このページでは担保対象物の評価額・割付額についての詳細について、説明をしています。

担保評価額は、債権回収額に直結しますので、非常に重要です。担保を有している債権者だけでなく、有していない債権者の回収額にも直結しますので、公正かつ説得力のある説明が求められます。

1 担保による保全額を検討するうえでの注意点

保全額を検討するうえで、注意すべき場合として以下のようなものがあります。

   注意すべきケース   考えられる具体的な対応
担保の趣旨で特殊なスキームが組まれている場合仕組みの評価が問題となります。
当該担保権者はもちろん、他の債権者にも説明可能な、合理的な評価方法を検討します。
対抗要件を具備していない(登記留保)担保権がある場合私的整理では、法的手続と異なり担保権として認める運用が一般です。
ただし、客観的な証拠(設定契約書など)は必要だと考えられます。
対象債権者(銀行)に、債務者が預金を預けている場合私的整理ガイドラインで、担保の合意が明確になされているような場合を除き、相殺を認めない方針で処理されていることもあり、定期性・拘束性預金を除き、相殺を認めずに非保全額を計算するのが一般のようです。
信用保証協会付債権がある場合債権カットを要請する場合は、原則として信用保証協会を手続に取り込んで、信用保証協会に他の対象債権者と同様の負担に応じてもらうように要請する必要があります。
対象債権者(銀行)に取立委任手形を渡している場合委任の時期を債務者のほうでコントロールできることもあり、取立委任手形を保全対象とすべきかどうかについてはケースバイケースにすべきと考えられます。
いずれにしても、債権者の一部のみを優遇するような措置は避けるべきです。
業況悪化以降に担保設定をしたものがある場合業況悪化時に、偏頗的に担保設定や弁済を行っていれば、他の債権者との平仄から、法的整理になった場合担保設定が否認されることを理由として、担保設定を認めずに非保全額を計算すべき場合もあると考えられます。

2 各担保の担保評価額の原則

各担保の担保評価額は、概ね以下のとおりと考えられます。

なお、担保評価の時点も問題となりえます(原則として一時停止通知時点とすべきであると解されます)。
また、担保対象物を処分することが予定されている場合には、処分することによって実際に回収された金額を保全額とすべきと考えられます(いわゆる処分連動方式)。

 担保対象物     代表的な評価方法      備考(留意点)
預金定期性預金額流動性預金は保全対象外とし、定期性預金についてのみ保全対象とすることが妥当と考えられます。
不動産鑑定評価鑑定評価にも処分価格と継続価値評価などがあります。
当該資産の特性にあわせて、評価基準を決定する必要があります。
自動車時価ある程度の評価額が見込まれる場合は、複数の業者から見積もり取得すべきと解されます。
動産原則として処分可能価格時価にも処分価格、販売価格など複数の評価方法があるため、資産特性にあわせて、検討が必要です。事案によっては専門業者に評価を依頼することもあります。
上場有価証券市場価格上場有価証券は基準日の終値が妥当と考えられます。
非上場有価証券第三者の鑑定評価や簿価など流動性(売却可能性)も含めて評価を行いますが、時価の算出が極めて困難な場合は、簿価や純資産価格で評価を行わざるを得ないと解されます。
保証ケースバイケース保証を全く勘案しないケースもあるが、保証人の資力がある場合は、一定の評価をして保全額とすることも考えられます。

3 担保による保全額の割付に関する留意点

同一担保に複数の担保権者が存する場合、担保評価額を各担保権者に按分をする必要があります。
その場合の基準は概ね以下の方法によるのが妥当と考えられます。

同順位の根抵当権者に対する按分       極度額按分説と、被担保債権按分説がありますが、元本確定を前提として裁判例は極度額を上限とした被担保債権按分説を取ります(東京地判H12.9.14)。
配当実務も同様の処理と思われます。
よって被担保債権按分によるべきと解されます。

