このページでは民事再生手続における担保権実行手続の中止命令について、ご説明をしています

民事再生法(及び破産法)においては、担保権を別除権と呼びます。以下でも別除権という言い方をすることもあります。
別除権は、再生手続に制約を受けずに権利行使をすることができます(53条2項)が、事業再生に必要な物に担保権が設定されている場合、別除権を行使されると、再生が困難になりますので、再生債務者が、担保権実行手続の中止命令を申立てることがあります。

このページでは、法律名が明記されていなければ、条文は民事再生法です。

1 内容及び要件、効果、手続

⑴ 中止命令の趣旨

別除権者は、再生手続によらず別除権を行使できるのが原則です(53条2項)。

担保権実行手続の中止命令、別除権の行使により再生債務者の再生のために不可欠な財産等が失われてしまうような場合に、再生債務者が別除権者と交渉するための時間的猶予を得るための手続です。再生債務者が、別除権協定締結ないしは担保権消滅許可の申立てをするために、担保権の手続を止める必要がある場合に利用されています。

⑵ 要件(31条1項)

①再生債権者一般の利益に適合すること
②競売申立人に不当な損害を及ぼすおそれがないと認められること
③その担保によって担保される債権が共益債権又は一般優先債権でないこと

⑶ 効果

担保権の実行手続を現状のまま一時的に凍結しますが、担保権の実行手続を取り消す効力はありません。
差押えの効力は維持されます。

⑷ 手続(31条2項、3項)

担保権実行手続の中止命令の申立は、民事再生手続申立後、再生手続が終了するまでの間可能です(認可決定後も可能です)。

担保権実行手続の中止命令の申立は利害関係人であれば可能です(裁判所が職権で行うこともできます)。

裁判所は、競売申立人の審尋を行ったうえで、決定を出します。なお、審尋を行っている期間に、担保権を実行することは許されます。担保権実行通知のみで実行が可能な債権譲渡担保などについては、審尋を行って決定を出すまでの間に実行されてしまう可能性があるため、審尋を不要とすべきとの見解もありますが、法文に反するものであり、かかる見解は取りえないと解されます(東京高判H18.8.30)。

