このページでは、濫用的会社分割について、説明をしています。

金融債権者に事前に説明や了解を得ることなく会社分割を行い、金融債権者からすると、いつの間にか会社の中身が無くなっているような状態になっていることを濫用的会社分割と言います。

1 濫用的会社分割がなぜ発生するのか

濫用的会社分割と呼ばれる事象が発生するようになったのは、旧商法が定めていた「各会社ノ負担スベキ債務ノ履行ノ見込アルコト及其ノ理由ヲ記載シタル書面」(374条ノ2第1項3号、374条ノ18第1項3号)の開示が、会社法において「債務の履行の見込みに関する事項」(会社法規則183条6号、192条7号、205条7号)と変更されたことをもって、債務超過の会社であっても債権者の承諾等を得ずに会社分割が可能であるとする考え方に基づき、債権者の承諾を得ずに会社分割を行うケースが発生したためです。

これまでの裁判例によれば、債権者の承諾なく債務超過の会社が会社分割を行うことは、破産法上の否認や詐害行為取消の対象となりえます。

よって、分割会社に残される債権者に対して、十分な情報開示をして、処理方針についての説明、協議、同意の取り付けを行ったうえで、分割会社に残される債権者にとって納得のいく事業譲渡対価(=弁済額)を確保することが必要だと考えられます。

2 裁判例

濫用的会社分割に関する代表的な裁判例として以下のものがあります。

なお、平成26年会社法改正で、残存債権者を害することを知って行った会社分割につき、新設会社・承継会社に承継した財産の価額を限度として残存債権者が新設会社・承継会社に履行請求できる制度が設けられています(会社法759条4~7項、764条4~7項)。

⑴ 詐害行為取消権が認められた事例

東京高判H22.10.27(同種事例として名古屋高判H24.2.7)
甲社が、無担保資産のほとんどを新設会社Y社に承継する新設分割を行ったことに対して、Y社に承継されなかった債務の債権者Xが、当該会社分割が詐害行為に当たるとした価格賠償が認められた事例

最判H24.10.12 会社分割で担保余力がある不動産を新設会社に承継したことに対し、会社分割の一部取消し及び、不動産の移転登記抹消登記を認めた判例

裁判例の詳細を見る
「新設分割は、一又は二以上の株式会社又は合同会社がその事業に関して有する権利義務の全部又は一部を分割により設立する会社に承継させることであるから(会社法2条30号)、財産権を目的とする法律行為としての性質を有するものであるということができるが、他方で、新たな会社の設立をその内容に含む会社の組織に関する行為でもある。財産権を目的とする法律行為としての性質を有する以上、会社の組織に関する行為であることを理由として直ちに新設分割が詐害行為取消権行使の対象にならないと解することはできないが(大審院大正7年(オ)第464号同年10月28日判決・民録24輯2195頁参照)、このような新設分割の性質からすれば、当然に新設分割が詐害行為取消権行使の対象になると解することもできず、新設分割について詐害行為取消権を行使してこれを取り消すことができるか否かについては、新設分割に関する会社法その他の法令における諸規定の内容を更に検討して判断することを要するというべきである。
  そこで検討すると、まず、会社法その他の法令において、新設分割が詐害行為取消権行使の対象となることを否定する明文の規定は存しない。また、会社法上、新設分割をする株式会社(以下「新設分割株式会社」という。)の債権者を保護するための規定が設けられているが(同法810条)、一定の場合を除き新設分割株式会社に対して債務の履行を請求できる債権者は上記規定による保護の対象とはされておらず、新設分割により新たに設立する株式会社(以下「新設分割設立株式会社」という。)にその債権に係る債務が承継されず上記規定による保護の対象ともされていない債権者については、詐害行為取消権によってその保護を図る必要性がある場合が存するところである。
  ところで、会社法上、新設分割の無効を主張する方法として、法律関係の画一的確定等の観点から原告適格や提訴期間を限定した新設分割無効の訴えが規定されているが(同法828条1項10号)、詐害行為取消権の行使によって新設分割を取り消したとしても、その取消しの効力は、新設分割による株式会社の設立の効力には何ら影響を及ぼすものではないというべきである。したがって、上記のように債権者保護の必要性がある場合において、会社法上新設分割無効の訴えが規定されていることをもって、新設分割が詐害行為取消権行使の対象にならないと解することはできない。
  そうすると、株式会社を設立する新設分割がされた場合において、新設分割設立株式会社にその債権に係る債務が承継されず、新設分割について異議を述べることもできない新設分割株式会社の債権者は、民法424条の規定により、詐害行為取消権を行使して新設分割を取り消すことができると解される。この場合においては、その債権の保全に必要な限度で新設分割設立株式会社への権利の承継の効力を否定することができるというべきである。」

