このページでは事業再生ADRの手続などについて、説明をしています。

事業再生ADRは、比較的大規模な会社が選択しているようです。最近では、それほど多くの利用はないようですが、制度化された私的整理手続の大きな柱の一つです。詳細については経済産業省の以下のリンク先をご参照下さい。

1 事業再生ADRの特徴

事業再生ADRの特徴は以下のように整理できます。

 項 目  内  容
手続の主体債務者及びそんお代理人が主体的に進めていきます。手続の主宰者であり、事業再生計画案への同意を懇請するのは、あくまでも債務者及びその代理人。

ADR事業者(手続実施者)が、関与します(裁判所のような立場ですが、裁判所より手続に関与します)。
ADR事業者は経済産業大臣の認定が必要ですが、現時点で認定を受けているのは事業再生実務家協会のみです。
手続実施者は「和解の仲介を実施」する役割を担います(裁判外紛争解決手続の利用の促進に関する法律2条2号)。具体的には、手続実施者は、同意を渋る債権者を説得したり、逆に債務者側に計画案の修正を促すなどの役割を担うと解される。
再生計画の要件債権放棄を伴う事業再生計画案の主な要件(経済産業省関係産業競争力強化法施行規則28条2項~4項、29条
・3年以内の実質債務超過解消
・3年以内の経常黒字化
・破産に比べて高い比率の弁済が可能であること
・資産評定基準(経済産業省関係産業競争力強化法施行規則第29条第1項第1号の資産評定に関する基準)に基づく貸借対照表の作成及び適正な債務免除額の算定
・株主責任の明確化
・役員責任の明確化
再生計画のチェック機関ADR事業者(手続実施者)が、再生計画案の内容の相当性及び実行可能性を調査し、報告書を作成します。
当該報告書は、再生計画案とともに対象債権者に提示されます。
資産評価損の税務上の取扱い実態貸借対照表作成に当たっての評価基準が詳細に定められており、かかる基準で実態貸借対照表が作成されることを前提として、税務上、資産評価損益の計上が認められています。税務上の扱いについては、国税庁のホームページに掲載されています。以下の国税庁のサイト(トップページ)→法令等→文書回答事例→法人税(項目別)→「企業再生税制」→平成21年7月9日国税庁回答に載っていますので、必要に応じてご参照下さい。
国税庁のサイト(トップページ)を確認する
対象債務者規模等による限定はありませんが、大規模な事業者が主に利用していると推察されます。
なお、事業再生ADRに限りませんが、資金繰りに瀕し、対応に急を要する企業は、私的整理が難しく、対象にしていません。

2 事業再生ADRのメリット・デメリット

事業再生ADRのメリット・デメリットをまとめると以下のとおりです。なお、私的整理一般のメリット・デメリットなども含まれています。

⑴ 法律上の主なメリット

事業再生ADRの法律上の主なメリットは以下のとおりです。

①再生・更生手続に移行した場合のDIPファイナンスの保護規定がある(産業競争力強化法56条~58条。ただし条文上の規定は、必ずしも明確でありません。法的手続に移行した場合、共益債権ないし財団債権として取り扱われるかは、最終的には当該手続を行う裁判所の判断によるものと考えられます。)。

②中小企業基盤整備機構が、対象企業の事業再生ADRの開始から終了に至るまでの間における債務者の事業の継続に欠くことのできない借入れの保証を行うことができます(産業競争力強化法51条)。

③ 特定調停手続に移行した場合、ADRが実施されていることを考慮したうえで、裁判官だけの単独調停を行うのが相当であるかどうかを判断するとしています(産業競争力強化法50条)。

④社債の元本減免につき円滑化が図られています(産業競争力強化法54条、55条

⑤税務上の取り扱いが明確です。(もっとも、この点は、多くの制度化された私的整理手続に共通しています)

⑵ 事実上のメリット

①メイン寄せが防げます(=メインバンクも利用に躊躇しない)。

②手続期間が短いです(3ヶ月程度)。ただし準備期間はある程度必要です。(もっとも、この点は多くの制度化された私的整理手続に共通しています)。

⑶ デメリット

①手続の法的拘束力が弱いです。(もっとも、この点は、他の私的整理手続と共通する点です)

