このページでは私的整理による再建方法における一般的な流れについて、説明をしています。

私的整理は、対象債権者(金融機関債権者)と交渉を開始する前の事前準備が非常に重要です。

私的整理手続の流れを整理すると以下のようになります。

1 事前準備(対象債権者の選定、再建計画の作成など)

金融機関債権者との交渉を開始する前に以下の準備を行います。私的整理手続の中で一番重要と言っても過言ではありません。

①対象債権者の検討
通常、金融債権者のみを対象としますが、大口の取引債権者を対象とする必要はないか、信用保証協会付債権がある場合信用保証協会を対象とすべきか、リース債権者を対象とすべきか否かなどについて検討します。

DDによる現状分析
財務DD、法務DD、事業DD等を行い、現状分析を行う必要があります。実態BSの作成や、破産配当率の算出なども行っておいたほうが、いいです。具体的なDDの内容については、以下のリンク先をご参照下さい。

再建計画案の検討・作成・根拠資料や説明資料の準備
上記DDの結果踏まえて、再建方法の検討及びその説明資料の作成を行います。
金融支援(リスケや債務免除)が必要であれば、具体的な提案内容の検討及びその説明資料の作成を行います。

スポンサーの募集など
スポンサーによる支援を受けるのであれば、スポンサーを定めるとともに、具体的な支援内容などについて、スポンサーと調整をする必要があります。スポンサーの募集については以下のリンク先をご参照下さい。

DIPファイナンスの検討
運転資金が枯渇している場合、DIPファイナンスを検討する必要があります。DIPファイナンスを得るためには、原則として適切な担保が必要とされています。民事再生手続きにおけるDIPファイナンスを説明をしたものではありますが、以下のリンク先をご参照下さい。

経営者責任・株主責任の検討
金融支援を受ける場合、経営者責任と株主責任が問題となります。
経営者責任・株主責任についてどのように対応するか決めておく必要があります。

経営者の方が会社債務を保証している場合は、その処理方法の検討
金融支援を受ける場合、経営者の方が会社債務を連帯保証しているのであれば、その処理方法を決めておく必要があります。代表者個人の連帯保証に関する対応については、以下のリンク先をご参照下さい。

⑦上記を行ったうえで、事業再建計画書(返済計画書)を作成します。これは金融機関交渉を進めるうえで非常に重要な資料になります。具体的には以下のリンク先をご参照下さい。

2 対象債権者との交渉→対象債権者との合意

⑴ 手続全体の流れ

対象債権者との協議は以下の流れで進めます。なお、経営者が会社債務を連帯保証をしていて、当該債務のカットを依頼する場合は、交渉前にある程度、連帯保証の処理についても方針を決めておく必要があります。また、

メインバンクへの訪問及び手続選択の事前相談
メインバンクへの相談は、再建計画作成前に行うことも多いものと考えられます。資金繰の状況や、会社の業況などによって、どのタイミングでメインバンク等に相談するかは異なりますが、ある程度余裕をもって交渉を行うことが肝要です。

第三者機関(事業再生ADR、中小企業活性化協議会など)を利用する場合には、第三者機関への手続申立て

対象債権者への一時停止の通知
なお、利息の支払は継続しつつ、元本返済のみ止めてもらうのが一般的です。利息まで停止すると失期とみなされる可能性が高くなります。

バンクミーティング又は個別に対象債権者と交渉
・情報は可能な限り平等に開示します。
・各対象債権者に債務免除額などを提案し、各対象債権者で稟議決裁を得ます。
・信用保証協会の保証が付いている債権がある場合は、信用保証協会も手続に取り込むことを検討する必要があります。

対象債権者と合意書を締結特定調停を申立てて、特定調停の中で合意することもあります。)
 (スポンサーが選定された場合はスポンサーとの間で最終合意書締結)

(補足)
全対象債権者の同意が得られない場合は、一般的には、民事再生手続や会社更生手続を検討します。 ただし、ごく一部の債権者のみが反対しているような場合には、特定調停を利用することも考えらえられます。

⑵ 預金拘束、相殺について

私的整理における悩ましい問題として、金融機関の預金拘束、借入金との相殺があります。最近は、いきなり預金を拘束されることは無いようですが、説明方法や説明のタイミングによっては、注意が必要です。金融機関が預金を拘束したこと(及び、その後相殺をしたこと)の違法性が問題となった裁判として以下のようなものがありますが、管理人の知る限り違法とはされていません。そこで、金融機関と交渉を開始する前に、対象債権者の口座にある預金の一時的な避難(連帯保証人の預金を含めて)取立委任手形を控えることなどを検討する必要もあります(相殺を避けるため)。

