このページでは、民事再生手続申立から開始決定までについてまとめています。なお、法人の民事再生手続を前提として記載しています。

申立をするためには申立要件を満たす必要があります。開始決定を得るためには、開始決定の判断基準を満たす必要があります。開始決定の効果として、例えば、再生債権者は個別的権利行使が原則として禁止されます。また、再生債務者には債権者に対する公平誠実義務が課されます。

このページでは、上記の内容について詳細を説明しています。最後に、民事再生手続に対抗して会社更生手続が申立てられた場合について説明をしています。

1 再生手続の申立要件

⑴ 申立要件(民事再生法21条)

開始決定事由がある場合に申立をすることができます(民事再生法21条、33条)。

開始決定事由は以下のとおりです。以下のいずれかの要件を満たすことが、開始決定事由となります。

破産手続開始の原因となる事実が生じるおそれがある場合
②事業の継続に著しい支障を来すことなく弁済期にある債務を弁済することができないとき

以上の要件のうち、①にある破産手続開始の原因については、⑵で詳細を説明します。

⑵ 破産手続開始の原因とは

破産手続開始の原因は、支払不能又は債務超過です(破産法15条1項16条。なお、支払停止支払不能を推定します(破産法15条条2項)。

支払不能とは、「再生債務者が、支払能力を欠くために、その債務のうち弁済期にあるものにつき、一般的かつ継続的に弁済することができない状態」をいいます(民事再生法93条1項2号)。

なお、支払停止とは、資力欠乏のため債務の支払をすることができないと考えてその旨を明示的又は黙示的に外部に表示する行為をいいます(最判S60.2.14)。

債務超過とは、債務者が、その債務につき、その財産をもって完済することができない状態をいいます(破産法16条

申立要件について争われた裁判例としては以下のリンク先をご参照下さい(いずれも破産手続における事案です)。

2 再生手続の申立権者(民事再生法21条)

申立権者は、債権者又は債務者です。

⑴ 債務者が申立られる場合

破産手続開始の原因となる事実が生じるおそれがある場合
又は
②事業の継続に著しい支障を来すことなく弁済期にある債務を弁済することができないとき
いずれの場合でも申立が可能です。

⑵ 債権者が申立てられる場合

破産手続開始の原因となる事実が生じるおそれがある場合にのみ、申立が可能です。

債権者による申立について、権利濫用などとして争われた裁判例があります。以下のリンク先をご参照下さい。

3 開始決定の判断基準

開始決定は、申立事由(民事再生21条)があり、かつ棄却事由(民事再生法25条)がないことが要件となります(民事再生法33条

⑴ 申立事由(民事再生21条

申立事由(民事再生21条)については、上記1記載のとおりです。

⑵ 棄却事由(民事再生法25条

民事再生手続申立の棄却事由は民事再生法25条の1項~4項に以下のものが定められています。

1項手続費用の予納がないとき
2項破産手続又は特別清算手続が係属し、その手続によることが債権者の一般の利益に適合するとき
3項再生計画案の作成、可決、認可の見込みがないことが明らかであるとき
4項不当な目的で手続開始の申立てがされたとき、その他申立てが誠実にされたものでないとき

棄却事由に関する裁判例は、以下のリンク先でご紹介しております。

⑶ 申立が棄却された場合

申立てが棄却された場合には、再生債務者は、即時抗告ができます(民事再生法36条1項
即時抗告は、送達日から1週間民事再生法18条、民訴332条、民法140条)、公告から2週間民事再生法9条)以内に行う必要があります。

なお、棄却決定について公告と送達の両方が行われた場合の不服申立期間(即時抗告期間)は、公告から2週間と解されています(最決H13.3.23)。

最決H13.3.23(破産) 開始決定に対する不服申立は、公告と送達がいずれも行われた場合には、公告から2週間を即時抗告期間とすべきであるとした判例

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債権者Yの申立てによるXに対する破産手続開始決定が平成12年5月15日になされ、同日Xに開始決定正本が送達されたのに対し、Xは同月25日に即時抗告を申立てました。なお、同月29日に、破産手続開始決定について官報公告がされていました。かかる状況に対し、原審は「送達を受けた日から1週間と公告のあった日から起算して2週間のうちいずれか先に終期の到来する期間内に即時抗告をしなければならない」として、即時抗告を却下したことから、Xが許可抗告をしたのが本件です。
本決定は、「破産宣告決定の送達を受けた破産者の同決定に対する即時抗告期間は、破産法112条後段の規定の趣旨、多数の利害関係人について集団的処理が要請される破産法上の手続においては不服申立期間も画一的に定まる方が望ましいこと等に照らすと、上記決定の公告のあった日から起算して二週間であると解するのが相当である(最高裁平12年(許)第1号同年7月26日第三小法廷決定・民集54巻6号1981参照)。そして、破産法108条、民訴法331条、285条ただし書によれば、上記決定の送達を受けた者が上記期間前にした即時抗告の効力を妨げない。」として、原決定を破棄・差戻しました。


