このページでは民事再生手続開始決定の効果についてまとめています。
開始決定の主な効果は、①保全処分の失効、②個別的権利行使の原則禁止、③強制執行手続等の中止、④再生債権に関する訴訟等の中断ですが、その内容を、説明しています。
1 はじめに
開始決定の主な効果は以下の2~6のとおりです。なお、再生手続開始決定は、決定の時からその効力を生じます(民事再生法33条2項)。つまり、開始決定に対する即時抗告があっても執行停止はされません。
管理命令(民事再生法64条)が発令された場合を除き、開始決定は、再生債務者の業務遂行権にも影響を与えません(民事再生法38条1項)
裁判所は、開始決定に伴い、公告(民事再生法35条1項、10条)、嘱託登記(民事再生法11条1項)などを行います。
2 保全処分の失効
保全処分は、開始決定により効力を失います(民事再生法30条1項)。
この点誤解が多く、再生債務者の従業員に説明しておく必要があります。例えば、開始決定により保全処分で認められていた少額債権の弁済が出来なくなりますが、従業員が開始決定後も保全処分が有効であると誤解をして、少額債権を裁判所の許可を取らずに支払ってしまうと再生法違反となります。
3 個別的権利行使の制限
再生債権者は、個別的権利行使が原則として禁止されます(民事再生法85条1項)。再生債権は再生手続の中で処理をされることになります。
ただし、開始決定は、所有権等に基づく取戻権(民事再生法52条)の行使には影響を与えません。また、開始決定は、別除権(担保権のことです)の行使(民事再生法53条)にも影響を与えません。
4 強制執行手続等の中止
強制執行手続等、破産手続は中止され、特別清算手続は失効します(民事再生法39条)(参考裁判例:大阪高判H20.2.28、大阪高判H22.4.23)。
中止だけでは、手続の効力が残ってしまうため、強制執行手続等の効力を取り消すためには別途取消命令を得ることが必要です(民事再生法39条2項)。なお、強制執行の効力は、計画案の認可決定確定で失効します(民事再生法184条)。これは、再生計画の効力が発生しなかった場合に当該債権者に不利益を与えないためです。
大阪高決H20.2.28(再生) 再生手続開始決定の強制執行停止のための担保金に対する効力を判示した裁判例
Xが、Y(再生債務者)に対し150万円に満つるまで債権差押及び転付命令を得たのに対し、Yが担保金を立てて執行停止決定を得た状態で、Yが再生手続開始決定を得た。XがYの申立てによる強制執行の停止によって損害を被ったとして、担保金の還付を受けるために、Yに対して損害賠償債権を有することの確認を求めたところ、第1審がXの請求を認容したため、Yが控訴した。本判決は、以下のように判示し、Xの請求を概ね認めた。 「Xは、本件執行停止決定がなければ、本件差押転付命令の効力が発生し、優先的に150万円の弁済を受けることができたことが認められる。ところで、Yの本件執行停止申立てによりXが受けた損害の範囲は、本件債権差押転付命令により優先的に弁済を受けることができたはずの150万円から本件民事再生手続により受けた配当の差額であると解される。・・・Xが本件担保に対する上記優先弁済権を行使する場合には、Yが再生手続開始決定を受けたこと及び再生計画認可決定が確定したことは、何らの影響を及ぼすものではない」
大阪高判H22.4.23(再生→破産) 債権差押命令に基づく取立権を有する者が、民事再生手続開始前に第三債務者から受領していた手形の手形金を再生手続開始後に受領することが不当利得にあたるとされた事例
Yは甲社(再生後破産会社)に対する確定判決に基づく債権差押命令を得たうえで、第三債務者から受取手形等を受領し、甲社の民事再生手続開始決定後に、Yは当該手形金を受領した。甲社の再生手続廃止・破産手続開始決定後破産管財人に選任されたXが、Yに対し当該手形金を受領したこと等が不当利得に当たるとして提訴したところ、Xの請求が概ね認められた。
5 開始前の原因に基づく登記の対抗力
開始前の原因に基づく登記につき、開始後に登記・登録等をしても対抗力は認められません(民事再生法45条)。
ただし、登記権利者が再生手続開始につき善意の場合は除かれます(民事再生法45条1項ただし書)が、再生手続開始の公告後は悪意が推定されます(民事再生法47条)
6 訴訟の中断
再生債権に関する訴訟等は中断します(民事再生法40条1項)。