②手続費用が、比較的かかります。

3 手続の概要

⑴ 正式受理まで

正式受理までは、概要以下の流れで進みます。

①事前相談 事前相談にあたって、財務DDの実施や主要銀行との調整により、ある程度再生計画案を策定していることが必要です。

手続利用審査申請審査料(50万円程度とされています。)納付

③利用申請仮受理業務委託金(事案によって異なります)納付

手続実施予定者による利用手続の適格性調査

利用正式申請業務委託中間金(事案によって異なります)の納付

正式受理
 なお、上場会社の場合、適時開示のタイミングについて証券取引所と事前にすり合わせを行っておく必要があります。

⑵ 一時停止の通知

債務者及び事業再生ADR主宰者の連名で一時停止の通知を対象債権者に対して通知をします(経済産業省関係産業競争力強化法施行規則20条)。
一時停止の通知の内容は「債権者全員の同意によって決定される期間中に債権の回収、担保権の設定又は破産手続開始、再生手続開始、会社更生法若しくは金融機関等の更生手続の特例等に関する法律の規定による更生手続開始若しくは特別清算開始の申立てをしないこと」とされています(経済産業省関係産業競争力強化法施行規則20条)。

なお、一時停止は期限の利益喪失事由には該当しないと解されています(私的整理ガイドラインQA26参照)。
ただし、一時停止には弁済期変更までの効果は無いと解されていますので、通知後に弁済期が到来した債務は、弁済期後は遅延損害金が発生します。事業再生ADRの合意により遅延損害金は免除されるのが通常ですが、事業再生ADRが不成立になった場合に問題となります。

⑶ 第1回債権者会議(概要説明会議)

一時停止発送から原則として2週間以内に概要説明のための債権者会議を開催します(経済産業省関係産業競争力強化法施行規則20条、22条

債権者会議の内容は主な内容は以下のとおりです。
・議長及び手続実施者の選任
・一時停止の内容や期間の決議(これにより、一時停止に対象債権者と債務者間の契約としての法的拘束力が発生する)
・第2回、第3回の債権者会議の日程等の決議
・DIPファイナンスについては産強法58条の同意
・事業再建計画の概要説明及び意見聴取

なお、第1回債権者会議に出席しない債権者がいたり、決議に反対をする債権者がいる場合、反対につき翻意の可能性がある場合や、他の債権者に続行をする旨の了解を得て続行期日を設定するなどの方法を取れる場合を除き、原則としてその時点で手続は打ち切りとなります。

⑷ 事業再生計画の作成・調査

債務者は、当該会議での債権者との質疑応答や、債権者の意見を踏まえて、正式な事業再生計画を策定します(経済産業省関係産業競争力強化法施行規則28条)。

第2回債権者集会までに説明会を開催した入り、あるいは債権者を個別に訪問して説明を行うこともある。

手続実施者は、債務者作成の事業再生計画案に対して、調査報告書を作成する。

⑸ 第2回債権者会議(計画案協議)

計画案協議のための債権者会議です(経済産業省関係産業競争力強化法施行規則24条)。

手続実施者が策定した調査報告書が債権者に提出されます。
手続実施者は、事業再生計画が公正かつ妥当で経済的合理性を有するものであるかにつき、意見を述べるものとされています。

⑹ 第3回債権者会議(決議)

決議のための債権者会議です(経済産業省関係産業競争力強化法施行規則26条)。
対象債権者全員から同意を得ることで成立します。反対者がいる場合、反対者が再考の余地がある場合は続行され、再考の余地がない場合には、原則として、不成立となります。

一部の債権者が反対している場合、特定調停を利用した解決が考えられる。この場合、特定調停の申立ての相手方(全対象債権者とするが、当該反対債権者だけにするか)や、事業再生ADR手続との関係(事業再生ADR手続を終結させるかどうか)などについて見解が分かれています。