私的整理において、何故商取引債権は保護される?
私的整理においても、債権はカットされます。
しかしながら、私的整理においてカットされる債権は一般的に金融債権(≒銀行の債権)に限られています。そもそも私的整理が行われていること自体、商取引債権者は知らされずに行われることも多く、普通の取引が継続されます。
何故、商取引債権が保護されるのでしょうか?
これは、商取引債権を保護することで、事業が棄損することを防ぐためです。そして事業の棄損を防ぐことで、商取引債権をも含んでカットされてしまうため事業が棄損することが多い法的整理に比べて、金融債権の回収も多くなることを目指しているのです。つまり、金融機関、商取引債権、そして債務者(というか事業)がウインーウインーウインの関係になるのが私的整理と位置づけられているのです。
ところで、私的整理は、カットの対象となる全債権者の賛成が必要となります。したがって、全債権者の賛成が得られない場合や、法的整理に移行せざるを得ません。
その場合でも、早期に法的整理を成立させるため、法的整理においても商取引債権を保護する工夫がされています。例えば、近時、私的整理の一種類である事業再生ADRから簡易再生(民事再生の一種ですが、1か月程度で手続きを終わらせることができる方法)に移行した場合、迅速に手続きを終わらせることができるように、法的整理に移行した場合でも商取引債権を全額保護するのが妥当であるか否かを裁判所が早期に判断できるよう、私的整理段階で法律上の要件を満たすことをあらかじめ確認などの定めがおかれました(産業競争力強化法59条~65条)。
このあたりが法律の難しいところでもあり、面白いところです。