このページでは民事再生手続における担保権消滅許可の申立てについて、ご説明をしています

民事再生法(及び破産法)においては、担保権を別除権と呼びます。以下でも別除権という言い方をすることもあります。
別除権は、再生手続に制約を受けずに権利行使をすることができます(53条2項)が、事業再生に必要な物に担保権が設定されている場合、別除権を行使されると、再生が困難になりますので、再生債務者が、担保権消滅許可を申立てることがあります。

このページでは、法律名が明記されていなければ、条文は民事再生法です。

1 担保権消滅許可の申立の概要(内容、要件、対象及び効果)

⑴ 担保権消滅許可の申立の趣旨

別除権者は、再生手続によらず別除権を行使できるのが原則です(53条2項)。

別除権の行使により再生債務者の再生のために不可欠な財産等が失われてしまうと、再生そのものが不可能となります。そこで、担保目的財産の価額相当の金銭を納付することにより、担保権を消滅させることのできる制度として、担保権消滅許可の申立が準備されています。
もっとも、再生債務者が独自に担保目的財産相当額の金銭を準備することは困難ですので、担保権消滅許可の申立が使われるのはスポンサーが付いて一括して納付できる場合などに限られます。また、別除権者は大口債権者であることが多く、反対されると再生計画案が可決されない可能性が高くなることもあり、まずは別除権協定締結を目指すことが一般です。

⑵ 要件(148条1項)

担保権消滅許可の申立の要件は、以下の3点です。

①再生債務者の財産にかかる担保権であること(参考裁判例:福岡高決H18.3.28

福岡高決H18.3.28(再生) 再生債務者の財産であるか否かは登記名義でなく実質的に判断すべきとした裁判例

裁判例の詳細を見る
再生債務者Xが、Xの元代表者A名義の土地に設定されていたYの根抵当権につき、当該土地はX名義で取得された土地とともに同一の時期にXの借入金により取得され、当該借入金を共同担保とする根抵当権が設定され、かつ、Xが一体として使用し固定資産税も負担していたことなどを理由にX所有の土地であるとして、担保権消滅請求を申立てたところ、再生裁判所がXの申立てを認めたため、Yが即時抗告をしました。
本決定は、「担保権消滅許可を求める所有者である再生債務者と担保権者との関係はいわゆる対抗問題とはならないことになるから、この消滅許可を求められている担保権者には、所有者である再生債務者の登記欠缺を主張する利益はないことになる。すなわち、再生債務者が担保権消滅の許可を申し立ててこれを受けるためには、その所有権について必ずしも対抗要件としての登記を備えていることを要しないというべきである。同様に、当該要件は、あくまで再生手続開始の時における所有権の帰属を問題とするものであり、登記の外観を信頼して利害関係を有するに至った第三者の保護が要請される場面ではないから、民法94条2項の類推適用の余地もないと解される。」として、担保権消滅請求が可能な範囲は登記名義でなく実質的に再生債務者の所有権が存するか否かで判断すべきであるとして、担保権消滅請求を認めました。

東京高決R2.2.14(再生) 将来債権(診療報酬債権)譲渡担保が担保権消滅許可申立の対象になるとした裁判例

裁判例を確認する
「件債権譲渡契約の全体を合理的に解釈すれば、譲渡対象債権の譲渡は、再生債務者が抗告人に対して与えた当初譲渡対象債権の代金やその後の買取債権残高に相当する額の融資の担保を目的とするものであって、本件債権譲渡契約が解約や解除により終了する場合に発生することとなる買取債権残高に相当する額の返還債務等に係る債権を被担保債権とする譲渡担保の実質を有すると評価することができる。・・・本件債権譲渡契約は担保を目的とするものであって、その実質においては買取債権残高に相当する額の返還債務等に係る債権を被担保債権とする譲渡担保であると解することができる。そして、民事再生法148条に規定する担保消滅許可は、このような譲渡担保も対象とすると解するのが相当である。

②当該財産が再生債務者の事業の継続に欠くことのできないものであること(事業不可欠性要件)。事業不可欠性要件は、比較的ゆるやかに判断されているようです(東京高決H21.7.7名古屋高決H16.8.10)。
なお、再生債務者が行っている「事業」の継続に不可欠という要件なので、事業譲渡がなされる場合であっても事業が継続する限り請求が可能と考えられています。

