このページでは、民事再生手続の申立の準備についてまとめています。なお、法人の民事再生手続を前提として記載しています。
申立時点でスポンサー(候補者)が存在する場合、プレパッケージ型民事再生を検討することになります。そのほかにも、民事再生手続を申立てた後の準備をすべき事項はいくつかあります。
民事再生の申立ては、通常申立代理人弁護士が行うので、当該弁護士に相談しつつ行うことになります。
申立の主な準備としては以下のようなものがあります。
1 スポンサー候補者がいる場合の準備(プレパッケージ型民事再生の検討)
⑴ プレパッケージ型民事再生のメリットと問題点
スポンサー候補者がいる場合、いわゆるプレパッケージ型の民事再生を検討します。申立前にスポンサーを選定したうえで、民事再生の申立てを行うことを、一般的に「プレパッケージ型民事再生」と呼んでいます。
プレパッケージ型民事再生は、申立時点でスポンサーが付いていることで再生債務者の信用力が増し、事業の毀損を最小限に留めることができるというメリットがあります。
一方で、スポンサー選定が公正と言えるのかが問題となります。特に、申立後に、有力なスポンサー候補者が現れた場合、その点が問題となります。
これまで、どのような要件を満たせばプレパッケージ型民事再生が適正なものとされるかが議論されてきました。実務上の工夫としては、スポンサー契約をゆるやかな内容の基本契約に留めておくことや、裁判所の了解を得たうえで、申立前に当該監督委員候補者にスポンサー契約の概要を説明して、承諾を得ておくということも考えられます。
プレパッケージ型民事再生に関する、これまでの提言や、実務上の工夫、裁判例はそれぞれ以下のリンク先で説明をしています。ご関心がある場合は、リンク先をご参照下さい。
2 経営者の連帯保証の処理に関する準備
中小企業では、一般的に経営者が会社債務に対して連帯保証をしています。
主債務者である会社に民事再生手続の申立されると、経営者の連帯保証につき履行を求められるため、会社の民事再生申立前に、経営者の処理方針を事前に決めておく必要あります。なお、主債務者である会社の再生計画による権利変更は連帯保証に影響しないので(民事再生法177条2項)、会社(主債務者)の再生計画による権利変更によって保証人の責任が軽減されることはありません。
経営者保証に関するガイドラインの要件を満たすのであれば経営者保証に関するガイドラインによる処理を、そうでなければ破産ないし民事再生が主な処理方法であると考えられます。経営者保証に関するガイドラインは以下のリンク先をご参照下さい。
なお、経営者が連帯保証をしている場合、主債務者である民事再生の申立てにより、経営者が当該連帯保証をしている銀行に有している個人口座についても連帯保証債務と相殺されますので、注意が必要です。
上記は、経営者以外に連帯保証人がいる場合も同様に検討が必要です。
3 取引銀行関係の準備
取引銀行についての準備としては、以下のものが考えられます。
⑴ 借入のある銀行の預金の移動
民事再生申立により、債権者である銀行の預金は相殺されてしまいます。そこで、申立前に、借入のない銀行に資金を移動しておく必要があります。
⑵ 借入れのある銀行を販売会社としている投資信託の解約等の検討
再生債務者が借入れのある銀行を販売会社として投資信託を保有している場合、銀行との間の約定内容によっては、開始決定後に当該銀行が投資信託を解約をして、解約金を借入金と相殺をしてしまう可能性があります。最判H26.6.5は銀行の相殺の主張を否定しましたが、約款等の内容によっては相殺が認められる可能性があります。
そこで、申立前に投資信託を解約をして解約金を受け取るか、他の口座振替機関への振替請求するなど、何らかの手当をしておくことを検討すべき場合があります。
最判H26.6.5:投資信託の販売会社が投資信託解約の債権者代位後、相殺することを認めなかった判例
Y銀行は、自己が投資信託販売会社をしていた再生債務者Xの投資信託(MMF)について、Xの支払不能後、解約実行請求権を代位行使し、解約金をXに対する債権と相殺をしました。そこで、XがYにMMF解約金の支払を求めて提訴しました。
本判決はMMF解約実行請求権の代位行使が適法であることを前提に(最判H18.12.14)、YのXに対するMMF解約金返還債務による相殺は民事再生法93条2項2号の「前に生じた原因」に基づいて発生した債務による相殺とは認められず、相殺は禁止されるとしました。
