このページでは、民事再生における、否認制度についてまとめています。

否認とは、再生債務者が再生手続開始決定前に行った効果を否定するものです。制度の概要は破産法とほぼ同じです。そこで、破産法の否認制度について説明しているリンク先(管理人が運営している別サイト)を参照する形で説明しています。

以下、条文は、法律名が明記されていないものは、民事再生法です。

1 否認権行使の、具体的な流れ(手続)

再生手続において、否認該当事由が存した場合の流れ(手続)は以下のように整理できます

⑴ 再生手続における否認権の行使の主体

否認権は、監督委員(又は管財人)が行使します(56条1項、135条)。再生債務者ではありません。

⑵ 否認権の具体的な行使方法

否認権の行使は、否認の請求又は否認の訴えによってなされます(135条1項。なお行使する場合、再生債務者は監督委員に対する費用の予納が必要となります。

⑶ 否認請求の流れ

否認請求は、以下の流れとります。なお、否認請求をせずに、最初から否認の訴え(135条)をすることも可能です。

①再生債務者/監督委員による、否認該当事由の調査
②再生債務者による否認権限付与申立
③裁判所による否認権限付与決定56条1項
監督委員による否認請求136条
⑤裁判所による審尋136条3項
⑥裁判所による決定(認容決定又は棄却決定
認容決定に対しては、相手方から異議の訴えが可能(137条
 棄却決定に対しては、監督委員から否認の訴えが可能(135条
 なお、認容決定に対する異議の訴えは、係争中であっても、再生手続の終結によって終了してしまう(136条5項、137条6項)ため、それまでに手続を終わらせる必要があります。

2 再生手続における否認権行使の流れ

再生手続における否認権行使の流れを整理すると概要以下のとおりです。

⑴ 調査及び保全措置

まず、否認該当事由がないかを調査します。これがスタートです。
開始決定前に該当事由があると判断された場合は、開始前保全処分(134条の2)の要否を検討します。なお、開始決定後、監督委員は当該手続を続行できます(134条の3)。

⑵ (開始決定後の)任意交渉

通常は、まず相手方と任意交渉を行い、和解等で処理が可能かを検討します。
実務的には、否認該当行為があっても、相手方との関係が悪化することにより再生そのものが困難になるケースも多いですし、また、否認権行使には費用がかかることもあり、和解で終了させることが妥当な事案もかなりあります。早期に和解をまとめられれば、計画案に反映させることが可能となります。

和解の方法は、再生債務者が監督委員の同意に基づき和解するのが原則的な方法ですが、監督委員に権限付与をした上で裁判所の許可に基づき監督委員が和解する方法もあります。

⑶ 否認権の行使

否認権を行使する必要があると判断した場合には、再生債務者は、否認権付与の申立てをします(56条1項)。なお、通常、付与申立てをする前に、あらかじめ監督委員及び裁判所と相談をします。また予納金の追納が必要です。なお、否認権は開始決定から2年間以内に行使する必要があります(139条)。

裁判所否認権付与の申立を受けて、検討のうえ、監督委員に否認権限を付与する旨の決定をします。なお、否認権行使の必要性があることはもちろん、予納金の納付が確実であることや、認可確定後3年以内に否認の判断が確定する見込みがあることなども裁判所の判断基準になっているようです。

監督委員は、否認権限付与決定を受けて、否認請求又は否認訴訟を行います。
否認請求をせず、否認訴訟をすることも可能です(135条)。証人尋問の必要性が高い場合や、相手方が争っていて査定で認容決定が出ても異議の訴えとなる可能性が高い場合には、最初から訴訟を提起することを検討すべきと考えられます。
なお、再生手続開始決定時に詐害行為取消訴訟が係属している場合、監督委員は中断(40条の2第1項)した訴訟を受継する方法により否認権を行使することも可能です(140条1項)。

2 否認の効果

否認の効果については、破産法とほぼ同じです。以下のリンク先(管理人が運営している外部サイトです)の破産法の否認の効果に関する説明部分(2の部分)をご参照下さい。

なお、破産法の「財団債権」は、民事再生法の「共益債権」です。また、破産法167条民事再生法132条に、破産法168条民事再生法132条の2に、破産法169条民事再生法133条に、破産法119条民事再生法103条にそれぞれ対応しています。

