このページでは再生計画で権利変更を定める際に注意すべき再生債権について、説明をしています。
再生計画案に権利変更(=債務カット率や、弁済方法など)を定める際に、留意すべき債権としては、①少額債権、②敷金返還請求権、③別除権不足額が未確定の別除権付債権、④再生債務者が保証人であった場合の債権などがあります。
条文は、法律名がないものは民事再生法の条文です。
1 少額債権に関する定め
保全処分の例外ないし、再生手続内で少額債権の弁済(85条5項前段)を行っている場合、債権者間の公平を考えて、計画案でも当該弁済額ないしそれより大きな金額の少額債権全額の弁済を定めるのが一般的です。
少額債権を全額弁済する場合には、債権額の多い債権者のほうが弁済額が少額とならないように、権利変更の条項に注意する必要があります。その点を考慮して、少額債権として弁済する額については、少額債権を超える債権者にも一律に弁済をして、残額について一定割合の弁済をする旨の計画案とすることが多いと思われます。
手続開始後に再生債権の一部が譲渡や代位弁済されるなどして債権者数が増える場合があります。この場合に、両者に少額債権を弁済するか、元の債権額で按分弁済するかなどについて法は扱いを定めていません。どの時点の再生債権者を基準に少額弁済をするかも計画案に定めておくべきと考えられます。
2 敷金返還請求権について
92条3項が定める6か月分賃料の共益債権化部分及び賃借人の退去の際の債務(未払賃料債務や原状回復費用債務)と、権利変更の関係は明確ではありません。詳細は以下のリンク先をご参照ください。
そこで、再生計画案で、敷金返還請求権の権利変更において、権利変更と滞納賃料や原状回復費用の充当との関係を明確に定めておくべきと考えられます。
3 別除権不足額が未確定の別除権付債権がある場合の再生計画案
再生計画案には、別除権不足額が確定してない別除権付債権について、別除権不足額が確定した場合の扱いを定める必要があります。
別除権者は、不足額が確定した時に限り、確定不足額について再生計画の定めに従った権利の変更を受け、変更後の権利を行使できます(182条)。つまり不足額が確定しない限り弁済を受けることができません。
ただし、根抵当権については、極度額を超える部分については仮払いを定めることが可能です(160条2項、182条ただし書)。この場合、当該定めに係る根抵当権を有する者から、書面による同意を得ておく必要があり(165条2項、規則87条1項)、計画案提出の際にその書面を提出しなければなりません(規則87条2項)。
4 再生債務者が保証人であった場合の権利変更の定め方について
再生債務者が他の債務の連帯保証をしている場合、保証契約に特段の定めがない限り、主債務が遅滞しない限り、保証債務も期限の利益を有することから、権利変更の定め方は検討が必要となります。なお、銀行取引については、保証人が法的整理を開始した場合に保証人に履行請求できる旨定められることが多く、そのような条項のある保証契約であれば、問題となることはあまりありません。
定め方としては、保証債務は主債務が弁済を怠った場合に、権利変更後の弁済額を支払う旨記載するのが原則と考えられますが、事案に応じて、他の債権者との公平を害さないように適切な条項を検討する必要があると考えられます。
5 債権届未了の債権が多数ある場合の留意点
債権届が未了の債権が多数ある場合(例えば貸金業者の民事再生で、過払金返還請求権が多数発生しているものの届出がされていない場合など)、これらの債権についても再生計画案に沿って弁済する旨を明記することがあります。
そのような場合は、遅延損害金の発生時期が問題となるため、弁済時期も明確にしておくべきと考えられます(参考判例 最三小判H23.3.1)。
最判H23.3.1(再生) 届出のない再生債権について、請求があれば再生債権の確定を行った上で、届出があった再生債権と同じ条件で弁済する旨を定める再生計画において、遅延損害金の発生時期(弁済期)が争われた判例