東京高決H21.7.7(再生) 戸建業者の販売用土地が、担保権消滅請求の事業継続不可欠性要件を充たす財産といえるとした裁判例

裁判例の詳細を見る
再生債務者である戸建業者Yが、保有する販売用不動産につき設定されているXの抵当権につき担保権抹消請求を申立てたところ、再生裁判所が認めたため、Xが即時抗告しました。本決定は、以下のように説示して、抗告を棄却しました。
「・・・民事再生法148条に定める担保権消滅許可の制度・・・に事業継続不可欠性要件が求められるのは、担保権者は、民事再生手続において、本来別除権者として自由に権利行使ができるところ、これを制約するには、再生債務者が事業再生を図るという民事再生手続の目的を達成するのに必要不可欠な範囲に限定されることが相当であるとされたことによるものと解される。したがって、そのような趣旨で、事業継続不可欠要件を充たす財産とは、担保権が実行されて当該財産を活用できない状態になったときには再生債務者の事業の継続が不可能となるような代替性のない財産であることが必要である。そのような事業継続不可欠要件を充たす財産として想定されるのは、再生債務者が製造業者であってその工場の土地・建物に担保権が設定されている場合や、再生債務者が小売業者であって店舗の土地・建物に担保権が設定されている場合がその典型例であるが、これらの土地・建物は、事業のために継続して使用することが必要なものであり、いずれも担保権が実行されて当該財産を活用できない状態になったときには、再生債務者の事業の継続が不可能になる代替性のない財産である。
 ところで、本件土地は販売用財産であって、上記の典型例のように継続して使用する財産ではないところ、こうした財産にあっても、事業継続不可欠性要件を充たすといえるかが問題となる。この場合、再生債務者の事業の形態には様々なものがあるから、その事業の仕組みに即して当該財産が事業継続不可欠性要件を充たすものか検討することが必要となる。・・・Yの戸建分譲事業にとっては、その敷地部分に相当する土地は、その担保権が実行されてこれを活用できない状態になったときにはその事業の継続が不可能になる代替性のないものということができるから、本件土地は販売用財産であるけれども、本件担保権を消滅させるための事業継続不可欠要件は充たしているというべきである。すなわち、本件土地は、Yのような事業の仕組みをとっている再生債務者の事業の継続との関係で代替性がないとみられるから、事業継続不可欠性要件を充足していると解されるのであり、このように解することは、民事再生手続の中で担保権消滅許可の制度が設けられている制度趣旨にかなうものということができる。

名古屋高決H16.8.10(再生) 処分を前提とした不動産につき担保権消滅請求が認められた事案

裁判例の詳細を見る
再生債務者Yは、駐車場付不動産の運営を主な事業としていたところ、駐車場部分のみの賃貸業を継続することを前提とし、他の不動産については売却することを当該不動産の抵当権者であるA銀行及びXに提案したが、Xが反対しました。そこで、Yは担保権消滅請求を申立てたところ、再生裁判所が認めたため、Xが即時抗告をしました。
本決定は、法148条1項は「文理上は、当該財産そのものが、今後、再生債務者が事業を継続していく上において使用する必要があるなど欠くことができないときと解されないではないが、上記のとおり、本条が、例外的とはいえ別除権行使の自由を制限してまで企業の再生を優先させる制度を設けている趣旨及び目的にかんがみると、そのように限定するものと解するのは相当でなく、当該財産を売却するなどの処分をすることが、事業の継続のため必要不可欠であり、かつ、その再生のため最も有効な最後の手段であると考えられるようなときは、処分される当該財産も再生債務者の事業の継続に欠くことができないものであるときに該当するものと解すべきである。そこで、本件についてこれをみると、・・・上記駐車場部分は、まさに、事業の継続に欠くことができない唯一の財産である。そして、同再生計画では、本件不動産の売却代金は、甲ビル全体(本件不動産と駐車場部分を合わせたもの)につき、第一及び第二順位の根抵当権を有するA銀行との間でYが締結した本件別除権協定に基づく弁済資金に充てることを予定しているものであり、本件不動産の売却ができない場合には、当然のこととして、同協定に従った弁済は不可能であり、履行遅滞等により、同協定は白紙撤回され、A銀行による担保権の実行がなされる可能性が生じるものといえる。そうすると、上記のとおり、事業の継続に欠くことができない唯一の財産である駐車場部分も併せて当然に担保権の実行の対象となり、再生計画に従った事業の継続は完全に不可能な状態となるというべきである。これは、既に再生計画が認可されて確定し、第一及び第二順位の根抵当権を有するA銀行がこれに同意していることなども考慮すると、まさに、一担保権者(X、なお、Xが別除権を行使しても、X自体は配当を受けられないことは上記のとおりである。)の意思のみによって、事業の継続が事実上断たれる結果となることにほかならない。したがって、本件不動産を売却することは、Yの事業の継続にとって必要不可欠であり、かつ、Yの事業の再生のため最も有効な最後の手段であると認められ、本件不動産は、民事再生法一四八条一項の『当該財産が再生債務者の事業の継続に欠くことができないものであるとき』に該当するというべきである。」として、抗告を棄却した。

