このページは、特別清算における、担保実行手続の中止命令について説明しています。

⑴ 中止命令の要件及び効果

⑴ 要件

中止命令の要件は以下の2点です(会社法516条)。

債権者一般の利益に適合すること。
担保権の実行の手続等の申立人に不当な損害を及ぼすおそれがないものと認められること。

東京高決S51.5.6(会社整理) 中止命令が認められた裁判例(会社整理の中止命令の要件は「債権者ノ一般ノ利益二適応シ且競売申立人二不当ノ損害ヲ及ボスノ虞ナキモノト認ムルトキ」と特別清算とほぼ同じでした)

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Yの債権者Xが、Y所有の不動産につき競売手続を進めていたところ、Yにつき会社整理が開始され、管理人が競売手続の中止命令を申立てたところ、中止命令が認められたことから、Xが抗告をしましたた。 本決定は「本件整理計画案の中枢をなし、その死命を制するというべきは、Yによる成田市におけるゴルフ場建設計画の成功であること、前記各物件は右ゴルフ場建設予定地内に散在し、これを用地として使用しえない限り、ゴルフ場の建設は不可能に近いことを認めることができる。従つて、前記物件は本件会社整理のため欠くことのできないものというべきであるからこれを会社整理のために活用して、整理の実を挙げることこそ債権者一般の利益に適応するということができる。一方、前記物件がいずれも僻地の山林又は原野で(経済変動による換金上の難易はありえても)、その滅失・毀損による価値の下落等は通常起りえないこと、また、前記競売手続上の評価額も昭和50年6月当時3億95万円であつたことが前掲各記録によつて明らかであり、右事実によれば、Xが2億3000万円を貸し付けたと主張する昭和48年11月頃においても右貸付金に対する十分な担保力を有したと考えられるのみでなく、原決定による競売手続停止の期間を経過する昭和52年2月1日以降においてもなお相当な担保力を保有することが予測しえられるから前記中止命令が競売申立人であるXに対し不当の損害を及ぼす虞はない。そればかりでなく、本件記録によればX主張の債権額につきYはこれを争い、・・・、Xの前記債権の全部ないし相当部分は本件会社整理手続の成否に係らず抵当権によつて担保されているのに反し、他の債権者の大多数は本件会社整理手続を通じてのみその債権が回収される見込を有するというべき状態にあることが窺われ、このような場合において競売手続の続行を認めることは、会社整理制度の目的に反するから許しえない。」として抗告を棄却しました。

⑵ 効果

担保権の実行手続を現状のまま維持するのみであり、担保権の実行手続を取消す効果はありません。差押え等の効力は維持されます。

2 手続等

3 中止命令ができる範囲

⑴ 条文上の範囲

中止命令の対象となる「担保権の実行の手続等」としては、条文上は以下のものが列挙されています。
  ・担保権の実行手続
  ・企業担保権の実行手続
  ・一般の先取特権その他一般の優先権がある債権に基づく強制執行手続

⑵ 物上代位に対する中止命令

物上代位に対する中止命令が可能か否かが議論されています。
可能と考えられますが、「担保権の実行の手続等の申立人に不当な損害を及ぼすおそれがないものと認められるとき」という要件との関係で、類推適用は慎重にすべきと考えれます。

民事再生法31条の担保権実行中止命令の要件は「再生債権者の一般の利益に適合し、かつ、競売申立人に不当な損害を及ぼすおそれがないものと認めるときは」と、特別清算とほぼ同じです。民事再生の事案における参考裁判例として以下のようなものがあります。もっとも、民事再生の場合には事業継続のために中止命令を認める必要性が特別清算に比べて高く、中止命令が認められやすい面があります。これらの裁判例も、特別清算であれば異なる判断がされる可能性があります。

京都地決H13.5.28(再生):動産売買先取特権に基づく売掛金に対する物上代位に対する中止命令が認められなかった事例

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X社につき民事再生手続開始決定がなされた後、Xに対して売掛債権を有するYが、動産売買の先取特権に基づく物上代位権行使のため、再生債務者Xの転売代金債権を差し押さえてきたため、Xが中止命令を申立てました。本決定は、物上代位に対する中止命令が可能であることを前提に、再生債権者一般の利益に適合し、かつ差押債権者である相手方に不当な損害を及ぼすおそれがないものとは認められないとして、Xの申立てを棄却しました

