このページでは、再生計画で、特定の債権を劣後化することの可否/劣後化しないことの適否に関する裁判例について、説明をしています。

1 はじめに

 民事再生法155条1項は「再生計画による権利の変更の内容は、再生債権者の間では平等でなければならない。ただし、不利益を受ける再生債権者の同意がある場合又は少額の再生債権若しくは第84条第2項に掲げる請求権について別段の定めをし、その他これらの者の間に差を設けても衡平を害しない場合は、この限りでない。」と定めています。
 この155条1項ただし書を一つの根拠に、民事再生手続を開始するに至った責任の一端が親会社等にあると考えられる場合、再生債務者が親会社等の再生債権を親会社の許可なく劣後化して扱うことが許されるか、逆に、親会社の再生債権を劣後化しなければならないのではないか(=劣後化しないことが許されるか)が争われることがあります。
 会社更生事件において、親会社の株式及び更生債権を、減資率・弁済率において劣位に扱ったことについて、会社破綻の原因が親会社にあることを理由として、衡平に反しないとした裁判例があります(福岡高決S56.12.21)が、この結論は必ずしも一般化できないものと考えられます参考裁判例:名古屋高決S59.9.1)。
 逆に、親会社債権を劣後化しないことは、(原則として)違法にはならないと考えられています(東京高決H23.7.4東京高決H22.6.30)。

2 裁判例の詳細

福岡高決S56.12.21(会社更生)
Xの事実上の子会社であった甲社の更生管財人Yは、Xの甲に対する債権を、他の更生債権者より弁済率を低くし、かつXの保有する甲株式について他の株式よりも償却割合を高くした更生計画案を提出し、認可決定を得ましたた。そこでXが、平等原則違反等を理由として、即時抗告をしましたたが、本判決は、株式償却率について「Xと甲社とは最も支配従属関係の著しい部類の親子会社であり、甲社の経営が破綻するに至つた原因もXにあるのであるから、Xの株主としての権利につき他の一般株主との間に、本件更生計画が定めた程度の差を置いたからといつて不当とはいえず」とし、債権弁済率について「Xと甲社との関係からすると、Xの甲社に対する債権はいわば内部的債権であつて、むしろXを特別利害関係人として一般の更生債権者より劣位に置くのが公正、衡平の原則に合致するものと考えられ」として、Xの主張を認めませんでした。

名古屋高決S59.9.1(会社更生)
甲社の更生管財人は、旧経営者Xらの更生債権のみを免除するなどの内容の更生計画案を提出し、認可決定を得ました。そこで、Xらが即時抗告をしたところ、本決定は、「本件記録によれば、Xは更生会社をして更生手続開始に至らしめたことにつき経営上の責任を有することは否定できないが、単に経営上の責任があるというだけでは、Xの前記債権につき前記差別を設ける事由にならないというべきである。・・・その他記録を検討しても、Xの前記債権と他の一般更生債権との間に前記差異を設けても衡平を害しない事由は認められないから、本件更生計画の前記定めは法229条に違反し違法であるというべきである。」などとしました。

東京高決H23.7.4(民事再生)
親会社債権を劣後的に扱わなかった民事再生計画案に対し、再生債権者Xが親会社債権を劣後的に扱わないことが不認可事由に該当するとして即時抗告しました。本決定は、「民事再生法155条1項ただし書は、再生計画において特定の債権者の不平等取扱いを定めることを認める(許容する)ものではあるが、これを義務付けるものではない。したがって、仮に、解釈上、特定の債権者の不平等取扱いが義務付けられる場合があることが認められるとしても、それは、これを認めないと著しく正義に反するような例外的な場合であるというべきである。」として抗告を棄却しました。

東京高決H22.6.30
親会社債権を劣後的に扱わなかった民事再生計画案に対し、再生債権者Xが親会社債権は実質資本として拠出されているものであり劣後的に扱わないことが不認可事由に該当するとして即時抗告しました。本決定は、「グループ会社から資金を借り入れ、これを他のグループ会社に貸し付けることが、通常の経済活動から外れるものということはできず、したがって、これを出資としなければならない理由はないのであるから、相手方に対する資金の貸付けが実質的に出資と同視するものと評価することはできないものというべきである。」として抗告を棄却しました。