③条文上の要件ではありませんが、担保権者の利益との関係で、権利の濫用に当たらないことが必要と解されます(札幌高決H16.9.28)。

札幌高決H16.9.28(再生) 共同担保の一部につき担保権消滅請求をすることが許されないとされた裁判例

裁判例の詳細を見る
再生債務者Xは、複数の不動産を有しており、かつ抵当権者Yらは、当該複数の不動産に共同抵当権を設定していたところ、Xは、当該不動産の一部についてのみ担保権消滅請求を申立て、再生裁判所はXの申立てを認めた。これに対し、Yらが、担保権消滅請求を申立てた以外の残地部分だけだと、接道等の関係で価値が大きく減少することになるから、Xの担保権消滅請求は権利の濫用であるとして即時抗告をしたところ、本決定は以下のとおり判示して、原決定を取り消しました。
「民事再生法148条ないし153条が定める担保権消滅の制度は、担保権者に対して担保の目的財産の価額に相当する満足を与えることにより、再生手続開始当時当該財産の上に存するすべての担保権を消滅させ、再生債務者の事業の継続に欠くことのできない財産の確保を図るものであり、その限度で担保権者に犠牲を強いるものであるが、それを超えて担保権者に著しい不利益を及ぼすことは、民事再生法が予定しないところであり、再生債務者と担保権者との衡平の観点からも権利の濫用として許されないと解するのが相当である。」として、共同担保の一部のみについて担保権消滅請求をすることで残地の価値が下落する場合には、担保権消滅請求をすることは許されないとして原決定を取消しました。

⑶ 対象

集合(債権)譲渡担保などの非典型担保についても、担保権消滅許可の申立は可能と解されます(参考裁判例:大阪地決H13.7.19)。

大阪地決H13.7.19(再生) ファイナスリースに対する担保権消滅請求を認めた裁判例

裁判例の詳細を見る
Xは、リース会社Yとフルペイアウト方式によるファイナンスリース契約を締結していたが、Xが仮差押を受けたことが、リース契約の解除条項に該当したため、Yからリース契約解除通知を受けました。その後Xは民事再生手続開始決定をうけ、Yに対して担保権消滅許可請求を申立てました。
本判決は、「いわゆるフルペイアウト方式のファイナンス・リース契約においてリース物件の引渡しを受けたユーザーにつき再生手続開始の決定があった場合、未払のリース料債権はその全額が再生債権となり、リース会社は、リース物件についてユーザーが取得した利用権についてその再生債権を被担保債権とする担保権を有するものと解すべきであるが、民事再生法148条1項の担保権消滅許可の申立ては、再生手続開始当時再生債務者の財産の上に同法53条1項に規定する担保権が存する場合においてこれをなしうるものと規定されている。」とリース契約が解除される前であれば、担保権消滅請求が可能であることを前提として、再生手続開始前にリース契約が解除されており、「本件動産は、本件再生手続開始当時、既に再生債務者の財産ではなかったというべきであり、民事再生法148条1項の定める担保権消滅許可の申立てをなしうる場合に該当しない」として、結論としてはXの申立てを棄却しました。

⑷ 効果

再生債務者が金銭を納付することによって、担保権は消滅します152条2項)。

2 手続(148条~152条)