東京高判H18.8.30(再生) (最一小決H19.9.27 上告棄却、不受理)  中止命令の発令後、別訴で中止命令が無効であるとされた事例

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甲社(再生債務者)は、クレジット会社Yとの間で、顧客の商品代金をYが立替払いする旨の加盟店契約を締結するとともに、銀行Xに対する債務の担保として、クレジット会社Yに対する立替金請求権に債権譲渡担保を設定し、譲渡登記も具備しました。その後、甲社に民事再生手続開始決定がなされ、甲社は銀行Xに対し、当該債権譲渡担保の実行中止命令を申立て、中止命令は認められました。一方で、銀行Xは、クレジット会社Yに対し、立替金請求権を譲り受けたこと、譲渡通知の権限を再生債務者甲社から委任されていることなど通知しましたが、クレジット会社Yは、中止命令が発令されていることを理由に、再生債務者甲社に弁済したため、XがYに対し、立替金等を支払うように求めて提訴したのが本件です。第1審は、Xの請求を棄却したため、控訴したところ、以下のように判示し原判決を取り消し、Xの請求を認容した。
既に確定した本件中止命令の無効を本件訴訟において争うことができるかについて
 「・・・民事再生法31条1項の中止命令は、再生債務者の事業の再生のために、再生裁判所が定める相当の期間、担保権の実行としての特定の競売手続を一時的に中止するものであること、(イ)再生裁判所は、具体的な事案において、同条2項に定める意見聴取の手続の下に、同条1項所定の要件の有無を検討し、再生債務者の事業の再生のために、相当の期間を定めて競売手続の中止を命ずるものであるから、中止命令は、一時的かつ暫定的な措置にとどまり、その期間の経過によって当然にその効力を失うものであること、(ウ)中止命令は、実体法上の権利義務の存否を終局的に確定することを目的とするものではないこと、(エ)中止命令は、相当の期間を定めて特定の競売手続の中止を命ずる旨の再生裁判所の決定によりされること、(オ)再生裁判所は、職権により、中止命令の変更又は取消しをすることができること、(カ)中止命令については、確定判決についての民訴法114条のような中止命令が既判力を有する旨の規定が存在しないことなどが明らかである。上記のような中止命令の性質、内容及び効力並びにその実体的及び手続的要件などの諸点にかんがみれば、当該再生事件の手続においては有効なものとして確定した中止命令であっても、その後、外形的に当該中止命令と抵触する行為の実体法上の効力をめぐって債権譲渡担保権者と当該債権の債務者間に紛争を生じている訴訟においては、当該中止命令の実体的要件や手続的要件の欠缺を主張して、その有効性を争うことが許されるものと解するのが相当である
本件中止命令の有効性について 「・・・再生債権者の一般の利益に適合するというためには、中止命令により、再生債務者と担保権者との間に被担保債権の弁済方法等についての合意が成立して担保目的物を事業の再生のために有効利用することにより再生債務者の事業の継続を図ることができ、再生債務者の再生の現実的可能性が存在することについて、これを認めるに足りる客観的な資料が存在することを要するものというべきである。
 また、競売申立人(担保権者)に不当な損害を及ぼすおそれがないものと認められるというためには、担保権者が担保権の実行を中止されることにより、再生手続の遂行に伴い社会通念上受忍すべき通常の損害を超えて、異常な損害を被るおそれがないものと認められることを要するものと解される。そして、この要件は、再生債務者の事業の再生のために担保目的物を必要とする程度、担保目的物の担保余力、担保権者が他に被担保債権のための担保を取っているか否か、中止期間中の担保目的物の滅失や減価の有無と程度、担保権者に対する再生債務者の債務弁済の方針や見込みなどを総合的に考察して判断すべきものというべきである。
 さらに、競売申立人の意見の聴取は、中止命令が、再生手続によらないでその権利を行使することができる別除権に対する重大な制約となるため、競売手続の中止が競売申立人(担保権者)に不当な損害を及ぼすおそれがないか否かにつき審理する上で、担保権者に意見を陳述させるための機会を与えることを目的とする重要な手続であるから、意見の聴取という手続保障の機会を担保権者から奪うことは許されるものではないと解するのが相当である。
 ・・・・前記の事実関係に照らせば、再生債務者甲社は、中止命令を申し立て、本件中止命令が発せられた平成13年12月19当時、再生債務者として、担保権者である銀行Xとの間に被担保債権の弁済方法等についての合意が成立する可能性は存在せず、担保目的物を再生のために有効利用することにより事業の継続を図ることのできる見込みも存在せず、再生の現実的可能性を認めるに足りる客観的な資料は存在しなかったものということができる。
 したがって、本件中止命令は、民事再生法31条1項所定の再生債権者の一般の利益に適合するという要件に欠けていたものというべきである。また、・・・本件譲渡担保契約に基づいて銀行Xが把握していた担保価値の毀損されるおそれは極めて高いものであったということができる。
 したがって、本件中止命令は、民事再生法31条1項所定の競売申立人に不当な損害を及ぼすおそれがないものと認められるという要件に欠けていたものというべきである。さらに、本件中止命令は、集合債権譲渡担保権者である銀行Xの意見を聴取することなく発せられている。したがって、本件中止命令は、民事再生法31条2項所定の競売申立人の意見の聴取という要件に欠けていたものというべきである。
 以上によれば、再生債務者甲社の中止命令の申立ては、民事再生法31条1、2項所定の前記各要件に欠けるものであって、本件中止命令は無効なものであるということができる。」

中止命令の期間は法文上は特に定めはありませんが、3か月程度のことが多いようです。裁判所は伸長や期間途中で取消すことも可能とされています。

なお、執行裁判所は、中止命令の発令を当然には知り得ませんので、手続停止の上申をする必要があります。

2 中止命令の対象となる「担保権」の範囲について

法文上、中止命令の対象は「担保権」としか書かれていません(31条1項)。そこで、中止命令の対象となる「担保権」の範囲について、以下の点が議論されています。

⑴ 担保対象物について

再生債務者が担保目的物を所有している必要があるされています(福岡高決H18.2.13)。ただし、所有について登記で判断するか実質で判断するかははっきりしません。福岡高決H18.2.13は登記で判断すべきとしていますが、同一の債務者の同一の物件についての担保権消滅許可の申立にかかる福岡高決H18.3.28は、登記名義でなく実質に沿って判断されています。

