このページでは民事再生手続における別除権協定について(内容や留意点など)、ご説明をしています

民事再生法(及び破産法)においては、担保権を別除権と呼びます。以下でも別除権という言い方をすることもあります。。
別除権は、再生手続に制約を受けずに権利行使をすることができます(53条2項)が、事業再生に必要な物に担保権が設定されている場合、別除権を行使されると、再生が困難になりますので、ので、担保権者と交渉して別除権協定を締結することが一般的です。

このページでは、法律名が明記されていなければ、条文は民事再生法です。

1 はじめに

別除権者は、再生手続によらず別除権を行使できます(53条2項)。

事業再生に必要な物に担保権が設定されている場合、別除権を行使されると、再生が困難になりますので、ので、担保権者と交渉するなどして、担保権の行使を食い止める算段が必要です。
具体的には、交渉により、担保物件評価額を(分割)弁済することを条件に、担保を解除することを内容とする別除権協定を締結するのが基本的な対応となります。
別除権協定とは、別除権者と交渉のうえ、別除権の行使を回避する条件を合意するものです。

なお、別除権協定は、リース債権者との間でリース物件に関して締結することもあります。また、任意売却をするにあたり一定額を再生債務者に組入れる合意をするために締結をすることもあります。

2 別除権協定の内容

⑴ 別除権協定の交渉のポイント

別除権協定の交渉のポイントは、担保物件の評価額弁済方法(弁済の確実性も含めて)です。

担保物件の評価額は、鑑定評価や業者の見積もり等を取得して交渉をすることが一般的だと思われます。担保物件の評価額を不当に高くすると、当該担保権者を不当に優遇しているものとして監督委員の同意が得られないので、客観的な第三者の鑑定書などが必要になります。なお、第三者に売却することが前提の別除権協定は、当該売買価格が客観的な価値となりえるので、鑑定等は行わないことが一般的です。

弁済方法は、資金繰りとの兼ね合いによって決まります。一般的には長期の分割弁済ですが、スポンサー等からの資金調達が可能である場合は、一括で弁済する合意をすることもあります。

⑵ 別除権協定の内容

別除権協定で一般的に定める内容は、以下のようなものです。

  入れるべき条項        留意点
担保物件の評価額(別除権評価額=受戻額の確認)及び不足額の確定担保評価額を、財産評定額と同一にする必要性はありませんが、不当に高額に設定することは、当該担保権者を優遇することになりますので留意が必要です。
⑴のとおり、通常は、鑑定評価などを取得して交渉しますので、その金額に近い金額になります。
弁済方法及び、弁済終了後の別除権解除合意 
弁済を条件とした別除権不行使の合意 別除権協定の内容を登記する事案は多くはありませんが、登記する場合は、法務局から監督委員の同意があったことの証明書を提出することを求められることがあります。
再生債務者に債務不履行があった場合や、破産手続に移行した場合の協定の効力に関する定め協定が解除又は失効した場合に、被担保債権が復活することを協定に入れておくことがありますが、かかる合意は有効と考えられます(参考判例:最判H26.6.5)。

