民事再生申立てを秘匿して借り入れをおこした代表者の責任(東京高裁H28.4.27)
ところで、民事再生の申立て直前に借入れをした代表者の責任が認められた裁判例がありましたので、ご紹介します。類似裁判例はあまりないようです。本件はやや極端なケースなので、責任が認められたようです。
東京高判H28.4.27
Yらが代表取締役を務める甲社について民事再生手続開始の申立てを行うことを決定していたにもかかわらず、そのことを秘して銀行Xから融資を受けたことが、融資契約に係る借入人の誠実義務又は債権者の債権回収業務妨害禁止義務に反すると主張して、Xが、Yらに対し、会社法429条に基づき、損害賠償請求を行った事案です。甲社は、平成26年5月8日にXに融資の申込みをし、同月20日に7500万円の融資の実行を受け、同月29日に民事再生の申立てをしました。
判決は「甲社の経営破綻間際の状態を認識し、乙弁護士と面談した平成26年4月頃(いかに遅くとも本件融資が実行された日の前日である同年5月19日まで)には、甲社の民事再生手続開始の申立てを行うことを決断していたと認めるのが相当であり・・・Yらは、上記意思を秘して、Xからの甲社に対する本件融資を実行させているが、これは信義誠実義務に反するものと評価することができ、Yらは、悪意又は重大な過失により、職務を行うについての注意義務に違反する行為を行ったと解するのが相当である。」として責任を認めました。
民事再生や破産等に至った場合に、債権者が代表取締役の責任追及を検討することはよくあります。しかし、実際に認められた裁判例は、あまりありません。
裁判例がない理由はいくつかありありますが、
・代表者も金融債務を連帯保証していることから問題となりにくいこと、
・代表者も同時に、法的手続等をとることから、あえて代表者の責任追及をする場面がないこと
などが主な理由です。
さらに、債権者が代表者の責任追及して認められことが、一般論としても実は簡単ではないという現実もあります。単に経営能力がなかったというだけでは、責任は認められません。上記裁判例の判決の最後に出てくる「悪意又は重大な過失により、職務を行うについのて注意義務に違反」することが必要で、この点の立証が難しいという現実があります。
このあたりが、法律の難しいところでもあり、面白いところです。