このページは、特別清算開始命令の効果について説明をしています。

特別清算手続の開始命令の主な効果は、①債務の弁済・相殺の制限と、②個別的権利行使の制限になります。

1 特別清算開始命令の主な効果

特別清算開始の主な効果は以下のとおりです。

⑴ 債務の弁済・相殺の制限

債権申出期間が満了するまでは、弁済できません(会社法500条1項)。

債権申出期間満了後は弁済が可能となりますが、原則として債権額の割合に応じた弁済をしなければなりません(会社法537条1項)

・相殺につき、一定の制限があります(会社法517条、518条)。相殺に関する制限は以下のリンク先をご参照下さい。

⑵ 個別的権利行使の制限

債権者は、個別的権利行使が禁止され、また、既になされている強制執行、仮差押、仮処分等は中止し(会社法515条1項本文)、特別清算開始命令の確定とともに効力が失われます(会社法515条2項)。
(参考裁判例:東京高裁S54.8.8、東京地裁H10.10.19)

東京高裁S54.8.8(特別清算):特別清算開始決定を受けた会社に対して、給付判決をすることができるとした裁判例

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Xが、特別清算が開始されたYに対して債権の支払を求めて提訴した事案で、本判決は「Yが商法上の特別清算開始決定を受けたことは争いがないから、Yに対する強制執行は商法433条、383条2項により許されないけれども、Yに対する無条件の給付判決をなすことは、差支えないと解される。すなわち、Yの債権者が当該給付判決を債務名義として強制執行に及んだ場合に、Yは執行法上の不服申立により右執行を阻止すれば、右法条の目的とするところを達成できるものと考えられるからである。」としました。

東京地裁H10.10.19(特別清算):特別清算手続の開始決定の確定によって、債権差押命令の効力は失われるとした裁判例

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Xが甲社の不動産につき競売を申立てをしたところ、売却許可決定を得て、平成10年3月12日が配当期日に指定されました。Xの債権者YがXの競売申立てにかかる請求債権を差し押さえたため、競売の執行裁判所は、配当期日に不動産の売却代金から執行費用を除いた全額をYに配当する配当表を作成したため、Xは配当表につき異議を述べたうえで、平成10年3月20日に特別清算開始の申立てを行い(同年5月7日に開始決定確定)、配当異議訴訟を提起しました。 本判決は、「Xに対する特別清算手続の開始決定が確定したことにより、本件債権差押命令事件の効力は失われ(商法433条、383条参照)、Yの本件債権差押命令事件の債権差押命令に基づく取立権は消滅したものというべきである。そうすると、Xの本件競売事件の申立てに係る請求債権の取立権は存在したこととなるから、Xは、配当異議の申出権を有するものということができる。したがって、Xが異議申出権を有しないことを理由とする本案前の主張は、その前提を欠くものというべきである。・・・前記一認定の事実によれば、本件債権差押命令事件の効力が失われたことにより、Yは右債権差押命令に基づく取立権及びこれに基づく配当受領権を喪失したものということができる。そうすると、Yは、本当配当表記載の配当を受ける資格を有しないものといわざるを得ない。したがって、本件配当表には、X主張の過誤が存することとなる。」としてXの請求を認めました。

ただし、一般の先取特権その他一般の優先権がある債権に基づく強制執行、仮差押え、仮処分等は効力は失われません(会社法515条1項ただし書)。

2 開始命令の効果に関する補足

  • 裁判所は、開始命令に伴い、職権で公告会社法890条1項・885条1項)、通知会社法890条2項)、嘱託登記会社法938条1項1号)などを行います。
  • 開始命令に対しては、清算株式会社に限り即時抗告することが可能です(会社法884条1項、890条4項)。開始命令に対する即時抗告には、執行停止の効力があります(会社法884条2項)。
  • 特別清算開始の命令があった場合は、申立てを取り下げることはできなくなります。また、会社法540条2項、541条2項による保全処分がされたときは、取下げには裁判所の許可が必要となります(会社法513条)。