このページは、特別清算手続における、(代表)清算人の職務や裁判所の監督について説明をしています。

基本的には(代表)清算人は、通常の株式会社における(代表)取締役と考えればいいですが、いくつか特有の制約があります。

1 (代表)清算人の職務等

(代表)清算人の職務等をまとめると、概要以下のとおりです。
なお、清算人は破産管財人等と異なり第三者性は有しないと一般的には解されているようです。もっとも、この点は有力な異論もありますので、確定とは言えません。仮に第三者性が否定されれば、権利変動について債権者等は対抗要件なく清算会社(清算人)に主張可能ですし、契約当事者間の抗弁等について、相手gタは特別清算開始後も清算人に主張することが可能と考えられます。

項 目内容(条文はすべて会社法
選任原則取締役、定款で定める者又は株主総会決議で選任(478条1項)。なお、従前の取締役が清算人なる場合、従前の代表取締役は当然に代表清算人となります(483条4項)。
例外478条2項ないし4項
任期定款や株主総会で任期を定めない場合、辞任、解任(479条)がない限り清算結了までの任期となります。
職務・清算会社を代表します(483条)。
・清算会社の業務執行権を有します(482条)。清算人会がおかれない場合,清算人の過半数で意思決定を行い,各清算人が業務執行をします。 なお、清算人の業務執行権は、清算の目的の範囲内においてのみ効力を有するものと考えられます(最判S42.12.15
・清算会社とは委任関係です(478条6項、330条)。

最判S42.12.15清算会社は清算の目的の範囲内においてのみ権利能力を有するとした判例
裁判例の詳細を見る
金融業を行っていた甲社の解散によりXが清算人となったところ、Xは甲社の営業中のYに対する残債権を甲社からXに譲渡するとともに、Yに対して従来と同様の方法により貸付けをしていたため、XがYに対して弁済を求めて提訴しました。第1審、控訴審ともXの請求を認めたためYが上告したところ、 本判決は以下のように説示して、原判決を破棄差し戻しました。
「右判示事実は、Xが、個人として貸付等をしたのか、あるいはまた甲社の清算人として貸付等をしたのか、原判決の判文上不明確である。もし甲社の清算人としてした意味とすれば、甲社は、すでに解散しており、清算の目的の範囲内においてのみ、権利能力を有するにとどまり(なお、清算人の職務権限についての商法四三〇条一項、一二四条一項参照)、したがつて、解散による清算中の会社が、解散前と同様に、当然に貸付等を継続してすることができると解することはできず、右貸付等が清算事務の遂行に必要であつて会社の清算の目的の範囲内に属する理由を明らかにすることを要するものというべきところ、この点について説示を欠く原判決は、理由不備の違法がある。」
主な義務概ね取締役と同様の義務を負っています。具体的には以下の通りです
・債権者、清算会社、株主に対して、公平かつ誠実に清算事務を行う義務を負います(523条)。
・清算会社に対して、任務懈怠による損害賠償責任を負います(486条、488条1項)。
・第三者に対して損害賠償責任を負う場合があります(487条、488条1項)
・競業取引、自己取引、利益相反取引を行う場合には株主総会又は清算人会の承認が必要です(482条4項、489条8項)。
報酬特別清算の場合には、通常清算と異なり、定款又は株主総会決議でなく(482条4項、361条1項)、報酬は裁判所が定めます(526条

2 裁判所の監督

⑴ 裁判所の監督の内容

裁判所は必要な調査をすることができ(会社法520条)、また調査命令を発令することや(会社法522条、533条、534条)、監督委員を選任すること(会社法527条)が可能です。

また、代表清算人は、以下の行為をする場合は、裁判所の許可(又は監督委員の同意)が必要とされています。

条   文内   容
会社法535条1項/会社非訟事件等手続規則33条・(100万円を超える)財産の処分・借財・訴えの提起・和解又は仲裁合意・権利放棄
・その他裁判所の指定すること
会社法536条1項事業の全部又は重要な一部の譲渡
会社法500条2項前段債権申出期間内の弁済(協定外債権の弁済、担保付債権の弁済についても適用されるので注意が必要)
会社法537条2項・少額の協定債権の弁済
・担保権によって担保される協定債権の弁済

⑵ 裁判所への提出書類

以下の書類は、(必要な場合には株主総会で承認を得たうえで)裁判所へ提出をしなければなりません。

種  類具体的な内容等
解散日の財産目録及び貸借対照表株主総会の承認を得たうえで(会社法492条、会社法施行規則144条、145条)、裁判所に提出しなければなりません(会社法521条)。なお、処分価格によって作成しなければならないとされています(会社法施行規則144条2項、145条2項)。
各清算事業年度の貸借対照表及び事務報告監査役の監査(会社法495条1項)、清算人会の承認(会社法495条2項)、株主総会の承認等を得て(会社法497条)、貸借対照表を裁判所に提出しなければなりません(会社非訟事件等手続規則26条)。
会社法520条に基づく裁判所の報告命令によるもの・解散日とは別に開始命令日における比較貸借対照表及び財産目録の作成を指示されることがあります。
・月次報告書を提出するように指示されることがあります。

なお、解散日の財産目録及び貸借対照表、各事業年度にかかる貸借対照表、事業報告書及び附属明細書については保存義務があります(会社法492条4項、496条1項、494条3項)。

3 その他の清算人の職務

清算人は清算会社の資産を換価処分し、協定外債権を支払い、協定案の可決を目指すのが職務となります。清算人には、破産法で破産管財人に認められているような特則は少なく、民法、商法及び会社法等に基づき、処理を進めることとなります。

主な特則としては、以下の2点が挙げられます。

⑴ 役員責任査定(会社法545条)

清算会社は、清算会社の役員等に対して、通常の損害賠償請求訴訟より簡便な、損害賠償請求権の査定の裁判を申立てることができます(会社法545条1項)。査定の裁判とは、役員の責任追及につき簡便な手続きを定め、責任追及の実効性を確保するための制度です。なお、査定決定に不服がある場合、異議の訴えが可能です。

役員責任査定を利用した場合の役員に対する責任追及の流れは概要は以下のとおりとなります。

時系列内    容
保全処分等(必要に応じて)・役員の財産に対する保全処分(会社法542条
・役員責任免除禁止処分(会社法543条):役員の責任を株主総会決議等で免除することを禁止する保全処分
・役員責任免除の取消(会社法544条):役員の責任が株主総会決議等で免除されていたものの取消しを求めるもの
役員責任査定申立(会社法545条請求⇒審尋期日(会社法899条3項)⇒裁判所の決定(会社法899条4項
訴訟・査定決定に不服がある者は異議の訴えが可能です(会社法858条)。
・異議の訴えがなければ査定は確定します(会社法899条5項)。
・清算会社が訴えを提起する場合は、裁判所の許可が必要とされています(会社法535条1項3号)。

⑵ 事業譲渡(会社法536条)

清算会社は、裁判所の許可により事業譲渡をすることが可能です(会社法536条1項)。

この場合、株主総会の特別決議は不要であり、反対株主の買取請求権は行使できません(会社法536条3項)。