このページは特別清算における、相殺禁止規定を説明しています。

清算会社の債権者は、原則として相殺が可能ですが(民法505条)、相殺が禁止される場合があります(会社法517条1項)。さらに、例外の例外として相殺が許される場合もありおます(会社法517条2項)。

一方で、清算会社の債務者が、後から債権を取得し相殺を主張することは、原則として相殺が禁止されますが(会社法518条1項)、例外があります(会社法518条2項)。

1 はじめに

⑴ 相殺禁止の規律

債権者が相殺できる場合には、制限があります。

清算会社の債権者は原則として相殺が可能である(民法505条)ことを前提に、相殺が禁止される場合を定めています(会社法517条1項)。さらに、相殺禁止の例外を設けています(会社法517条2項)。

清算会社の債務者が、後から債権を取得し相殺を主張する場合についても、相殺が禁止される場合を定めています(会社法518条1項)。さらに、相殺禁止の例外を設けています(会社法518条2項)。

⑵ 破産法との比較

破産法における相殺禁止と特別清算における相殺禁止の条文は、ほぼ同内容です。整理すると以下のとおりです。

内  容破産特別清算
清算会社(破産者)の債権者が,後から債務を負担した場合の相殺禁止破産法71条会社法517条
清算会社(破産者)の債務者が、後から債権を取得した場合の相殺禁止破産法72条会社法518条

ただし、会社法には破産法67条2項に該当する条文がないことから、その点は異なります。具体的には、債権者の債権が停止条件付債権で、手続き開始後に停止条件が成就した場合の相殺の可否が問題となります(参考判例:最高裁判所47.7.13)。

産法67条2項
「破産債権者の有する債権が破産手続開始の時において期限付若しくは解除条件付であるとき、又は第百三条第二項第一号に掲げるものであるときでも、破産債権者が前項の規定により相殺をすることを妨げない。破産債権者の負担する債務が期限付若しくは条件付であるとき、又は将来の請求権に関するものであるときも、同様とする。」

最判S47.7.13(会社整理) 会社整理手続きにおいて、手続開始後に停止条件が成就した場合、相殺は禁止されるとしました(会社整理は、破産法67条2項を準用していませんでした)

裁判例の詳細を見る
X(会社整理会社)に対する債権者Yは、Xに対して貸金債権と手形債権を有していたところ、貸金債権についてXの不動産に譲渡担保を設定していました。Xにつき会社整理が開始された後に、Yが譲渡担保を実行したところ、被担保債権が対象不動産の金額より小さかったことからYはXに対する清算義務を負担することとなりました。XはYに対して、当該清算金の支払いを求めて提訴したところ、Yは手形債権による相殺を主張して争いました。本判決は、以下の通り述べてXの請求を認容しましたた。
「株式会社の整理については、商法403条1項により破産法104条1号が準用されて、会社の整理開始前の原因に基づき会社に対し債権を取得した債権者は、会社の整理開始ののち会社に対して債務を負担しても、その債権をもつて会社の右債権と相殺することはできないとされているのであるが、その法意は、破産の場合におけると同様会社整理の場合においても、会社の債権者が会社に対しその整理開始後に債務を負担した場合、これと自己の有する債権とを相殺することにより会社の債権者間における平等的比例弁済の原則に反するような結果をもたらす弊害を防止しようとするにあると解される。このような法意から考えると、右にいう整理開始後債務を負担したときとは、その負担の原因または原因発生時期のいかんには関係がなく、債務を現実に負担するにいたつた時期が整理開始後である場合を意味し、たとえ停止条件付債務を内容とする契約が整理開始前に締結された場合であつても該契約締結によつて債務を負担したものということはできず、条件が成就することによつてはじめて債務を負担するにいたるものというべきであつて、整理開始後に条件が成就したときは、そのときに債務を負担したものとして相殺は禁止されるものと解すべきである。・・・本件についてこれをみるに、・・・債務者Xにおいて、履行期である同年七月三一日に右債務の履行を遅滞し、よつて、債権者Yが本件物件の引渡を受け、昭和40年8月15日右約定による換価処分をして清算した結果、同日現在剰余金114万9500円の返還債務が発生したものであるところ、債務者Xは、昭和39年11月ごろその営む毛織物類の製造販売等の業務の経営状態が悪化したため一般に支払を停止し、昭和40年7月7日大阪地方裁判所において会社整理開始決定を受けたが、債権者Yは、同年8月16日ごろその主張の本件手形金債権(最終弁済期同年3月5日)を自働債権とし、右剰余金債務を受働債権として相殺する旨の意思表示をしたものである。これによれば、右剰余金返還債務は、貸金債務の不履行に基づく本件物件の換価処分清算による剰余金の発生を停止条件とする契約に基因するものであり、右契約は会社整理開始決定前に成立したけれども、右条件の成否確定前には剰余金返還債務はいまだ発生せず、整理開始決定後に条件が成就したときはじめて債権者Yは債務者Xに対し右剰余金返還債務を負担するにいたつたものというべきであり、前記条項にいわゆる債権者が会社の整理開始後債務を負担したときに該当するものであ」る。

2 会社法517条による相殺禁止(清算会社の債権者による相殺の禁止) 

特別清算手続開始決定時に相殺適状にあれば、債権者は原則として、相殺が可能です(民法505条)。

会社法517条1項は、債権者が、特別清算手続開始後等に清算会社に対する債務を負担した場合の相殺を禁止する旨を定めています。

さらに、会社法517条1項に基づき、相殺が禁止される場合であっても、同項2号から4号まで(=特別清算開始後以外)については、受働債権(=債権者にとっての債務)が以下の場合には相殺が許されます。

これらの詳細は、以下のリンク先をご参照下さい。

3 会社法518条による相殺禁止(清算会社の債務者による相殺の禁止)

会社法518は、清算会社の債務者であった者が,清算会社に対する債権を取得した場合の相殺を禁じる旨の規定です。

会社法518条1項各号は、債務者が、危機時期以降に清算会社に対して債権を取得した場合の相殺禁止を規定しています。

会社法518条1項に基づき、相殺が禁止される場合であっても、同項2号から4号まで(=開始後以外)については、自働債権(=清算会社に対する債権)が以下の場合には相殺が許されます。

これらの詳細は、以下のリンク先をご参照下さい。