無償行為否認に、債務超過要件は必要か?(最判H29.11.16)
今回は少し専門的な話です。
倒産法における、否認行為の類型として、無償行為否認があります。
簡単に言えば、倒産間際に行われた贈与などを、法的手続きに入った後に効力を否定するものです。贈与する際に債務超過であったとか、贈与することによって債務超過になったという要件が必要か否かが争われた事件が、最判H29.11.16です。
この裁判の場合の無償行為は、贈与でなく、連帯保証でした。民事再生開始決定6か月ほど前に、再生債務者が関係会社の債務の連帯保証をしたことが、無償行為否認となるかどうかが争われました。
少し長いですが判例を引用します。
「民事再生法127条3項は、再生債務者が支払の停止等があった後又はその前6月以内にした無償行為等を否認することができるものとし、同項に基づく否認権行使について、対象となる行為の内容及び時期を定めるところ、同項には、再生債務者が上記行為の時に債務超過であること又は上記行為により債務超過になることを要件とすることをうかがわせる文言はない。そして、同項の趣旨は、その否認の対象である再生債務者の行為が対価を伴わないものであって再生債権者の利益を害する危険が特に顕著であるため、専ら行為の内容及び時期に着目して特殊な否認類型を認めたことにあると解するのが相当である。そうすると、同項所定の要件に加えて、再生債務者がその否認の対象となる行為の時に債務超過であること又はその行為により債務超過になることを要するものとすることは、同項の趣旨に沿うものとはいい難い。
したがって、再生債務者が無償行為等の時に債務超過であること又はその無償行為等により債務超過になることは、民事再生法127条3項に基づく否認権行使の要件ではないと解するのが相当である。」
つまり、債務超過等の要件は不要と判示をしました。
無償行為をするような状況になっている時には、だいたい債務超過にもなっていますので、このような論点が問題となるケースはまれです。しかし、やはり問題になることはあるわけで、このあたりが、法律の面白いところでもあり、難しいところです!
PS.なお、おそらく同じ再生債務者の事件で、連帯保証でなく、担保のために手形を振り出したこと(=代表者の債務の担保として会社が代表者債務額の手形を振り出しました)が、これも無償行為否認の対象になるとされています(東京地判H28.6.6)。