福岡高決H18.2.13(再生) 再生債務者の代表者名義の不動産にかかる担保権中止命令が認められないとした裁判例

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XのYに対する債権を担保するために、Y名義の不動産及び、Yの元代表者A名義の不動産に抵当権が設定されていたところ、Yの再生手続開始決定後に、Xは当該抵当権に基づき当該不動産全部につき競売開始申立てをしました。そこで、Yは、A名義の不動産はYに所有権があるとして、A名義の不動産も含めて担保権中止命令を申立てたところ、第1審がA名義の不動産も含めて競売手続中止命令を発令したため、Xが即時抗告をしました。
本決定は、①中止命令が可能な範囲は登記名義で形式的に判断すべきでありA名義部分については中止命令を発することができず、かつ②代表者名義部分について中止命令の効果が及ばないのであれば事業継続が困難であり、他の不動産だけでは事業継続に不可欠な不動産とは言えないとして、結局、中止命令は認められないとしました。

福岡高決H18.3.28(再生) 再生債務者の財産であるか否かは登記名義でなく実質的に判断すべきとした裁判例

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再生債務者Xが、Xの元代表者A名義の土地に設定されていたYの根抵当権につき、当該土地はX名義で取得された土地とともに同一の時期にXの借入金により取得され、当該借入金を共同担保とする根抵当権が設定され、かつ、Xが一体として使用し固定資産税も負担していたことなどを理由にX所有の土地であるとして、担保権消滅請求を申立てたところ、再生裁判所がXの申立てを認めたため、Yが即時抗告をしました。
本決定は、「担保権消滅許可を求める所有者である再生債務者と担保権者との関係はいわゆる対抗問題とはならないことになるから、この消滅許可を求められている担保権者には、所有者である再生債務者の登記欠缺を主張する利益はないことになる。すなわち、再生債務者が担保権消滅の許可を申し立ててこれを受けるためには、その所有権について必ずしも対抗要件としての登記を備えていることを要しないというべきである。同様に、当該要件は、あくまで再生手続開始の時における所有権の帰属を問題とするものであり、登記の外観を信頼して利害関係を有するに至った第三者の保護が要請される場面ではないから、民法94条2項の類推適用の余地もないと解される。」として、担保権消滅請求が可能な範囲は登記名義でなく実質的に再生債務者の所有権が存するか否かで判断すべきであるとして、担保権消滅請求を認めました。

⑵ 物上代位に対する中止命令の可否

物上代位に対する中止命令も可能と考えられますが、「再生債権者一般の利益に適合すること」という要件や、「競売申立人に不当な損害を及ぼすおそれがないものと認めるとき」という要件との関係で、類推適用は慎重にされているようです(京都地決H13.5.28、大阪高決H16.12.10

京都地決H13.5.28(再生) 動産売買先取特権に基づく物上代位に対する中止命令が認められなかった裁判例

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X社につき民事再生手続開始決定がなされた後、Xに対して売掛債権を有するYが、動産売買の先取特権に基づく物上代位権行使のため、再生債務者Xの転売代金債権を差し押さえてきたため、Xが中止命令を申立てました。
本決定は、物上代位に対する中止命令が可能であることを前提に、再生債権者一般の利益に適合し、かつ差押債権者である相手方に不当な損害を及ぼすおそれがないものとは認められないとして、Xの申立てを棄却した。