大阪高決H16.12.10(再生):根抵当権に基づく賃料への物上代位に対する中止命令が認められなかった事例

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再生債務者Xの所有する不動産に根抵当権の設定を受けていたYが、当該根抵当権の物上代位に基づき当該不動産の賃料を差し押える旨の債権差押命令を得たのに対し、Xが中止命令を申立てを行いました。再生裁判所が中止命令を発令したため、Yが即時抗告をしたところ、本決定は以下のように判示し、原決定を取り消し、中止命令を認めませんでした。
「・・・再生債務者が所有する不動産の上に抵当権が存する場合、その抵当権に基づく物上代位による賃料債権の差押命令も、『担保権の実行の手続』(民事再生法31条1項)の一つとして、同項に規定する中止命令の対象となり得るものと解される。しかしながら、上記中止命令は、それ自体、債権差押えの効力を消滅させるものではないし、これに引き続き差押えの効力の消滅をもたらす取消決定の制度も設けられていないから、単に手続を一時停止する効力を有するにすぎない。
 したがって、債権差押命令自体が取り消されて差押えの効力が遡及的に消滅しない以上、中止命令による手続の一時停止中に弁済期が到来する第三債務者に対する賃料債権については、停止期間終了後に債権者(抵当権者)がこれを取り立てることとなるのであって、債務者(不動産所有者)がこれを取立てできる余地はない。この理は、たとえ停止期間中に、担保不動産競売による売却や担保権消滅請求制度における価額に相当する金銭の納付等がなされて、抵当権が将来に向かって消滅したとしても、抵当権消滅までの期間については同様である。
 さらに、債権差押手続を中止しても、担保不動産競売手続を中止した場合のように、再生債務者の事業の継続に必要ないし有益な不動産の喪失を遅延させるというような再生債務者に有利な効果も生じない。
 そうだとすれば、そもそも抵当権は再生手続に制約されることなく行使できる別除権であるという原則に照らしても、抵当権に基づく物上代位による賃料債権の差押え手続に対して中止命令を発することができる(同法31条1項所定の要件を満たす)のは、例外的な事情がある場合に限られるものというべきである。
 これを本件についてみると、Yは、本件建物の最先順位の根抵当権者であり、すでに不動産競売の開始決定を得ている一方、本件建物を相手方が継続して利用することができる別除権協定等を締結していないのみならず、その締結に至る見通しがある旨の疎明もないのであるから、単に本件建物が相手方の事業の継続に欠くことのできないものであるとして担保権消滅許可決定が確定していても、賃料債権の差押え(原々決定)について中止命令を発することが『再生債権者の一般の利益に適合』するものであるということはできない。よって、・・・相手方の本件中止命令の申立ては理由がな」い。

⑶ 非典型担保に対する中止命令

非典型担保に対する中止命令が可能か否かが議論されています。
可能と考えられますが、やはり「担保権の実行の手続等の申立人に不当な損害を及ぼすおそれがないものと認められるとき」という要件との関係で、類推適用は慎重にすべきと考えれます。

民事再生法31条の担保権実行中止命令の要件は「再生債権者の一般の利益に適合し、かつ、競売申立人に不当な損害を及ぼすおそれがないものと認めるときは」と、特別清算とほぼ同じです。民事再生の事案における参考裁判例として以下のようなものがあります。もっとも、民事再生の場合には事業継続のために中止命令を認める必要性が特別清算に比べて高く、中止命令が認められやすい面があります。これらの裁判例も、特別清算であれば異なる判断がされる可能性があります。

福岡高決H21.9.7(再生):債権譲渡担保に対する担保権実行中止命令が認められた事例

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X(再生債務者)は、銀行Yに対する債務の担保として、賃貸借契約に基づく賃料債権に譲渡担保を設定していたところ、Xは、民事再生手続開始決定を受けるとともに、当該譲渡担保につき中止命令の申立てを行いました。本決定は、譲渡担保につき中止命令が類推適用されることを前提として、再生債務者が破産に移行するのを回避する点で「再生債権者の一般の利益に適合」するとして、また、将来にわたって賃料が入ることから担保権者に「不当な損害を及ぼすおそれがない」として、中止命令を認めました。

大阪高決H21.6.3(再生) 債権譲渡担保に対する担保権実行中止命令が認められた事例

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医療法人Yは、信用金庫Xらに対して、将来診療報酬債権を譲渡担保に提供していたことから、Yが当該譲渡担保一部につき中止命令を申立て、裁判所が中止命令を発令したのに対し、Xらが即時抗告をしました。本決定は、譲渡担保に対する中止命令の類推適用を認めるとともに、「集合債権担保では、新たに発生して譲渡担保権の対象に組み込まれる債権が存在するから、担保権者に損害が生じるかどうかは全体の状況を勘案して判断すべき」とし、担保権者に不当な損害が生じるということはできないとして、Xらの抗告を棄却しました。