東京地判H25.1.18 新設分割の取消を認め価格賠償を命じた裁判例

東京地判H27.4.7 新設分割の取消を認め価格賠償を命じた裁判例

東京地判H28.1.22 新設分割の取消を認め価格賠償を命じた裁判例

⑵ 会社法22条1項の類推適用が認められた事例

最判H20.6.10 事業主体を示す名称の続用のある会社分割について会社法22条の類推適用を認めた判例

東京地判H22.7.9 会社法22条1項類推適用により、新設会社が分割会社の店舗名称を続用している場合に責任を負うとしました。

⑶ 分割会社の破産管財人による、新設分割に対する否認権行使が認められた事例

なお、否認の対象となるとして、詐害行為否認(破産法160条)、相当対価による財産処分行為(破産法161条)又は、偏頗弁済(破産法162条)のいずれに該当するかについて争いがあります。裁判例は詐害行為否認を認めているものが多いです。

福岡地判H21.11.27(破産) 破産法160条1項に基づく詐害行為否認になるとして、168条4項により価格償還を命じました。

福岡地判H22.9.30(破産) 破産法160条1項または161条1項に基づき、新設会社への不動産移転登記に対して否認の登記を認めました。

東京高判H24.6.20(破産) 
破産法160条1項に基づく否認及び、当該会社分割をコンサルしたコンサルタント会社に対する転得者に対する否認(破産法170条1項)を認めました。なお、コンサルタント会社に対する否認は、コンサル契約自体に詐害性が認められないとしても、破産会社に適法な会社分割を指導する義務を有していたにもかかわらず、かかる義務に反した債務不履行責任が認められるとしました(原審引用)。

⑷ 法人格否認の法理が認められた事例

福岡地判H23.2.17(同種裁判例 東京地判H24.7.23
分割会社の債権者の、法人格否認の法理による新設会社への請求を認めました。

福岡高判H23.10.27は、原審が法人格否認の法理による原告の請求を認めたのに対し、法人格否認の法理の適用を認めず、詐害行為取消権を認めました。法人格否認法理を認めた場合は満額の請求が認められますが、詐害行為取消権を認めた場合は被保全債権額(承継資産額)に制限されるという差異があります。

⑸ 濫用的会社分割に関与した司法書士の責任を認めた事例

大阪高判H27.12.11 労働組合又は組合員の排除を目的として(債務を免れる目的ではないので、ここでお伝えしているものと目的は異なります)、濫用的に会社分割をした事案で(分割後対象従業員の所属する分割会社の事業を閉鎖)、分割会社の代表取締役と共謀した司法書士につき不法行為責任が認められた事例

裁判例の詳細を見る
「本件会社分割及び事業閉鎖は、・・・本件会社から本件組合の組合員である本件従業員らを排除するために行った一連の不当労働行為であると認めるのが相当である。」としたうえで、「甲、Y司法書士及び乙は、共謀の上、本件会社の事業のうち製造部門をA産業(会社分割における新設会社)に承継させ、本件組合の組合員である本件従業員らが所属する輸送部門を分割会社である本件会社に残すという会社分割をし、その後、分割後の本件会社の事業を閉鎖することにより、本件会社から本件組合の組合員である本件従業員らを排除することを企て、甲及びY司法書士において上記のとおり本件会社分割を行い、その後、松夫において分割後の本件会社の事業を閉鎖したことが認められる。
 上記によれば、甲、Y司法書士及び乙は、共同して本件従業員ら及び本件組合の権利を故意に侵害したものであり、それは民法719条1項の共同不法行為に当たるというべきである。
 したがって、Y司法書士は、本件会社分割及び事業閉鎖によって、本件従業員ら及び本件組合が受けた損害について、損害賠償責任を負うと解すべきである。」