このページでは制度化された私的整理(準則型私的整理)の種類及び概要について、説明をしています。
制度化された私的整理(準則型私的整理)の種類としては、概ね6種類あります。
1 制度化された私的整理(準則型私的整理)の種類
再建型私的整理を進める方法として、制度化された方法(=第三者機関が再建型私的整理の手続の妥当性を検証する方法)として以下ものがあります。
第三者機関によって、金融機関に対する説明資料の作成等に関与する度合いは異なります。例えば、中小企業再生支援協議会は、説明資料作成支援も積極的に行うことを想定した手続となっています。 なお、私的整理においては、実態貸借対象表の作成が重要なポイントの一つとなるため、それぞれの手続において、実態貸借対照表の作成基準が定められています。
分類 | 主な対象 | 備考 |
---|---|---|
私的整理ガイドライン | 中堅企業~大企業 | 私的整理の嚆矢となる制度です。メイン寄が行われるとして、今ではほとんど使われていないようです。 専門家アドバイザーを選任して調査報告書を作成し、再建型私的整理を進めます。 |
事業再生ADR | 中堅企業~大企業 | 民間型ADRと言えます。費用がやや高いように感じます。 中立的な手続実施者が関与して、手続を管理・監督していくものです。利用件数は減っているように思われます。 |
中小企業活性化協議会 | 中小企業 | 行政型ADRと言えます。 比較的小規模の会社で利用されています。 |
中小企業の事業再生ガイドライン | 中小企業 | 中小企業に的を絞った民間型ADRと言えます。 中立的な支援専門家が関与して、手続を管理・監督していくものです。補助金による手続費用負担軽減措置も準備されています。 |
特定調停 | 中小企業 | 私的整理で合意した内容につき、裁判所の手続で一定の法的拘束力を与えるものです。 比較的債権者数が少ない場合に利用されているように思われます。 他の準則型私的整理で一部の債権者の合意が得られない場合に、合意しない債権者を対象に利用することもあります。 |
RCC事業再生 | 中小企業~中堅企業 | 整理回収機構が債権者となって関与するものと、調整を行うケースがありますが、主に後者を指します。最近はあまり利用されていないように思われます。 |
地域経済活性化支援機構 | 中小企業~中堅企業 | 国の認可法人として設立された事業再生支援を目的とする地域経済活性化支援機構による事業再生支援です。 |
なお、いずれの手続きも、税務上の扱いについて国税庁のホームページに掲載されています。以下の国税庁のサイト(トップページ)→法令等→文書回答事例→法人税(項目別)→「子会社等を整理・再建する場合の損失負担等」「特定調停による債権放棄等」「企業再生税制」に載っていますので、必要に応じてご参照下さい。
2 私的整理ガイドラインについて
⑴ 概要
債務者は、メインバンクの同意を得たうえで、手続を開始します。バブル崩壊による不良債権処理のために平成13年に策定された制度で、制度的な再建型私的整理の嚆矢となったものです。再建計画の要件や、手続の概要は、他の手続でもほとんどかわりませんので、私的整理手続を理解するうえで参考になると考えますので、⑵⑶に載せておきます。
ただし、メインバンクが主導的役割を果たすことから、いわゆる「メイン寄せ」(=他の銀行の負担に比較してメイン銀行の負担が多くなることを言う)が多くなり、これが敬遠されて、現時点ではほとんど利用されていないようです。
⑵ 手続の特徴
手続の主体 | 債務者とメインバンクが共同で手続を進めていきます(そのためメイン寄せが発生しやすいとされています)。 |
再建計画の要件 | 再建生計画の要件は以下のとおりとされている(私的整理に関するガイドライン7項)。 ・3年以内の実質債務超過解消 ・3年以内の経常黒字化 ・債権カットを伴う場合は経営者責任の明確化 ・債権カットを伴う場合は株主責任の明確化 ・民事再生等に比べて高い比率の弁済が可能であること |
再建計画のチェック機関 | 通常、専門アドバイザーが選任されて、計画案について調査報告書を作成し対象債権者に提示する。 |
主な準則 | ・私的整理に関するガイドライン ・私的整理に関するガイドラインQ&A |
⑶ 手続の概要
手続の概要は以下のとおりです。
時系列 | 内容 |
---|---|
メインバンクとの協議 | 債務者よりメインバンクへ手続の申し入れ⇒メインバンクの了承 |
事前準備 | 実態BS、再建計画案の作成等 |
一時停止の通知 | 債務者とメインバンクの連名で、対象債権者への一時停止の通知 |
第1回債権者会議 | ①実態BS・再建計画案の説明、②専門家アドバイザーの選任、③一時停止通知期間の決議、④第2回会議の日時の決定など |
専門家アドバイザーの調査報告書提出 | (必要に応じて)専門家アドバイザーの説明会開催 |
第2回債権者会議 | 再建計画案の決議(書面での同意) |
3 事業再生ADRについて
事業再生ADRは比較的に大規模な会社を対象に、利用されています。手続の流れなどは概ね私的整理ガイドラインと同じですが、手続実施者(私的整理における専門家アドバイザー)の役割が、私的整理ガイドラインよりも大きいのが特徴です。手続の特徴やメリットデメリットなどについては、以下のリンク先をご参照下さい。
