このページでは、民事再生手続の終了についてまとめています。なお、法人の民事再生手続を前提として記載しています。
民事再生手続の終了は、目的を果たして(典型的には計画案を履行して)終了(終結)する場合と、計画案の履行できずに終了(廃止)する場合に分かれます。
前者(終結)は特に問題になることはありません。
後者(廃止)の場合は、破産に移行するのが一般的で、これを牽連破産といいます。牽連破産については、何点か議論があります。
1 民事再生手続の終結
⑴ 終結とは
再生手続が目的を達成して終了することを終結といいます。
裁判所は、終結決定に伴い、公告(民事再生法188条5項)、嘱託登記(民事再生法11条5項3号)などを行います。
⑵ 終結時期
終結時期は以下のように整理されます。
場合分け | 終結時期 |
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監督委員が選任されていない場合 (民事再生法188条1項)。 | 再生計画認可決定の確定時に終結します。 |
監督委員が選任されている場合 →右記のいずれか早い時期 (民事再生法188条2項) | 再生計画を全て履行したとき。 例えば、スポンサーがついて、1回弁済で計画が終了する場合など。 認可決定確定後3年を経過したとき。 再生計画記載の弁済が終了していなくても終結します。 |
なお、監督委員が選任されている場合でも、事業の再生のためには再生手続を終結することが有用な場合があります。そのような場合には、裁判所に監督命令を取り消したうえで(民事再生法54条5項)、終結決定をすることを上申して、終結決定をうながすことは可能です。判断は裁判所の裁量になります。
⑶ 終結の主な効果
民事再生手続終結の主な効果は以下のように整理できます。
係属中の手続 | 終結決定の影響(効果) |
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監督命令、管理命令 | 効力を失います(民事再生法188条4項)。 |
否認手続 | 否認の請求手続、否認の請求を認容する決定に対する異議の訴えは終了します (民事再生法136条5項、137条6項、7項)。 |
役員の損害賠償査定手続 | 終了します(民事再生法143条6項)。 |
2 民事再生手続の廃止 牽連破産について
再生手続が目的を達成することがなく、終了することを廃止と言います。
廃止が確定した場合、裁判所は職権で破産手続開始決定をすることができますので(民事再生法250条1項)、ほとんどの場合、破産手続に移行します(これを牽連破産と言います)。
⑴ 民事再生手続廃止の手続の時期による区分
民事再生手続中のどの時期に廃止するかによって廃止手続は若干異なります。
手続の時期による区分 | 廃止等に至る経過 |
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計画案認可決定前の廃止 | 資金繰りが破綻し、再生手続を継続しても事業再生が見込めない場合などは、職権での廃止決定(民事再生191条1号)をするように、裁判所に上申書を提出します。 |
計画案認可決定後の廃止 | 再生計画の履行が不可能になった場合、再生手続廃止の申立(民事再生法194条)を検討します。 |
再生手続終結後 | 認可決定確定から3年経過したことにより再生手続が終結している場合には廃止手続は適用がありません。 再生手続終結後に、資金繰りが破綻したり、計画の履行可能性がなくなった場合は再度の民事再生を申立てるか破産を申立てることを検討する。 |
⑵ 廃止決定から破産手続開始決定までの手続の流れ
民事再生手続が廃止決定しても、直ちに破産手続が開始されるわけではありません。概要以下の流れで破産手続が開始されます。
時系列 | 内容 |
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再生手続廃止の決定(民事再生法191条ないし194条) | 一般的には保全管理命令が発令され、保全管理人が選任されます(民事再生法251条1項柱書)。 再生債務者(代理人)は保全管理人に対して、資産等の管理に必要な事項や、再生債権・共益債権などの内容について、引継ぎを行います。 |
従業員への説明 | 法定の手続ではありませんが、通常、従業員を集めて、経過説明及び解雇通知をします。 資金繰りの状況や、保全管理人との調整をしたうえで、再生債務者がこの時点で、解雇予告手当を支払うこともあります。 また、従業員に対しては、退職に当たっての諸手続の説明や、未払い退職金等がある場合には、労働者健康福祉機構の説明等を行うこともあります。 |
債権者への通知・債権者説明会の開催 | これも法定の手続ではありませんが、再生債権者及び共益債権者に対して、手続廃止の事実を通知するとともに、債権者説明会の開催を行い、状況説明を行います。 |
再生手続廃止決定の確定 | 通常、裁判所が職権で、破産手続開始決定を行います(民事再生法250条)。 |
⑶ 牽連破産した場合の再生債権、共益債権の扱いについて
牽連破産した場合、再生手続における再生債権や共益債権は以下のように扱われます。
再生手続における債権の区分 | 牽連破産となった場合の扱い |
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共益債権 | 財団債権(民事再生法252条6項)。 |
一般優先債権 | 破産法に定めるところによります。 給料については、「破産手続開始前3月間」でなく「再生手続開始前3月間」について財団債権として扱う(民事再生法252条5項)。 退職金については、財団債権となる範囲について明確でない部分もあります。 |
再生債権 | 再生計画の履行完了前に、破産手続開始決定がされた場合、再生計画によって変更された再生債権は原状に復し、配当調整がされます(民事再生法190条)。 もっとも、財団債権額が多額で、再生債権にまで配当は回らないケースも多いです。 |
なお、保全管理人が債務者の財産に関し権限に基づいてした行為によって生じた請求権は、財団債権となります(破産法148条4項)。例えば、保全期間中の給料債権などがこれに当たります。
上記の再生手続における債権の区分について、詳しい内容は以下のリンク先をご参照下さい。
⑷ 牽連破産において議論されている事項 よく問題となる事項
牽連破産で議論されている事項/よく問題となる事項としては、以下のような点があります。
議論されている事項 よく問題になる事項 | 検討内容 |
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双方未履行双務契約の適用 | 再生手続開始決定後に再生債務者が締結した双方未履行双務契約や、再生債務者が履行を選択した双方未履行双務契約について、破産管財人が、改めて破産法53条で解除できるかが議論されています(肯定説が有力なようです)。 |
別除権協定の取扱い | 別除権協定において、破産に移行した場合の定めをおいていなかった場合、別除権協定の効力(特に、別除権部分の弁済合意)が問題となることがあります(参考判例:最判H26.6.5)。別除権協定において、牽連破産の場合の定めをしておくことが重要であると考えられます。 最判H26.6.5(再生→破産) 終結後再生計画履行中に破産手続開始に至った場合の、別除権協定の効力について判示した裁判例 |
否認及び相殺禁止の基準時等について | 牽連破産した場合の破産手続における否認や相殺禁止は、先行する再生手続開始の申立てを、破産手続開始申立とみなすとされています(民事再生法252条1項)。 なお、再生手続において相殺が許される期間(民事再生法92条1項)内に相殺をしなかった場合であっても、再生手続から破産手続に移行した場合、債権者は改めて相殺を主張できると解されているようです。 また、否認の消滅時効の起算点は、再生手続開始決定の日を破産手続開始の日とみなし計算されます(民事再生法252条2項)。 |