このページは、特別清算の申立前に確認すべき事項を説明しています。
特別清算は破産のようなドラスティックな手続ではなく、例えば、債権者の多数の賛成を要したり、税金などは全額支払うことなどが予定されています。そこで、特別清算手続で処理ができるかどうか、事前に確認をする必要があります。
最後に破産手続と特別清算手続の比較も載せています。
1 特別清算検討段階での確認事項
特別清算の手続を進めるにあたっては、株主の3分の2、債権者の債権額の3分の2以上の賛成が必要です。また債権額等について争いがないことが、手続の前提と言えます。このように、申立前にある程度確認をすべき事項があります。
特別清算を検討する段階で確認すべき事項をまとめると、概要2のとおりとなります。特別清算で進めることが難しい場合には、破産を検討することになります。
2 具体的な確認事項
⑴ 株主総会で解散決議が行えること
特別清算の申立を行うには、株主総会の特別決議が必要であることから、株主の3分の2以上の賛成が得られることの確認が必要です。
⑵ 債権者の3分の2以上の賛成が得られること
協定案成立のためには、債権者の3分の2以上の賛成が得ることが必要です。なお、裁判所からも申立時にこの点の確認がされるのが一般的です(参考裁判例:横浜地裁S38.4.2)。
横浜地決S38.4.2(特別清算):協定成立の見込みがないことを理由に、特別清算の申立てが却下された裁判例
⑶ 原則として、債権額や存否につき争いの無いこと
破産のような債権確定手続が存しないことから、債権の存否や債権額に争いがある場合、通常の手続(訴訟手続等)が必要になり、時間と費用がかかりますので、特別清算に馴染みません。
なお通常清算の事例ですが、存否又は額について争いのある債権にかかる債務について、弁済のための財産を留保せずに残余財産を分配する内容の決算報告を承認した株主総会を無効とした裁判例があります(東京地判H27.9.7、東京高判H28.2.10控訴棄却、最決29.10.4上告棄却)。
東京地判H27.9.7
⑷ 協定外債権(公租公課、労働債権等)につき全額払えること
公租公課などの協定外債権については、全額払うのが原則です。したがって、協定外債権が全額払えない場合には破産手続きを利用せざるを得ません。
⑸ 資産処分等の残務が少ないこと
清算人には、破産管財人に与えられている双方未履行双務契約の解除権などは与えられておらず、すべて話し合いで処理をしていくことが必要となります。従って、契約関係が多数残っている場合は、特別清算を進めることは困難なことが多いです。
また、特別清算には否認制度がないため、否認権行使が必要であれば、破産手続によるしかありません。
⑹ 会社債務に対する連帯保証人がいる場合に、連帯保証債務の処理方針が固まっていること
代表者等が特別清算申立予定の会社債務を連帯保証をしている場合には,代表者等個人の処理方針を検討、確定する必要があります。
なお、協定案の効力は保証人に及びませんが(破産法571条2項)、個別に和解した場合には、保証人と別途合意しない限り、保証人にもその効力は及ぶことになります。
3 破産手続と特別清算手続の比較
破産手続と特別清算手続を比較すると以下のようになります。
項目 | 破産 | 特別清算 |
---|---|---|
根拠法 | 破産法 | 会社法 |
対象 | 個人及び、法人その他の社団・財団 | 株式会社のみです (特例有限会社は対象外です:整備法35条) |
手続遂行者 | 裁判所が選任した管財人。管財人には第三者が認められます。 | 原則として株主総会が選任した(代表)清算人。清算人には第三者性は認められません。 |
申立権者 | 債権者、破産者自身、取締役等 | 清算人、債権者、監査役、株主(清算会社に申立権はありません) |
株主総会決議 | 不要 | 必要(会社法471条) |
否認制度 | 有ります(破産法160条以下) | 有りません。 |
相殺禁止 | 有ります(破産法71条以下) | 有ります(会社法517条、518条) |
債権確定手続き | 有ります(破産法111条以下) | 有りません。 |
少額債権の弁済 | 有りません。 | 有ります(会社法537条2項) |
債権者の手続参加 | 原則として関与の程度は低いです。 | 協定案成立に一定の債権者の同意が必要となります(会社法567条)。 |
担保権実行 | 制限されません。ただし、担保権消滅請求(破産法186条以下)があります。 | 制限されません。ただし中止命令が可能です(会社法516条)。 |