最判H26.6.5(再生→破産) 終結後再生計画履行中に破産手続開始に至った場合の、別除権協定の効力について判示した裁判例
裁判例の詳細を見る
甲社は、民事再生手続開始申立てをし、民事再生手続中に、甲社所有の不動産に(根)抵当権を有していた金融機関Yらとの間で別除権協定を締結しました。なお、別除権協定には「別除権協定は,再生計画認可の決定の効力が生じないことが確定すること,再生計画不認可の決定が確定すること又は再生手続廃止の決定がされることを解除条件とする」との条項はありましたが、破産申立ての場合については触れていませんでした。甲社の民事再生手続終結後、再生計画案の履行中に、甲社の取締役2名により甲社の破産手続開始の申立てがされ(準自己破産)Xが管財人に選任されました。
当該不動産につき担保権実行がされたところ、Yら(正確にはYの一部は当初債権者の承継人)が従来の被担保債権額に従って配当を受ける内容の配当表が作成されたため、Xが、破産手続に先行した民事再生手続において甲社はYらとの間で、それぞれ別除権協定を締結し、これにより受戻価格が定められ、被担保債権の額が受戻価格相当額に減額されたから、受戻価格相当額から既払分を控除した額を超える部分につき、Yらに配当受領権は存在しないと主張して配当異議訴訟を提起しましたた。
第1審がXの請求を棄却、控訴審がXの請求を認めたため、Yが上告したところ、本判決は以下のように述べて、Xの請求を棄却する破棄自判をした。
「本件各別除権協定書には,本件各別除権協定の解除条件として,再生計画認可の決定の効力が生じないことが確定すること,再生計画不認可の決定が確定すること又は再生手続廃止の決定がされることという記載(本件解除条件条項)がある一方で,その再生計画の履行完了前に再生手続廃止の決定を経ずに破産手続開始の決定がされることは明記されていない。しかし,本件各別除権協定の内容からすれば,本件各別除権協定は,再生債務者である甲につき民事再生法の規定に従った再生計画の遂行を通じてその事業の再生が図られることを前提として,その実現を可能とするために締結されたものであることが明らかであり,そのため,再生計画の遂行を通じて事業の再生が図られるという前提が失われたというべき事由が生じたことを本件解除条件条項により解除条件としているのである。本件のように,再生計画認可の決定が確定した後3年を経過して再生手続終結の決定がされたが,その再生計画の履行完了前に破産手続開始の決定がされる場合は,もはや再生計画が遂行される見込みがなくなり上記の前提が失われた点において,再生手続廃止の決定がされてこれに伴い職権による破産手続開始の決定がされる場合(民事再生法194条,250条1項参照)と異なるものではないといえる。また,本件各別除権協定の締結に際し,本件のように再生計画の履行完了前に再生手続廃止の決定を経ずに破産手続開始の決定がされた場合をあえて解除条件から除外する趣旨で,この場合を解除条件として本件解除条件条項中に明記しなかったものと解すべき事情もうかがわれない。そうすると,本件解除条件条項に係る合意は,契約当事者の意思を合理的に解釈すれば,甲がその再生計画の履行完了前に再生手続廃止の決定を経ずに破産手続開始の決定を受けた時から本件各別除権協定はその効力を失う旨の内容をも含むものと解するのが相当である。
・・・甲はその再生計画の履行完了前に再生手続廃止の決定を経ずに本件破産手続開始決定を受けたものであるから,本件各別除権協定は,本件破産手続開始決定時から,本件解除条件条項によりその効力を失ったというべきである。そして,その結果,本件各担保権の被担保債権の額は本件各別除権協定の締結前の額から・・・弁済額を控除した額になり,本件配当表に記載された配当実施額はいずれもこれを超えないから,上告人らは配当を受け得る地位にあるといえる。
監督委員の同意を停止条件とすること別除権協定の締結は、監督委員の同意事項とされていることが一般的です。実際には、監督委員の同意を取ったうえで締結することが多いです。

事案によっては、以下の内容を検討する必要があります。

特殊な別除権協定の種類    留意点
集合動産譲渡担保にかかる別除権協定担保目的物につき再生債務者の自由処分を認める代わりに、集合物に流入する資産についての担保の存続を認め、将来にわたり一定の価額の資産を担保として確保する旨の合意を行なうことが多いようです。
無剰余の後順位担保権者との別除権協定別除権者は不足額が確定しないと再生債権の弁済が受けられない(160条1項)。したがって、無剰余が確実な後順位担保権者であっても、別除権協定と締結しなければ、弁済を受けられません。
全く弁済無しで担保権者が了解すればいいですが、そうでない場合は任意売却の場合のハンコ代程度の金額で合意する内容の別除権協定を締結することも可能だと考えられます(監督委員や裁判所の確認を事前に取る必要があります)。