大阪高決H16.12.10(再生) 根抵当権に基づく賃料への物上代位に対する中止命令が認められなかった事例

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再生債務者Xの所有する不動産に根抵当権の設定を受けていたYが、当該根抵当権の物上代位に基づき当該不動産の賃料を差押える旨の債権差押命令を得たのに対し、Xが中止命令を申立てました。再生裁判所が中止命令を発令したため、Yが即時抗告をしたところ、本決定は以下のように説示し、原決定を取り消し、中止命令は認めませんでした。
「・・・再生債務者が所有する不動産の上に抵当権が存する場合、その抵当権に基づく物上代位による賃料債権の差押命令も、『担保権の実行の手続』(民事再生法31条1項)の一つとして、同項に規定する中止命令の対象となり得るものと解される。
 しかしながら、上記中止命令は、それ自体、債権差押えの効力を消滅させるものではないし、これに引き続き差押えの効力の消滅をもたらす取消決定の制度も設けられていないから、単に手続を一時停止する効力を有するにすぎない。
 したがって、債権差押命令自体が取り消されて差押えの効力が遡及的に消滅しない以上、中止命令による手続の一時停止中に弁済期が到来する第三債務者に対する賃料債権については、停止期間終了後に債権者(抵当権者)がこれを取り立てることとなるのであって、債務者(不動産所有者)がこれを取立てできる余地はない。この理は、たとえ停止期間中に、担保不動産競売による売却や担保権消滅請求制度における価額に相当する金銭の納付等がなされて、抵当権が将来に向かって消滅したとしても、抵当権消滅までの期間については同様である。
 さらに、債権差押手続を中止しても、担保不動産競売手続を中止した場合のように、再生債務者の事業の継続に必要ないし有益な不動産の喪失を遅延させるというような再生債務者に有利な効果も生じない。
 そうだとすれば、そもそも抵当権は再生手続に制約されることなく行使できる別除権であるという原則に照らしても、抵当権に基づく物上代位による賃料債権の差押え手続に対して中止命令を発することができる(同法31条1項所定の要件を満たす)のは、例外的な事情がある場合に限られるものというべきである。
 これを本件についてみると、Yは、本件建物の最先順位の根抵当権者であり、すでに不動産競売の開始決定を得ている一方、本件建物を相手方が継続して利用することができる別除権協定等を締結していないのみならず、その締結に至る見通しがある旨の疎明もないのであるから、単に本件建物が相手方の事業の継続に欠くことのできないものであるとして担保権消滅許可決定が確定していても、賃料債権の差押え(原々決定)について中止命令を発することが『再生債権者の一般の利益に適合』するものであるということはできない。よって、・・・相手方の本件中止命令の申立ては理由がな」い

⑶ 非典型担保に対する中止命令

非典型担保に対する中止命令も、類推適用できるものと解されます(福岡高那覇支決H21.9.7、大阪高決H21.6.3など)。

なお、債権譲渡担保は担保権実行通知のみで実行が可能なため、中止命令にあたり裁判所が審尋31条2項)を行った時点で、担保権実行通知がされてしまう可能性が高く、中止命令の実現可能性を欠くとの指摘がされている。債権譲渡担保に対する中止命令を検討する場合には、裁判所とも相談しながら進める必要があります。