預金拘束/相殺に違法性がないとした裁判例

東京地判H3.2.18 

裁判例を確認する
Xが、銀行Yに対し、甲銀行からの根抵当権譲渡による担保提供を約しておきながら、これを遅滞し、右譲渡を行う前提として調達した本件金員(甲銀行に対する借入金の弁済資金)を、右担保提供実行の手順を明らかにすることなく、安易に運転資金として利用しようとしたことが本件預金拘束のきっかけとなったものである。そして、これについてのYの状況判断にも甘さがみられ、Xの資金繰りを考慮したうえでの十分な詰め(預金拘束による原告への影響を考えての担保価値の慎重な評価等)、Xに対する十分な協議、説明等を行わないまま、突然、本件預金拘束をしたことには問題も残るが、・・・担保不足の状況及び従前からの経緯等を併せ考えると、本件預金拘束が直ちに違法であるということはできない。

高松高判H22.9.28 

裁判例を確認する
Y1銀行の破産会社に対する・・・貸付金は、本来他の用途に費消されることは許されない上、流用された金額は1億4500万円と多額である上、・・・他に流用されたのでは貸金の担保となるべきマンションの建設自体ができないのであるから、Y1銀行としては、銀行取引基本契約に基づき、取引約定違反を理由として相殺等の処置をとることも可能であった状況下に、これに代わる債権保全の措置として本件預金拘束をしたのであるから、それ自体は、銀行取引約定に基づき適法であるといわざるを得ない。また、Y1銀行は・・・預金拘束の解除の条件として、・・・本件根抵当権1の設定を要求したものであるところ、破産会社との関係においては、破産会社側の不信行為を契機に追加担保を求めることそれ自体は銀行取引約定に基づき適法であり、・・Y1銀行が、その優越的地位を濫用して違法に本件根抵当権1の設定登記をしたとか、その設定行為が権利の濫用に当たるとまでいうことはできない。・・・したがって、人Y1銀行による・・・預金拘束及び本件根抵当権1の設定行為が、銀行取引約款に違反し、預金拘束をした上で、優越的地位を濫用して本件根抵当権1の設定登記を行っているものであるとは認めるに足りず、ほかにこれを認めるに足りる証拠もないから、・・・・不法行為上も債務不履行上も違法であるとは認められない。

大阪地判H29.3.22 

裁判例を確認する
確かに、債務者が返済猶予を求めるとともに、実現蓋然性の高い事業再建計画が示された場合には、同計画が実現に至った場合には、債務者の資力回復が見込め、支払不能を脱する可能性があるために支払停止にあたらないと解する余地はある。しかし、・・・本件事業再建計画は、原告の中心的事業である本件事業を、・・・甲に譲渡して、同社に対しては、同事業に必要とされる債権債務のみを承継させ、そのほかの本件貸金を含む本件金融債権者らが原告に対して有する債権については、Xに残したまま、Xの特別清算手続により、本件事業の譲渡代金等をもって同債権等への配当清算を行うというものであって、X以外の会社が本件事業を継続することで本件事業のために原告に雇用されている被用者の雇用を維持したり、同事業の取引先への影響を低減したりするという作用を有するに過ぎず、まさしく、「本件事業」の「再建」であって、甲に承継されず原告に残存する債務の債権者である本件金融債権者らからみれば、単に、Xの清算方法の提案に過ぎず、これによって、Xが支払不能を脱するというものではない。・・・本件事業再建計画は、あくまで任意の事業再生及び債務整理の方法に過ぎず、債権者のうち一人でも合意しなければ実行することはできないのであるから、やはり、本件事業計画の提示があることで当然喪失事由たる支払停止に該当しないとはいえない。・・・以上によれば、Xは、平成26年8月14日開催の本件バンクミーティングにおいて当然喪失事由である支払停止となり、本件貸金について同日付で期限の利益を失っているから、同日をもって本件貸金等と本件各預金等とは相殺適状となったものと認められる。・・・Xが本件バンクミーティングにおいてした本件金融債権者らに対する元本の約定弁済をしない旨の通知は、当然喪失事由である支払停止に該当し、これにより、Xは、本件貸金につき期限の利益を喪失し、同日をもって本件貸金と本件各預金とは相殺適状にあったものと認められるのであるから、Yは任意にこれらを相殺することができ、Xにおいて、本件各預金の払戻しを受けることは事実上できないのであるから、Yが、直ちに相殺をすることなく、払戻しを拒むに留まる措置(本件預金拘束)をしたとしても、Xに不利益を生じさせるものとはいえない。また、担保権の設定がなされておらず、当座預金や普通預金といった要求払性預金であっても、事実上の担保的機能を有することは否定できず、Xは、本件バンクミーティング当時、実質的に破たんしているというべき状況であったから、追担保を求めることはおよそ不可能であったというべきである。前述の事情に照らし、預金の有する、金融機関の貸付債権に対する担保的機能及び優先弁済機能に鑑みれば、本件預金拘束は、信義則又は公平の原則から許されるものというべきであって、原告に対する債務不履行又は不法行為を構成するものとは認められない。