このページでは、再生計画認可決定後の再生手続期間中に留意すべき事項についてまとめています。なお、法人の民事再生手続を前提として記載しています。

再生計画案認可決定後は、再生計画案を履行することがメインになりますが、計画案の変更が必要な場合の対応や、新たな再生債権者が判明した場合の対応など、留意すべき事項がいくつかあります。

1 再生計画の履行

再生計画認可決定確定後は、再生計画の履行がメインになります。
再生計画認可決定確定後の再生手続関係の取扱は、事案や管轄裁判所によっても若干異なりますが、概ね以下のような処理になります。

⑴ 再生計画の履行報告(弁済報告)

再生債務者は、再生計画に定められた弁済計画に沿って弁済を行います。計画案に沿った弁済を行った場合には、履行報告書を裁判所及び監督委員に提出するように求められるのが一般的です。

⑵ 月次報告(業務状況報告)について

再生計画認可決定確定までは月次報告をするように裁判所から指示されますが、認可決定確定後は、事案によって、また管轄裁判所によって扱いが異なるようです。報告のペースを月次から四半期等に変更することもあります。

報告の要否や、頻度は、裁判所及び監督委員との協議により決定されます。裁判所の監督を継続すべき要請が強い場合、例えばスポンサーがつかない自主再建の場合には、認可後も定期的に(事案によっては月次で)業務状況報告書を提出するように求められることが多いようです。

また、清算型の再生計画の場合は、定期的に、財産の処分状況を記載した財産目録及び収支計算書を提出することが求められることが多いようです。

⑶ 監督委員の同意関係

監督命令は、原則として再生計画認可決定後も維持されますが、同意は、監督命令において、再生計画認可決定(確定)後は、不要とされることが多いようです。ただし、事案によっては、同意取得義務が伸長されることや、監督命令の変更(民事再生法54条5項)により、同意の対象を限定しつつ継続されることもあります。

2 新たな再生債権者が判明した場合の取扱い

再生計画案認可決定確定後に、新たな再生債権者が判明(発生)することがあります。以下のように整理されます。

債権の分類(再生債権      取扱い          
債権者の責に帰することができない事由で届出ができなかった再生債権で、付議決定前に消滅しなかったもの(民事再生法181条1項1号)及び付議決定後に生じた再生債権(民事再生法181条1項2号

付議決定後に生じた再生債権とは例えば、双方未履行の双務契約で、再生債務者の解除による損害賠償請求権(民事再生法49条5項、破産法54条1項)などが該当します。
失権はしませんが、計画案に沿った変更がなされます民事再生法181条1項
再生債務者が知っていた債権で、認否書に自認債権として記載しなかったもの(民事再生法181条1項3号

東京地判H23.10.21(再生) 181条1項3号該当性が争われた裁判例
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Xが、再生債務者Yに対する不法行為に基づく損害賠償請求等の支払を求めて提訴したところ、Yは、不法行為の成立を争うとともに、民事再生計画認可決定確定により失権していると主張した。これに対して、Xが民事再生法181条1項3号により免責されないとして争った。
本判決は「民事再生手続において、基本的な再生債権の調査は、届出があった再生債権について、その存否、内容、議決権の額等につき、再生債務者に認否する機会を与え、再生債権者に異議を述べる機会を与えて、争いの有無を調査していくものであるが、さらに、民事再生法101条1項3号は、再生債務者が届出がされていない再生債権があることを知っている場合には、知れている再生債権を可及的に手続に取り込むため、その再生債権について、自認する内容等を認否書に記載しなければならないと規定しており、これは、再生手続では届出をしないと原則その債権は免責され失権してしまうところ、再生債務者がその存在、内容等を自認している再生債権までも、届出のないことのみを理由に免責されるものとすると、再生債務者が過度に保護される結果となり、再生債務者と再生債権者との間の公平に反すると考えられたものと思われる。
 そして、民事再生法181条1項3号は、再生債務者が知りながら認否書に記載しなかった再生債権は、免責されないと規定しており、これは、再生債務者が上記の知れている再生債権を記載すべき義務を故意に履行しない事態も予想されることから、これを防止するという政策的な考慮に基づき、再生債務者に対する一種の制裁として、非免責債権とするよう定められたものと考えられる。・・・仮にYが本件共同事業協定を知っていたとしても、同協定に基づくXの利益分配等請求権があると認識することはあり得ず、・・・再生債務者が知れている再生債権を記載すべき義務を故意に履行しないことを防止するという制度趣旨に照らしても、Yは本件請求債権があることを知っていたということはできない。本件において、Yに、上記民事再生手続において、民事再生法101条3項の規定に基づいて、Xを知れたる債権者として認否書に記載すべき義務があったということはできない。・・・Yは、本件請求債権について、民事再生法178条本文により責任を免れる。」として請求を棄却した。
失権はしませんが、劣後的扱いを受けます(民事再生法181条2項)。
上記以外の債権(原則)失権します(民事再生法178条)。

3 再生計画の変更(民事再生法187条)

再生手続を履行している途中で、変更(主に返済の減額かと思われますが)が必要なケースがあります。この場合「やむを得ない事由で再生計画に定める事項を変更する必要が生じたとき」は、再生計画変更の申立てをすることが可能です(1項)。なお、あまり事例としては無いと思われますが、再生債権者に不利な影響を及ぼすものと認められない再生計画の変更(例えば弁済額を増加させるとか、返済時期を繰り上げるなど)については、裁判所の決定のみで変更が可能です(1項2項)。

手続は、原則として、再生計画案の提出があった場合の手続に関する規定を準用します(2項。ただし、①再生計画の変更によって不利な影響を受けない再生債権者は手続に参加させる必要が無い点及び、②従前の再生計画に同意していて計画案の変更に議決権を行使しない債権者は、債権者集会に出席した場合を除き変更計画案に同意したものとみなされる点が異なります(2項ただし書)。

なお、計画案の変更が問題となった事案ではありませんが、再生計画案の付議時点で計画案が想定していなかったような事態が生じた場合には、再生債権者の衡平、平等を念頭に再生計画案を解釈して解決していくのが相当であるとした裁判例があります(東京高判H25.4.17)。

東京高判H25.4.17

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「再生計画案における条項の解釈は、付議決定時点における再生債権者として通常理解し得る解釈をもって決定するのが相当であるし、債務者による一方的な解釈をし得る余地を設けることも相当ではない。また、再生計画案である以上、その内容、特に弁済に関する事項は、再生債権者が理解できるものでなくてはならず、このことは控訴人の指摘を待つまでもなく、いわば自明の理というべきである。しかし、再生計画案の付議決定の時点において計画案が想定していなかったような事態がその後生じ、この想定していない事態を前提にした条項が規定されていない場合には、民事再生法、破産法の原則に照らして、再生債権者の衡平、平等を念頭に解釈してこれを解決していくのが相当である。