東京地判H12.9.14 元本が確定した同順位の根抵当権者に対する配当につき、被担保債権の額(ただし極度額が上限)により按分して行なうべきであるとした裁判例
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XとYが同順位の根抵当権者であった不動産につき競売手続が開始され配当が終了した後に、Xが、Yが受領した配当の一部につきYは受領する権限を有しておらず、本来Xが受領すべきであった配当を受けたとして、不当利得の返還を請求して提訴したところ、本判決は以下のように説示しました(Xの請求一部認容)。
「根抵当権は、普通抵当権とは異なり、極度額の範囲内において不特定の債権を担保するものであるが、元本の確定によって、根抵当権は不特定の債権の担保権という性格を喪失し(元本債権の利息・遅延損害金については極度額まで優先弁済を受けることができるという意味においてのみ、不特定の債権の担保権としての性格を有しているにすぎない。)、原則として普通抵当権と同様に取り扱われることとなる(確定後においては、普通抵当権と同じく、随伴性が認められ、また、根抵当権の順位の譲渡、放棄等の処分が認められる。)。
 そして、抵当不動産に対する競売手続が開始された場合、根抵当権は、根抵当権者が抵当不動産に対する競売手続の開始を知った時から二週間を経過したときに確定する(民法398条ノ20)のであり、配当期日において、本件の各根抵当権の元本が確定していることは明らかである。
 そうすると、このように元本の確定した同順位の根抵当権が存在する場合の配当は、同順位の普通抵当権が存在する場合と同様に、被担保債権の額により按分して行うべきである。ただし、根抵当権についての極度額の定めは、配当を受けることのできる第三者に対する優先弁済権の制約としての性質を有するから、被担保債権額が極度額を上回る場合は、極度額を上限とするべきである・・・。
同一不動産に共同抵当に係る抵当権と同順位の抵当権が設定されている場合不動産価格按分説によるべきと考えられます(最判H14.10.22)。

最判H14.10.22 共同抵当の目的となった数個の不動産の代価を同時に配当すべき場合に、一個の不動産上にその共同抵当に係る抵当権と同順位の他の抵当権が存するときの案分方法につき判示した判例
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「共同抵当とは債権者が同一の債権の担保として数個の不動産の上に抵当権を有する場合をいい(民法392条1項)、各不動産上の抵当権はそれぞれ債権の全額を担保するものであるから、共同抵当権者は一部の不動産上の同順位抵当権者に対しても、その被担保債権全額を主張することができる。もっとも、債権者が任意の不動産の価額から被担保債権の全部又は一部の回収を図ることを許し、何らの調整を施さないときは、共同抵当の関係にある各抵当不動産上の後順位債権者等に不公平な結果をもたらすことになる。そこで、民法392条1項は、共同抵当の目的である複数の不動産の代価を同時に配当する場合には、共同抵当権者が優先弁済請求権を主張することのできる各不動産の価額(当該共同抵当権者が把握した担保価値)に準じて被担保債権の負担を分けることとしたものであり、この負担を分ける前提となる不動産の価額中には他の債権者が共同抵当権者に対し優先弁済請求権を主張することのできる不動産の価額(他の債権者が把握した担保価値)を含むものではない。
 そうすると、共同抵当の目的となった数個の不動産の代価を同時に配当すべき場合に、一個の不動産上にその共同抵当に係る抵当権と同順位の他の抵当権が存するときは、まず、当該一個の不動産の不動産価額を同順位の各抵当権の被担保債権額の割合に従って案分し、各抵当権により優先弁済請求権を主張することのできる不動産の価額(各抵当権者が把握した担保価値)を算定し、次に、民法392条1項に従い、共同抵当権者への案分額及びその余の不動産の価額に準じて共同抵当の被担保債権の負担を分けるべきものである。これと異なる原審の計算方法は、共同抵当の目的となる不動産上の同順位者に対して、共同抵当に係る被担保債権全額を主張することを認めず、共同抵当に係る数個の不動産の代価の同時配当における負担分割の基礎となる不動産の価額中に同順位者が優先弁済請求権を主張することができる金額(同順位者が把握した担保価値)を含ませる結果となるものであって、採用することができない。」