⑴ 手続の概要

担保権消滅許可の申立の手続の概要は以下のとおりです。

   時系列      留意点など
申立て(148条1項申立書には、目的物の価格を記載し(148条2項)かつ、根拠を記載した書面を提出します(民事再生規則71条1項)。
なお、価格は処分価格を指すものと解されます(民事再生規則79条参照)。
担保権者の意見聴取裁判所が担保権者から意見聴取を行います(法文上求められているものではありません。裁判所の裁量となります)。
許可決定決定書を担保権者に送達します(148条3項)。
→担保権者は即時抗告が可能です(148条4項
価格決定請求価格に異議がある場合、担保権者から、価格決定請求149条1項)が可能です。

この場合、以下の流れで進行します。
評価命令150条1項
評価人による評価(※)
裁判所の決定150条2項
→再生債務者及び担保権者は即時抗告が可能です(150条5項

(※)価格決定請求における担保権の評価額について、民事再生規則79条1項、2項は以下のように定めています。
1項 法第150条(財産の価額の決定)第1項の評価は、財産を処分するものとしてしなければならない。
2項 評価人は、財産が不動産である場合には、その評価をするに際し、当該不動産の所在する場所の環境、その種類、規模、構造等に応じ、取引事例比較法、収益還元法、原価法その他の評価の方法を適切に用いなければならない。
金銭納付152条1項
担保権消滅152条2項
金銭納付がされないと、許可は取り消されます(152条4項)。

金銭の納付があると、職権で登記が抹消されます(152条3項)。
このように、登記抹消は金銭納付後となりますので、担保対象物を担保にして、再生債務者が新たに資金調達をする場合には、この点を資金調達先に説明しておく必要があります(事前に後順位抵当権を設定することは許されます。)。
配当実施(153条

⑵ 手続にかかる期間

手続には最短で数週間、価格決定等の手続があれば数ヶ月から半年程度、即時抗告等があるとさらに時間がかかります。

一方で、その間にも再生手続は進行することから、再生債務者は、再生手続との関係に注意をして担保権消滅許可の申立てを行う必要があります(民事再生事件終了により、価格決定請求中であっても、担保権消滅許可の申立は却下されます)。

⑶ 価格決定請求にかかる費用負担(151条1項、4項)について

価格決定請求は不動産鑑定士に評価を依頼することから一定の費用がかかります。そこで、費用負担については以下のように定められています。

   場合分け       負担者
価格決定額≦申出額の場合価格決定請求者負担。 ただし、再生債務者が金銭納付せず、担保権消滅許可が取消された場合には、再生債務者負担となります。

担保権者は、価格決定請求を申立てる時点で手続費用を予納しています(149条4項)。そこで、手続費用が再生債務者負担となった場合には、当該担保権者には再生債務者に対する請求権が発生しますが、この場合の再生債務者に対する費用請求権は、共益債権となります。
価格決定額>申出額の場合再生債務者負担ただし再生債務者の負担は申出額と価格決定額の差額を上限とします

担保権者は、価格決定請求を申立てる時点で手続費用を予納しています(149条4項)。そこで、手続費用が再生債務者負担となった場合には、当該担保権者には再生債務者に対する請求権が発生します。
かかる請求権は再生債務者が裁判所に152条1項に基づき金銭納付した中から優先的に弁済を受けることができます(151条3項)。もっとも、再生債務者が納付する金銭は決定額なので(152条1項)、納付金額から手数料を控除したものについて被担保債権の弁済に充てられる過ぎず、オーバーローンの場合には、手数料は事実上別除権者負担となります(参考裁判例:東京地判H16.2.27)。

東京地判H16.2.27(再生)
裁判例の詳細を見る
生債務者Yが担保権消滅の許可を申立てたのに対し、当該担保権消滅許可の申立ての対象となった担保権者Xが200万円予納して価格決定請求を申立てました。裁判所の価格決定後、価格決定に基づきYから納付された金額から200万円がまずXに手続費用として配当され、差額がXに別除権の被担保債権として支払われました。
そこでXが、価格決定の予納金200万円が民事再生法119条2号、5号又は6号の共益債権であるとして、Yに対して支払を求めて提訴しましたが、本判決は、価格決定請求の申立に当たって担保権者が予納していた手続費用は、共益債権でなく一般債権(別除権不足額)になるとし、Xの請求を棄却しました。