このページでは、民事再生手続開始の棄却事由が争われた裁判例を紹介しています。

棄却事由は民事再生法25条の1項~4項に定められていますが、もっぱら、3項、4項が争われています。

1 開始決定棄却事由の確認

民事再生手続申立の棄却事由は民事再生法25条の1項~4項に以下のものが定められています。

1項手続費用の予納がないとき
2項破産手続又は特別清算手続が係属し、その手続によることが債権者の一般の利益に適合するとき
3項再生計画案の作成、可決、認可の見込みがないことが明らかであるとき
4項不当な目的で手続開始の申立てがされたとき、その他申立てが誠実にされたものでないとき

2 民事再生25条3項に関する裁判例

東京高決H12.5.17
申立棄却
再生債務者の担保権者等との交渉状況から「再生計画案の作成、再生計画の認可の見込のないことが明らかな場合に当たる」として、開始決定を認めませんでした。
東京高決H13.3.8
申立棄却
過半数の議決権を有する債権者が反対していることを理由に「本件において将来提出される再生計画案が可決される見込みはないことが明らかであり」として、開始決定を認めませんでした。

3 民事再生法25条4項に関する裁判例

札幌高決H15.8.12
(申立棄却)
給与所得者等再生手続開始申立てにつき、総債権の60%が破産法の非免責債権であることが「申立てが誠実にされたものでないとき」にあたるとされた事例
高松高決H17.10.25
(申立棄却)
再生債務者が申立直前に融通手形の振り出しを依頼したり、再生債務者代表者が申立後の債権者説明会に欠席するなどの事情が「申立が誠実にされたものでないとき」に当たるとされた事例。
東京高決
H24.9.7
(申立棄却)
連帯保証債務の取消しのみを目的とした申立であり、民事再生法25条4号に該当するとされた事例。
なお、 当該決定の後に、当該民事再生の申立をした役員らに対して株主が損害賠償請求をしたところ、当該決定の結論を覆しています(東京高決H26.4.24。判例集未登載。NBL1036号 27頁「再生申立権の濫用について」(山本和彦)参照)。このように、裁判体によって結論が分かれており、かなり微妙な事案でした。
東京高決
H24.3.9
(申立棄却)
担保権消滅許可制度を利用して根抵当権を抹消することを企図して民事再生手続開始を申立てたことにつき、「本件申立は、本来の目的から逸脱した濫用的な目的で行われた場合であって、不当な目的で再生手続開始の申立がされたとき(同法25条4号)に該当するというほかない。」とされた事例。
東京高決
H19.9.21
(開始決定)
申立5か月前の融資申し込みにあたり書類を偽造したことが、民事再生手続申立が濫用的な目的で行われた場合に当たるということはできないとされた事例。
東京高決H19.7.9
(開始決定)
「申立が誠実にされたものでないとき」とは、申立てが再生手続の本来の目的から逸脱した濫用的な目的で行われた場合をいうと解すべきであり、粉飾決算や再生債務者代表者の財産隠匿行為など、再生手続を行う過程で解決されるべき事項について債務者に至らぬ点があったとしても、不誠実と言うことはできないとされた事例。
東京高決R3.1..9
(開始決定)
「『不当な目的で再生手続開始の申立てがされたとき、その他申立てが誠実にされたものでないとき』とは、真に再生手続の開始を求める意思や再生手続を進める意思がないのに、専ら他の目的(一時的に債権者からの取立てを回避して時間稼ぎを行ったり、その間に資産の隠匿を図ったりすること等)の実現を図るため、再生手続開始の申立てをするような場合など、申立てが上記のような再生手続本来の目的から逸脱した濫用的な目的で行われた場合をいうものと解するのが相当である。」としたうえで、悪意で加えた不法行為に基づく相当額の損害賠償債務を負っていることや、破産・免責手続における免責不許可事由に該当する可能性のある事実が認められることなどが再生手続本来の目的から逸脱した濫用的な目的で行われたものと認めることはできなとした事例

4 その他(再生計画案不認可決定確定後の再度の再生申立の可否が問題となった事案)

裁判例内 容
東京高決H17.1.13  
開始決定
「申立権の濫用に当たるといえるような特別の事情があればともかくとして、第1次再生手続において再生計画の不認可の決定が確定したことに基づいて本件申立が一般的に不適法になるとはいえない」とし、また、再生手続と更生手続の調整は後者において図ることが予定されているとして、「更生手続開始の申立があったことを再生手続を開始するかどうかの判断に当たって考慮する必要はな」いとして、開始決定を認めました。