最終的に棄却が確定すると、一般的には職権で、破産手続に移行します(民事再生法250条1項

4 開始決定の効果

開始決定による主な効果は以下のとおりです。

①保全処分の失効
②個別的権利行使の原則禁止
③強制執行手続等の中止
④再生債権に関する訴訟等の中断

開始決定の効果については、以下のリンク先で、より詳細な説明をしていますので、ご参照下さい。

5 再生債務者の立場(義務)

⑴ 再生債務者の債権者に対する公平誠実義務(民事再生法38条2項)

再生債務者は、債権者に対して公平誠実義務を負っています(民事再生法38条2項。したがって債権者を害する行為をすることが許されないのはもちろん、特定の債権者を優遇する処理をした場合、当該債権者に加えて、再生債務者(及び代表者)も責任を負う可能性があります(参考裁判例、東京地判S56.4.27、大阪地決H13.6.20)。

東京地判S56.4.27 私的整理の債権者委員長の公平誠実義務違反が認められた事例

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私的整理中の会社Xが、私的整理において債権者委員長を務めたYに対して、YがXの機械を転売して利得を上げたことにつき不法行為に基づく損害賠償を請求したところ、「債権者委員長たる・・・者として、X及び債権者に対して公平かつ誠実にその職務を行うべき義務を有する者として著しく信義にもとる行為であ」り、「Yは、不法行為による責任を負うべきで」あるとした。

大阪地決H13.6.20  一部の債権者に偏頗弁済を行ったことにより、再生手続が廃止された事例

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Xは、再生手続開始決定後、監督委員の同意を得ることなくX代表者及び同人の妻から借入れし、また甲らに対するX代表者の債務(Xの保証債務)の一部弁済、乙に対するX代表者の債務(Xの保証債務)の一部弁済、丙に対する偏頗弁済をしていました。再生計画案提出後、X代理人はX代表者の審尋期日において、Xが当該借入れ及び弁済並びに偏頗行為をしていたことは知らなかった旨陳述するとともに、再生計画案は履行の見込みがなく、決議に付するに値しないものであるから、本件再生手続は廃止されるべきであるとの意見を述べました。また監督委員は、当該借入れ及び弁済が、いずれも民事再生法193条1項2号に該当する行為であり、X代理人の指導、監督も期待できないとして、本件再生手続を廃止するのが相当であるとの意見を述べました(なお、X代理人は代理人を辞任しました。)。
そこで、本決定は以下のように判示し、再生手続廃止決定を行った。 「再生債務者の本件借入れ及び本件弁済は、いずれも民事再生法193条1項2号に該当する行為であり、しかも、本件再生手続開始直後から繰り返し行われてきたものであって、その態様や回数等に照らすと、再生債務者の義務違反の程度は重いといわざるを得ない。さらに、再生債務者は、・・・一部債権者に繰り返し偏頗弁済をしていたものであり、こうした諸事情を併せて考えると、再生手続に対する社会的信用を損なうこと甚だしく、この点からも、再生債務者の本件借入れ及び本件弁済は、到底看過できるものではないというべきである。・・・ところで、民事再生手続は高度に専門的で複雑な手続であり、再生債務者ひとりでは、自らに課された公平誠実義務を履行し、手続を円滑に進める(民事再生法38条、民事再生規則1条1項)ことは困難であるといわざるを得ず、その意味で代理人の役割が極めて重要であることはいうまでもない。ところが、本件における再生債務者代理人は、再生手続における代理人の職責を十分理解していたとはいい難く、提出された財産目録、報告書、画生計画案等の内容からして、手続の追行を再生債務者に任せきりにしていた感が否めないのであって、この点において、再生債務者に酌むべき点がないではない。しかしながら、この点を考慮したとしても、前判断のとおり、再生債務者の義務違反の程度は重く、本件再生手続を廃止するほかないと考える。」

⑵ 再生債務者、再生債務者の取締役等の監督委員等に対する説明義務

再生債務者、再生債務者の取締役等は、以下のとおり監督委員等に対して説明義務を負っています。

条文(民事再生法)   説明義務の内容等
59条1項監督委員等に説明義務があります。
63条、78条、83条管財人、保全管理人、調査委員への説明義務もあります。
258条1項2項上記につき虚偽報告をした場合に3年以下の懲役又は/及び300万円以下の罰金に処せられる可能性があります。

⑶ 管理命令について

「再生債務者の財産の管理又は処分が失当であるとき」などの場合は、裁判所の判断で、管財人が選任されることがあります(民事再生法64条)。

6 民事再生の申立に対して会社更生等が申立てられた場合

⑴ まとめ

再生債務者の民事再生の申立に対して、債権者が会社更生等を申し立ててくることがあります。このような場合は以下のとおり整理されます。

破産を申立てきた場合  原則として再生手続が優先します民事再生法26条1項、39条1項、184条)。
会社更生を申立てきた場合原則として会社更生手続が優先します会社更生法24条1項1号、50条1項、208条)。ただし、再生手続によることが債権者一般の利益に適合する場合には、再生手続が継続します(会社更生法41条1項2号)。
一般的には、会社更生手続において調査委員が選任され(会社更生法39条)、再生手続をそのまま進行させ、調査委員の報告に応じて、更生裁判所が対応を決定しています。