また、詳細については経済産業省の以下のリンク先をご参照下さい。
4 中小企業活性化協議会による私的整理について
中小企業活性化協議による私的整理の手続の特徴やメリットデメリットなどについては、以下のリンク先をご参照下さい。
また、詳細については、中小企業庁の以下のリンク先をご参照下さい。
5 中小企業の事業再生ガイドラインとは
中小企業の事業再生ガイドラインは平時と有事に分けて記載されていますが、ここでは有事のみを取り上げます。また廃業型私的整理も定められていますが、以下では触れていません。詳細については、全国銀行協会の以下のサイトをご参照下さい。
⑴ 手続の特徴
項 目 | 内容 |
---|---|
手続の主体 | 債務者 |
対象債権者 | 金融機関債権者、サービサー、貸金業者、(その他の重要な債権者)、なおリース債権者は原則として含まれません。 |
再建計画の主な要件 | 再建生計画の要件は以下のとおりとされている。 ・原則として5年以内の実質債務超過解消 ・原則として3年以内の経常黒字化 ・原則して事業再生計画の終了年度における有利子負債の対キャッシュフロー比率が概ね10倍以下 ・経営者責任の明確化(債権カットの場合は経営者保証の整理方針等) ・債権カットを伴う場合は株主責任の明確化 ・破産に比べて高い比率の弁済が可能であること |
再生計画のチェック機関 | 第三者支援専門家がが選任されて、計画案について調査報告書を作成し対象債権者に提示する。 |
主な準則 | ・中小企業の事業再生等に関するガイドライン ・中小企業の事業再生等に関するガイドラインQ&A |
補助金 | 一定の要件を満たすと、DD費用や事業再生計画策定費用等につき補助金を利用することができます(費用の2/3で、上限700万円)。補助金については、以下の中小企業庁のサイトに記載があります(中小版GL枠)というのが本件のことを指しています。 中小企業庁の経営改善計画策定支援のページ |
⑵ 手続の概要
手続の概要は以下のとおりです。
時系列 | 内容 |
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第三者支援専門家の選定 | 債務者は必要に応じて外部専門家とも相談しつつ、第三者支援専門家を選定します |
主要債権者への申出、同意 | 金融債権額のシェアが最上位の金融機関からシェアの合計額50%以上に達するまでの債権者(これを「主要債権者」と定義しています)に手続を検討していることを申出るとともに、第三者支援専門家の選任について同意を得ます。→同意を得られたら、第三者支援専門家を選定。 |
一時停止の通知 | 債務者は、対象債権者への一時停止の要請 |
事業再生計画案の立案→調査 | 事業再生計画案の立案は債務者 事業再生計画案の調査は第三者支援専門家(原則として調査報告書の作成) |
第1回債権者会議 | ①事業再生計画案の説明、②第三者支援専門家の調査報告、③同意不同意の意見表明期間の決定など |
(第2回債権者会議) | 事業再生計画案の同意を得ます。会議でなく書面で同意を得ることで構いません。 なお不同意とする対象債権者は、速やかにその理由を第三者支援専門家に対し誠実に説明するとされています。 |
6 特定調停を利用した私的整理とは
特定調停を利用した私的整理は、概ね2パターンに分けられます。
いずれも、特定調停申立後に金融機関との調整を行うものではなく、事前に調整を行ったうえで、出口として特定調停を利用するイメージのものです。
1つは、日本弁護士連合会が公表しているもので、事前調整終了後簡易裁判所への申立を想定しています。
日本弁護士連合会のホームページ→私たちの活動→利用しやすい司法の実現→中小企業への法律支援(日弁連中小企業法律支援センター)→特定調停スキーム利用の手引(改訂版)をご活用ください、に詳細があります。
もう1つは、事業再生ADRや中小企業活性化協議会などの準則型私的整理手続において、ほとんど債権者が賛成していたもかかわらず一部の債権者の反対で私的整理が成立しない案件を想定しているもので、地方裁判所への申立を想定しています。企業の私的整理に関する特定調停と呼ばれているもので、倒産事件に精通した弁護士に対する調査嘱託などを行うことや、成立に至らなかった場合法的倒産処理と連動することを視野に入れている(具体的には特定調停申立時の予納金を考慮して法的倒産処理時の予納金を決めることや、調査嘱託先の弁護士が管財人や監督委員になることなどが検討されるとしています)点が特徴的な点です。金融法務事情2133号20頁などで紹介されています。
前者が簡易裁判所への申立、後者は地方裁判所への申立となっています。両者の違いは、債権者の中に私的整理に対して反対している者がいるか否かの違いかと思われます。ただし、必ずしも明確に区分できるものではないため、反対している債権者の意向や、裁判所とも相談のうえ、いずれの手続を利用するべきか判断する必要があると考えられます。
具体的な手続の流れなどについては、以下のリンク先をご参照下さい。