3 否認該当行為に関する説明① 詐害行為(財産処分行為)について

⑴ 詐害行為(財産処分等)(127条、127条の2)の整理

詐害行為(財産処分行為)の否認は以下のように整理及びその具体例できます。

詐害行為の内容民事再生法の条文典型例
相当の対価での処分      127条の2相当の対価で売却した不動産の、売却代金の隠匿(買主が隠匿の意思を知っていること)
詐害行為(低額譲渡)
・過大弁済
・127条1項1号 127条2項

・支払停止後は127条1項2号・131条 127条2項
・再生債務者が詐害意思をもって財産の低額処分した場合
支払停止後の財産の低額譲渡(申立前1年以内の行為)
無償行為127条3項支払停止6ヵ月前以降に行った贈与。

⑵ 詐害行為否認の要件の整理(上の表に対応)

    詐害行為の内容   要件:( )は、受益者・債権者の側で、そうでなかったことの立証責任を負うものです。
相当の対価での処分・ 再生債権者を害する処分をするおそれを現に生じさせるものであること。
・ 再生債務者が隠匿等の意思を有していること。
相手方が破産者の隠匿の意思につき悪意であること
詐害行為(低額譲渡)
・過大弁済
・破産者の詐害意思
・(受益者の悪意)

支払停止後は以下の要件となります。
・(受益者の支払停止等及び害することについての悪意)
申立前1年を超えない時期の行為であること
無償行為支払停止等前6ヵ月以内の行為であること

詐害行為否認に関する説明や裁判例などについては、以下のリンク先にまとめていますので、ご参照ください。リンク先は破産法に関して説明していますが、基本的に民事再生法と同じです。なお、破産法160条民事再生法127条に、破産法161条民事再生法127条の2にそれぞれ対応しています。

4 否認該当行為に関する説明② 偏頗弁済行為について

⑴ 偏頗弁済・担保設定(127条の3)の類型及びその具体例

偏波弁済・担保設定の否認は以下のように整理できます。

偏頗弁済・担保設定否認は「既存の債務についてされた担保の供与又は債務の消滅に関する行為に限る」(民事再生法127条の3第1項)とされていますので、新規借入れと同時または先行して担保供与がなされたような場合(同時交換的行為)の担保設定は否認の対象とはならないと考えられています。

詐害行為の内容破産法の条文典型例
弁済等一般127条の3第1項1号イ

申立後は、127条の3第1項1号ロ
支払不能後に債務を弁済し、支払不能につき受益者が悪意の場合
申立後に債務を弁済し、申立につき受益者が悪意の場合
うち本旨弁済でない場127条の3第1項2号、127条の3第2項2号支払不能になる直前に義務なくして既存債務に担保権を設定すること

⑵ 偏波弁済・担保設定に対する否認の要件の整理(上の表に対応)

偏波弁済・担保設定に対する否認の要件を整理すると以下のとおりです。

詐害行為の内容要件:( )は、受益者・債権者の側で、そうでなかったことの立証責任を負うものです。
弁済等一般支払不能であること。
支払不能又は支払停止につき受益者が悪意であること

申立後は以下の要件になります。
申立につき受益者が悪意であること
うち本旨弁済でない場合・   支払義務のなかったこと。
・   支払不能になる前30日以内の行為であること
・(債権者の害意)

偏頗弁済行為否認に関する説明や裁判例などについては、以下のリンク先にまとめていますので、ご参照ください。リンク先は破産法に関して説明していますが、基本的に民事再生法と同じです。なお、破産法162条民事再生法127条の3に対応しています。

5 否認該当行為に関する説明③ その他の否認

上記の他に、対抗要件否認(129条)執行行為否認(130条)があります。

対抗要件否認に関する説明や裁判例などについては、以下のリンク先にまとめていますので、ご参照ください。リンク先は破産法に関して説明していますが、基本的に民事再生法と同じです。なお、破産法164条民事再生法129条に、破産法165条民事再生法130条に対応しています。