このページではプレパッケージ型民事再生に関する裁判例をご紹介しています。

プレパッケージ型民事再生が問題となった裁判例として以下のものがあります。

東京地判H15.3.28(再生):スポンサー選定手続が公平誠実義務に反するとして争われたものの、違法性はないとした裁判例

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民事再生手続を申し立てた株式会社甲が経営するスポーツクラブの会員であったXらが、再生債務者甲の代表取締役であったY1及び甲の再生手続申立代理人であった弁護士であるY2に対し、Yらは、甲の親会社の利益のみを考え、再生手続によりできるだけ早く事業譲渡するという方針の下、入札に応じてきた株式会社丙に事業譲渡する方針で再生手続を進めて、結局丙に事業譲渡したのであるが、その際に、Yらには、公平義務、忠実義務、誠実義務違反等があったなどとして、不法行為に基づき、精神的慰謝料として各50万円ずつの損害賠償を請求したが、本判決は概要以下のように判示して請求を棄却しました。
営業譲渡先の選定方法について
「Yらは、甲に対する再生手続により営業を譲渡するとの方針の下、再生手続開始の申立て前に、甲と戊銀行との間で、営業を譲り受けるスポンサーを探すことについて、アドバイザー契約を締結し、戊銀行において、・・・スポーツクラブ運営会社大手5社の間で非公開の入札を行ったところ、4社が入札に応じ、丙が最高の条件で入札したため、甲と丙は、営業譲渡についての秘密保持契約を締結し、さらに、丙に独占優先交渉権を与えるとの契約を締結した後、甲は、再生手続開始の申立てを行い、結局、丙を営業譲渡先とする再生計画案が認可決定され確定したことが認められる。
Yらは、甲の営業を継続すれば、毎月1000万円以上の資金流出が予想されること、・・・戊銀行から、甲のような高級スポーツクラブの運営をするには、大手スポーツクラブ運営会社でないと無理であるとのアドバイスを受け、これに従って、相手方を絞り込んで非公開の入札方式によって営業譲渡先を選定することとして、5社による入札を行ったことが認められる。」
「甲の営業の継続により毎月1000万円以上の資金流出があること・・・から、速やかに再生手続開始の申立てを行い、かつ、営業譲渡も行う必要があったことが認められ、・・・、甲の再生手続開始の申立てあるいは営業譲渡を公表することにより、新たな会員の退会申出を誘発し、あるいは退会を申し出た会員に混乱を生じさせる可能性が認められ、また、高級スポーツクラブの営業という特殊性からして営業譲渡先の選定が容易ではなく、また、再生手続開始後営業譲渡先が決まらず再生計画案を提出できない場合には、再生手続が廃止され(民事再生法191条)、破産に追い込まれる危険性もあったことが考えられるのであり、これらの事情を考慮すると、Yらが、戊銀行との間に営業譲渡のアドバイザー契約を締結し、そのアドバイスを受けて、再生手続開始の申立て前に、非公開の入札方式により、営業譲渡先の選定を進め、再生手続開始の申立て前の時点では、営業譲渡及び再生手続開始の申立てを公表しなかったことは、合理的な措置であると認められ、Yらの営業譲渡先の選定方法に関しこれを違法とする特段の事情があるとは到底認められない。・・・よって、営業譲渡先の選定についてのXらの主張は理由がない。」
営業譲渡の価格決定方法について
「営業譲渡価格については、スポーツクラブ運営会社大手5社の間で入札を行い、その中で最も高額の入札を行った丙が申し出た価格で丙に営業譲渡することを決定し、同決定については、監督委員から調査を命じられた会計士によっても合理的な水準であるとされ、監督委員によっても適正と評価できるとの意見が述べられたのであり、Yらが行った営業譲渡価格の決定方法は合理的な措置であると認められ、これを違法とする特段の事情があるとは認められない。Xらは、事前に鑑定評価を行わず、最低入札価格を提示しなかったことについて批判するところ、Xらの指摘する方法も営業譲渡価格決定の一つの方法であるが、これを行わなかったことをもって違法とする特段の事情があるとすることはできない。・・・以上によれば、営業譲渡の価格決定方法についてのXらの主張は理由がない。」