福岡高那覇支決H21.9.7(再生) 債権譲渡担保に対する担保権実行中止命令が認められた事例

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Xは、銀行Yの対する債務の担保として、賃貸借契約に基づく賃料債権に譲渡担保を設定していたところ、Xは、民事再生手続開始を受けるとともに、当該譲渡担保につき実行手続の中止命令の申立てを行いました。再生裁判所が中止命令を認める決定をしたため、Yが抗告をしたが、本決定は以下のように判示し抗告を棄却しました。
民事再生法31条1項の類推適用の可否について
「担保権実行手続中止命令を規定する民事再生法31条1項は、再生債務者の事業に不可欠な財産が不用意に競売に付され、事業再生が困難となる結果、再生債権者の一般の利益に反する事態が起こり得ることを想定し、このような事態に陥ることを回避するため、競売申立人に不当な損害を及ぼさない限度で、担保権の実行手続を一時的に中止し、再生債務者と競売申立人とが被担保債権の弁済方法等について協議し、利害の調整を図る機会を付与することを目的としたものである。そして、同様の事態が想定される限り、競売の場合に限られず、本件のような債権を対象とする譲渡担保についても、同項の趣旨が妥当し、担保権実行手続中止命令の対象とすることができるというべきである。
再生債権者の一般の利益への適合性について
「・・・によれば、Xは、平成21年5月から平成22年4月まで、本件譲渡債権を含め、収入月額が約1200万円から約2000万円程度で推移すること、本件譲渡債権はそのうち約24パーセントないし約39パーセントに及び、これを除外すると手元資金が約250万円ないし約420万円程度しか残らないと予想されること、本件中止命令により、仮に本件譲渡債権のうち平成21年10月20日までのものをXが収受することができることとなるとすると、平成21年9月末の時点で手元資金が約1750万円に及ぶことが認められる。
 そうすると、Xは、本件中止命令がなければ資金繰りに窮するおそれがあるが、本件中止命令があれば資金繰りに相当程度の余裕を持つことができると見込まれる。
 したがって、本件中止命令は、Xが資金繰りに窮して破産に移行せざるを得なくなるのを回避させ、民事再生の手続内で清算価値以上の配当を可能とさせる見込みがあるものとして、再生債権者の一般の利益に適合するというべきである。
Yに不当な損害を及ぼすおそれについて
 「Yは、本件中止命令により、本件譲渡債権の3か月分である約1461万円の回収が不可能となると主張する。確かに、Yは、本件中止命令により、当該期間に係る本件譲渡債権の回収ができないこととなるが、本件賃貸借契約は、平成22年2月までを期限とするものであり、自動更新条項が付されていることにかんがみれば、本件賃貸借契約は、相当程度の期間、継続するものと推測される。そうすると、本件譲渡担保及びその前提となる本件賃貸借契約の特質にかんがみ、本件中止命令に係る3か月間が経過した後、将来にわたって継続的に賃料を収受することができると見込まれるから、Yが本件中止命令によって被る損害は、不当なものと認めるに足りないというべきである。Yの主張は、採用することができない。」

大阪高決H21.6.3(再生) 債権譲渡担保に対する担保権実行中止命令が認められた事例

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医療法人Yは、信用金庫Xらに対して、将来診療報酬債権を譲渡担保に提供し、第三債務者に対しても通知しました。Yは、民事再生手続開始決定を受ける前に、当該譲渡担保一部につき担保実行手続中止命令を申立て、裁判所は中止命令を発令したのに対し、Xらが即時抗告をしましたが、本決定は以下のように説示して抗告を棄却しました。
「・・・担保権実行手続中止命令は、担保権の実行により再生債務者の事業に不可欠な財産が失われて事業再生が困難となり、再生債権者一般の利益に反する事態が起こりうることを想定し、担保権の実行を一時的に中止し、再生債務者と担保権者との間で被担保債権の弁済方法等を協議し、利害の調整を図ることを目的としたものであり、このような事態は不動産以外の担保権でも想定しうる。
 そうすると、債権を対象とする譲渡担保権でも、上記同様の状況が想定できる場合は、担保権実行手続中止命令の趣旨に沿い、民事再生法31条が類推適用される。
 ・・・次に、信用金庫Xらは、担保権実行手続中止により、信用金庫Xらに損害が生じると主張する。
 まず、債権を対象とする譲渡担保権は、担保権実行手続中止命令により再生債務者が取り立ててれば、その範囲で当該債権が消滅する特殊性を有し、不動産に対する担保権と同視できないが、他方において本件のような集合債権譲渡担保では、新たに発生して譲渡担保権の対象に組み込まれる債権が存在するから、担保権者に損害が生じるかどうかはこのような全体の状況を勘案して判断すべきであり、譲渡担保権の対象となった債権の一部分が担保権実行手続中止命令の結果、事実上消滅する可能性があることのみをもって、担保権者に不当な損害が生じるということはできない。
 そして、本件の譲渡担保権について検討すると、対象債権は平成21年12月までに支払われる診療報酬債権であり、再生債務者が営業を継続する限り発生することが見込まれるうえ、その総額は本件被担保債権額を大きく上回ると想定できるから、そのうちの一部である平成21年2月分の診療報酬債権につき、担保権実行手続中止命令があったとしても、信用金庫Xらは、残部に対する譲渡担保権を行使することにより、被担保債権を回収することができないわけではない。
 ・・・・以上からすると、原決定は相当であり、その他のXらの主張を考慮しても本件抗告には理由がない」