⑶ 借入れのある銀行に、取立委任で交付している手形の返還の検討
借入れのある銀行に、受取手形を取立委任又は割引依頼で交付している場合、取立金が弁済に充当されてしまいます(最判H23.12.15)。そこで、できるだけ取立委任の解除をして、手形を戻すようにす努力をすべきと考えられます。なお、信用金庫や信用組合については商事留置権が成立しませんが、民事再生法93条2項2号の「前に生じた原因」として相殺をされる可能性がありますので、同様に取立委任の解除等を検討すべきと考えられます。
最判H23.12.15(再生):取立委任手形の取立金に対する商事留置権及び弁済充当を認めた判例
⑷ 借入のある銀行に対する通知(FAX)の準備
民事再生手続の申立をした直後に、借入のある銀行に、直ちにその旨の通知(一般的にはFAXです)を出します。これは、申立後に当該銀行の再生債務者名義の預金口座に入金があった場合の、相殺の主張を回避するためです。FAXであれば時間まで記録として残りますので、FAXで案内することが一般的だと思われます。
4 その他の主な準備
⑴ 仕入先に関する準備(申立後の混乱を回避するための準備)
仕入先が特定の先に集中している場合、代替がきかない可能性があるので、再生手続申立後に仕入先の理解を得ることが再生の必須条件になることが多いと言えます。
申立後ただちにお詫びの挨拶に行くことはもちろん、どのような説明をするべきかなどと予め検討しておく必要があります。
留置権等を主張される可能性がある仕入先等がある場合は、留置権等を主張された場合の対応を予めある程度決めておく必要があります。
民事再生を申立てると、信用不安を理由として、仕入先から現金払いを要求されることが一般的です。しかしながら、現金払いは実務的に対応が困難であるため、短いサイトで支払うように交渉を行うことが多く、申立後に仕入先に提案する支払サイトを、予め決めておく必要があります。
⑵ 得意先に関する準備(申立後の混乱を回避するための準備)
売上を維持することが再生を成功させるためには必須であることから、申立直後に、得意先に説明に回ることが一般的です。回る順番や、誰が回るかなどを事前に決めておく必要があります。
⑶ 従業員に対する説明等の準備
従業員は、債権者(労働債権者)であるとともに、再生債務者側で外部債権者に対して説明をする立場にもなります。申立直後に従業員に対する説明会を開催し、労働債権の取扱を説明するとともに、外部債権に対する説明方法を解説する必要があります。
そこで、従業員に対する説明資料を作成し、説明会の段取りを準備しておく必要があります。
なお、労働協約の中に、企業が法的手続を取る場合には労働組合と事前協議をすべきとの条項が含まれていることがあり、その場合に事前協議をすべきか否かが問題となります。管理人の私見としては、そのような条項がある場合であっても、密行性を優先し、事前協議は行わず、申立てをしたら、すみやかに通知をする(民事再生法24条の2参照)ことで足りるものと考えています(参考裁判例 東京高決S57.11.30)。
東京高決S57.11.30(破産) 法的手続きを行う場合には事前協議を行う旨の労働組合との覚書に反して、事前協議をせずに破産申立てをしたことが、破産申立て棄却事由とはならないとした判例
⑷ その他の準備事項
その他には、業種等によっては、以下の点を準備しておく必要があります。
・再生債務者が許認可事業である場合は、申立により取消される可能性がないかどうか、また、取消等を回避する方法を検討する必要があります。
・債権者が多数の場合には、コールセンター設置の準備をすることもあります。
・民事再生申立後、再生債務者のホームページを更新するなどの対応を取ることが一般的です。事前に準備をしておく必要があります。ホームページに申立ての事実やQ&Aを載せることで、問合せを減らす効果があります。
・ホームページの更新と重なる部分がありますが、申立後、金融債権者、取引先、得意先どに説明文書を配布することが一般的です。さらにはマスコミや信用情報機関に、投げ込み(プレスリリース)をすることもあります。これらの準備をしておく必要があります。
5 申立書及び保全処分等の準備
申立書の作成及び、保全処分等を検討し準備しておく必要があります。
申立書の作成は、代理人弁護士が行うことが一般的ですので割愛します。
保全処分等については、やや専門的な内容になりますので、以下のリンク先にまとめましたので、そちらをご参照下さい。