このページは、特別清算手続申立のの準備について説明をしています。

特別清算は破産とは異なり、税金などはすべて支払えることが前提となります。破産ほどドラスティックではなく、かなりゆるやかな処理になります。そこで、ある程度、準備を行ってから申立をするのが一般的です。準備すべき事項をまとめました。

ア 従業員関係(解雇、労働債権の支払など)

特別清算申立前に従業員を解雇するか、従業員が残っている場合には、申立後適切な時期に解雇をする必要があります。

労働債権は全額を協定外債権会社法515条3項)として支払う必要があります

ただし、以下のようなものについては、労働債権とみなすことが困難と解されますので、少額債権の弁済として支払うなど、適宜適切な方法による支払を検討する必要があります。

 社内預金       社内預金は「雇用関係に基づき生じた債権」(民法308条)に該当しないと解される(札幌高判H10.12.17)ため、協定債権として扱われると考えられます。

札幌高判H10.12.17(破産) 社内預金は「雇用関係に基づき生じた債権」(民法308条)に該当しないとした裁判例
裁判例の詳細を見る
Xは甲社に長年勤め、取締役の時点で、甲社につき破産手続開始決定がなされ、Yが破産管財人に選任されました。Xは、破産手続において、社内預金を「優先権のある破産債権」として届け出ましたが、Yは、全額について異議を述べたため、Xは、管財人Yを被告として債権確定訴訟を提起しました。第1審は、Xが取締役就任前までに発生した部分につきXの請求を認容したため、Yが控訴したところ、本判決は以下のように説示し、原判決を変更し、Xの請求を棄却しましたた。
「社内預金は、労基法によって、労働者の保護のために一定の条件の下で認められ、その保全措置も賃確法、同施行規則で定められているところ、特に、その保全措置のうち、労働者の使用者に対する社内預金の払戻債権を被担保債権とする質権又は抵当権を設定する方法は、社内預金返還請求権について、商法295条の先取特権【管理人注:当時の商法295条は「身元保証金ノ返還ヲ目的トスル債権其ノ他会社ト使用人トノ間ノ雇傭関係ニ基キ生ジタル債権ヲ有スル者ハ会社ノ総財産ノ上ニ先取特権ヲ有ス」と定められていました】が認められるならば、保全措置として特に設ける必要のないものであることからすると、それらの保全措置規定は、社内預金返還請求権が、商法295条の先取特権を有する優先債権に該当しないために、特に設けられたものと解するのが相当である。
また、社内預金は、労基法上、労働契約に附随してするものは禁止されており、労働者の任意の委託によってされるものが認められているところ、破産会社の社内貯蓄金管理規程上も、希望者について社内預金を取り扱うとされているのであって、社内預金は雇用契約を契機とするものとはいえ、必ずしも雇用契約に基づくものとは認められない。そして、Xは、・・・その任意の意思に基づいて社内預金を開始し、かつ、破産会社が破産宣言を受けた平成9年2月25日(争いがない。)の前月まで継続したものと推認される。 ・・・社内預金返還請求権は、商法295条の「雇傭関係に基づき生じた債権」ではなく、会社に対する他の一般債権と異なるところはないものと解するのが相当であり、本件預金債権は優先権を有する破産債権に該当するものとは認められない。
Xは、社内預金は賃金及び賞与から組み入れられた実質的未払賃金であり、また、雇傭関係から直接生じた債権であって、先取特権を有する優先債権に該当する旨主張するところ、破産会社の社内貯蓄金管理規程によると、預金は従業員が破産会社から支払われる給料又は賞与を源泉とするとされ、また、本件預金はXの給料及び賞与から天引きされたものである。
しかし、前記のとおり、Xは、その任意の意思に基づいて、給料及び賞与の一部を社内預金としたものである上、給料等からの天引きが預金者によって選択可能な方法とされていることは、前記のとおりであり、その目的は、継続的な預金にあっては、断続的な預金の場合には必要とされる入金伝票を作成することなどの手続を省略し、簡単な方法で預金できるようにすることにあると考えられ、預金者の便宜のために認められたものであることは明らかであって、給料等から天引きがされていることをもって、本件預金が実質的未払賃金であるとか、本件預金債権が雇傭関係に基づき生じた債権であるということはできない。」
使用人の会社に対するその他の債権労働債権とは認められず、特段の事情のない限り、協定債権として扱うべきと考えられます。

2 公租公課の支払

公租公課は協定外債権(会社法515条3項)として全額支払わなければなりませんので、延滞税等を避けるためにも、公租公課は早めに支払っておくべきと考えられます。なお、仮に全額が払えない(と見込まれる)場合には開始障害事由(会社法514条2号)として特別清算が開始されない可能性が高くなります。

3 申立書の作成、その他の準備

申立書の作成その他、準備すべき事項は概要、以下のとおりです。

⑴ 管轄の確認

原則として、清算会社の本店所在地を管轄する裁判所に管轄があります(会社法868条1項)。
親法人に特別清算等が係属している場合、子法人も当該裁判所を管轄とすることができるなどの例外が認められています(会社法879条)。

⑵ 申立書の作成及び提出

・申立書に記載すべき事項は会社非訟事件等手続規則2条に列挙されています。
・主な添付資料は、会社非訟事件等手続規則3条、4条に列挙されています。

裁判所から、総債権額の3分の2以上の債権者による特別清算申立てについての同意書を添付するように求められることがあります。

⑶ 連帯保証人の処理の準備

・会社債務の連帯保証人には、債権者から問い合わせが入るので、準備状況を説明する必要があります。
・会社債務がある金融機関にある連帯保証人個人の口座についても相殺されてしまうので注意が必要です。

4 必要に応じて保全処分等の準備をします。

・保全処分等が必要なケースは少ないと考えられますが、必要と判断される場合には、準備します。
・保全処分は、以下のものがあります。
・なお、保全処分は、開始後に申立をすることも可能です。清算人又は清算会社に申立権が与えられています。

   種  類       内容など
保全処分(会社法540条弁済禁止等の保全処分、処分禁止・占有移転禁止の仮処分など
中止命令(会社法512条破産手続を中止する場合(ただし破産手続開始決定が出ている場合は不可)
強制執行、仮差押え、仮処分を中止する場合
株主名簿の記載等の禁止命令(会社法541条株主が変更されることにより、清算手続を迅速に進めることが困難になることを防ぐ必要がある場合に申立てが行われます。
担保権実行中止命令(会社法516条、891条債権者の一般の利益に適合し、かつ、担保権を実行した申立人に不当な損害を及ぼすおそれがないものと認められることが要件です(参考裁判例:東京高裁S51.5.6)。
担保権者が担保権を処分する期間指定(会社法539条当該期間中に処分をしないと、担保権者は権利を失います(会社法539条2項)。
役員の財産に対する保全処分(会社法542条役員責任査定をする可能性がある場合に行われます。 なお、対象となる役員等には、退職した者も含まれます。
役員等の責任の免除禁止(会社法543条清算会社役員の責任は、清算会社の総株主の同意(会社法424条)、株主総会の決議等(会社法425条、426条)で全部又は一部を免除することが可能ですが、これを禁止する処分です。なお、清算会社は、開始申立前1年以内にした役員の責任の免除を、訴え又は抗弁により取り消すことができます(会社法544条)。