このページでは私的整理による再建方法について、整理をしています。

私的整理による再建方法は、近時進化を遂げており、日々更新されていると言っても過言ではありません。このサイトにおけるご説明も、もしかしたら、少し古い情報かもしれません。なるべくアップデートするようにしております、

1 私的整理による再建方法を行う場合の対象債権者

私的整理による再建方法とは、限られた債権者(多くの場合、金融債権者)のみを対象にしてリスケや債権カットを行うことにより、債務負担を減少させる方法を指します。取引債権者を巻き込みませんので、事業棄損が少なく、結果として、金融債権者も債務者が法的手続をとる場合よりも回収が増えることが多いと言われています。

私的整理を行う場合の債権者の範囲に、特段の決まりはありませんが、以下のように整理できます。多くの場合、金融債権者のみを対象とします。

債権者の分類    私的整理において対象とすることの適否
金融機関必ず対象となる先です。
金融機関を相手に平等の条件としないと、各金融機関の稟議が通らないことが多いです。
なお、信用保証協会付債権がある場合信用保証協会を対象とすべきかについて検討をする必要がありますが、信用保証協会も取り込んでおくべき事案が多いと考えられます。

なお、金融機関の債権がサービサーに譲渡されている場合は。サービサーを対象に取込む必要があります。
ノンバンク金融機関と同様に、いずれも対象とすべきと考えます。
リース業者原則として対象外と考えられます。
ただし、機械設備等のリースについては、残高にもよるが、対象とすべき場合もあると解されます。
社債権者原則として対象外と考えれます。
ただし、金融機関が保証している、あるいは、金融機関が社債を所持している場合には、金融債務と位置づけて対象とすべきと考えられます。
大口取引先取引債権者は原則として対象債権者となりませんが、例外的に、商社や、ゼネコンなどを対象債権者とすることもありえます。また金額によっては、取引債権者も対象債権者として扱うべき場合があると考えられます。
関連会社金額や、債権の内容にもよるが、関連会社が債権者であり、商取引で発生したものでない場合、対象にするケースもありえると解されます。

2 具体的な私的整理による再建方法

⑴ 具体的な私的整理の方法

私的整理による再建方法は、やり方として大きく法人格を維持したまま行う方法と、第2会社方式による方法があります。

まとめると以下のとおりです。

  分類  説明     具体的な方法      
法人格を維持する方法法人格を維持しつつ、金融債務のリスケや債権カットを行う方法ですリスケジュール
債務免除
DES、DDS
減増資(第三者割当増資 なお、種類株式を活用することもあります。この点は⑷参照してください。)
第二会社方式による方法事業を別会社に移転させ、金融債務を旧会社に残して金融債務を整理するもので、債権カットを前提とする方法です。事業譲渡
会社分割(新設分割+株式譲渡又は吸収分割)

以下のようなケースでは第2会社方式を利用することが有用なことが多いです。もっとも、複数の要因を総合判断してスキームは決定されるので、あくまでも判断基準の目安です。
・債権放棄による免除益課税が多額になる場合
・継続しない事業や不良資産の処分に費用や時間がかかる場合
・偶発債務発生の可能性が高い場合

⑵ 第2会社方式による再建方法

第2会社方式とは、対象会社の事業の全部又は一部を事業譲渡ないし会社分割の方法で、他の会社に移転し、対象会社に一部の債務を残して、当該債務を破産又は特別清算などの方法で処理するやり方を指します。

第2会社方式のメリット・デメリットは以下のとおりです。

メリット・簿外債務リスクを回避しやすい
・株主構成の変更が容易
・資本金の変更が容易
・債務免除益課税を回避することが比較的容易
デメリット・手続費用がかかる
・許認可の承継が困難であることが多い
・株主総会等の手続が必要となる。

手続としては、制度化された私的整理の中で第2会社方式を使うこともあります。その場合は、当該手続で処理がされます。
制度化された私的整理は利用しない場合は、バンクミーティングを通じて金融機関債権者と協議を行い、事業譲渡ないし会社分割を行たうえで、対象会社の処理について、破産は利用されず、特別清算が利用されます。特別清算については以下のリンク先をご参照ください。

