このページは、特別清算開始命令の要件について説明をしています。

1 開始命令の要件

⑴ はじめに

開始命令の要件としては、積極的要件として手続開始原因会社法510条)が存すること及び、消極的要件として棄却事由(会社法514条)が無いことが必要です。内容は以下のとおりです。なお、却下に対しては、即時抗告することが可能です(会社法884条1項、890条5項)。

⑵ 手続開始原因 (会社法510条

・清算の遂行に著しい支障を来すべき事情があること(1項)。

・債務超過(清算会社の財産が、その債務を完済するのに足りない状態をいう)の疑いがあること(2項)。

⑶ 棄却事由 (会社法514条

・手続費用の予納がないとき(1号
・清算結了の見込みがないとき(2号
・債権者一般の利益に反することが明らかであるとき(3号
・不当な目的で申立てがされたとき、その他申立てが誠実にされたものでないとき(4号

2 参考裁判例

破産及び民事再生に関する裁判例ですが、参考裁判例を載せておきます。なお、破産や民事再生も、開始決定の要件は特別清算とほぼ同じです。

⑴ 手続開始原因に関する裁判例

東京高裁S56.9.7(破産)債務超過の判断について、代表者個人の保証等の事実を斟酌する必要はないとしました。

⑵ 棄却事由に関する裁判例

・棄却された事例

 裁判例   要    旨
 東京高決12.5.17(再生)再生債務者の担保権者等との交渉状況から、民事再生法25条3号の「再生計画案の・・・認可の見込みがないことが明らかである」とされた事例
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医療法人に対する再生手続開始申立てを棄却した決定に対して、再生債務者が即時抗告をしましが、本決定は「本件記録によれば、抗告人は、その資金残高が僅少であり、当面の資金繰りにも窮していること、抗告人の主たる収入源である診療報酬請求権は、平成12年7月末日までに請求が予定される社会保険診療報酬請求権については、大口債権者である甲銀行に対し債権譲渡がされており、また、平成12年2月から平成13年1月までに請求が予定される社会保険診療報酬請求権、平成12年4月から平成13年3月までに請求が予定される国民健康保険診療報酬請求権については、いずれも乙社会保険事務所により差押えがされていて、抗告人の経営を維持するにはこれらの診療報酬請求権を抗告人の現実の収入として確保する必要があるところ、甲銀行、乙社会保険事務所ともに差押の解除などに応ずることには消極的であり、抗告人の再生手続を支援する見込みが乏しいこと、また、抗告人は、回収の見込のない多額の不良債権を抱えており、その処理の見通しもないことが認められる。・・・上記事実によれば、抗告人の再生の見込みは困難なものというべきであり、再生計画案の作成、再生計画の認可の見込のないことが明らかな場合に当たるものというべきある。」として抗告を棄却した。
 東京高決H13.3.8(再生)過半数の議決権を有する債権者が反対していることを理由に民事再生法25条3号の「再生計画案の・・・可決の見込みがないことが明らかである」とされた事例
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債権者XがYに対して破産手続開始申立てをしたのに対し、Yは民事再生手続開始の申立てを行い、平成12年12月22日に再生手続開始決定がなされました。
それに対し、XはYの再生債権の過半数を有しており(この点、開始決定後に行われた債権届出や債権調査の結果によって抗告審は判断することができました)、かつXはYの提出する再生計画案に反対することは確実であることから再生計画認可の見込みがないことは明らかであるとして、Xが即時抗告をしました。
本決定は「Xの議決権数は総議決権数の過半数を超えていることが明らかであり、かつ、Xは、Yに対する破産宣告の申立てをしていて、Yにつき民事再生手続が開始されることに強固に反対の意思を表明していることに照らせば、本件において将来提出される再生計画案が可決される見込みはないことが明らかであり、民事再生法25条3号に該当する事由があるといわざるを得ない。」として、原決定を取消しました。
 高松高決H17.10.25(再生)再生債務者が申立て直前に融通手形の振り出しを依頼したり、再生債務者代表者が申立後の債権者説明会に欠席するなどの事情において、民事再生法25条4号の「申立てが誠実にされたものでないとき」に当たるとされた事例
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再生債務者Yの再生手続開始決定に対して、債権者Xが即時抗告をしました。本決定は以下の事実を認定しました。
・申立を行う取締役会決議をした後、1ヶ月間申立をせず、その間に債権者X等からガソリン等を仕入れていた。
・Yの専務取締役は、申立て直前に債権者Xに融通手形の振出しを依頼し、かつ受領した。
・再生債務者代表者が申立後の債権者説明会に欠席し、かつ、再生債権者からY代表者と連絡が取れないとの苦情が監督委員に寄せられていた。
・Yは、債権認否書を期限までに提出しなかった。
そのうで、「本件再生手続開始の申立てに至る経緯、同申立て後から本件再生手続開始の決定、そして、現在に至るまでの間の相手方(特に相手方代表者)の態度は、再生債権者に対する関係のみならず、裁判所に対する関係でも不誠実極まりないものというほかなく、民事再生法25条4号にいう『申立てが誠実にされたものでないとき』に当たると認めるのが相当である」としてYの再生手続開始申立てを棄却しました。