東京地決H20.5.15(再生):プレパッケージ型民事再生に対して、会社更生が申立てられたものの棄却された事例

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ゴルフ場の経営等を行う甲社は、乙との間で予めスポンサー契約を締結した上、再生手続の開始申立てをし、再生手続の開始決定を得ました。これに対し、Xらは、甲について、会社更生手続開始及び調査命令の各申立てをし、更生裁判所は、弁護士丙を調査委員に選任し、同調査委員による調査を命じる決定をしました。
甲社の再生手続は、手続が進められ、再生計画認可決定が確定したことから、会社更生法41条1項2号の事由の存否が問題となったところ、本決定は以下のように判示して、会社更生手続開始の申立てを棄却しました。
「本件調査委員の・・・調査結果は、一件記録に照らしていずれも首肯することができ、特段不合理な点は認められない。・・・以上の検討結果によれば、本件においては、(1)スポンサー選定過程に明らかな不当性は認められず、買収価格も特段低廉でないなど現経営陣の経営が現に事業価値を毀損しているとはいい難いこと、〈2〉本件再生計画案は多数の債権者の賛成により認可確定しており、会員債権者の利益を害しているとはいえないこと、〈3〉本件再生手続開始申立ての直近の開始前会社の財産処分は否認権の対象となる行為に当たるものとは認められないこと、〈4〉何よりも、本件において特に重視すべきものと考えられる会員債権者の多数の意向が、本件再生手続において再生計画に従った弁済を受けることを希望するというものであることが示されたことなどが認められ、これらの事情を総合考慮すると、開始前会社の再建については、本件再生手続によることが債権者の一般の利益に適合するものと認められる。」

東京地決H19.1.24(再生):プレパッケージ型で民事再生を申立てたにもかかわらず、結局事業譲渡契約を履行できなかったため、スポンサー予定者が民事再生申立代理人に対して損害賠償をした事例

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再生債務者甲社は、Yを代理人として、再生債務者甲社のプレパッケージ方式による民事再生手続において営業譲渡を受ける予定で設立されたXとの間で事業譲渡契約を締結しました。Xが甲社に3000万円を支払った後に、甲社につき民事再生手続開始決定がなされたが、結局、当該事業譲渡は実現しなかったため、XがYに対して、損害賠償請求をしました(その後甲社は破産手続に移行した)。
本判決は、「Xは、Yが本件営業譲渡契約の履行を怠ったと主張するが、そもそも、本件営業譲渡契約の当事者は、甲社であって、Yではないのであり、営業譲渡契約上の義務の不履行があったと仮定しても、その責めは甲社が負うべきものであって、YがXとの間で、Yの義務として当該義務を負担しているとする根拠は明らかでなく、YがXに対して、Yの義務として何らかの約束をした事実は、これを認めるに足りる証拠がないことは前示のとおりである。本件営業譲渡が実現しなかった経緯につき認定し得る事実は前記のとおりであり、これらの経緯の中で、Xに対する不法行為責任を発生させるような義務違反行為がYにあったと認めることができないことは、前示のとおりである。・・・多数の不動産がかかわる倒産物件である本件施設を買収対象とする以上、種々の利害関係人の調整に困難が伴い、限られた期限内に決着がつかないことも当然あり得ることであって、その結果、民事再生手続が廃止され、その後の破産手続においてXが営業譲渡先として選定されず、Xが自己の出捐を回収することができない結果が生じたとしても、それは、予測されるリスクが顕在化したものというほかはなく、このような事情は、Yはもとより、Xにおいても承知の上であったと解され、Yが、Xに対し、Yの義務として完全な所有権を引き渡すことを約束するなどということは考えられないところである。」として、Xの請求を棄却した。