⑵ 参考裁判例

以下の裁判例は、いずれも調査委員の(最終)報告までに選任から数か月後を要しており、結果として会社更生手続開始の申立ては棄却されています。

大阪高決H18.4.26民事再生手続開始決定に対する会社更生手続開始の申立てが棄却された事例

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債務者Yが、自ら民事再生手続開始を申立て、開始決定がなされたのに対し、債権者Xらが会社更生手続開始を申立てたもののの棄却されたため、抗告しました。なお、この間に、Yの再生計画は認可決定がされています。
本決定は、「更生手続と再生手続のいずれが債権者の一般の利益に適合するかについては、更生手続と再生手続の制度の相違や双方の手続の進捗状況等を踏まえた上で、債権者に対する弁済の時期や額のみならず、事業継続による債権者の利益の有無、資本構成の変化等による債権者の企業経営参加の要否と可能性等を総合的に判断する必要があるといえる。」「また、株式会社の再建という観点から、会社更生法及び民事再生法を見ると、一般的には、経営者の交代、株式の減資等の組織変更や担保権の行使の制約の必要性、あるいは優先債権の権利変更の必要性がある場合は、更生手続によることが望ましいといえる。」としたうえで、ゴルフ会員債権者が会社更生手続を求めていないこと、認可された再生計画がゴルフ場利用権等の確保措置を講じていることなどから「本件においては、更生手続より再生手続による方が債権者の一般の利益に適合するというべきである」として、Xの抗告を棄却しました。

東京地決H20.5.15プレパッケージ型民事再生に対する会社更生手続開始申立てが棄却された事例

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ゴルフ場の経営等を行う甲社は、乙との間で予めスポンサー契約を締結した上、再生手続の開始申立てをし、再生手続の開始決定を得ました。これに対し、Xらは、甲について、会社更生手続開始及び調査命令の各申立てをし、更生裁判所は、弁護士丙を調査委員に選任し、同調査委員による調査を命じる決定をしました。甲社の再生手続は、手続が進められ、再生計画認可決定が確定したことから、会社更生法41条1項2号の事由の存否が問題となったのが本件です。
本決定は以下のように判示して、会社更生手続開始の申立てを棄却しました。「本件調査委員の・・・調査結果は、一件記録に照らしていずれも首肯することができ、特段不合理な点は認められない。・・・以上の検討結果によれば、本件においては、(1)スポンサー選定過程に明らかな不当性は認められず、買収価格も特段低廉でないなど現経営陣の経営が現に事業価値を毀損しているとはいい難いこと、〈2〉本件再生計画案は多数の債権者の賛成により認可確定しており、会員債権者の利益を害しているとはいえないこと、〈3〉本件再生手続開始申立ての直近の開始前会社の財産処分は否認権の対象となる行為に当たるものとは認められないこと、〈4〉何よりも、本件において特に重視すべきものと考えられる会員債権者の多数の意向が、本件再生手続において再生計画に従った弁済を受けることを希望するというものであることが示されたことなどが認められ、これらの事情を総合考慮すると、開始前会社の再建については、本件再生手続によることが債権者の一般の利益に適合するものと認められる。

東京地決H20.6.10民事再生に対する会社更生手続開始申立てが棄却された事例

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ゴルフ場を経営するYが再生手続の開始決定を得たのに対し、会員債権者Xらが会社更生手続開始、保全管理命令及び調査命令の各申立てをし、更生裁判所は調査委員による調査を命じる決定をしました。その後、再生手続は、再生債務者が提出した再生計画について、債権総額のうち74.38パーセント、有効投票者数の66.2パーセントの賛成を得て可決され、再生計画認可決定され確定したところ、本決定は、以下のように説示して、会社更生手続開始の申立てを棄却しましたた。
「(1)本件においては、開始前会社のスポンサー選定手続に明らかな不当性があるとまではいえないこと、(2)子会社である・・社を通じた経理操作や否認権行使の対象となる行為の存在などの問題点についても既に開始前会社によって対応策が講じられており、上記問題点等についての評価は本件再生手続における債権者の議決権行使に委ねるのが相当であること、(3)本件再生計画案は多数の債権者の賛成によって可決されその認可決定も確定しているところ、本件のようなゴルフ場の経営等を目的とする会社の再建手続において特に重視すべきものと考えられる会員債権者の多数の意向が、本件再生手続において再生計画に従った弁済を受けるというものであることが示されたことなどが認められる本件にあっては、開始前会社の再建については、本件再生手続によることが債権者の一般の利益に適合するものと認められ、当該判断を覆すに足りる的確な証拠は存在しない。・・・以上によれば、本件申立てについては、本件再生裁判所に現に係属する本件再生手続によることが債権者の一般の利益に適合するものと認められ、会社更生法41条1項2号所定の事由が存在するというべきである。」