・棄却されなかった事例

  裁判例    要    旨
 東京高決H19.7.9(再生)民事再生法25条4号の「申立てが誠実にされたものでないとき」とは、申立てが再生手続の本来の目的から逸脱した濫用的な目的で行われた場合をいうと解すべきであり、粉飾決算や再生債務者代表者の財産隠匿行為など、再生手続を行う過程で解決されるべき事項について債務者に至らぬ点があったとしても、不誠実と言うことはできないとされた事例
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Xは、経営が悪化し、これを粉飾決算で糊塗して金融機関から資金の借入れをしたりしたが、これも続かず、平成18年10月24日、民事再生手続開始の申立てをしました。Yは、Xに対する請負代金請求訴訟を提起していましたが、再生裁判所に対し、Xの本件申立ては法25条4号の不誠実な申立てに当たるので、棄却を求める旨の上申書を繰り返し提出しました。その後、再生裁判所は関係者の審尋などを行い、平成19年4月12日、法25条4号の不誠実な申立てに当たるとして、申立てを棄却する旨の決定をし、また、職権で、Xについて保全管理人による管理を命じ、保全管理人を選任しました。
なお、原決定が、民事再生法25条4号に当たると判断した理由は、〈1〉Xは、粉飾決算をしていたので、実際の経営実態を的確に説明すべき義務を負うところ、この説明義務を尽くしていないこと、〈2〉X代表者は、個人としても民事再生手続開始の申立てをしているところ、その申立ての直前に、自己の不動産を両親に売却し、その代金をもって母に対する債務の返済をしているが、これは財産隠匿行為と推認されること、〈3〉本件申立てに異議を述べているYについて、内情を開示されて追及されるのを避けるため、債権者一覧表に掲載しなかったということなどでした。
Xが抗告をしたところ、以下のように本決定は説示し、原決定を取り消しました。
「民事再生手続が、上記のとおり、再生手続の開始原因を緩和するなど利用しやすい倒産処理制度として設けられた制度である上、債権者の多数の同意や裁判所の監督を受けて行われる手続であることに照らすと、再生手続開始申立ての棄却事由として定められている『不当な目的で再生手続開始の申立てがされたとき、その他申立てが誠実にされたものでないとき」(法25条4号)とは、真に再生手続の開始を求める意思や、真に再生手続を進める意思がないのに専ら他の目的(一時的に債権者からの取立てを回避し、時間稼ぎを図ること等)の実現を図るため、再生手続開始の申立てをするような場合など、申立てが再生手続の本来の目的から逸脱した濫用的な目的で行われた場合をいうものと解すべきであって、再生手続を行う過程で解決されるべき事項について債務者に至らぬ点などがあったとしても、これをもって不誠実ということはできず、もとより、債務者の行為に対する懲罰という意味あいなどを含ませることもできないものというべきである。たとえ債務者に粉飾決算や財産隠匿行為等の問題点がうかがわれるとしても、これらは、再生手続が開始された後において、監督委員の監督、否認権の行使、最終的には再生計画案に対する債権者の決議等によって決せられれば足りるのであり、再生手続の開始を否定する事由には当たらないというべきである。」
 「以上の観点から、本件につき法25条4号の事由の有無を検討すると、・・・、確かに、Xは、粉飾決算をしていたところ、監督委員や裁判所から求められた資料をすべて提出していないなど、多額の出金の使途等自己の財務状況の実態を十分に説明しておらず、また、Xの債権者であるYはXの再生手続開始に反対しているところ、Xは、Yを債権者名簿に記載しない上、債権者説明会の通知もしなかったのである。しかし、Xの上記行為は、・・・、いずれも法25条4号の事由を根拠付けるものということはできないというべきである。また、X代表者は、本件申立ての直前に自宅である土地建物を父母に売却し、その代金によって母に対する貸金債務を返済しているが、これはX代表者の個人的な財産の処理であって、Xに関係する事実ということはできない。以上のとおり、原決定が指摘する事実によっては法25条4号の事由の存在を認めることはできず、一件記録を精査しても、他に、同事由を認めるに足りる事実は認められない。」
東京高決H19.9.21(再生)申立5か月前の融資申し込みにあたり偽造書類を作成したことが、民事再生手続申立てが濫用的な目的で行われた場合に当たるということはできないとされた事例