また、事業譲渡による方法と、会社分割を利用する方法があります。両社の比較は、管理人が管理する別サイトになりますが、以下のリンク先をご参照下さい。

会社分割については、濫用的会社分割として問題となることがあります。やや専門的な内容になりますので、以下のリンク先をご参照下さい。

⑶ 破産+事業譲渡により、事業を維持する場合もあります。

ただし、公租公課等の延滞が多く、破産を選択せざるを得ない場合もあります。破産を選択する場合は、
破産手続開始前に事業譲渡をする方法と、
破産手続開始後に管財人が事業譲渡をする方法
があります。
破産手続開始前に事業譲渡等をするの場合は、破産手続開始後に事業譲渡が否認されないように譲渡価格の妥当性に関する資料を準備しておくなどのて点に、留意する必要があります。事業譲渡が否認される場合もあります。以下の管理人が運営する外部サイトになりますが、リンク先の「3 詐害行為否認に関する裁判例」をご参照下さい。

破産手続開始後に管財人が事業譲渡をする方法を選択する場合は、破産手続の申立前に裁判所にも相談し、すみやかに事業譲渡ができるように準備をしておくことが必要です。許認可事業である場合、破産手続開始決定により許認可が取消されてしまう可能があるので、裁判所に相談のうえ保全管理人の選任を受け、保全管理人から事業譲渡をしてもらうようにすることが必要な場合もあります。また、事業の棄損を避けるため、譲受先が取引債務については債務引受をして支払うということがありえますが、この点も裁判所と相談をして、慎重に進める必要があります。

⑷ 種類株式の利用

事業再生局面では、資金調達の必要性と、既存債権者や株主との利害調整を図るため、種類株式を利用することがあります。
なお種類株式については、管理人が管理する以下のリンク先を御参照下さい。

私的整理による事業再生で、種類株式を利用する方法としては以下のようなものが挙げられます。

全部取得条項付種類株式を利用して、100%減資を行う。
新規の資金調達の前提として、既存株主の責任を明確にする必要がある場合に利用されます。

⓶新規出資の場合や既存債権者がDESに応じる場合に、回収可能性を確保するため、(金銭対価又は普通株式対価)取得請求権付種類株式とすることを求めてくることが多いように思われます。なお、取得請求権の対価額は、当初払込金額に一定のプレミアムが上乗せされることもあります。なお、金銭対価の取得請求権の行使には分配可能額による制限がかかります。

⓷新規出資の場合や既存債権者がDESに応じる場合に、高リスクに対する見合いとして、優先配当株式残余財産優先分配株式とすることが多いように思われます。

⓸その他、事業再生が順調に進んだ場合に会社の側から新規出資者の株式を買い取れるように取得条項付株式とする場合や、新規出資者が経営に対する一定のコントロール権を求めた場合に拒否権付株式役員選任権付株式とすることもあるようです。

3 私的整理の手続とは

⑴ 制度化された私的整理(準則型私的整理)とは

私的整理手続の種類としては、制度化された私的整理準則型私的整理とも呼ばれます)が準備されています。進め方は、いずれの手続でもほぼ同じで、企業規模や債権者の属性などに応じて手続を選択します。税務上の扱いも国税庁による文書回答がされています。制度化された私的整理準則型私的整理)の種類や、詳細については、以下のリンク先をご参照ください。

⑵ 私的整理における一般的な流れ

私的整理手続には上記リンク先にあるように、いくつか選択肢がありますが、第三者機関の関与の程度や費用、対応できる企業規模が異なるだけで、いずれの手続も大きな流れは一緒です。私的整理による再建方法における一般的な流れなどは以下のリンク先にまとめましたので、ご参照下さい。なお、事業再建計画書・弁済計画書については項目を分けていますので、以下の⑶をご参照下さい。

東京高判H30.11.7 債務者から「任意整理」を受任し後の辞任した弁護士が会社のために保管していた金員の一部を報酬とし、残金を会社の代表者に交付したところ代表者がこれを私的に消費したことが、当該弁護士の債務者の金融債権者に対する不法行為責任等とならないとした裁判例

裁判例の詳細を見る
有限会社甲の債権者Xが、甲から任意整理を依頼された弁護士Yらに対し、Yらが甲から預かっていた保管金の一部を任意整理の報酬金として取得するとともに、残金を甲の代表者Aに交付しAがこれを費消し、これらの結果、XはAから貸金債権の弁済を受けられなくなったとし、Yらに対し不法行為に基づく損害賠償請求権等を行ったのが本件です。本判決は、報酬額は妥当であるとし、また損賠賠償請求については「Yらは、・・・甲との間で、任意整理の委任契約を合意により解約し、民法646条1項前段の規定に従って、甲に対し・・・円を引き渡したものであるから、不法行為の成立は認められない。」などとしてXの請求を認めませんでした。

⑶ 事業再建計画書・返済計画書の具体的な内容

私的整理は、(原則として)対象債権者と交渉を開始する前に、対象債権者に提示する事業再建計画・返済計画書を作成します。具体的な内容は以下のリンク先をご参照下さい。