このページでは、民事再生における監督委員の役割について整理しています。
法人の民事再生手続において、ほぼ全件に監督委員が選任されます。監督委員は、いわば裁判所に代わって再生債務者の再生手続を監督する立場になります。
なお運用は、裁判所によっても、多少異なる可能性があります。以下は東京地裁を念頭において、管理人が経験した範囲で記載しています。
1 監督命令の概要(監督委員の主な役割)
民事再生手続の申立がされた場合、保全処分の命令と同時に監督委員(民事再生法54条)が選任されることが一般的です(通常は弁護士です)。なお、監督命令の内容は、嘱託登記の対象となります(民事再生法11条3項1号、54条1項・2項)。
監督委員は必要的機関ではありませんが、例えば東京地裁では、再生債務者申立事件では原則として全件について監督委員を選任しているということです。監督委員は、いわば裁判所に代わって再生債務者を監視する役割をにないます。
2 監督委員の主な役割
監督委員の具体的な主な役割は以下のとおりです。
⑴ 開始決定前まで
・再生手続開始に関する意見書の提出
・共益債権化の承認(民事再生法120条2項)
⑵ 主に計画案認可決定前まで
・監督命令により指定された事項に対する同意(民事再生法54条2項)
・再生債務者の業務、会計帳簿等の調査(民事再生法59条)
・再生債務者が行う財産評定の確認。監督委員は補助の会計士を選任して、実際には補助の会計士が確認を行うことが多いです。
・再生計画案の調査、評価、意見書の作成
⑶ 認可決定後
・再生計画の履行状況の監督(民事再生法186条2項)
⑷ 手続を通して
・再生債務者からの報告の受領(民事再生規則22条)
・再生債務者の不正行為、手続違反の有無の調査(民事再生法25条、193条)
・否認権の行使(民事再生法56条、135条1項)
2 承認事項・報告事項
監督命令では、裁判所の許可に代わる監督委員の承認事項や、監督委員に同意を得なければならない同意事項が指定されます。さらに、監督委員に対して報告しなければならいない事項が定められることもあります。
具体的に承認事項・報告事項とされることが多いのは以下のものになります。
⑴ 承認事項とされることが多いもの
共益債権化の裁判所の許可に代わる承認(民事再生法120条2項)
⑵ 報告事項とされることがあるもの
・役員報酬の改定、役員賞与等の一時金の支給
・役員の退任及び退任慰労金等の支給
・従業員の給与改定、賞与の支給
・従業員の解雇、解雇予告手当の支給等
・会社組織変更に関する行為
3 同意事項
⑴ 同意事項として指定されるもの
同意事項として指定されるものには以下のようなものがあります(民事再生法41条参照)。
・常務に属する取引以外の、再生債務者の財産に関する権利譲渡、担保設定、賃貸その他一切の処分
・再生債務者が有する債権について、取立以外の譲渡、担保設定その他一切の処分
・常務に属する取引以外の財産の譲り受け
・貸付け
・金銭の借入れ及び保証
・債務免除、無償の債務負担行為及び権利放棄
・別除権の受戻し
・スポンサー契約の締結、FA契約の締結
・双方未履行双務契約の解除
・訴えの提起
⑵ 同意を得ないで行った行為の効果
同意事項につき、再生債務者が同意を得ないで実行した場合は無効とされています。
ただし、善意の第三者には対抗できません(民事再生法54条4項)。さらに、同意を得ないで再生債務者が同意事項を行うことは再生手続廃止事由であり、手続が廃止される可能性があります(民事再生法193条1項2号)。
⑶ 同意申請書の具体的な運用
同意申請の具体的な運用は概ね以下のとおりです。
同意申請の記載内容 | 同意申請書には、同意申請を求める必要性及び許容性を記載するのが一般的です。 許容性については資金繰り上問題がないこと及び債権者の公平を害さないことなどを記載することが多いです。 |
同意取得の具体的運用 | メールないしFAXで監督委員に同意申請を送り、了解を得たうえで、同意申請を郵送ないし持参して押印を得ることが多いです。 裁判所によっては、同意申請書の写しを月次報告に添付する方法により裁判所に報告するように指示されます。 |
⑷ 同意が必要な期間
監督委員の同意が必要な期間については、再生計画認可決定までとされるケースが多いように思われますが、終結決定までとされるケースなどもあるようです。