物件の所有権ではなくその利用権であると解される。そうすると、前記のような形で担保権を実行することによってリース会社は利用権の制限のない完全な所有権を回復することとなるから、Xは、本訴において、取戻権の行使として、所有権に基づき本件物件の返還を求めることができることとなる。」として請求を認容しました。
⑵ 再生債務者の対応
再生債務者の対応は以下のように整理できます。
区分 | 対応 |
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不要なリース品 ⇒返品 | リース品を戻したうえで、残リース料とリース品の価値との差額を再生債権として取り扱います。 |
必要なリース品 ⇒別除権協定の締結 | リース会社に連絡をし、別除権協定の締結について申し入れを行う必要があります。
別除権を行使されるおそれが高い場合には、別除権協定締結までの間、リース料を支払うことも視野に入るが、別除権協定締結前の支払は41条1項9号違反となる可能性があるので、慎重に対応することが必要です。 また、状況によっては、中止命令(31条)や担保権消滅許可の申立(148条以下)を検討します。 |