このページは、特別清算における債権の種類及びその扱いについて説明しています。
特別清算における債権は、①協定外債権と②協定債権とに分かれます。①協定外債権は限定的で、①協定外債権以外の債権が②協定債権となります。
①協定外債権は全額支払う必要があります。
②協定債権は協定案に従って支払うことになります。
1 協定外債権の種類と弁済
⑴ 協定外債権の種類(内容)
協定外債権には以下のものが含まれます。協定外債権は全額支払う必要があります。
種 類 | 具体例 |
---|---|
一般の先取特権その他一般の優先権がある債権 | 公租・公課・共益的な一部の私債権です(※)。 |
特別清算の手続のために清算会社に対して生じた債権及び、特別清算の手続に関する清算会社に対する費用請求権 | 清算人報酬、鑑定人報酬、清算人が立て替えた財産管理処分費用、申立費用など |
担保付債権の担保評価額部分 | 抵当権付債権の担保評価額部分 |
(※)一般の先取特権その他一般の優先権がある債権は以下のものです。
分類 | 具体的な内容 |
---|---|
公租 | 国税・地方税(国税徴収法8条) |
公課 | 社会保険料(健康保険料、労働保険料等),下水道料金 (注)上水道,電気,ガス料金は公課にあたりません。 |
私債権 | ・共益の費用(民法306条1号,307条) ・労働債権(民法306条2号,308条) ・葬式の費用(民法306条3号,309条) ・企業担保権(企業担保法2条1項,7条1項) (補足)民法310条の「債務者」には法人は含まれていないと解されています(最判S46.10.21)。 よって、民法310条に定める日用品供給の先取特権は、特別清算の場合は関係ありません。 |
⑵ 協定外債権の弁済
随時弁済が可能です(会社法537条2項)。
但し、債権申出期間が満了するまでの間に弁済する場合は、裁判所の許可が必要です(会社法500条2項)。
全額弁済する必要があります(債権の減免は予定されていません)。
2 協定債権の種類と弁済
⑴ 協定債権の内容・協定債権の申出手続
協定外債権以外の債権が協定債権になります。
⑵ 協定債権の申出から確定まで
清算会社は、解散決議後すみやかに、債権申出の公告をするとともに、知れている債権者に対して債権申出期間(最低2か月)中に、債権を申し出る旨の催告を行わなければなりません(会社法499条)。
債権申出期間中、清算会社は裁判所の許可がないと一切の債権(協定外債権も含む)について弁済ができません(会社法500条1項、2項)。なお、債権申出期間中であっても債務不履行責任を免れることはできません。
催告期間の経過により、会社に知れている債権者を除き、債権の申出をしなかった債権者は清算手続きから除斥されます(会社法503条)。知れている債権者については、債権申出がなかったとしても手続から除外することはできません(会社法503条1項)(参考裁判例:大阪高判S36.9.14)。
大阪高判S36.9.14(特別清算):債権申出をしなかったとしても、清算会社との間で訴訟が係属していたことを理由として、特別清算手続から除斥されないとした裁判例
破産のような債権確定手続はないため、清算人の債権調査は事実上のものに留まります。債権の存否や債権額で争いがある場合には通常訴訟によって確定させることになります。
⑶ 担保権者の権利主張にあたっての対抗要件の要否について
担保権者は、手続開始前に対抗要件を具備していないと担保権を主張できないかどうかについては、争いがあります。破産等であれば、管財人等に担保権を主張するためには手続開始前に対抗要件を具備する必要があるとされているところ、特別清算についても同様に解するべきかどうかという論点です。
特別清算については、定説はないようです。裁判例もどうもないようです。そもそもあまり問題にならないということかと思いますが、仮に論点になる場合は、検討が必要です。金融法務事情2124号6頁の伊藤眞東京大学名誉教授のご論考では、対抗要件具備必要性を支持されています。
⑷ 協定債権の弁済(原則)
協定債権は、債権額の割合に応じた弁済を行うのが原則です(会社法537条1項)。
なお、上記のとおり、債権申出期間が満了するまでは、弁済できません(会社法500条1項)。
債権申出期間後は、割合的弁済であれば裁判所の許可は不要です(会社法537条1項)。
⑸ 協定債権の弁済における例外(少額弁済/担保付債権等)
裁判所の許可を得たうえで、以下の弁済が可能です(会社法537条2項)。
・少額債権の弁済
・担保付債権に対する担保分の弁済
・その他、他の債権者を害するおそれがない債務の弁済
これらは、債権申出期間が満了するまでであっても、会社法500条2項の許可を得たうえで弁済することが可能です。
上記とは別に、裁判所の許可を得たうえで、個別和解に基づき弁済することも可能です(535条1項4号)。